Monthly Free Magazine for Youth Culture
ROOFTOP 10月号
wash?

構築と破壊を繰り返すロックという名のドキュメンタリー

 シングル「ナナイロ」「パズル」に続く“光と闇”にフォーカスを当てたwash?の三部作が、待望のセカンド・アルバム『真昼の月は所在なく霞んでる』で遂に完結する。光と影、明と暗、虚と実、有と無、そして希望と絶望を等比に唄う彼らの姿勢は本作でより揺るぎないものとなり、限りなくポップでありながらも先鋭的で在り続けるその音楽性は一層の高みに達した。空の青さに溶けて霞んだ月は、それでも希望を失うことなく曙光を鈍くも放ち続けるのだ。(interview:椎名宗之)

ライヴの熱量を作品化する困難さ

──今回、アルバム制作にあたってまず留意した点というのは?

奥村 大(g, vo):何よりこの4人だからこそ生み出せている曲を入れようと思った。古い曲も中にはあるんだけど、なるべく岡ちゃんが加入してからの曲がいいんじゃないかって[註:ベースの岡 啓樹は2004年1月にバンド加入]。岡ちゃんが入る前の曲でも、彼がバンドにとって必要だと判断すればそれに従う。その辺のジャッジは岡ちゃんに任せて。あとはやっぱり、「パズル」という曲が完成したことによってそこから逆算した部分はあるのかなと思う。あの曲が出来た時点で、アルバム制作に対する憂慮は全くなかったしね。

──それと、エンジニアを担当した井上うにさんの存在が今回はかなり大きいですよね。

奥村:そうだね。俺が書く曲って、一歩やり方を間違えたら単なるポップスになってしまう怖さを秘めてるなと思って。リフとかリズムとかアレンジの部分じゃなくて、コードとメロディってところだけを取り出していくと、レゲエだったり、R&Bだったり、ただのポップスだったりする匂いが凄くある。自分がこれまで惚れ込んできた音楽も、そういう匂いがありながらも発するエネルギー量は過剰っていう類のものだった。それをレコーディングの形にすることがなかなか難しい。ライヴなら覚悟を決めるだけ、ただ“やって見せてやれ!”でいい。そのライヴの熱量を作品化することがこんなにも難しいことなのかとファースト(『?』、2004年7月発表)を作った時にみんな痛感したから、今回はそこをどうにかしたいってところから始まって、音のことを俺と南波以外の人に預けることを体験してみたいと思った。そこでうにさんの名前を挙げて、結果的に俺達とは相性が凄く良く合ったと思う。

──エッジが効いてざらついた感触の今作の音と比べると、『?』が何だか大人しく聴こえるくらいですよね。もちろん、『?』は凄まじい熱量を内包した名盤に変わりはないんですけど。

奥村:うん。それが当時の俺の限界値だったんだろうね。『?』を作っていた頃はブッ壊すさじ加減をどこまでやっていいものか読めなかったけど、今はもっと確信を持って壊せるようになってきている。

南波 政人(g, vo):ファーストは全然悪くないんだけどね。ただちょっと綺麗にお化粧したような感じはある、良くも悪くもね。

奥村:だからファーストを作って学んだ反省点も含めて、バンドとして経験値が上がったぶん意志や確信を持って今回は作品作りに臨めたと思う。

南波:今回は“こうしよう”っていうゴールがある程度最初から見えていたからね。ただ、それが余りハッキリしたゴールじゃないから、そこを奥村がさらに視野を拡げてくれる。そのやり方はずっと変わらないんだけどね。

奥村:基本的に一番わがままで我を通すのが俺で、それを面白がってくれるこのメンバーだから。

──最後を飾る「パズル」というアルバムの根幹を成す大樹のような曲が核としてあった上で、LPで言えばA面にあたるのが「silent」までの7曲、「soap」からB面にあたるパートが始まって一気に加速していく…というように、収録曲の構成が絶妙だと思うんですよ。アルバムの随所に巧妙なトラップが仕掛けてあると言うか、何度聴いても飽きの来ない作りになっていますよね。

奥村:曲順と曲間に関してはもの凄く考えたね。違う曲順のアイディアも他にあったんだけど、「ナナイロ」で始まって「パズル」で終わる構成だけは絶対に崩したくなかった。「ナナイロ」は自分の中で凄く素直な希望の歌で、「パズル」は漆黒の闇から月を見上げているような、曲が進むにつれて苦みの深度をどんどん上げているような歌。それぞれが最初と最後に並ぶようにしたかったし、息つく暇を与えずに次に行きたい部分、一呼吸させたい部分の曲間とバランスはかなり考え抜いたよ。

──「ナナイロ」の後に間髪入れず続く「dry」、「soap」「月光」「エレベーター」と流れるそれぞれの曲間ですよね。

奥村:そう。そこが凄く大事なんだよ。文章を書く人だって、どこで句読点を打つか、どこで改行をするかとか真剣に考えるでしょう? それによって伝わる・伝わらないって絶対にあるからね。

──“真昼の月は所在なく霞んでる”というタイトルも、如何にもwash?っぽいですよね。本来夜に映えるべき月は、昼間は空の青さに隠れて目立たない。でも確実に空のどこかには在って、それが所在なく霞んでいるという…。

