Quick Japan Vol.62  MAGAZINE
(太田出版) 900円+税

孤高の天才音楽家・山下達郎とは・・・

 深まる秋。つるべ落としの沈み行く短い蒼い太陽が新宿の高層ビルを真っ赤に染めあげている。吹き抜けるビル風が冷たい。目の前のスーパーでは色とりどりな旬な果物が並んでいる。晩秋ってやっぱり「柿」だよな〜って思いながら「でも一個100円以上する・買えないな」なんて思ってメインストリートの出たら、私の音楽ブレーン?の音楽評論家の吉留大貴氏から興奮した声で携帯電話があった。 「平野さん、今月のQuick Japan読んでください。荻窪ロフトの原点、山下達郎総力特集です。僕も末席ながら書いているんで、読んで感想下さい。本、事務所に届けて置きます。」と言う。「そうか山下達郎さんか…。確か4〜5年前にシュガー・ベイブのCDを出すので、荻窪ロフトで録音した物を何曲か(74年)使いたいんだけど・・・」と私に直接電話があったな。山下達郎って言えば初期のロフトグループも随分、イメージやお客さんの動員で助けて貰ったもんだって言う感情と、わたしゃ最近、達郎さんの音楽はクリスマス・ソング以外は聞いたことがないな〜と言った「距離感」が複雑に交差した。

 さて、メディアにほとんど出たことが無い山下達郎さんをQuick Japanがどういう風に引っ張り出せたかはさておいて、北沢夏音(音楽ライター)さんは、「大メジャー・勝ち組・シティポップの元祖」と山下達郎をくくることを拒否して「サブカルチャーの巨人として30年にも及ぶその比類なきキャリアに光を当てる、それが今回の眼目だった」と書いているように、私もその意見には大賛成だ。"心は売っても魂は売らない&と銘打ったサンボマスターの山口隆さんとの対談は実に面白い。29歳の山口さんと、これだけ年齢差のある対談なんて山下さん初めてなんじゃないか? だからやはり本筋は「政治の季節=70年代」にこだわり続ける山下さんを限りなくリスペクトしているのが当然と言えば当然と思った。ここで山口さんは真摯に素敵な質問をしている。「・・・達郎さんの中では、政治的なこと、あるいは根元的な愛とか平和とかに関してはどうなんですか?」「僕は基本的に政治には絶望しているんですよ。だから政治には一切関わらない。自分の思想を一言で言うならば『心情的アナーキスト』。誰ともつるまない。チャリティとか一切参加してこなかったし、これからもやらない」と言いきる山下達郎さんに食い下がる山口さんて素敵だよ。そう、若いってそう言うことなんだって思ったな。

「山下達郎・全オリジナルアルバムインタビュー」では吉留大貴さんと北沢夏音さんがロングインタビューしていて、こればっかりはまさに「TATSUROU MANIA」のファンの連中は必読だよ、絶対。あたしゃ、横文字が多くって難し過ぎてちんぷんかんぷんだったけど。 (平野 悠)

女という病  BOOK
中村うさぎ (新潮社)1300円
女が書き、女が編集した、女にしかできない実録事件本

 買い物依存、ホストずっぱまり、プチ〜本格メス入れ整形と、自らの身体と私生活を投げ出しエクストリーム街道まっしぐらの中村うさぎ。最近は遂にというか、やっぱりというか、デリヘル嬢体験を発表、行く所までイッてしまった感があります。やっぱり…というのは週刊文春の連載を見ているとここの所彼女の興味が「東電OL事件」、ひいては「女の価値」「女の自意識」について考える事にどんどん傾きつつあるのが明らかだったから。女=私って何? どれほどの価値が他人にはある?  と突き詰めていけば、我が身を貨幣価値に即物的に換算する風俗嬢を体験したくなるのは当然の帰結。私には今回の彼女の行動が突飛とは全く思えなかった。ただ、本当なら口/手作業のヘルスでなく、本当に身の粘膜の奥に見知らぬ男を受け入れる売春行為を経験して書いて欲しいものだと思ってしまった…。男の快楽だけに奉仕するのは意外と機械的。自身も性的快楽を味わっちゃうかもしれない一線を超えねば、カヤの外から墜ちた墜ちたと言ってみせているにすぎないように感じられてしまって。いやもちろんメジャー誌発表を考えると無理なんだが、実はうさぎはそこまでやりたいんじゃないかと思う。

