Monthly Free Magazine for Youth Culture
ROOFTOP 2006年5月号
楳図かずお×ダイナマイト和尚(浅草ジンタ)×増子直純(怒髪天)

異形のアウトロー、猫目小僧が奇跡の実写映画化!

1955年のプロ・デビュー以来、半世紀に亘りホラー・コミック界の第一線を行く楳図かずお。その想像力溢れる物語と、観る者を恐怖の底へと突き落とす独創的な表現力によって、数多くのファンを魅了してきた。そんな楳図漫画の大ファンであるという浅草ジンタのダイナマイト和尚、怒髪天の増子直純が、映画『猫目小僧』の主題歌「あしゅらの道のまん中で」で楳図本人とまさかの共演が実現! これを記念してグワシッ!! な豪華三つ巴鼎談を敢行したのらー! ギョエー!!(interview:椎名宗之)

“ダーク・ヒーロー”のはしり、猫目小僧

──この度、目出度く実写映画化された猫目小僧ですが、楳図先生の作品の中でもとりわけ異色のキャラクターですよね。

楳図:そうですね。“猫目”というくらいで、目がこの話のテーマではあるんですけど、僕が最初どこに着眼したかって言えば、やっぱり目でしたよねぇ。夜の真っ暗闇の中でも見えるという、そこが魔力ですよね。そんな目があれば欲しいなっていう発想からこの猫目小僧になっていったんですけど。はっきり言って、僕はキャラクター作りに長けた漫画家ではなくて、お話中心でずっとやってきたものですから、どこかでキャラクターが際立った主人公が欲しいなってずっと思ってたんですよ。

──でも、たとえばへび女もキャラクターとして秀でた主人公のひとつだと思うんですけれど。

楳図:ええ。ただあれも、主人公としてはちょっと相応しくないかなぁというのがありまして(笑)。

──今回の映画化は、円谷エンターテインメントからのオファーから話が始まったんですか?

楳図:そうです。円谷さんということは実写だろうと思って、僕の頭の中では猫目小僧=ウルトラマンみたいな発想で繋がっていたんです。だから、ウルトラマンみたいに着ぐるみの猫目小僧がステージで暴れ回るのも面白いんじゃないかと思ったんですよね。

──以前、猫目小僧が映像化された時(1976年、『妖怪伝・猫目小僧』として当時の東京12チャンネル/現・テレビ東京で放映)は、切り絵に特殊視覚効果を交えて撮影された“ゲキメーション”という形でしたね。

楳図:はい、“動く紙芝居”っていう感じでした。今回はそこから命が吹き込まれて、現実的な形に少し進化したかなぁと思いますね。この映画がヒットして──って、もう勝手に決めてますけど(笑)──今後、猫目小僧が生命を持ったリアリティのあるキャラクターとしてどんどん発展していったら嬉しいですね。その足掛かりとして今回の映画があると僕は思ってます。

──和尚と増子さんは、今回の『猫目小僧』をご覧になって如何でしたか?

和尚:本当に先生の仰る通りで、命の吹き込まれた、進化した猫目小僧でしたね。猫目小僧というのは、自分の中ではずっと前から自然とそこに居たような存在なんですよ。一介のファンとして、本当に愛すべきキャラクターだと思っているし。最初に読んだ原作の漫画が、凄く想像を掻き立てられるような素晴らしい作品だったんですよね。漫画が“ゲキメーション”になって、今度はこうして実写化されたのはとても自然なことだと俺は受け止めてますよ。ここからもっともっと発展していってほしいし、それこそハリウッドまで行ってほしいですよね。

楳図:そうですよねぇ! 本当にそうですよ!

増子:俺、『猫目小僧』は元の単行本と愛蔵版までちゃんと持ってるし、まんだらけ限定の猫目小僧のフィギュアも発売日前に予約して買ってますから。

楳図:ありがとうございます! 今、ここに集まった3人が全部の世界だとすると、『猫目小僧』は全人類から評価されてるわけだから(笑)、この映画がヒットしないわけがない!

