第114回 ROOF TOP 2007年9月号掲載
「おじさん、職務質問にあう」

<それは、ある日突然やってきた>

新宿を歩いていると、いたるところで警察官の「職務質問」というものに引っかかっている若者を見る。半泣きのモヒカンの若者が、鞄の中やポケットまで探られている。私はこの光景を見るたびに「なぜ正々堂々と拒否しないのだろう? 今の若者は人権とか憲法を知らないのだろうか?」なんて苦々しく思いながら、通りすぎてゆくのが常だった。

私が見る限りでは、こういった職務質問に引っかかるのはたいてい、ヒッピー風であったりパンクファッションやヤクザ風だったりと、いわゆる街の風景から明らかに浮いているような、異質なかっこうの人たちだと信じていた。新宿に活動の拠点を移してもう30年以上になるが、私はほとんど職務尋問に引っかかったことはない。が、ついに先日、還暦をすぎたこの初老の私に、警官のお声(苦笑)がかかったのだ。これには驚きだった。「なぜ、私が……どこが怪しいそぶりを見せたのだろうか?」と自問自答してみたがどうしても思い当たるふしはまるでないのだが……。

職務質問(しょくむしつもん)とは、異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して何らかの犯罪を犯し、若しくは犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由のある者又は既に行われた犯罪について、若しくは犯罪が行われようとしていることについて知っていると認められる者を、警察官が停止させて質問する行為。戦前は不審尋問と呼ばれた。(警察官職務執行法第二条)



<ドキュメント職務質問 緊迫の数分間>

こうやって町中で警官に取り囲まれると何か悪いことをしているみたいだ。まるで戦前の警察国家日本みたいだ。やられているのはちょっととんがっったヤクザ風な人だ。

7月5日午後3時頃。朝から雨が降り続いている。そんな中私は、バックパックを背負って新宿西口広場を会社に向かって歩いていた。西口交番前を通り過ぎ地下鉄丸ノ内線の駅の方に向かっていたところ、突然、3人の警官に呼び止められた。一人が前をふさぎ一人が後ろ、もう一人の警官が威圧するように取り囲む。

「すみません、ちょっと鞄の中を見せてもらえませんか?」
「えっっ、なぜですか?」
「いや、あなたの鞄の中を見せて欲しいのです。」
「だからその理由を聞いているんです。」
「いや、テロ特別警戒中でありまして、あなたの鞄の中にナイフとかカッターとか所持禁止のものが入っているのではないかと思って、ちょっと調べさせて下さい。」
「そうですか? 私は文具屋ではないので持っていません。強制ですか?」
「いや、お願いしているんです。」
「任意なわけですね? では嫌です。」
「そこをなんとかお願いできませんかね。私たちも職務ですから。」
「突然に通行人を呼び止めて鞄の中を見せろと言う、法的な根拠を教えてください。」
「いや、これはあくまでもお願いでして。」
「では嫌です。」
「本当は何か隠し持っているんではないですか? ほとんどの市民は協力してくれます。何もないんだったらいいでしょ。」
「その必要は認めません。どうしてもというのであれば、私の弁護士に連絡を取ります。あなたの身分証明書を見せてください。写真を撮りますから。私のブログに載せます。悪いことをやっていないならいいでしょ。」
「それは困ります」
「では私も困ります。死んでも嫌です。」
「死んでも嫌ですか? では交番まで同行願いますか?」
「強制ですか?」
「いや、任意です。」
「嫌です。日本は自由な国のはずです。人権も保障されているはずです。ここは独裁警察国家ですか? 戦前の日本ですか?」

こんなやりとりが5〜6分は続いただろうか?私が、周辺に集まりつつあるギャラリーに対して「皆さん、この警官達はなんの理由もなく強引に私の鞄の中を……」 と言い出したとたん、警官諸氏はす〜っと去っていった。見物人の若い女から「何も悪いことをしていないのだったら見せればいいじゃん。」と言う声が聞こえた。私は そう言うことが当然と言った今の市民社会に愕然とした。