 閑話休題。「それにしても買い物依存からデリヘル嬢なんて突拍子もなさすぎ」と思う向きに読んで欲しいのが本書。「プチ東電OL」な「やおい漫画家殺人」に始まり、「"市長の娘"狂言樹海自殺大騒動」「実子男性器切り取り虐待母」「ニセ有栖川妃詐欺事件」など、加害被害問わぬ13の"女の事件"を扱い、今回のデリヘル体験に至るまでの彼女の心の軌跡がある程度読める。媒体があの実録事件鬼畜記事の総本山、『新潮45』!(04.1~05/3の連載)。うさぎ本人が何度も断るように、"私だったら…"という妄想による事件についての書き散らしで、資料価値より「うさぎ視点」を通じ「女の性(さが)」について考えさせてくれる点に意味がある好著。『45』の編集長も女性。「女の自意識は、それ自体、病である」という名言をうさぎに述べ、執筆に方向性を与えた。女が書き、女が編集した、女にしかできない実録事件本だ。

 事件に関わるどの女の中にも自分の分身がいる、とうさぎは書く。読む側にとっても同じで、どの事件に一番興味や共感を持つかにより、読者が女性ならば自分自身の中の、男性ならば気になる女性の、「タイプ」が分かってしまうのではなかろうか。「この女、大嫌い」というのも危うい…うさぎの炯眼は、その事も見据えており、虚言癖が嵩じ人々を人形のように操り2人も殺させた女が、警察発表用写真で少しでも痩せて見せようと懸命に顔をすぼめる愚を憎みつつ、それが同族嫌悪であると見抜いている。自分にそっくりなものを見せられたり、図星を言われると人は怒るものなのだ。

 個人的には最後の章に置かれている、「名古屋"赤い割烹着"通り魔」が身につまされてしょうがなかった。年がいもなくひらひらした服を着続け(恐らくピ○ハ…ひらひらが膨らみすぎてて目撃者に「割烹着」と思われていたのだ!)、屍体写真が好きで…悪かったな! 悪かったな!!!(笑)。 (尾崎未央)
おしゃれ野球批評  BOOK
(ダイエックス出版)1300円+税

野球がやりて〜んだよ〜!

 人気が落ちたと言われながらも、ここ数年は一般的にも野球が話題になることが多いが(特に昨年のパリーグ騒動とか)、僕のように、少年野球以降はすっかり野球から離れてしまっているような初心者にとっては、広すぎてなかなか入り込み難い世界であることも事実だ。よくある例えで言えば、ジャズを聴き始めた人みたいなもので、なんかすごい奥が深そうなんだけど、どっから手をつけていいか分からない感じ。  そんな僕のような者にとって「これは!」と思える本が登場した。それがこの『おしゃれ野球批評』。まず執筆者が目を引く──えのきどいちろう、石黒謙吾、掟ポルシェ。、杉作J太郎、リリー・フランキー、渡辺祐、ごっしー、しまおまほ、etc.と、およそ野球の本とは思えないメンツが並ぶ。「ファンの視点から自分が観て、聴いて、感じたまま、さらには新たな提言なども盛り込んだ“正直な”プロ野球論」という主旨の本書は、自由に野球を語るという意味で、実に意欲的な本だと言えるだろう。 (加藤梅造) ※12/5に本書の出版記念イベント「〜浴びろ!オレらの野球汁!〜野球“洒落者”たちの宴」がロフトプラスワンで開催されます。ゲスト多数。野球好きもサブカル好きも是非。