増子:『猫目小僧』がまさか実写になるとは思わなかったんですよね。今度の映画は、小学校の時に初めて読んだ『猫目小僧』から受けた怖さって言うか、いわゆる洋モノ的な怖さじゃなくて、暗がりの中で妖怪がそこに佇んでいるような怖さが映像に出てるかな、とは思いましたね。

楳図:そうですよね。猫目小僧が生まれたのは奈良県にある大谷ヶ原の山の中で、日本古来の情念みたいなものが形となって現れたという設定ですからね。理屈的な言い方をすると、猫目小僧は自然が生んだ具象なんですよね。

増子:猫目小僧は良い子のヒーローでは全然ないし、そんなにイイ奴でもないところが俺は凄く好きなんですよ(笑)。

楳図:ええ、そこが一番のミソなんです。

増子:ホントに自分のやりたいように勝手にやってますからね。自己犠牲皆無、自分がイヤだったら「もう知らねぇよ!」って逃げちゃうだけですから(笑)。

──いわゆる“ダーク・ヒーロー”のはしり、ですよね。イタズラやつまみ食いも大好きだし(笑)。

増子:そうなんだよ。人間のために何とかしようっていう気持ちもないしね。

和尚:まるで猫そのものですよね。イヤになったらプイッとそっぽを向くような。

増子:あと、実写になって観ることができて良かったと俺が一番思ったのは、猫目小僧自体よりも“ないない”(元は猫目小僧が杖として使っていた折れた木の枝で、永年連れ添ううちに感情が芽生えて妖怪化した)なんですよ。

楳図:そう! “ないない”は僕も凄く良かったと思いましたよ。


次回作は是非“妖怪百人会”で!

──今回の映画では、「妖怪肉玉の巻」がストーリーの基軸となっていますね。ガン細胞のように分裂を繰り返し、人型を成して襲い掛かる生ける死肉“肉玉”を操るギョロリと対峙するという。

増子:映画の“肉玉”は『仮面ライダー』に出てくる怪人みたいな感じでちょっとコミカルなところもあって、余りグロくないですよね。原作の漫画はもっとグロいし、「クサイ!」って言うのがよく伝わってくる絵じゃないですか?(笑)

楳図:ええ。“肉玉”を描いていた時は、目一杯強烈なグロさで描きましたよ。できたら原作の漫画のほうも読んで頂いて、映画と合わせて理解してもらえると嬉しいですね。映画のほうはもうちょっと口触りをよくした仕上がりですから。

増子:言ってみれば、映画は井口 昇監督によるトリビュートですからね。

──井口監督は、昨年劇場公開された『楳図かずお 恐怖劇場』の一篇、『まだらの少女』も手掛けていらっしゃいますし、楳図作品への思い入れはとても深い方ですよね。

楳図:ええ、ありがたいことに。井口監督の体つき自体が“肉玉”の親玉みたいですよねぇ(笑)。

増子:もし今後続編が作られるとしたら、俺は妖怪百人会(普通の人間を捕らえては醜い姿に変えていく、世間から疎まれた奇形集団)が出てくる「小人の呪い」を是非映像化してほしいですね。俺はあの話、もう大ッ好きなんですよ!

楳図:ありがとうございます。そこのところを大きく太字にしてもらって(笑)。円谷さん、お願いします!(笑)

増子:ははは。妖怪百人会は小学生の時に読んで、もう怖くて怖くて。内蔵がボロボロ落ちてくるあの最後のシーンを是非実写で観てみたいですよ!

和尚:俺も実はそう思ってたんですよ。『猫目小僧』が実写映画化されると聞いて、どの話になるのかと思ったんですけど、てっきり妖怪百人会かなと思ったんですよね。まぁ、これからどんどん『猫目小僧』が発展していって、一番いいタイミングで妖怪百人会をやればいいですよね。

楳図:うん、それは言えてますよね。

増子:妖怪百人会をやるって話になったら、映画に出たいっていう役者さんは山ほどいると思いますよ。夜中のドラマとかでも面白いだろうし。俺がもし大金持ちだったら、先生の全作品をひとつ残らずドラマ化して毎晩放送ですよ、ホントに!(笑)

楳図:じゃあ、タイトルは『楳図放送局』にしましょうか?(笑)

増子:いっそのこと楳図作品専門の放送局を作っちゃったりして! いや、それくらいやってもバチは当たらないですよ!

