Monthly Free Magazine for Youth Culture
ROOFTOP 2006年4月号
スクイズメン

誰そ彼た空によく映えるセンチメンタル加速サウンド

昨年1月に発表したそれまでの集大成的アルバム『ラ・ピラミッド』からリード・トラック「a.k.a.」〈エー・ケー・エー〉をリカットしたスクイズメン。エレクトロとアコースティック、ポピュラリティと前衛性の狭間を自由に行き来する貪欲で懐の大きなサウンドとどこまでもイノセントな歌声はとてつもない叙情性とロマンチシズムを発色、聴く者の脳内風景を直ちに夕暮れの朱に染める。実り豊かな2曲の新曲に加え、奇才・イルリメ、山本精一(boredoms, rovo, 羅針盤, etc...)が手掛けたリミックス2曲を収めたこのミニ・アルバムは、向こう10年の新たなポップ・ミュージックの指針となり得る煌めきと独創性に満ち溢れている。(interview:椎名宗之)

ナチュラル・ボーンで人肌の音が出ている

──耳の肥えたリスナーからは以前より高い支持を集めてきたと思うんですが、1stアルバム『ラ・ピラミッド』を発表して以降はより一層注目度が増したんじゃないですか?

井上 敦(vo, g):どうなんですかねぇ。ざっくばらんに言うと、“ああ、今俺達来てるな”っていう意識はないんですけどね。別段モテてもいないし(笑)。でも、結構いろんな人がアルバムを聴いていいと思ってくれてるみたいで、それは有り難いですね。なかなかその声が直接当人達までには届いてないんですけど(笑)。

──その『ラ・ピラミッド』にも収められていた「a.k.a.」を、今回改めてミニ・アルバムとして発表したのは?

井上:『ラ・ピラミッド』は自分達でも初めて納得の行く出来に仕上がったと思ってるんですけど、まだまだスクイズメンの音楽が届ききってはいないだろう、というか。「a.k.a.」はバンドにとってとても大事な曲だし、今のスクイズメンを象徴している曲だから改めて提示して、名刺替わりの一枚というか招待状になるようなアルバムにしたかったんです。

──表題曲の「a.k.a.」がとりわけ特徴的なんですが、無機質な電子音とメロディの湿度と叙情感が絶妙なブレンドで、いわゆるエレクトロ・サウンドなのに人肌の温もりを強く感じますね。

井上:それはもう、持って生まれた湿り気が電子音を上回ってしまうんでしょうね(笑)。

三好 啓(syn, sample):単純に、使ってる機材がショボイっていうのもあると思うんですけどね(笑)。まずパソコンを持ってないから使わないし、基本的にはサンプラーとシンセ、シーケンサーくらいで、今ある機材を使えるだけ使い倒してます。時には床の音まで利用してますから(笑)。

井上:多分、ナチュラル・ボーンで人肌の音が出てると思うんですよね。こうして日本で平穏に暮らしてるからこそ、こんなサウンドになるんじゃないですかね。これが今も内戦状態の続くような国で生まれ育ったら、また違うサウンドになると思うんですけど。

三好:普通、打ち込みでも何しても人肌の音楽になるやろと思いますけどね。クラフトワークの音楽だって、凄く人肌を感じるじゃないですか。

──「a.k.a.」で繰り返される“夕暮れになれた”というフレーズですが、夕暮れと同化していく意味での“成れた”と、日々繰り返される夕暮れに“慣れた”という意味とで異なる風景が脳内に拡がりますね。

井上:そういうのは言葉の持つ響きや力が発するものですから、聴いてくれた人がそう思ったならそれで正解なんです。こちらとしては“こんなふうに思わせたい”とかは別にないんですよね。

三好:“成れた”なのか“慣れた”なのか、そういうふうに考えてくれること自体が嬉しいですね。

井上:そう、こちらの投げかけに返してきてくれたということだから。勘違いもありで好きなように受け取ってもらえればいいし、それが意図と言えば意図ですね。

──新曲は「スキャッターのブレイン」と「beautiful circle」の2曲で、ジェフ・ベックの「Scatterbrain」をもじったタイトルの前者はライヴでは既にお馴染みのナンバーですね。“スキャッター”って何かなと思えば、「ロネッツみたいな スキャットが聞きたい」っていう(笑)。