KEEP ON! Minami Masato  BOOK+DVD
南 正人 (マガジン・ファイブ)3000円+税
こんなふうに自由に生きてみたい

 例えばジャック・ケルアックの『路上』のように、読んだ人の生き方や考え方を変えてしまうような本があるが、この南正人の自叙伝『KEEP ON!』もまた、そうした類に属する本だ。周知の通り『路上』は、主人公ディーン・モリアーティのモデルとなった実在の人物ニール・キャサディの破天荒な生き方が物語の主軸になっているが、この『KEEP ON!』では、書き手である南正人のあまりにも自由奔放な半生が、いいことから悪いことまで赤裸々に綴られているのが魅力だ。

 南正人といえば、騒乱の60年代後半に、高田渡や遠藤賢司らと共にフォーク・シンガーとして登場し、ファーストアルバム『南回帰線』、2nd『南正人ファースト』等で一躍時代の寵児となったミュージシャンだ。彼に影響を受けたアーティストとしては、忌野清志郎、泉谷しげる等枚挙にいとまがない。南の歌のみならず、気さくな人柄が多くの人を惹きつけている理由だろう。この自叙伝から窺い知れるのは、とにかく南正人が行くところすべてに人が集まり、大きなうねりが生まれるということだ。

 例えば、『南回帰線』の録音時のエピソード。プロデューサーの中止を制して強行録音した1曲。その録音時にはあらかじめ全員にマリファナを回し、全員ラリった所で一発録りを行った(この時のメンバーには裸のラリーズの水谷孝や、後に売れっ子編曲者となる後藤次利らがいた)。この時のことを南は「こちらも魂から直接歌いたかったのだ。戦いよりも愛を歌いたかった。」と書いている。この『南回帰線』は名作となり、相当売れたのだが、すでに芸能界的な世界に嫌気のさした南は、この後、都会を離れ、八王子の山奥の築200年の農家に移り住む。

 この頃、同時代のフォーク・ミュージシャンの多くが所属したインディーズレーベルURCに南も誘われたが、彼は直感的にURCの話を断った。「若いアーティストを希望の星のように言いくるめて甘い汁を吸おうってんだな」と思ったそうだ。同様に、60年代末の全共闘運動に対しても南は批判的だった。常に仲間に囲まれながらも、孤高の佇まいを見せる南正人の姿が浮かんでくる。  八王子の農家は当然の如く一種のコミューンのような状態になり、2ndアルバム『南正人ファースト』は、この農家の庭でキャラメル・ママの連中と一緒に録音された。また、南はそこでマリファナの自家栽培をはじめ、収穫したマリファナを仲間にただで配り歩いた。後にパクられて実刑をくらうことになるが、刑務所でも南は工場長に頼まれて工場の歌を作ったりしているから、その生命力は只者じゃない。

 他にもギター1本抱えて全国を旅して回ったり、1988年の伝説の祭りイベント「いのちの祭り」の音楽監督をしたり、タイで草の根コンサート「ジュビリー・ジャム」を開催したりと、ある面では日本で最もアクティブなミュージシャンと言える活動を続けている。
 とにかく、こんなにも自由なミュージシャンが日本にもいたのかと驚くほど南正人の経歴は波瀾万丈だ。38歳の僕が読んでも驚きなのだから、もしこの本を十代の少年少女が読んだらと思うと、とても楽しくなってくる。僕が学校の先生なら絶対に推薦図書にするのになあ。 (加藤梅造)

※11/14に本書の発売記念イベントがNaked Loftで開催されます。
「KEEP ON! 南正人〜伝説のオン・ザ・ロード」【出演】南 正人、他ゲストあり
恋するように子育てしよう! BOOK
河原ノリエ:著/榊原洋一:監修 (中央法規出版)1400円+税
子育てを仰々しく考えていたカドが

 河原ノリエさんに、何度かお会いしたことがある。手足がまっすぐ細やかで、背筋のしゃんとしている、美しい軽やかな方という印象が強い。商店街の魚屋で魚を買っても、そこがシャンゼリゼ通りにみえるような。

 そんなノリエさんが書いた子育て本。子供との一年12か月の行事に、かわいらしく洒落たイラストとメッセージを添えた内容になっている。

 残念ながら私は子供を持ったことがないせいか、「子育て」と見ると自分の母親を思い浮かべてしまいながら、読んでしまった。しかしなあ……ウチの母ちゃんからシャンゼリゼ通りは遠すぎるよナア。「花壇を作ってイチゴを植えたい」と言えば、クソ忙しいとビンタが帰ってきたもんなあ……。しかしそんなウチの母ちゃんとこの本の雰囲気は宇宙レベルで遠いけれど、母親って本当に大変だということは共通していると思う。