<期待の新フリーペーパー『ルーフトップ☆ギャラクシー』ついに創刊>

すごい!これが今ちまたで噂の「ルーフトップギャラクシーだ」是非ごらんあれ。

さて、猛暑まっただ中の8月15日、この伝統ある『Rooftop』に、姉妹誌(いやライバル誌か?)が誕生した。『ルーフトップ☆ギャラクシー』(偶数月15日発行/4万部)という新創刊のフリーペーパーが、プラスワンやNaked LOFTを中心にロフト系列店、それから全国各地のCDショップやサブカルスポットにもお目見えするはずだ。

先日、ついにその記念すべき第1号が刷り上がってきた。面白い。あまりにも馬鹿馬鹿しくって面白いのだ。音楽も政治も社会問題も全部なくした、脳を空っぽにしてアホになって読む雑誌だ。編集長の北村も堂々とそれを公言している。

記事内容としては、「バカ×エロ×おたくカルチャー」満載で、これはロフトが誇る天才、童貞評論家・北村ヂンの独断と偏見によるところ大。キャッチフレーズは「宇宙時代のおもしろマガジン」だそうだ(笑)。記事だけではない。この新雑誌はフリーペーパーなので、当然、広告で採算をとっているわけだが、その全有料広告も引けをとらず、普通の雑誌では見ることが出来ない怪しげな情報でいっぱいだ。

この雑誌はその昔、一部の人にとっては知る人ぞ知る存在だった、北村ヂンの個人誌『ルーフトップ・スペリオール』(3000部/タブロイド判)が土台となっている。私の「おじさんが行く! OLしゃぶしゃぶ店潜入記」も載っているので、手に入れてみて欲しい。また、読者の皆さんには、ぜひあのド派手なというか、豪華なというか、まあ「出会い系」「熟女」「変態」なんて文字が並んでいる有料広告も、記事情報として楽しんで欲しい。フリーペーパーの宿命、広告料が入らないと次号の発行はなくなるという悲しい運命にあるので、よろしく支援してください(笑)。

この閑散とした、クソ暑く寝苦しい真夏の深夜、私はこの夏の芥川賞作品『アサッテの人』(諏訪哲史著/講談社)に挑戦してみた。しかし、私は途中で読むのを放棄した。私にとっては内容が全くつまらないものだった。芥川賞作品を途中で放棄したのは久しぶりである。

深夜読書をすると、何か心が高揚して眠れなくなることがある。つまり自分の魂が読んだ本によって触発されてしまうのである。寝苦しい夏の夜にこそ、そんな本に出会えれば幸せなのだが……。


今月の米子♥

な、なんとかの有名なクラプトン様のお写真の下で「私の方が偉い」って主張している真夏の米子だ。





ロフト35年史戦記 第30回  新宿ロフト立ち退きへの戦いー3(1994年)

<「KEEP THE LOFT“ででで出て行けってよ”」支援コンサート開催へ>

新宿LOFTは1994年、東京地裁で争われた「ロフト立ち退き訴訟」に敗北した。巷ではジュリアナブームで若者が熱狂し、政治の世界では自民、社会、さきがけ連立の村山政権が発足した年だ。そんな中、「新宿LOFTがなくなる!」と、マスコミが世間が、ロックファンが一斉に声を上げ始めていた。東京都庁が拠点を構えた新宿は、公務員とピンクの町に変貌しつつあった。新宿の都市再開発の巨大な流れはすさまじく、私たちの小さなロック小屋を押しつぶそうとしていた。私にとっても、ビルオーナー側が「ロック小屋=ライブハウス」を嫌うのはしごく当然の事の様に思われた。新宿という巨大な都市が変わってゆくのは止められないと思っていた。私は負けを意識した。だから、そう、私はロフト全従業員を集めて、裁判に負けた総括と「やけくそ面白」的な方針を出したのだ。

