「ニート」って言うな! BOOK
本田 由紀、内藤朝雄、後藤和智 (光文社新書)840円

ニートという言葉に踊らされないために

 今やすっかり定着した「ニート」という言葉だが、なんかあまり好きになれない言葉だなとずっと思っていた。似たような言葉で以前から「プータロー」という言葉があるが、こちらは自然発生的な言葉であるし、言葉の響きもユーモラスで悪くない。一方「ニート」は学者連中が作った言葉「NEET」(Not in Education,Employment or Traning)だし、政府なんかもニート問題とか言って大袈裟に使っているので、言葉として全然親しみがもてない。とにかくニートって言葉には最初からネガティブなイメージが刷り込まれているような気がするのだ。  そんな折り、本書『「ニート」って言うな!』というタイトルが気になり早速読んでみたのだが、ニートという言葉が、ここ日本においていかにおかしな使い方をされているかを知って合点がいった。そもそもNEETという言葉を生んだのはイギリスだが、その言葉を日本の学者達が日本に入れた段階で、かなりおかしなことになっているようだ。学生・既婚者を除く無業者(仕事に就いてない人)の中で、非求職型(働きたいけど具体的な求職行動をとってない人)と非希望型(働きたいという気持ちもない人)をいわゆるニートと呼ぶそうだ。ニートに対するネガティブなイメージは、上記のうち主に「非希望型」(働く意欲がない)の方だと思うが、統計的に見ると、非求職型は増えているが非希望型はほとんど増えてないらしい。つまり、政府などは「ニートが増加している」と社会問題にしているが、その実態は、働きたいという意欲はあるがなんらかの理由で働いていない人が増えているのであって、世間がイメージする「働く意欲がないダメな若者」が増えているわけではないってことなのだ。これって、なんかすごく作為的なものを感じる。ニート=ひきこもり、ニート=犯罪予備軍、にすることで、日本が現在抱える雇用問題をすべて社会構造ではなく、本人の責任にすり替えようとしているかのようだ。(そういえば、以前には「自己責任」なんて言葉も流行ってたね)  まあ、いい意味にしろ悪い意味にしろ、とにかくニートって言葉を使うんなら、せめて本書を読んでからにしてほしいものだ。 (加藤梅造)
※5/12にネイキッドロフトで開催する「保坂展人・世直しトーク2006」に本書の著者が登場します。詳しくはネイキッドロフトのスケジュール欄を参照下さい。

わたしの菜食生活 BOOK
秋田昌美 (太田出版)1300円+税

ノイズってエコでロハスな音楽なのね! とすてきな奥様に浸透…するか?!