 「未知のことを学んでいく息づかいは、毎日向き合ったものにしかわからない。他人のモノサシではけっして測れない」一一著者からのメッセージ

 まんべんなく物事ができる能力、その高さ。社会や学校の成績ではそれが求められて、外れてしまうのではないかと兆候をみせる子供、それから外れた子供を持った母親はがんじがらめになることがあるのではないか。そんな時に他の誰かの基準ではなく、子供と向き合うこと。

 この「向き合う」。その意志を保つって、言葉にするには憚るぐらいの並々ならないものがあるはず(おしゃれな本を颯爽と書いたようにみえるかもしれないけれど、生まれた頃に「脳障害が残るかもしれない」と言われた双子の子を育てていて、ノリエさんはかなりの苦難の道を歩んだと思う)。母親としての責務に追い立てられてしまう人も少ないないとも。

 ノリエさんは、この本でがんじがらめにならないちょっとした生活の工夫ってあるんじゃないか、シンプルに豊かに世界を見る方法を提案している。大変になっているお母さんや子供、その生活の肩の力が少しでも抜けたらいいのに、「こうしたらどうかしら」という優しさを、さりげなく持って。

 この本からそんな想いが感じられて、子供はいないけれど、子育てを仰々しく考えていた自分のカドが少しとれた気がした。 (斉藤友里子)
ブラザーズ・グリム MOVIE
(東芝エンタテイメント配給)11月3日より全国ロードショー
グリム童話の原型が現代に甦った

 童話と言えばファンタジーやメルヘンというイメージがあるが、その裏に狂気や残虐性、セックスのイメージが隠されているのはよく知られる所だ。時代を経るにつれてそういった露骨な部分は削除されているが、お話の原型となっているものは、こんなのとても子供には読ませられないというような場合が多い。童話の代名詞でもあるグリム童話もまた、1812年の初版は今知られるものよりはるかに残酷だ。

 テリーギリアム監督(「未来世紀ブラジル」「12モンキーズ」)の7年ぶりの新作は、グリム童話を生み出したウィルとジェイコブのグリム兄弟が主人公の物語。グリム童話が生まれた背景に、彼らが体験した恐怖と魔法のアドベンチャーがあった、というエキサイティングな設定だ。ある村で少女が次々に姿を消す事件が起こり、グリム兄弟はその事件の解明を依頼される。劇中にはもちろん「赤ずきん」「白雪姫」「ヘンデルとグレーテル」などのモチーフが登場し、観客のイマジネーションを大いに高めていく。

 ハリーポッターが現代に生まれたファンタジーだとすれば、このブラザーズ・グリムは19世紀の不気味な残酷童話が21世紀に甦った冒険譚として見ることができるだろう。大人にこそ見てほしい映画だ。 (斉藤友里子)
アストロ球団 第1巻   DVD
(バンダイビジュアル)3800円+税 毎月1巻ずつリリース(全5巻)
今こそ必要な「一試合完全燃焼」

 変身しない人しか出てこないドラマには、興味がもてない人生を送ってきた。他人様にはなかなか理解してもらえないだろうが、本気でシュリケンジャー(注1)と結婚したいと思っていた筋金入り特撮ヒーローオタクの私にとって、これは至極当たり前の生き様。

 さらに、野球には生涯で一度も興味を持ったことがない。高校野球の取材では、「ピッチャーが投げたショート(注2)」やら「センターファウル(注3)」やら、わけのわからない言葉を連発し、高校球児の目を白黒させていた。