──こうして映画になることによって、楳図先生の作品が若い世代にも幅広くアピールできることが大きな利点のひとつですよね。

増子:そうだね。入手困難な作品が手に入りやすくなるからね。あと、俺が大好きなオモチャだよね。今までもいろんな猫目のオモチャがあったけど、今後映画がシリーズ化にでもなればもっとアイテムが増えていくだろうし。

楳図:そうですよねぇ。じゃあ、妖怪百人会がオモチャになった時は100体? 制作会社がヒーヒー言いますよ!(笑)

増子:前にフルタ製菓から出た食玩(『20世紀漫画家コレクション 〜第8弾 楳図かずおの世界〜』)も凄く出来が良かったですよね。あれも全部集めましたよ。シークレットの、給食を独り占めする関谷のおっさん(『漂流教室』の登場人物)まで。中でも『笑い仮面』のススムが最高でしたね。ススムをまさかこの手で触れるようになるなんて、子供の頃の自分に戻って教えてやりたいですよ、あり得ねェぞ! って(笑)。

楳図:ああいうのは僕、何回も何回もしつこくチェックするんですよ。やっぱりしぶとくチェックしないと、作る人によってクセがありますからね。


楳図先生、浅草ジンタのPVで監督デビュー!

──そんな映画『猫目小僧』の主題歌「あしゅらの道のまん中で」は、和尚率いる浅草ジンタと楳図先生が歌と演奏でコラボレーション、怒髪天から増子さんと上原子友康さんが合唱で参加しているという、これまた豪華な共演が実現しましたね。この曲は映画のラッシュを観てインスパイアされたんですか?

和尚:いや、曲を作った時は(映画を)観れてなかったので、原作の『猫目小僧』からイメージを膨らませて作り上げました。猫目小僧が闇夜の中を歩いていくシーンがパッと浮かんで、猫目小僧と自分と人間と、みんなに共通してオーヴァーラップする部分を曲の中で重ね合わせてみたんです。

楳図:いやぁ、ホントに恰好いい曲ですよね。凄くシブいし…演歌ロックって感じかな? 独特で味がありますよね。

──しかも、この「あしゅらの道のまん中」のPVは楳図先生自ら監督を務めていらっしゃるんですよね。

楳図:ええ、そうなんですよ。最初に大雑把に「こんな感じで」ってスタッフにお話しして、専門の方にコマ割りをやって頂いて。現場に行くとまた色々と状況が変わってくるので、その都度臨機応変に対処しながら撮影していきました。みなさん、お芝居でなかなかしっかりと動いてくれまして、これならもっとお芝居の入ったビデオがいいなと思いましたね。歌の世界と映像が余りピッタリ重なり過ぎても面白くないと言うか、唄ってる内容と実際の映像の落差があるんだけど、どこかで微妙に繋がっている…くらいのほうが観ていて面白いと僕は思うんですよ。浅草ジンタの音楽を好きな方はもちろんこのビデオを観てくれるでしょうけど、そうじゃない人達にももっとアピールしたいんです。それには、その歌に関係なく面白いビデオにしたかったというのがひとつ。もうひとつは、浅草ジンタのメンバーはみな個性的な顔触れなので、それぞれのキャラクターをちゃんと出したいというのがあったんですよね。ここが一番大きな狙いだったんです。だから、思い切り狭い所を無理矢理走ってもらったりとか、かなりムチャクチャな動きをしてもらいたいと要求しまして(笑)。あとね、和尚が恰好良く映るシーンは絶対に入れたいと思ってました。