 秋田昌美といえばメルツバウを主宰する言わずと知れたノイズ界の重鎮。世界を股にかけ活躍する現役の騒音美髪王であり、著書も専門ジャンルの「ノイズ・ウォー」のほか、「アナルバロック」「快楽身体の未来形」「ボディ・エキゾチカ」などなどキラ星のごとく。90年代日本においてエッジ極まる性の有り様や、マージナルな文化現象をスタイリッシュでクールな装丁で紹介し続けてきたアンダーグラウンドのカリスマである。
 その秋田氏が久々に出した書籍のタイトルを聞いたときにはマジで食べ物を噴き、「絵の話を書いてるんでしょ? “彩 色生活”とか!」とかたわごとを述べる程に惑乱の極みに陥った。だって、秋田昌美だよ? (ご本人と面 識はないので全部勝手な推測ですが)美しく長き黒髪をたなびかせ、耳を聾する轟音で闇を切り裂く真っ黒貴公子よ?! きっと獣の血を浴びてるからあの美髪が保てているのよ…(だから妄想ですからね)! それがベジタリアン本?!  どうしてもこの目で読むまで信じられず、即座に購入。卒倒。白と緑のさわやか〜な装丁、チャボを抱えて微笑む騒音美髪王のお姿…この目で見たって信じられない! 何かのネタ?
 読み始めても、どうも「これは壮大なフェイクであり、実は“なんちゃって〜ピーズゴグガガガガ(ノイズ)”とどこかに書いてあるのだ…」という思いがなかなか抜けない…が、水族館に通 いつめゾウアザラシに夢中になり、ジャケに故「みなぞうくん」採用。ついには象がテーマのアルバムその名も「メルツゾウ」を発表… ネタじゃなく超マジ! 秋田氏は今、エコでロハスな生活を送り、日本でイメージされる「ベジタリアン」よりさらに先鋭的な「ヴィーガン」…牛乳すら一切口にしない究極の菜食主義者となっておられたのです。当惑気味に読み進めたのですが、後半で理由が判る。海外インダストリアル音楽のジャケには人肉食、動物実験など、一見残虐でいかにもアングラなのが多い。これは奇をてらっているわけではなく、メンバーが動物権利愛護運動に賛同している事から来るものだったそう。運動は過激化、動物実験施設に放火したりする事件もあるとか…(ブラピの「12モンキース」の元ネタですな)。こういった海外の先鋭的音楽家たちと交流するうちに、秋田氏もヴィーガンに…という次第。海外の動物愛護運動は、おしゃれでエスプリが利いてます。その精神を受け継ぐためか、秋田氏の訴えもどこかユーモラス。渋谷のケンタ前で「KFCはヒヨコを虐待しています」とプラカードを持った水着の美女とニワトリの着ぐるみと共に真面 目な顔で抗議活動をしている秋田氏の姿には悶絶してしまいました… なぜ水着美女?! 「CHICK」という語が「ヒヨコ」と「イイ女」の両義語であることにかけているのかな…
 最終的にこの本は「生類憐れみの令」の時代に日本が帰ることを訴えます。綱吉最高! お犬様!!  秋田氏の訴えたい事は良く判りました。でも、私は肉を止められないですごめんなさい!!…子供の頃卵や肉を食べた男女たちがひどい目にあいまくる「日本霊異記」は最高のホラー説話集だったし… でも秋田さん、お願いだから植物性タンパクは十分に摂取してくださいね! その美髪を保つためにも!!!! (尾崎未央)

オタク用語の基礎知識  BOOK
オタク文化研究会 (マガジン・ファイブ)1500円+税

氾濫するオタク用語をうまく切り取ったコンパクトな一冊

 タイトル通り、基本的なオタク用語を解説した便利な一冊。オタク用語といっても、趣味嗜好が細分化し、ネット用語が日々消費される現在において、その全体像を捉えることはほとんど不可能だが、本書はそのへんをあっさり割り切って、「本」としての読み応えを重視した編集となっている(辞典的な網羅性は「ウィキペディア」や「はてな」といったネットに任せておけば十分だろう)。  取り上げられている用語は、「萌え」「ツンデレ」といったメジャーなものから、「姉DVD」「ほ、ほーっ、ホアアーッ!!ホアーッ!!」といった何じゃそれっ?ていうマイナーなものまで幅広いが、その解説はメジャー/マイナーに関係なく、読んでいてなかなか楽しい。たとえば、有名な用語であり、鉄道オタクの俗称である「鉄っちゃん」だが、その細分化された使い方として、乗車を主とする「乗り鉄」、乗車よりも車両撮影を楽しむ「撮り鉄」という分類があったり、また、鉄道に対する情熱の度合いを表す類語として「鉄分」(例:お前には鉄分が足りない!)という用法があるなど、一つの言葉からその世界観が無限に広がっていく。また、僕は「サークルクラッシャー」という言葉を知らなかったが、その意味である「主に男性の割合が多い文化系サークルに入会して、恋愛問題を引き起こしてサークルを崩壊させてしまう結果 を引き起こしがちな女性を指す。」を読み思わず「なるほど!」と思ってしまった。「ウニメ」という言葉も全く知らなかったし、その意味を知ってもこの先自分が使う状況はほとんどないと思うが、その言葉の成立過程は結構面 白いものがあった(知りたい人はぜひ本書を参照してくれ)。  このように本書が読み物として十二分に楽しめるのは、編集者の緻密で丁寧な仕事によるとことが大きいが、編集者であるS氏がモーヲタ界で有名な人物であるということを最後に一応書き添えておこう。 (加藤梅造)