 したがって、「変身しない男が野球をするドラマ」は、ストライクゾーンを大きく外れ、余裕で「ボール」判定となるはずであった。

 ところがところが、作品を見て、気がついたら、私は大泣きしていたのであった。登場人物が変身しないドラマを見てこんなに泣いたのは、何年ぶりだろう。

 「アストロ球団」は、1972年から4年間、週刊少年ジャンプに連載された人気漫画。「体にボール形の痣を持つ九人の超人たちが、沢村栄治の夢を受け継ぎ、世界最強の野球チームを目指し、戦い続けた魂の記録」(番組ナレーションより)という物語である。その奇想天外なストーリー展開と実現不可能に思えるアクションゆえに、これまで実写化はもちろん、アニメ化されたこともなかった。

 その「アストロ球団」が、昭和テイストも色濃く、いきいきと実写化されたのが本作。血しぶきが飛び散ったり、突然雷鳴がとどろいたりの「いかにも少年漫画」なシーンも、「放送コード」とか「常識」とか、細かいことにこだわらず、忠実に再現してくれているのがうれしい。

 登場人物もそれぞれに魅力的だ。第一巻収録の第一話(正確には「第一球」)に登場するナインは4人だが、球一の強気も、球五の一途さも、球七、球八兄弟の破天荒な守備も魅力的。監督・シュウロ役の千葉真一の醸し出すなんともいえない雰囲気や古田敦也・次期ヤクルト監督の味わい深いナレーション、さらには長嶋一茂演じるところの沢村栄治の哀愁あふれる演技も素晴らしい。作品の設定である70年代前半の読売巨人軍が絶対的に強い存在であることも、新鮮であった。余談だが、引き続き発売されるDVD第二巻になると、お姉さん(私)の乙女心(?)をキュンとさせる球三郎様も登場し、最終9話(しつこいようだが正確には第九球)までには、イケメンばかりのナインがずらり勢揃いする。

 でも、そうした何より、注目したいのは、全編にあふれる真摯な「野球愛」である。企業のためでもなく、金のためでもなく、地位のためでもなく、ただ白球に向かっていく選手や監督。旗印は、沢村が戦地でボールに書き込んだ「一試合完全燃焼」という言葉のみ。たかが野球、されど野球に命をかける登場人物の姿が、どれほど見ている側の心を揺さぶることか。

 昨年来のプロ野球改革問題に、実は全く興味がなかった私だが、この作品をみて、その意味、そして何が求められているのかが、少しだけわかった気がした。たぶん、今必要なものこそ、「一試合完全燃焼」の精神であり、多くの関係者がこの言葉に込められた思いをかみしめた時、野球は単なるスポーツや球遊びを超え、私たちの胸をもう一度ときめかせてくれる何ものかになってくれるはずである。

 いや、そうしなくては、沢村さんに申し訳ないではないか。(鈴木美潮/340プレゼンツ主宰、政治記者)

注1)「忍風戦隊ハリケンジャー」に登場した緑色のヒーロー。変装の達人で正体は不明。得意忍法は分身魔球、千本ノック。
注2)もちろん正しくは「シュート」。
注3)何が言いたかったのか、自分でもよくわからない…。
東映監督シリーズDVD-BOX 石井輝男 編   DVD
(東映ビデオ)23,625円 ※写真は『徳川いれずみ師 責め地獄』
やってくれました東映、次は『恐怖奇形人間』だ!

 まさか死なぬ、と思っていた者が召されてしまうということが続く。もしかしたら単にこっちの老化現象なのかもしれないけれども。石井輝男逝去の報もかなりショックだった。晩年撮っていた『地獄』や『ねじ式』などにはプラスワン関係者なども数多く出ていて(地獄なんかエキストラで店員が出ていましたよ)関係浅からぬ仲だっただけに特に。病床にあっても「今度は今流行っているホラーを撮りたい」と並々ならぬ執念を見せていたと聞くだに残念でならぬ所である。で、今まで一顧だにしなかったのに死んだとなると途端に作品をリリースしはじめるのが業界の常。しかし東映はここで大英断、石井輝男の中でも特にパンチの聞いていて脂の乗っている頃の「異常性愛路線」をまとめてリリースしてくれるのであります!