井上:まぁ、想像させてナンボというか(笑)。ライヴでやるには難しい曲なんですよ、あの跳ねた感じが。自分達で作っておきながら、「ああ、今日も合わへんかった」みたいな(笑)。「beautiful circle」はこのアルバム用に書き下ろした曲で、彼(三好)が持ってきたトラックに僕が歌を乗せました。

──「beautiful circle」は、あの印象的なリフレインがメランコリックな気分を増幅させますね。

三好:弟のピアニカを使ったんですよ。“3年2組”って書いてあるヤツを(笑)。

井上:そういうところが凄くアナログなんですけど(笑)。いろんなものを混ぜたいんですよね。機械一辺倒ではなく、かと言って生一辺倒でもなく。

──そしてそのリリカルな雰囲気をまるでブチ壊すかのような4曲目、イルリメさんのリミックスによる「モーリーンのモノローグ」の破壊力たるや凄まじいものがありますね(笑)。

井上:あれは最高に面白かったですね。分裂気味なブレイクビーツだけど(笑)、とても丁寧に作ってくれてるな、と。逆に凄く繊細さが要ると思うんですよ。

三好:リミックスっていうよりは、擬似共演みたいな感じですよね。

井上:原曲を元に別の作品を作り出してもらったというか。イルリメさんも、「a.k.a.」をリミックスしてくれた山本精一さんも直接お会いしたことはないんですけど、僕らは以前から一方的に好きで。今回、このミニ・アルバムの中でリミックスをやってみるのは面白いんちゃうか? っていう話になって、頼んでみて面白そうな人に、ってことでお2人にお願いしたんです。こうしたリミックス曲もあったり、新曲の音楽性もばらけているけど、結果的にちゃんとひとつの世界観がある作品になって良かったと思いますね。

──山本精一さんがリミックスを手掛けた「a.k.a.」は、一聴すると余り原曲をいじっていない印象を受けますけど、オリジナルの叙情性を確実に拡げてますよね。

三好:うん、“夕暮れ感”が倍増してますよね。

井上:“夕暮れ感”4割増し(笑)。聴く度に良くなっていく感じですね。基本的に音はそのまま使ってるみたいなんですけど、ベースを抜いて軽くしたり、ギターとパーカッションを足したり、スネアの音にエフェクトを掛けたり、実は凄く細かいんですよ。

三好:フワッとさせようとしたと思うんですよね。浮遊感を際立たせるというか。パーカッションはリミックス・ヴァージョンのほうが良かったかも、なんて思ったくらいで。

井上:山本さんのギターの入れ方が凄く良くて、“これパクろう、頂き!”って思いましたもん(笑)。


「a.k.a.」=「赤シャツ」!?

──「a.k.a.」という言葉は本来“as known as”の略で、“別名”という意味ですけど、当然の如く何か含みがありそうですね。

井上:僕らは仮タイトルをもの凄く適当に付けるんですよ。曲に感動してくれた人がアホらしくなるほど適当なのを(笑)。僕の地元は愛媛なんですけど、夏目漱石の『坊っちゃん』にゆかりがあるんです。

──ああ、『坊っちゃん』は漱石の松山での教師経験が作品の背景としてありますよね。

井上:ええ。実家に帰って電車に乗っていた時に、向かいの高校生が“坊っちゃんスタジアム”っていう野球場の話をしていたんです。「その野球場の横に“赤シャツ道場”ってあるよね?」なんて喋っていて、実際に隣接してるのは確か“マドンナスタジアム”って言うんですよ(笑)。赤シャツ(主人公の坊っちゃんと敵対する教頭のあだ名)じゃなくてマドンナ(赤シャツと交際する令嬢)だったっていう。その高校生の会話が凄く面白くて、ちょうどその時に作ってたのが「a.k.a.」だったんです。で、仮タイトルは「赤シャツ」にしようと(笑)。歌詞に出てくる夕暮れも赤い色だし、そこから「赤」と呼んでいて、最終的に“別名”という意味もある「a.k.a.」になった。そういうのは凄く感覚的なものですね。

──不思議な世界観を醸し出している歌詞もまた、感覚的な作り方なんですか?

井上:街を歩いていたり、原付のバイクに乗っていたりする時にふと言葉が浮かんで、そこで使えそうなものはとりあえずメモしておくんです。パーツとして取っておいて、後で曲と共に当てはめていく。もしくは、曲に合わせて何も考えず適当に唄ってる時に出てきた言葉とか、そういうのを使ってますね。ただ、感覚的に出てきた言葉のパーツを最終的に合体させる時はいろいろと考えて悩む時もありますけど。フレーズ自体は思い浮かんだそのままだったりしますね。

──メロディ作りのほうは?

