Monthly Free Magazine for Youth Culture
ROOFTOP 2006年3月号
AURORA

『Borracho』という名の架空のサウンドトラック

昨年10月にファースト・アルバム『flag of the kingdom』を発表し、剛直で骨太な中にも甘美さと狂気が混在する新人離れした硬質なロックでシーンを席巻したAURORAが、前作から間髪入れずにセカンド・アルバム『Borracho』(ボラーチョ)を早くも完成させた。名刺代わりの1枚と呼ぶには余りに完成度の高かった前作から一転、本作ではよりロックの肉感的ダイナミズムとカオスを全面に押し出し、ロックのイノヴェーターに対する深い敬意と愛情、先鋭的なアートとしてのロックの革新性を同時に併せ持つ紛うことなき名盤と相成った。閃光よりも速く生き急がんとする彼らのロック・バンドとしての本懐と矜持について訊く。(interview:椎名宗之)

ロックの神様が降りてきた!

──ファースト・アルバム発表から僅か5ヶ月で、よくぞこれだけクオリティの高い作品を完成させたなというのが率直な感想なんですけれども。

キムラハヤト(vo, g):早くセカンド・アルバムを録ろうって話はしてたんですよ。ファーストをリリースしてツアーがあって、次のを出すまで凄く短いスパンだけど、漠然とセカンドを作りたいっていう。で、ツアーが終わってオフに入った2日目の朝に、ヒデオから「ロックの神様が降りてきた」っていうメールが来て(笑)。彼はツアーが終わった1日で20曲くらいを一気に書いたんです。これ、ウソみたいなホントの話なんですよ。

ヒデオ(b):降りてきたんですよ(笑)。それまでは、自分の中で作曲に対する懐というかモチベーションがスカスカになっていたんです。実際、ストックもファーストに入ってない未発表曲が1曲しかなくて(「chain reaction」)、それは入れようと。あとの13曲は「よっしゃ、作るか!」って感じだったんですけど、焦って手も付けず。でも、ツアーが終わって1週間後くらいにレコーディングが迫ってきて…。

──ある日突然、ロックの神様が降りてきた(笑)。

ハヤト:ヒデオからそんなメールが来て、早く聴きたいからすぐに事務所に行ったんですよ。聴かせてくれたデモはアコギの状態で全然バンドの形になっていなくて、「ホントに神様が降りてきたのか?」みたいなものだったんですけど(笑)、ヤマダも含めて3人で話し合いながら詰めていったら、その時点で凄く完成したものに仕上がった。ヒデオが全くメシも食わずに集中して1日で曲を作って、次の日には3人が集まってアレンジも24時間でできちゃったんです。

──まるで新聞みたいな作り方ですね。

ハヤト:ホントに(笑)。でも決して手は抜いてないし、尋常じゃない熱量を真空パックできたし、作り込まれてない良さみたいなものを俺は感じていて。年が明けてからのライヴはセカンドの曲ばかりやってるんですけど、凄くハコに馴染むんですよね。

──ファーストの曲は化粧ノリの良い端正なものが多いですけど、今回のセカンドは闇雲なエナジーがギュッと詰まってる感じですよね。

ヒデオ:今度のは、化粧も全くうまくいってないですからね(笑)。

──「CLARION DEVIL」や「PARROT」など、前作の「GYPSY DISCO」を発展させたようなダンサブルなディスコ・チューンが多くて、ヤマダさんは苦労したんじゃないですか?

ハヤト:それ、いつも言われるな(笑)。

ヤマダタクマ(ds):確かに直情系のビートではないけど、作業をしていくうちに「自分はこうだ」って思い込んでたもの以外にも「お前にはこういうところがあるんだよ」っていうのをドンドン掘り起こされていって、眠っていた部分が目覚めましたね。

──開発されましたか(笑)。『Borracho』というタイトルも一風変わってますね。

ハヤト:メキシコ語で“酔っぱらう”って意味なんです。ヒデオはいろいろ収集癖があって、自分の中で流行るととことん集めようとするんです。で、彼の中で一時期メキシコが流行ってたんですよ。メキシコの海外輸入雑貨屋に置いてあるような、最高に胡散臭いメキシコ・ステッカーノートがあって。