奥村:そんな真昼の月を自分達の姿になぞらえた。我ながらいいタイトルだと思ってる。これは「エレベーター」の歌詞の一節から取ったんだけど、この曲が出来た時に大事な一行にしたいと思ったね。

──本作はとかく「パズル」に目が行きがちですけど、「エレベーター」もそれと双璧を成す大作ですね。曲の世界観は一向に上昇しないエレベーターという感じでヘヴィなんだけど、不思議と厭な後味は残らない。微かだけど希望の光すら感じられて。

奥村:そう言ってもらえると有り難い。最初は「エレベーター」をシングルにしようと思ってたんだよ。凄く抽象的な言い方になるけど、この曲は老いとか時間の経過、逆光しないベクトルとか、敗北から始まった歌なんだ。でも、ただそれを暗澹たる気持ちのまま唄って重苦しい歌にしても聴き手には届かないから、せつない部分とエネルギー量をいいバランスにして完成させた。誤解を恐れずに言えば、この曲はデヴィッド・ボウイにしたかった。グラム・ロックにしたかったんだよ。場末のキャバレーかストリップ小屋みたいな所で、瑞々しい踊り子さん達が出てくる合間に唄っている老いたシンガーのイメージなんだ。彼の歌なんて客は誰一人聴いていなくて、それどころか「引っ込め!」とか客席からビール瓶が飛んでくるような始末。そのシンガーが唄ってる歌は、若い頃に愛した大切な女性に捧げられている。そんなイメージなんだよ。

南波:最初に曲を持ってきた時からそう説明してたよね。俺も「エレベーター」を演奏する時はいつもその映像が頭に浮かぶ。そのシンガーは顔を白塗りにしていて、唄いながら流れ落ちる涙と汗で目張りやマスカラ、白粉まで落ちてしまっている。この曲ではミック・ロンソンばりにギターをかなり派手に乗せてるんだけど(笑)、古くさいディレイをわざと後から掛けてグルグル回したりしてるのがいい効果を生んでいると思う。


一対一でオーディエンスと向き合う姿勢

──その「エレベーター」に限らず、平たい表現になりますが光と影、希望と絶望を等比に唄う姿勢がアルバム全編に貫かれていますよね。

奥村:希望を唄うのはその人が希望を持てない瞬間を経験したからこそだし、絶望を唄うのは絶望になりたいから唄うんじゃなくて、その最中にいて混沌としている時はどれだけ明るい内容の歌を唄っても全く胸に響かないからなんだよ。少なくとも俺はそういう人間で、希望と絶望、そのどちらかが欠けてもwash?の世界観は成立しないんだ。

──奥村さんと南波さんのツイン・ギターが生み出すうねりはwash?サウンドのダイナミズムを形作る大きな要素ですが、一曲一曲におけるきめ細やかなニュアンスや表情というのは岡さんのベースが重要な鍵だと思うんです。もちろん、そこへ有機的に絡み合うウチヤマさんの力強いドラムを大前提として。

奥村:うん。俺は心のどこかでwash?はレゲエ・バンドだと思っているところがあって、ベースの存在感が凄く大事なんだ。必ずいてほしいところにちゃんと在る状態と言うか。

岡 啓樹(b):いやぁ…。今回のレコーディングはやっぱりうにさんの手腕が凄かったですね。アンプのセッティングだけで言うと、「ナナイロ」の時の「light」と「パズル」は同じなんですけど、多分それはうにさんの創作ですね。自分の力じゃないですよ。

奥村:でも、うにさんは「何にもしてない」って言ってたよ(笑)。

:「パズル」の時は細かいフレーズとかを全然決めてなくて、レコーディングの時にバーっと録ったんですよ。だからあの細かいニュアンスはもう二度と弾けないなぁと…。

奥村:「light」と「パズル」は特にベースが肝だからね。wash?としての経験値がみんな上がったから、曲の肝をつかむスピードもそれに合わせて上がってきていて、中でもウッチーはその速さが特にアップしていると思う。俺は曲を作ったりリハをやって興奮すると「そこを“アー!”って行く感じで」とか「ここはもっと“ウー!”っと」みたいに訳の判らない擬音で物事を伝えようとするんだけど(笑)、それでちゃんと理解してくれるメンバーだから凄く助かってる。

ウチヤマユウキ(ds):そう言ってもらうのが逆に一番よく伝わるんですよね。例えば「『エレベーター』のそこのキックの部分、“アー!”って感じなんだよ」って言われたほうが、自分もそのままスムーズに叩けるんです。そういう“アー!”とか“ウー!”といった共通言語がこの4人の中にはあるんですよ。それが確固としてあるからこそ、ライヴの最中に前の3人を見ると曲のポイントとなる所で全く同じ動きをしているんです。