和尚:撮影自体は短く時間だったんですけど、俺達は凄く楽しかったんですよね。撮影をしたのは浅草にある今戸神社という所で、招き猫発祥の地として知られているんですよ。

増子:そうなんだ。あのPVは凄く良かったよ。猫目小僧が出てくるバランスもちょうど良かったよね。余り出ちゃうのももったいないと思うし。

──確かに、猫目小僧が出てくる寸止め加減が絶妙ですよね(笑)。

楳図:そう、最初はもっといっぱい出てたんですよ。仰る通り、余り出ちゃうと驚きがなくなるからそこは抑えたんですよね。

増子:あのPVを観た人が「おッ!?」と思って、最終的に映画を観てくれたらそれが一番だから。

楳図:そうですよね。あの短い時間の中で、浅草ジンタは出てるし、浅草の風景もあるし、お寺も出てるし、猫目小僧も出てるし…四方八方に展開しているから、単純に幅が4倍になるじゃないですか。

和尚:先生は撮影の段階からそういうことを考えて、多面的に楽しめるものを作ろうとしていましたね。先生はとにかく朝から元気で、「こうやって走るんだよ!」って先生自ら全力疾走してましたから(笑)。

楳図:やっぱり、口で言ったってなかなかうまく伝わらないですからねぇ。

和尚:先生を真似して、ウチの非力とバター犬が全速で走ったら思い切りコケたんですよ(笑)。

楳図:あの場面は、だから画面もちょっと揺れてるんですよね(笑)。そのコケたところに“バタッ!”って文字を入れたら面白いかなとも一瞬思ったんですけどね。浅草ジンタのみなさんは本当に呑み込みが早くて、こちらの思う通りに動いてくれたからやりやすかったし、凄く楽しかったですよ。なかなか勘がいいし、特に和尚はお芝居が上手なのがよく判りました。

和尚:そうですか?(照笑)

増子:和尚、こりゃ俳優デビューだ! まずは妖怪百人会からだね(笑)。


漫画と映画の類似点と差異

──楳図先生は監督を経験されたのは初めてだったんですか?

楳図:ええ、全くの初めてでしたよ。

増子:でも、漫画のコマ割りっていうのは映画と一緒ですからね。

楳図:そうなんですよ、よく言って頂けました。その通りなんです。漫画家はすでに仮の監督経験をいつもやってるようなものなんですよ。それを現実に置き換えてみただけで、実際はそんなに難しいことではないんですよね。

和尚:先生は監督業も充分にいけますよ! 映画を作るなら、小説家のような文字を書く人よりも先生のような漫画家の方が断然テンポがいいと思いますね。

増子:そうだよね。先生の漫画は、それまでの恐怖漫画と呼ばれるものにはない斬新なカット割りだったし、だからこそみんな夢中になって読み耽ったと思うんだよね。

──PVの中で、先生がお気に入りのシーンはどこですか?

楳図:やっぱり、猫の顔が水面に映ってるところかなぁ。

和尚:あれは映画のほうのカットじゃなくて、PV用に現場でこだわって撮ったんですよ。あのシーンは凄くいいですよね。

──このPVをきっかけとして、先生が今後本格的にメガホンを取れば面白い作品が続々生まれそうですね。

楳図:映画を撮ってみたい気はいつでもあるんですけど、何が何でもっていうわけでもないんですよ。そういう話もいくつか頂いてはいるんですけどね。

和尚:……なんか、先生にPVを撮って頂いた重みをだんだんと感じ始めてきたなぁ(笑)。

増子:いや、凄いことだよ? 小学生の時の自分に「楳図先生が監督やってくれるんだぞ!」なんて伝えたらブッ倒れて、それこそ「ギョエー!」だよ(笑)。

楳図:漫画と映画は別モノですけど、精神的な核になってる部分は同じなんです。ただ、表現方法として漫画は動かない、映画は動く、と。そんな単純明快な違いが大きな違いに繋がっていくんですけどね。たとえば映画なら、特にストーリーはなくても、普通に人が歩いているだけで成り立つところがあるじゃないですか? 漫画の場合、何かを拾ったり、食べたり、振り向いたりしても余り意味は出てこないんですよ。以前描いた『蝶の墓』はホラーっぽいミステリーで毎回評判が良かったんですけど、ある日編集者がやって来て「このシーンだけ反応が薄かった」って言ったのが、カー・チェイスのシーンだったんです。映画ならこういうシーンは迫力があって、一番の見せ場になるじゃないですか? それが、漫画じゃ違うんですよ。車が崖っぷちを走る同じようなシーンでも、漫画の場合はそれがドキドキに繋がらないんですよね。