マリファナ/リーファー・マッドネス麻薬中毒者の狂気/マニアック DVD
(トラッシュマウンテンビデオ)5040円

麻薬って怖いモノなんですね、ハッパフミフミ

 傍観者の喜びは確かに存在する。夢中になっている皆さんには本当に申し訳ないのですが、ギャンブルでもドラッグでも中毒性のある物は自分がやるよりも実はやっている人を眺めている方が面 白かったりする。ギャンブルでG!)レースの前日から友人と飲み明かして彼の競馬美学や理論を拝聴し、当日の午後3時くらいにその理論がもろくも崩れさるのを観るのは堪えられない。その傍らで何の理論も美学もなく、好きな数字や名前がかっこいい、とかで自分が万馬券を当てていたりしたらなおさらの事だ。ドラッグにしてもそう。ただし、幻覚体験は夢の話と似たような物で、当人の内面 の延長でしかないので、服用者自身の本来の内面の面白さが重視されますよね。どうせなら僕の知人のように、キノコをキメてたらやおら彼女の股間に顔をグイ、グイ押し付け始め、何をしていたのかと後に問いつめると「ピノキオみたいに鼻が伸びだしてさ、それ使って彼女とヤッてたんだよ」…それくらい面 白いものを提供してほしいものだ。ただし彼の場合は怒った彼女に別 れ話を告げられる、というツケを払わされたので、かようにドラッグ文化と一般 社会とのミゾは深い、と考えさせられます。
 今回リリースされるこのDVDに収録されているドラッグの恐怖を謳った作品群、マリファナの害を説く映画、しかしその実「マリファナは危険だ!追放せよ!」と言っておけばいいんだろとばかりに裸や血や銃撃戦、視聴ターゲットをどちらかと言うとマリファナ吸いたい盛りの若者に設定していた事は明白であります。昔の映画なので、「突然笑い出し」「情緒不安定になり」「妄想癖を持ち」「発狂する」「ヘロインより悪い」とマリファナに対する知識はメチャクチャなんですが。麻薬の恐怖を煽らんが為に登場人物もまるでコントか「こたえてちょ〜だい」の再現VTRのように破滅、堕落して行きますね。最後の「マニアック」は精神病啓蒙映画で、躁鬱病やパラノイア、ヒステリーの症例を再現、て感じなんですが情緒不安定になると主人公の心の中で本当に悪魔がヤリもってヒヒヒと笑ったりネコがニャーと鳴いたりするので観ているこっちが不安になる事請け合いです。
 海外では、このような教育啓蒙映画は資料的価値が認められているのかソフト化が進んでいるのですが、日本で観るためには免許取り消しになったり犯罪を犯したりと面 倒な手続きを取らないと観られない、というのが現状です。このような映画を調べてみると我が国でもかつては売春と性病の恐怖を扱った『赤線』、シャブによる家庭崩壊モノ『お父さん覚せい剤はもうやめて』など、タイトルは判明しているものの観る事の出来ないお宝はまだワンサと眠っているようです! メーカーさんぜひこのジャンルの開拓&発掘をお願いします! (多田遠志)

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人間革命 DVD
シナノ企画より4800円で発売中

ついに明らかになる真の幻の映画! 信濃町へ急げ!