それでは先月号からの話を続けよう。


<機動隊の包囲の中で「籠城ライブ」なんて最高じゃないか>

「それでね、俺はね、確かに今回の判決には不服だし、上級審に控訴はしたけど、そんなもの当てにはできっこないことは充分知っている。日本の裁判所は、上級審に行くほど権力側有利な判決になってゆくという歴史がある。だからさ、俺はそんな裁判とか関係なく、新宿LOFTという地下室に“籠城”してみたいと思うんだ。

いずれオーナー側は、判決をタテに当然立ち退かないロフトにいわゆる“強制執行”してくるだろう。ビル側は電気もガスも水も止めて来ると思う。最終的には、裁判所の執行官と警官とビル側の土建屋が強制執行に来る。俺はそのとき、ロフトを支持してくれるバンド連中と、“籠城”して戦い抜いてみたい。電気を止められたらいつまで持つかわからないけど、電源車を借りて水も運び込んでライブを続けようと思う。ロフトを本当の意味で“解放区”にしてみたいんだ。裁判所の執行官と機動隊の包囲で緊張がピークの状況下でライブをやるなんて、これこそ俺が求めるロックだと思う。なかなかスリルがあって面白くなりそうじゃないか。そうして、ロフトの歴史が終われたら最高だよ」

自分の言葉に酔っているかのように、私は、事務所に集まった全社員にこう宣言したのだった。

西新宿の裏通りにある狭いロフト事務所は凍り付いた。こんな発案に喜んでいるのは私一人であった。新宿LOFT店長の小林が、抗議するように私に言った。
「悠さん、ちょっと待ってください。今このことについて、音楽業界をはじめいろいろなところから支援の申し出が来ているんです。ちょっと前にあのBOφWYのマネージャーだったユイ音楽工房(当時)の土屋さんとも話したんですが、ロフト存続のため、“新宿LOFTと音楽文化を守る会”という運動を始めよう、署名運動もいいし、ロックミュージシャンやイベンターも色々支援に動いてくれてコンサートもしょうとか盛り上がって来ているんです。この立ち退き問題、ちょっとの間、僕達にやらせてみてください。お願いします」
この会議以降、「ロフト立ち退きの戦い」は、私の手を離れて小林店長ら若い連中に委ねられた。


<そして若者達の戦いは始まった>

私の予想を裏切り、ロフト立ち退き問題に対するロックファンの反応は驚くほど熱かった。写真の通り、署名は野音ライブ会場でもたくさん集まった

私は、「原発や環境問題すら関心もなく、ましてや選挙にも行かないロック周辺の若い連中が署名運動なんかするわけがないし、ロックミュージシャンが、ほとんど自分たちにメリットのない支援コンサートなんか開いてくれるわけがない」と思っていた。

しかし、なんとも小林店長らの動きは速かった。彼らが活動を開始してすぐに、見事に反響が各方面から返ってきた。全国各地から、「ロフト存続の署名用紙を送れ」という電話が事務所に鳴り響いた。なんと署名数は、運動開始からたった2カ月で1万8000人にもなった。

アーティストサイドからも、「俺たちも何かできる事はないか?」という問い合わせが殺到した。ミュージシャンから、支援のためのイベントをやろうという企画が上がった。7月にイベンターの好意によって、日比谷野外音楽堂を確保することができ、そこで「KEEP THE LOFT“ででで出て行けってよ”」というライブを開催することになった。これには、ロッカーはもちろん、作家や漫画家、俳優、映画監督など100名以上のロフトを愛する人たちがノーギャラ参加を表明してくれた。東京地裁での「不当」判決後、2カ月でここまでが実現したのは本当に凄いことだった。

コンサート事務局は、当日まで出演メンバーの発表をしなかった。しかし、そのことが返って「もしかしたらあのバンドも、このバンドもでるんじゃないか?」と憶測を呼んだのも功を奏したのか、チケットは一瞬のうちにソールドアウトになった。