和尚・増子:ああ、なるほど。

楳図:ストーリーがどのように面白いかっていうのは共通してますけどね。やっぱり僕はストーリーをキッチリ作るタイプの漫画家なので、それがちゃんと出来ていないとモヤモヤしたものがあって……。

増子:テレビでも映画でも、楳図先生には映像化してほしい作品があり過ぎますからね。朝の連ドラで『アゲイン』とかやってほしいなぁ。同じ“アゲイン”でも『三丁目の夕日』をやってる場合じゃないよ(笑)。あと、『イアラ』ですね。俺はあの作品がもう大好きで、“エピソード1”とか『スター・ウォーズ』ばりに何作も作ってほしいですね。まぁ、実写化したら凄く金が掛かりそうですけどね(笑)。

──「あしゅらの道のまん中で」のカップリング曲「猫目小僧」は、“ゲキメーション”として映像化された時の主題歌で、オリジナルは堀江美都子さんが唄っていた曲ですね。

和尚:そうですね。先生が作詞・作曲された曲で、俺達なりのアレンジを加えて。

楳図:「あしゅらの道のまん中で」も「猫目小僧」も、聴けば聴くほどジワジワジワっと味が出てくると思いますよ。

和尚:この「猫目小僧」のカヴァーは、実はワールド・ミュージックをちょっと意識しているんですよ。

楳図:ああ、アラブ的な音階が入ってる部分があって、僕はあそこが好きですね。

和尚:アジアで生まれた映画なんだってことを曲に込めたかったんですよね。この映画がいずれ海を越えて評価されてほしいという願いを込めて、敢えてアジア的な旋律を入れてみたんです。

楳図:素晴らしい! でも、浅草ジンタの「猫目小僧」は凄くアップテンポで、最初は「とてもじゃないけど唄えないよー!」と思いましたけどね(笑)。

増子:ジンタのライヴにゲストで楳図先生を呼んで、是非この曲をやってほしいよね。先生はロック・スターでもあるから。俺は小学生の頃に蘭丸(『まことちゃん』のキャラクター)を見て、ロック・スターとはこういうもんだって教えられたんですよね(笑)。蘭丸って恰好いいんだもん、そしてアホで(笑)。あと、KISSも俺は凄く好きだったんで。

楳図:KISSはイイですよねぇ。僕もKISSのライヴは観に行きましたよ。余りライヴには行かないんですけど、KISSとランナウェイズは行きましたよ。KISSは凄く漫画的で、自分自身を絵柄にしてしまう第1号バンドかもしれませんよね。

──今日お集まり頂いたお三方は、みなさん新宿ロフトにご出演頂いているという共通点があるんですよ。楳図先生は'79年10月10日に『グワシまことちゃん』というイヴェントに楳図かずお&ラプソディー名義でご出演されてますね。

楳図:そうですね。あの頃は「ビチグソロック」とか「グワシ!! まことちゃん」とかをやって、ロックンロールのオールディーズもよくやってました。「ルート66」とか「ダイアナ」、「カレンダー・ガール」とかを英語で唄ってましたね。


読む対象が子供でも容赦はしない

──和尚と増子さんが一番好きな梅図作品、あるいはキャラクターというのは?