ヒデオ:でっかいハットを被ったガイコツが右手にビールを持って歩いているステッカーに“Borracho”って書いてあって、これにしよう! と(笑)。

ハヤト:スペイン語の乾いててアッパーな感じというか、言葉にグルーヴもあっていいかな、と。

──その「Borracho」という曲が完全にインド調で、全然メキシコっぽくないのがまたいいですよね(笑)。

ヒデオ:(笑)全然細かくないというか、自分のイメージの中で生きてるアルバムなんですよね。初期衝動的な部分から始まったものだし、余り難しいことは考えずにロックのカケラをちゃんと感じられるものにしたかった。『Borracho』というラヴ・ロマンス&ヴァイオレンスみたいな映画があって、その架空のサントラ盤みたいな感じにしようと。

──アルバム全体がロード・ムーヴィーっぽくもあり、1曲1曲がちゃんとストーリーのある独立した短編映画のようですね。

ヒデオ:1曲目の「chain reaction」では、全曲の主人公がその場にいる感じなんです。そこから幕開けして、酒場やダンスフロアに枝分かれしてニイチャンやネエチャンがバカ騒ぎして、最後の「SUPER STAR」でまた全員が戻って来る。そんなイメージなんですよ。

ハヤト:今回は、ヒデオが持ってきた曲にスタジオで俺が歌詞を書き始めるっていう作業だったんです。彼と話している時に「一周した」って言葉があって。青春時代からこの音楽の世界で様々な経験を培ってきて、ロックの神様が降りてくる前までの過程で一周したと。360°回って0°に戻るんじゃなくて、370°〜380°に回っていく感覚でのリスタートみたいな。そんな話にインスパイアされたから、大袈裟だけどひとつの人生というか、生きていく流れの潤滑感を歌詞の中で出したかったんですよ。だから余り深くは考えずに、ヒデオから貰ったメロディに乗っかってくる言葉を組み込んでいったんですけど、そうしたら自ずと統一感が出たんです。

ヒデオ:現代を生きる自分達が持っているアティテュードを形にしたかったんですよね。曲を1日で作り上げる直前に、CDの棚を見ていたらビートルズとかクラッシュとか、自分が一番ギラギラしてた中学の頃に影響を受けた音楽しか必要ないなと思って。普段聴かなくても身体中に染み付いてる音楽なんですけど、1枚1枚を改めて聴いてみると自分の欠けてた部分+懐かしい部分があった。今それを聴くからこそ感じられる部分もあって、もの凄く大切にしなきゃと思った。で、とにかく攻めたいと思ったんですよ。だから今回できるであろう作品は、頭のてっぺんから爪先までとことん攻めまくりたいって感じだったんです。


ロックの理不尽さを全て体現したかった

──『Borracho』はそうしたヒデオさんのバック・トゥ・ルーツ的な要素を内包しながらも先鋭的な部分もちゃんとあるという、非常に理想的なアルバムですよね。

ヒデオ:そうですね。ホントに様々な楽曲が集まりましたけど、ファーストよりも統一されていると思うんです。それは多分、ロック・バンドが進化して挑戦していく流れを自分達にちゃんと反映できたからでしょうね。無理をせずに、今は自分達のやれる範囲でそれができているから。一見打ち込みっぽいものも全部手作業でやってるし。自分が聴いてきた大好きなロックと今の日本の音楽シーンの間にある隙間を埋めたかった。

ハヤト:今回のアルバムで改めて思うのは、もの凄く激情だし、垂れ流してるなというか。ファーストももちろん好きだけど、「AURORA行きますよ!」っていういい意味で見せしめ的な作品だった。でも、今度のは「この曲がステキなんだ! 好きで好きでしょうがないんだ!」というエネルギーが充満している。汚いけど美しいとか、恰好悪いものが実は凄く恰好いいとか、そういうロックの理不尽さを全て体現したかったんです。ロックという言葉で全てまとめられるところがあるじゃないですか? 「ロックって何なんだ!?」っていう、その代名詞的なアルバムになればいいのかなと思ったんです。