 幻の映像、と呼ばれる物は世の中数々存在する。たいていその手合いは障害者や精神病患者を怪物として扱う、などの理由で闇に葬られた物である。セブン12話とか怪奇大作戦の「狂鬼人間」とかね。最近では「描写 に問題のあるシーンや台詞はありますが資料的意義を考えましてetc」と断りさえ入れればどうにか出せる、てな突破口を見つけたようで、どんどん「幻の作品」は減っていってるのが現状です。嬉しいやら悲しいやら。
 幻系にはもう1ジャンルありまして、宗教映画がそれであります。公開すれば信者が口コミでワンサとやって来るので興行的にも鉄板、映画会社も大喜びなんですが、不思議と非信者には全くといっていいほど見向きされないんですよね。幸福の科学の『ノストラダムス戦慄の啓示』などが良い例です。そんな中でも教団規模、映画規模ともに最高最大の作品が未だ日の目を見ぬ 状態であったのですが、この度無事DVD化です! 池田大作先生原作の『人間革命』奇跡のリリースです!
 創価学会中興の祖、2代目会長戸田城聖を主人公に戦時中の特高による弾圧(教団的には大法難)や戦後の学会の創立とその普及、実にオーソドックスな宗教映画ながらまったく飽きさせません。それもそのはず、スタッフは東宝の生え抜き揃い、脚本橋本忍、音楽伊福部昭、特技中野昭慶と特撮ファンがいろんな意味で涙を流す鉄壁の布陣! 監督&主演は舛田利雄&丹波哲郎、つまり『ノストラダムスの大予言』コンビの復活です! 丹波(以下タンバリン)は学会と大霊界の折り合いはどう付けたのでしょうか?
 弾圧に負けぬ戸田の情熱、そしてその規範となる日蓮の教え…胸に迫る宗教映画としての要素はふんだんに盛り込まれています。ただ、非信者の僕には戸田が悟りを開くシーンは特高に捕われ長期拘留されたが故の拘禁反応でブチッと来たようにしか思えないのは気のせいでしょうか、はたまたタンバリンの大熱演がためでしょうか?
 3時間近くある本編の後半は1時間ほどタンバリンの演説が延々と続くのですが、その中で描かれる地獄界の描写 はまんま『ノストラ〜』です! 学会はこの辺はOKだったのでしょうか? 銀行強盗をして報いを受けパクられるチンピラが黒沢年男(出演時間1分)だったりと無闇にキャストが豪華なのも気になります。日蓮(=仲代達矢)の斬首を止める天変地異も伝承の落雷ではなくUFOの飛来、と新解釈連発のこの作品、特定宗教の信者の皆さんだけの物にしておくのはあまりにももったいないと思うんですが。  「観たい!」と思った皆さん、残念ながらこの作品は市販はされているのですが、流通 が限定されているのでアマゾンなどでは手に入らないようです。製造元である「シナノ企画」から通 販…という手もありますが、個人情報が気になる方も多いかと。それならばいっそ創価学会本部のある総武線信濃町駅に買いに行ってみる、これも手かと思います。駅前の書店でもコンビニでも、何処でも売っていますので。コンビニなどパンの棚はガラガラなのにDVDだけはびっしり補充されていましたので安心ですね。他にもマチャ◯やバッジ◯のDVDなど、他では手に入らないグッズも多数ありましたので、ぜひ直接購入をおススメします。(多田遠志)
※『続・人間革命』も同時発売されています。こちらも是非

Little Birds イラク戦火の家族たち DVD
マクザムより5985円で発売中

2005年最重要ドキュメンタリー映画が遂にDVD化

 2003年3月20日、国連安保理決議を経ずに強行されたアメリカによるイラク戦争を、日本人である私たちは一体どのように見ていたのだろうか。多くの人は当時テレビで頻繁に報道されたニュース映像の印象が大きいだろう。夜明け前、空爆で炎上するバグダッドの街、バグダッド陥落時のフセイン像引き倒し、サマワに派遣された自衛隊の活動風景、こういった様々な映像を観ることで、私たちはこの戦争の状況をある程度知ったつもりになっているかもしれない。
 しかし、これら日本で放映されたイラク戦争の映像は、当たり前のことだが、実際にイラクで起こった出来事の中のほんの一部でしかない。
 激しい空爆の下で逃げまどうイラク市民の姿、次々に病院に運び込まれる負傷者の姿、バグダッド市内に戦車と装甲車で侵攻するアメリカ軍を冷ややかに見つめる人達の姿、アブグレイブ刑務所前でアメリカ軍に拘束された息子の帰りを待つ母親の姿──ビデオジャーナリストの綿井健陽は、イラク戦争中、現地から精力的に中継を続けた数少ないジャーナリストの一人だ。彼のレポートは「ニュースステーション」や「News23」で放送され、多くの日本人が彼の映像から戦場の状況を知ることになった。しかし実際にテレビで伝えることができるのは数分〜数十分の映像でしかない。
 綿井は、1年半のイラク取材で記録した123時間余の映像を102分の映画作品として完成させた。それが映画『Little Birds ─イラク戦火の家族たち─』だ。  昨年劇場公開されて以降、今だに全国各地で自主上映が続けられている本作が、待望のDVDとしてリリースされた。
 豊富な特典映像を収録した2枚組で、世界的なスクープといえる「あのフセイン像を倒した男たち」や、綿井監督の(爆笑?)自衛隊サマワリポートなど、単なるオマケを越えた作品が追加されている。また、本編は監督によるオーディオコメンタリーの他、すべてのダイアログを日本語台本に起こし、声優がアフレコを行った「バリアフリー音声ガイド」も追加されている。
 21世紀、最初の大きな問題を残したイラク戦争。戦地では一体何が起こっていたのか? それは本当にアメリカが言うような正義の戦争だったのか? 現在も自衛隊をサマワに駐留させ、この戦争に参戦した国である私たち日本人は、この現実を直視しなければならないはずだ。そのためにも是非このDVDを鑑賞して欲しい。 (加藤梅造)