和尚:俺はやっぱり『猫目小僧』なんですよね。あとは『洗礼』とかですね。子供の頃に読んだ楳図漫画と、大人になってから読む楳図漫画とでは全然違うんですよ。それが同じ作品でも、何年か経ってから読むとまた違う感慨を覚えるんです。

楳図:子供の頃は、話に出てくる子供の立場からしか読めないですからね。主人公に危害をもたらす、敵対する存在にどうしても目が行くでしょう? 『洗礼』で言えばさくらの母親の若草いずみがそうだし、『へび女』で言えば弓子に散々襲い掛かってくるへび女は怖い存在だし。それは子供の目線なんですよね。それが大人になって全体を俯瞰して見られるようになると、「屈折した自分を持つとへび女のような行動をとることもあるのかもしれないなぁ」とか「『洗礼』の母親も、母親である前に一人の女性として生きたかったのかなぁ」とか、受け止められる範囲が広がってくると思うんですよね。

増子:俺はなんせ、先生の作品の7割方は持ってますからねぇ。先生が凄いと思うのは、永年描き続けて歳を重ねていくごとに作品の内容に含蓄されるものがどんどん深みを増してるところですよね。長編の『14歳』とかも話のスケールが凄くデカいし、人間模様の描写が事細かで。

楳図:ありがとうございます! (増子を見て)今日もシマシマのシャツを着ていらっしゃるし(笑)。

増子:ははは。猫目小僧はもちろん大好きだし、好きなキャラクターはあり過ぎてひとつには選べないけど、敢えて言うなら『赤んぼう少女』のタマミかな。先生がお化け屋敷をプロデュース(後楽園ゆうえんちの『楳図かずおのおばけ屋敷〜安土家の祟り』、1994年)した時にタマミの扮装がいて、あれには感動して涙が出ましたね。「出たーッ!」って(笑)。

楳図:あの時はタマミちゃんそっくりの顔の方がいらしたんですけど、背が凄く高かったんですよ。それで、うーんと背の高い人を無理矢理うーんと背を小さくさせて、赤ん坊の洋服を着させようっていう発想だったんです。

増子:あれはホントに最高でした。今まで見てきたお化け屋敷の中で一番面白かったですよ。

楳図:普通、お化け屋敷というのはお化けを隠そうとするんです。僕の場合はそれをやめて、見えてるところから行こうと思ったんですね。あと、お化け屋敷って暗い、汚い、チープっていう印象がありますけど、それを全部逆にして、華やかでゴージャスにやろうと考えたんですよね。今はもうなくなっちゃって、ちょっと残念なんですけどね。

和尚:先生はピーターパンそのものだと思うんですよ。純粋だからこそリアルに描写できると言うか。それがリアル過ぎるから、俺達は子供の頃に凄まじい恐怖を覚えた。

──楳図先生ご自身がお好きなキャラクターは何ですか?

楳図:猫目小僧とおろちは凄く好きなんですよね。どこが好きかって言えば、ダーティーなところもそうだけど、ずっと孤独なところなんです。

増子:おろちは時空を超えていろんな所へ行くんだけど、そこに居たことを忘れちゃうんですよね。なかったことになってる。他人の人生に少しずつ関わるんだけど、そこに情は残さない、っていう。凄くドライですよね。

楳図:ええ。猫目小僧=おろちっていうふうに僕の中では繋がって、進化していったんですよ。

増子:そう考えると、俺は今の子供達が凄く可哀想だと思いますよ。だって、今の漫画ってそのほとんどが子供向けじゃないですか?

楳図:そうそう、漫画のほうが子供の目線に合わせちゃってるんですよね。

増子:今の漫画は闘いのトーナメントをダラダラ続けてるようなものばかりだと思うし、俺達が子供の頃に読んでた楳図先生の漫画は内容が大人だったんです。決して子供向けじゃなかったし、だからこそ凄く面白かった。先生が描く女性は凄く色っぽくて、小学生の時に読みながらドキドキしましたからね。

楳図:たとえ読む対象が子供だとしても、僕は別に容赦しなかったんですよね。自分の思い付いた考えを子供に合わせるよりも、これ以上思い付けないところまで思い付いたものをそのままドバーッと出しているから、妥協は全然してないんですよ。

──子供の頃に憧れた漫画でも、映画でも、ロックでも、身の丈以上に背伸びして無理矢理喰らい付いたものですけどね。

楳図:絶対そうですよ。僕らだって、子供の頃に精一杯背伸びしたかったですから。判らないものは判らないものとして、「そういう世界もあるんだな」っていう捉え方をしてましたしね。