 「異常性愛路線」とは当時ロマンポルノ全盛だったことを受け、「じゃあウチは撮影所のセット使って一発デカいエロを」ということで不振だった東映が一念発起、残酷と拷問とエロてんこもりの作品を連発したシリーズの事。当時の映画人、スタッフからは「こんなキワモノを伝統ある撮影所で撮るなんて」「汚らわしい」とヒドい言われよう、スト騒ぎにまで発展した。当時はゲテモノ監督として内部でも後ろ指を指されていた石井だが、ブーたれてた他の監督は名も残らず、石井の方がこうしてDVDにまでなり、語り継がれている…どっちが勝ったのかは火を見るより明らかですよね。

 このBOXに入っている作品はどれも強烈なインパクトに満ちていまして、「連想ゲーム」で好回答をしていた頃の渡辺文夫が鬼の形相で女を縛り上げまくり、「強烈エビ縛り」「宙吊り三段斬り」と聞いた事もないような拷問処刑が炸裂、女5人の肌をあわせるとひとつの絵になる刺青を入れ墨マニアの毛唐が「FANTASTIC!」と驚嘆、火事を素っ裸の女数十人が転げ回ッて消したり、実録再現フィルムになんと阿部定本人が登場したり、東映と言えばボケキャラでお馴染み由利徹と大泉晃が出てきてなぜか女声(しかもオバQの声優)で話し始めたり…"センス・オブ・ワンダー"という言葉は石井輝男のためにこそあるのだなあと改めて実感した。

 もともとこの異常性愛路線自体が日本映画史の闇部、黒歴史として葬られていたモノ。これが再び日の目を見られる事、純粋に喜びと敬意を表したい(ジャケット等のデザインはプラスワンでもお馴染み高橋ヨシキ氏)。

 18禁(そらそーだ)ではあるが、是非多くの人に観てもらいたい。この手の今カルト化している作品って大体が同時上映の「オマケ」扱いだったのだから驚きますね。…かつての日本映画の奥深さを感じるなあ。振り返るに今の映画界はどうよ。いつまでも男女がコインランドリーでボソボソ喋ってる映画ばかり撮ってる場合じゃないんじゃない? (多田遠志)
※収録作品は「徳川女系図」「徳川女刑罰史」「徳川いれずみ師 責め地獄」「明治・大正・昭和猟奇女犯罪史」「ポルノ時代劇 忘八武士道」の五本。単品販売もあり
ロマンポルシェ。の独占!オトコの120分   DVD
(MUSIC MINE)3800円+税 11/09発売
くだらないことに命をかける男達がいる

 ROOFTOP読者でロマンポルシェ。を知らない人はあまりいないと思うが、念のためにまずは公式プロフィールを紹介しておこう。ロマンポルシェ。とは「男独自の曲がった価値観の啓蒙と、いにしえの80年代ニューウェイヴサウンドだけが持ついかがわしさの復権を旗印に結成し、80年代エレクトロ・ポップ〜無機質なスーサイドスタイルの打ち込み音楽に、「男とは何か」について聞いてもいない客に向かって一方的に説教するという相当強引なパフォーマンスをゴッチャにした唯一無二のライブで注目を集め、ライブ〜DJイベントからプロレス興行、お笑い興行、終いにはSONYの新入社員諸君への訓辞まで(!)幅広〜くボヤキ中。世の男性諸氏のヘソ下三寸の活性化を促すべく夜のマイクロフォンしごきに余念無く精進している。」という2人組ユニットなのだ……えっ? 何を言っているのか全然わからない? まあ、仕方ない。ロマンポルシェ。というあまりにも個性的な存在がどんなものなのかは実際にライブを見るのが一番で、言葉じゃうまく説明できないからねぇ。

 と思ってた所にいいブツが届きました。それがこの映像作品「ロマンポルシェ。の独占!オトコの120分」。なんと2時間にわたり、ロマンポルシェ。のライブ、説教、全裸格闘技、コント、PV、イメージ映像などがテンコ盛りに収録されている。ぶっちゃけ、以前にリリースした『独占!オトコの60分』(2003年)と『プロモーション無宿』(2000年)を足してオマケ映像を付けたというリサイクルなシロモノなのだが、結果的にはこれ1枚で、ロマンポルシェ。の音楽性、活動内容、思想、ビジュアル、経済状況などを大まかに把握できる。