──考えてみれば、結成からまだ1年経ってないというのが末恐ろしいですよね。

ハヤト:もの凄く長く感じますけどね。セカンドを作って、より一層ライヴが重くなったんですよ。悪い意味ではなくて、変な意味で。楽曲という子供を産んだ苦しみ、責任感を凄く感じてますね。ライヴっていうのは、その子供がこれだけ成長してますよっていう発表会みたいなものじゃないですか? だからそれ相応のスキルが必要になってくるし、ステージに上がる直前はもの凄く緊張する。正直、怖いですよ。でもそれは、純粋に表現と向き合えている証拠だと思いましたけどね。

──1枚のアルバムや1本のライヴが、聴いた人、観た人のその後の人生を大きく変えることもあるわけだから、ハヤトさんが言う「怖い」という感覚は表現者として至極真っ当だと思いますけど。

ハヤト:そうですね。俺達も同じようにロックに導かれて、今ここにいるわけだし。アルバムを作ってる時も、3人とも『Borracho』の世界から戻って来れないというか、曲の世界がそのまま憑依したような感じでしたね。

ヒデオ:13曲あるので、13回分死んで戻って来ました。しかも、13ってメチャクチャ不吉な番号(笑)。

──とてもロックっぽいですけどね(笑)。

ハヤト:レコーディングが終わっても、マスタリングが終わるまでは全然安心できなかったし、ヒデオなんて全ての作業が終わった途端に倒れるように寝ましたからね。

ヒデオ:1週間弱で3年分くらいの体力は使ったし、寿命が縮まりましたね(笑)。初めてミックスもやり直したし。

ハヤト:そういうの、一番嫌いだもんね。

ヒデオ:後戻りするのが作業的に厭なんですよ。でも、今回は前しか向いてない状態だからこそ、ちょっとでも納得できない部分があったら進めなかった。ロウの部分とかギターの出方であったりとか、こだわったのはもの凄く細かいところなんですけどね。とにかくデジタルにせず、いい意味でどれだけ劣化させていくかに神経を集中させました。ただ汚くするだけだったら簡単にできるんですけど、空気感というか血の通った感じにするためにはどうしたらいいかっていう試行錯誤を繰り返しましたね。3人が音を鳴らした瞬間の温もりだったり、躍動だったりをどこまでストレートに出していけるかっていう部分で、ミックスは何回もやり直したんです。

──その甲斐あって、豪快さ緻密さとが無理なく共存した絶妙のブレンドだと思いますよ。

ヒデオ:それをさらに自分達の手でやりたかったんですよ、よりアナログな環境で。実際にアナログで録ってますし。全体を通して、笑って踊れるアルバムだと思いますね。笑顔でもシリアスでも聴ける多面性がこのアルバムにはあるし、聴く人の精神状態によっていろんな面が出てくると思います。

──しかしこの尋常ではないスピードを持続させて、AURORAは一体どこまで突き進むつもりなんでしょうか?(笑)

ハヤト:ホントですよね(笑)。だけどまたツアーに出るなり、いい音楽を聴くなり、いろんな人と出会って新しいものを貪欲に吸収していくだろうし。

ヒデオ:あとはとにかく走るだけですから。失うものも守るものも、囲いは全部取っぱらったんで攻めるだけですよ。自分達だけでこれだけのものを作ったから凄く自信もあるし、早く世の中が俺達を認めろ! っていうのもありますね(笑)。このアルバムが完成して、もう自分の中には何も残っていない気すらしてるんですよ。ヤバイ! 作っちゃった! っていう。だからこそ一人でも多くの人に聴いてほしい。

ハヤト:そんなことを言いながらヒデオはまた絶対に凄い曲を作ってくるだろうし、俺達はそれを必ず形にしますけどね。

ヒデオ:ロックの神様がまた降りてきてくれるかな?(笑)

Borracho

Borracho

bouncy records LTCA-00023
2,730yen (tax in)
3.01 IN STORES
★amazonで購入する


Live info.

3月10日(金)下北沢CLUB251【w/ LION / etc...】
3月17日(金)大阪KING COBRA【w/ HATE HONEY】
3月24日(金)熊谷HEAVEN'S ROCK VJ-1【w/ 宙ブラリ / LION / etc...】
3月31日(金)下北沢CLUB251【w/ BITE THE LUNG / etc...】
4月2日(日)渋谷AX『SMART fuzz maniax』【w/ STRAIGHTENER / マキシマムザホルモン】

AURORA OFFICIAL WEB SITE
http://www.aurora-rocks.co.uk/

↑ページの先頭に戻る