やりたくないことはやりたくない

増子:子供に対して子供言葉で話し掛けるんじゃなくて、「怖い話ってこういうものなんだぞ」って真剣に子供に伝えてくれる大人がほとんどいなくなったんじゃないかな。それじゃ商売にならないと思ってるのかもしれないけど、逆なんだよ。それだけ深い内容なら間違いなく長く売れ続けるわけだから。あとね、田舎にある“ほこら”をイタズラすると祟りがあるぞ、みたいなことを教えてくれたのは楳図先生の漫画だったと思いますね。今の子供は平気で墓石をブッ倒したり、お地蔵さんにスプレーでヒップホップみたいな文字を書いたりとかするでしょ? そういう連中は一度猫目小僧にシメてもらったほうがイイよ!(笑)

楳図:お稲荷さんとかお地蔵さんとかは迷信的なものなのかもしれないけど、だからと言って無視はできないですよね。それを建てた意味がちゃんとあるわけですからね。

──映画の中にも、イタズラ心からお札を破ってしまい、神社の祠に封印されていた妖怪ギョロリを結果的に解き放ってしまう傍若無人な若者が登場しますね。

増子:俺ならあんなものを絶対に開けようと思わないし、第一そんな所に行かないよ(笑)。

和尚:たとえば、先生ならお札を破りますか?

楳図:僕はそういうことはしませんね。普段からお化けとか幽霊の存在を信じてないですけど、「ここは幽霊が出ますよ」なんて言われる所へは行きませんよ。野性の勘が働くのかもしれませんね。野性の勘は非科学的なものかもしれないけど、論理が積み重なった結果として導かれた感覚だから、ある意味で論理ではあると思うんです。咄嗟の判断をしなければいけない時に、論理でいちいちあれこれ考えてたら間に合わなくなるじゃないですか?

増子:そういう直感っていうのは、太古の昔から我々のDNAに擦り込まれているものですよね。ヘビを見るとイヤな気持ちになったり、暗闇の中が気色悪いとかはみんなそうですよね。

楳図:そうですね。今問題なのは、DNAに擦り込まれてない怖いことが現実に起こり始めてることなんです。

増子:今の時代、自然に対する畏怖の念がどんどん薄れてますよね。俺は今子供達が読んでる漫画もその一因だと思うんですよ。つまり、最後は何をやっても主人公である自分が打ち勝つというような。

楳図:そう! それはね、アメリカ映画にその罪があると思うんですよ。正義の名のもとに必ず勝つっていう構図がね。

──こうして話を伺っていると、和尚と増子さんが少年時代の情操教育として楳図先生の作品から如何に影響を受けたのかがよく判りますね。

増子:いや、ホントそうだよ。出てくるキャラクターも恰好いいしね。立派な大人でも、怖い時は取り乱したりすることを一番学んだ漫画なんだよ。『漂流教室』の食糧を独り占めする教師とか、非常時に態度が豹変する人間の姿とかね。姿形が醜くなって、「絶対こうはなりたくないな」って思うくらい醜くなるんだよね。妖怪百人会にやられる漫画家とかさ(笑)。

──先生が今後やってみたいことはありますか?

楳図:うーん、余りそういうことを考えてないんですよねぇ。お話を頂いたらやらせてもらっている、という感じで。でもまぁ、映画はやっぱり撮りたいですよね。自分で撮って、ちゃんと自分もその作品の中で出演して。知能程度が遅れてる人の役とか、僕はそういうのがイイんじゃないですかねぇ?

和尚:ははは。まことちゃんがそのまま大人になったような……“まことさん”とか?(笑)

楳図:そうそう。相当ヌケてるんだけど、天真爛漫で。でも凄くパワーを持っていたり、とか。まぁ、いろんなことにチャレンジしていきたいですね。基本的に、やりたくないことはやりたくないんですよ。やって面白そうだなと思うものならやりたいです。仕事以外では5ヵ国語を勉強してますけどね。知らない外国語の発音の仕方とか、学ぶと結構楽しいんですよ。

──では最後に、和尚と増子さんのお2人から楳図先生にエールをお願いします。

和尚:先生にはずっとそのままでいてほしいですね。先生からはいつもパワーを貰ってるし、いつ見ても感動する。今回の『猫目小僧』のように、時代を超えて映像化されることの意味がよく判るんです。先生が70歳っていうのがとにかく信じられないですね。こうなったら、100歳を超えてもずっとこのままでいてほしいですよ!