日本のロック誕生以来、これほど多数のアーティスト達が一堂に会し、いちライブハウスを守る目的のためにイベントをするなんて歴史があったのだろうか? 私は、若者達の熱烈なる動きを目の当たりにし、ただただ驚嘆しておろおろするばかりであった。


日比谷野音ライブ「KEEP THE LOFT“ででで出てけってよ”」のパンフレット。和夫置くのミュージシャンからメッセージが寄せられた。

忘れもしない15年前、始めて立った東京のステージ!
以来、ホームグラウンドとして愛してきたライブハウス。
そこ“新宿ロフト”はいつも常に不思議な“新鮮”と“刺激”に満ち溢れ、ストリートの匂いが漂っていた!
ヒカゲ(ザ・スタークラブ)

どうせなら裁判官やその他のアタマのかたい連中の急所に俺のエレキをプラグ・インして大音量で再開発したいもんだぜ。 そしてこれを読んでるおまえが新宿ロフトを再開発して欲しいもんだぜ。
THE PRIVATES 延原達治

もしLOFTがなかったら、俺はどうにかなっちまっただろうな。
区画整理だかなんだか知らねぇが、あそこに排気ガスブンブンの道路でも造るのかい?
じゃなきゃ、こ綺麗なビルでも建てるのかよ。まぁ、いずれにせよ俺はLOFTのためなら何でも協力するぜ。茂さん、みんな、頑張ってくれよな。
JACK KNIFE 和気孝典

あ〜あ、僕たちが、今から九年前に『キン肉マン』で儲けて国に納めた多額の税金が今、ここにあればロフトを救ってあげられるかもしれないのに…。
やい東京都よ!
あの時の税金を返せとはいわないから、ロフトを守ってあげなさい!
漫画家 ゆでたまご

新宿ロフトは“ロック虎の穴”だ。
昔をなつかしがってロフトを存続させたって意味がない。
(丸の内)新宿に必要とされるロックなんて、ゴミ箱に捨てた方がいい。
これから“虎の穴ロフト”を必要とするものが、本当にたたかうだろう!
遠藤ミチロウ

あの薄暗い地下のスペースから自分自身の歴史が始まったことを いつだってとても誇りに思っています。
氷室京介

新宿ロフトがあぶねぇ! 東京ドーム? 武道館? 野音?
ずーっと音楽をやっていくためにもぜったいに必要な場所“新宿ロフト”。
いつまでもあると思うな人気とロフト。
仲野茂

新宿ロフトと知り合い、多大なお世話になり、毎夜というか、毎早朝迄というか、 連日様々なミュージシャンとのセッション、交流を重ねさせて頂きました。
そして、その中から色々なグループとなり、個人的活動も含め、ロフトから飛び立ち、 発展、展開していった音楽、人脈等は、それこそ現在の日本の財産的と表現しても過言ではないものが 数え切れない程あります。事実、私自身も新宿ロフトでの、あの集いが無ければ今日の自分が あるかどうか!? 新宿ロフトを含め、この様な創作的空間が消滅して行く事は、 様々な要素を含め、大きな、大きな損失だと強く痛感し、 ロフトの立ち退きに関し、絶対反対の意志を表明したいと思います。頑張れ! 新宿ロフト!!
村上“Ponta”秀一

ロフトは俺にとってガキのころから育ってきた家のようなものだ。その大事な家をなくしたくない。ロフトを皆んなの力で守ろう。
キース

──「KEEP THE LOFT」パンフレットより転載

(次号に続く)



『ROCK IS LOFT 1976-2006』
(編集:LOFT BOOKS / 発行:ぴあ / 1810円+税)全国書店およびロフトグループ各店舗にて絶賛発売中!!
新宿LOFT 30th Anniversary
http://www.loft-prj.co.jp/LOFT/30th/index.html


ロフト席亭 平野 悠

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