井上:その場で唄って出てきたメロディをそのまま。そこでいいヤツを採用する感じですね。“あ、今なんかあった!”と思ったら、それを逃がさないようにはしてますね。だから練習も全テイク録って、後からちゃんと聴いてみたり。曲作りに煮詰まることはありますけど、レコーディングの時はほとんどないですね。レコーディングする段階では、曲として研ぎ上げたものを録るだけですから。

──それとやはり、井上さんの優しく包み込むような歌声がやはりスクイズメンの大きな特徴のひとつだと思うんですが。

三好:スクイズメンの音楽に、在るべくして在る感じですね。

中津賀津子(b):でも、コーラスを「適当に唄って」って言われると凄く困るんですけど(笑)。

井上:ああ、ゴメン(笑)。クセのある声だとはよく言われますね。昔、「チャゲ&飛鳥に声が似てる」って人に言われて、チャゲと飛鳥のどっちに似てるんだろう? と思いましたけど(笑)。最終的に目指してるのはポップ・ミュージックなんですよ。聴いて心が動く感じが大事というか。消費されるのも癪に触るし、僕らの音楽が聴く人の中にちゃんと残りたいと思ってるんです。中学生の時とか、一枚のアルバムをもの凄く長い時間聴き込むじゃないですか? そういう長く付き合える音楽を作ったり、そんなふうに聴いてもらえるのが理想ですね。

──皆さんの中で、消耗品では決してない、エヴァーグリーンな音楽ってたとえばどんなものですか?

中津:うーん…最初に買ったCDは、田村英里子が唄ってる『少年アシベ』っていうアニメの主題歌(「まかせて!チン・トン・シャン」)なんですよね(笑)。

井上:それを言うなら、僕が初めて買ったのは永井真理子の『Miracle Girl』ですから(笑)。しかもそのアルバムに一番聴きたかった「ミラクル・ガール」が入ってなかったんです。子供心に凄くショックでしたよ(笑)。

三好:僕は久石 譲でしたね。宮崎アニメのベスト盤。…って、こんなので僕らのバックグラウンドは全然掴めませんよね(笑)。

井上:今でも聴ける音楽で言うと…兄貴が持ってたビートルズの『PAST MASTERS Vol.2』かな。兄貴に尾崎 豊を正座して聴かされた記憶があるんですけど(笑)、そんな兄貴が唯一持ってた洋楽のCDなんです。それが小学校の時に凄い好きでしたね。「Revolution」のギターのファズの音を聴いて、“何だこれ!?”とか当時思ったり。

三好:一番定期的に聴くのはミュート・ビートですね。あと、何やかんやと聴いてるのはマッシヴ・アタックとか。

中津:思い出したように今でも聴いてしまうのは、ニルヴァーナの『IN UTERO』とかブラーの『13』とかですねぇ。

井上:みんなあれやな、ちょっと王道から外れたB面っぽいアルバムが意外と好きやな(笑)。

三好:そういう音楽ほど愛着が湧くからね。

井上:そうだね。メロディが好きなのは共通してると思うんですけどね。あと、ビートがあるものとか、符割りひとつで凄くポップになったりするものとかね。“こう行くだろうな”っていうメロディの流れをちょっとだけグイッと上げたり下げたり、もしくはそこを抜いてみたりすることで違う感覚みたいなものが生じるのが好きですね。でもそんな志向だと所在なさげというか、友達なさげな感は否めないですよね(笑)。クラスで誰一人友達はいないんだけど、映画のことだけはメチャメチャ詳しい奴、みたいな(笑)。

三好:決して浮きたくて浮いてるわけではないんですけどね。

井上:普通にクラスメイトと友達になりたいねんけど、ぶっちゃけいざ交流を持とうとしたらみんなと話合わんし…みたいな感じですかね、結局のところ僕らは(笑)。

a.k.a

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Live info.

スクイズメン『a.k.a.』tour 2006
東京:5月4日(木)新宿NAKED LOFT(アコースティック・ライヴ)
東京:5月5日(金)下北沢SHELTER w/ NAHT, LOVES. (日暮愛葉)
名古屋:5月20日(土)大須OYS w/ NAHT, and more...
大阪:5月21日(日)十三FANDANGO w/ NAHT, and more...

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http://www.s-quizmen.com/

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