奥村:そういう共通言語を持つのは本来とても難しいことだけど、俺達にはそれができている強みがあるね。

──そもそもロックをやる以上、頭で考えるよりも先に身体が反応するような言語感覚こそ健常でしょうしね。

奥村:うん、自分が理屈っぽいから余計にそう思う。言葉は凄く窮屈だし、言葉にすればするほど本来の意味からはどんどん遠ざかっていく。核心を衝く言葉はいつもシンプルだし。それに比べて音はなんて自由度が高いんだろうと思う。自分の気持ちを伝えるにも本当に楽だし、何も悩まなくていい。

──でも、今度のアルバムは音だけではなく言葉の伝わり方も前作に比べて格段の差があると思うんですが。

奥村:例えば内緒話って、小さい声で喋るがゆえにちゃんと喋ろうとする意思が働くから、滑舌が逆に良くなるでしょう? 普段の会話でもそうなんだけど、相手に判ってもらいたいと思って喋るのと、どうでもいいやと思う相手に喋るのとでは、声のトーンや伝え方が全く変わってくるんだよ。だからこのアルバムを録る時に自分で凄く意識したのは、“本当にこの想いを判ってほしい”とマイクに向けて思いながら唄ったことなんだ。それからはやっぱり言葉の出し方が自ずと変わってきた。小さい声で唄ってもちゃんと声が立つようになったしね。

──自分の想いをちゃんと相手に伝えようとすることはコミュニケーションの基本ですからね。

奥村:そう。それは楽器でも同じことだと思うんだ。漫然と弾くのと、自分で恰好いいと思いながらグァーンと弾くのとでは全然違う。それが本当に恰好いいかどうかは別にして、何かしようとしている意思とか棘の部分は間違いなく伝わる。大概の人達はそういうことを自覚しないでやっているんだろうけど、俺達みたいに一個一個確認しながら前へ進んでいくしかない連中は、そういうことに気づくことが何より大事なんじゃないかな。

──そんな不器用にも程があるバンドが生み出すからこそ楽曲に生々しいリアリティが息づくんだろうし、「パズル」のような激しく心を揺さぶる曲はwash?にしか生み出し得ないものなんだと思います。

奥村:言葉は悪いけど、「パズル」という曲には正しい意味でちゃんとがさつになってほしかったんだ。人の心はそんなに綺麗にできていないと思うし、もの凄く大真面目に世界一女々しいことを唄っているから。人を窒息させるくらいのがさつな歌になってほしかった。そのがさつさを最もリアルに体感できるのはやっぱりライヴだと思うよ。

南波:そう、この絶対の自信作を聴いてもらうのは『Rooftop』の読者なら当然として(笑)、月並みな言葉だけどライヴに足を運んでほしいよね。wash?は何よりもライヴ・バンドだし、その真髄はやっぱりライヴにある。とにかくライヴを観てもらえれば、アルバムを聴いた印象が2倍、3倍増しになるはずだから。“CDで聴いたのより良くないな”とは絶対に思わせたくないと思ってライヴに臨んでるし。

奥村:レコーディングは構築する作業の究極だけど、ライヴはそれをブッ壊す作業の究極だからね。ロックはそうした構築と破壊を繰り返すドキュメンタリーだと思ってる。それには聴き手の存在が不可欠で、こっちから投げたボールが返ってくるところを俺はこの目で確認したい。それは例えば評論家筋から評価されるとか、CDが売れるとかがひとつの形としてあるんだろうけど、そこでも多分俺はリアリティを感じられないと思う。だったらライヴをやって聴き手の反応を目の前で見れたほうが嬉しいし、確信が持てるんだ。俺達は4人で場内にオーディエンスはたくさんいるだろうけど、俺はいつも一対一で向き合ってライヴをやっているつもりだからね。

真昼の月は所在なく霞んでる

真昼の月は所在なく霞んでる

BEATSORECORDS EFCN-91006
2,800yen (tax in)
11.16 IN STORES
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Live info.

wash? presents『プラネタリウム』special
〜蒼い三連星@下北沢 club251〜
11月26日(土)w; Caravan
OPEN 18:30 / START 19:00
TICKET: advance-2,000yen / door-2,300yen(共にDRINK代別)
【info.】shimokitazawa CLUB251:03-5481-4141

"真昼の月は所在なく霞んでる" tour 2005 11月29日(火)札幌 spirituallounge
12月1日(木)仙台 MA.CA.NA.【w; DAMNDOG】
12月2日(金)郡山#9【w; DAMNDOG】
12月5日(月)名古屋アポロシアター【w; BRAZILIANSIZE】
12月7日(水)大阪 LIVE SQUARE 2nd LINE【w; BRAZILIANSIZE】
12月8日(木)神戸 STAR CLUB【w; BRAZILIANSIZE】
12月13日(火)福岡 DRUM Be-1
12月15日(木)広島ナミキジャンクション
12月31日(土)下北沢 club251
2006年1月21日(土)下北沢 club251:ワンマン

BEATSONIGHT! Vol.6
2006年2月14日(火)新宿 LOFT
w/ URCHIN FARM / DAMNDOG / and more...
【info.】shinjuku LOFT:03-5272-0382

wash? OFFICIAL WEB SITE
http://www.xplasma.com/wash/

EARTH ROOF FACTORY OFFICIAL WEB SITE【PC=MOBILE】
http://www.e-r-f.com/

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