ROOFTOP Recommend Movie
●今月の借金してでも観てほしい一本! ガーダ −パレスチナの詩−

古居みずえ監督作品
(2005年/DVCAM(NTSC)/106分/日本映画)
(C)2005 安岡フィルムズ/アジアプレス・インターナショナル

5月20日(土)より全国主要都市にて同時公開!
東京:アップリンクX
大阪:シネ・ヌーヴォ
名古屋:シネマテーク http://www.ghada.jp/

女の情感こそが、もしかしたらこの世界を変える可能性を持つのかもしれない。 ──森達也(映画監督・ドキュメンタリー作家)

 1988年7月、ひとりの女性ジャーナリストが戦火のパレスチナで取材をはじめた。古居みずえ・当時40歳。大病を経験し普通 のOL生活から人生を大きくシフトした。以来、17年間、記録した映像は500時間。女性やこども、老人たち…けして戦場だけではない人々の日々の暮らしと闘いをとらえた。
 本作では主人公・ガーダの結婚・出産、そして、みずからの生き方を歩み始める23才から35才までの12年間を縦軸としながら、パレスチナの過去・現在・未来を描いている。これまであまり紹介されることのなかった自然豊かなパレスチナの風景をバックに、語り継がれてきた素朴な歌の数々が紹介される。厳しい状況に追い込まれながらも唄うことを忘れない、ほがらかな老婆の顔に刻まれたシワが美しい。
 古居の単独取材による映像を、「A」「A2」(森達也監督)や「Little Birds -イラク 戦火の家族たち」(綿井健陽監督)の安岡卓治が編集。永年、古居の取材を支えてきたアジアプレス・インターナショナルの代表・野中章弘が製作として参加。映像ジャーナリズムが映画へと昇華した珠玉 の女性映画。

(STORY)
大地 自由 平和 夢・・・歌うことが希望をつなぐ
 パレスチナ女性ガーダは、ガザ地区難民キャンプで生まれ育った。ガザ地区南部は古い慣習の残っている地域だ。そんな中で、自立心の強いガーダは伝統的な結婚式を拒否しようとし、今までのやり方にこだわる母親や友人、婚約者の母親とぶつかっていく。結局、ガーダは結婚式をあげず、花婿のナセルとエジプトに新婚旅行に出かける。1996年ガーダは最初の子、ガイダを出産し、女性として新しい生き方を貫いていく。
 しかし2000年、パレスチナでは第二次抵抗運動が始まる。親戚 の男の子カラムの死を目にし、母親として気持ちを揺り動かされる。ガーダは、パレスチナ人としてのアイデンティティーに目覚める。幼い頃、祖母から聞いた故郷の話や歌がガーダの心に蘇り、1948年に追われた話を、祖母年代の女性たちから聞き始める。
 100歳になるハリーマは人生の終末でイスラエル軍によって家を壊され、テント暮らしになる。ガーダはハリーマから土地に根付くパレスチナ人の心意気に魅せられる。イスラエルとの国境に生きるウンム・バシームは農業や放牧を続けている。ガーダはウンム・バシームの生活を自分の故郷ベイトダラスに重ね合わせる。
 ガーダというパレスチナ女性の生き様を通して、いまだに残る古い慣習を浮かび上がらせると同時に、パレスチナの原点を新しい世代につないで行こうと決心する1人の女性の成長を描く。