 普通、音楽DVDってそのアーティストのファンじゃないと見るのは正直キツイものだが、本DVDは上記の通りバラエティ豊かな内容なので、彼女のいない野郎同士が夜中に集まって見ても全然OKだ。ただ、僕はあえてこのDVDを独りで見ることを薦める。街中で説教したり、全裸で格闘技したり、ライブでへんな踊りをしたり、とにかく常に全力でくだらないことに取り組む彼らの姿を見ていると、なぜだかしらないがハタと「生きるってこういうことなのか!」と気付くはずだ。やっぱり人間、体を張ってナンボなんだなーと。もしアナタが人生に悩んでいるのなら、是非ともこのDVDを見て下さい!(加藤梅造)
ベルサイユのばら   DVD
(バンダイビジュアル)3800円+税 1〜6巻発売中(11/25に7,8巻も発売)
原作より宝塚の舞台より一番アニメ版が出来がいいと思います

 アニメやドラマのDVDはなるべく見ないように目を伏せて生きている僕なのですが。だって話数が多くて値段が張るし、何より幼少期に見たのとか買っていったら切りがなくて破産しちまうyo!…しかしこれだけは別物であります。ベルばらだけは別です。「あれ?まだ出てなかったんでしたっけ?」と思うようなBIGタイトルですけど、以前リリースされていたDVD-BOXはとうに絶版、ヤフオクで¥50000とかの無茶苦茶な値が付いておった所にこの度の再販、よかったよかった。

 ストーリーは御存じ男装の麗人オスカルと悲劇の王妃マリー・アントワネットの2人を中心にしたフランス宮廷〜フランス革命ものです。じつは本放送時には余り人気がなかったってのは意外な事実ですね。再放送時にブームになる、という現象は余り類を見ないのではないでしょうか?僕もそのあたりでハマったクチですが、あれは異常なブームだったなぁ。ヤンキーまでが「フェルゼンがよぉ」と原作買ってたりしてたモンです。おかげで皆フランス革命あたりの世界史はパーフェクト、やっぱりどうかしていたんでしょう。

 オスカルというオナベの存在以外はほとんど史実に基づいているってのも凄い話です。かつての日本TVアニメの黄金期を彩った作品だというのに、再見しますとそのアダルティかつハードコアな設定に打ちのめされそうです。飛び交う言葉も「メカケ」「カタワ」と連発です。よく夕方にやってましたね。大体前半数話は「アントワネットが娼婦上がりの貴婦人に声をかけるか否か」で続くんですから。革命だけに拷問焼きごて処刑と暴力描写にも事欠きません。そもそも主人公が服装倒錯者ですから予想はつきますが、「ルイ16世は不能ぎみ」とかのセックスネタもアリなのには驚きました。皇室ネタみたいなモンですよ!

 「ベルばら」は現代にも色濃く影響を与えています。オスカルとアントワネットの関係は『NANA』の主人公2人にそっくりだし、そもそもオスカルって元祖ツンデレ美少女じゃないですか!ツン99:1デレだけど。

 前半が宮廷ドラマだったのとは対照的に後半は怒濤の革命物になるのですが、なんせ演出は(あしたのジョーやエースをねらえ!の)出崎統!登場人物の等身急激上昇と光る汗、止め絵のつるべ打ちでゲップもでません。そのせいかアニメは素晴らしい、原作以上の完成度だと思います。

 視聴率のとれないドラマのテコ入れ再放送&番宣ですっかりなくなってしまったアニメ再放送。ベルばらとかやんないかなぁ…と思っていてもみんなの心にはちゃんと残っているんでしょうね。パチンコの台になったりとか。でも等の原作者の池田理代子は朝日新聞で『ベルばらkids』というデフォルメキャラの4コマを開始し、笑えないセルフパロディを繰り広げているのでありました(しかもネタバレしまくり)。嗚呼…。 (多田遠志)

男の墓場プロダクション映画 『任侠秘録人間狩り』 『怪奇!幽霊スナック殴り込み!』
2006年1月21日から 二本立て公開(シネマアートン下北沢)