楳図:医療の最前線では、アンチエイジング(抗老化、抗加齢)の研究が盛んと言いますからねぇ。

和尚:じゃあ、アンチエイジングの先駆け的存在として(笑)。

増子:楳図先生は、俺にとって日本の漫画界のローリング・ストーンズなんですよ。最長不到のキャリアにして、新しい作品を絶えず発表し続ける存在ですからね。

楳図:僕は本質で生きてるだけですから、これからもずっと変わらないと思いますよ。お2人とも絵の世界の目線で見てもらえてると思いますけど、絵に余り関心のない人達を今後もっともっと引きずり込みたいですよね。判ってもらうというよりは、グイッと引きずり込むくらいのパワーで行きたいです。今日は本当にどうもありがとうございました!

映画『猫目小僧』
楳図かずおの異色人気ダーク・ヒーローを奇才・井口 昇 監督が実写映画化!

【ストーリー】
300年に一度、妖怪・猫又は人のような、猫のような、奇妙な姿の妖怪の子供を産むという。さすらいの旅の果てに辿り着いた村で出会った美少女まゆか(石田未来)に対し、恋心を抱く猫目小僧。しかし、まゆかの心は憧れの先輩雄次(載寧龍二)に…。所詮この恋、妖怪と人間とでは結ばれぬものなのか!? そんな感傷に浸っている暇などないのだ! なぜならば、まゆかを狙う妖怪ギョロリ(竹中直人)の陰が忍び寄っているからなのだ!! 一方通行の恋と知りながら、猫目小僧は最強の妖怪にあえて命がけの戦いを挑む! 『クルシメさん』『恋する幼虫』『卍』と“愛の痛み”を描き続け、『楳図かずお 恐怖劇場』の一篇『まだらの少女』でもその特異な皮膚感覚を存分に見せつけた監督・井口 昇だからこそ実現できた楳図美学の極地!
【スタッフ】
原作:楳図かずお(小学館刊) / 監督:井口 昇 / 脚本:安田真奈 / 音楽:中川 孝 / 撮影:喜久村徳章 / 照明:才木 勝 / 美術:嵩村裕司 / 録音:三澤武則 / 編集:村井佐知 / VFXディレクター:奥野浩介
【キャスト】
石田未来 / 田口浩正 / 載寧龍二 / くまきりあさ美 / 津田寛治 / つぶやきシロー / 竹中直人 / 他
2005年 / 日本 / 104分 / ヴィスタサイズ / カラー
6月上旬、ユーロスペースにてロードショー!
配給:アートポート
(C) 楳図かずお・小学館 / アートポート・松竹

猫目小僧

猫目小僧

映画『猫目小僧』主題歌
昭和の旋律をモダンに取り込んだ浅草ジンタ、楳図かずおと歌で共演!
あしゅらの道のまん中で/猫目小僧
歌と演奏:浅草ジンタ with 楳図かずお/合唱:増子直純&上原子友康(怒髪天)
1.あしゅらの道のまん中で
2.猫目小僧
3.あしゅらの道のまん中で(映画バージョン)
4.猫目小僧(映画バージョン)
5.あしゅらの道のまん中で(オリジナル・カラオケ)
6.猫目小僧(オリジナル・カラオケ)
テイチクエンタテインメント TECH-12118
1,200yen (tax in)
5.24 IN STORES
★amazonで購入する

楳図かずお OFFICIAL WEB SITE
http://umezz.com/

浅草ジンタ OFFICIAL WEB SITE
http://www.asakusajinta.com/

怒髪天 OFFICIAL WEB SITE
http://www.dohatsuten.com/

楳図かずおさんから素敵なプレゼントがあります!

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