Monthly Free Magazine for Youth Culture
ROOFTOP 2006年7
Facing New York

プログレッシヴなサウンドとパンクのエナジーを宿したベイエリア発5ピース・バンド、待望の初来日!

先月8日に行なわれたイースタンユースによる恒例企画『極東最前線』にゲストとして出演し、翌9日にも下北沢シェルターで本邦初披露となるライヴを行なったフェイシング・ニューヨーク。そのパフォーマンスは本当に、とんでもなく凄まじいものだった。プログレからの影響も公言する彼らだが、決して時代がかった大袈裟な部分ではなく、真に先鋭的な要素だけを受け継いでおり、それをアメリカン・アンダーグラウンドのスピリッツで現代的に爆発させた感じとでもいうか。とにかく、個人的にはマーズ・ヴォルタと引き比べてもいいような希有なバンドだと確信している。エリック(vo, g)、レネ(key)、マット(g)の3人に話を聞いた。(interview:鈴木喜之)

言葉もジャンルも全部とっぱらって、文字通り音楽だけで説明することのできるバンドになろうと努力しているんだ

──初来日公演を見て、ライヴではアルバムよりももっと勢いのある激しいノリが前面に出ているという印象を持ちました。

レネ:ライヴのほうが、アルバムよりヘヴィになりがちなのは確かだよ。もっとロックしてるんだよね。ライヴというものが持つ本来の性質のせいなのか、実際のバンドの音よりレコードのほうが音が軽い仕上がりになっちゃったのか、そのへんはよく判んないんだけど。

エリック:でも昨日の晩が特別だったのは事実なんだよ。普段からヘヴィなライヴ・バンドなのに加えて、こうして東京にいるということと、イースタンユースと一緒に演るということの重みが、僕たちの中からさらにエネルギーを引き出したんだと思う。いろんな要素が重なって、昨日のエキサイティングな夜につながったんだ。

──日本でライヴをやってみて、どんな手ごたえを感じましたか?

マット:もう、こんな経験は初めてだよ。まずオーディエンスがすごく礼儀正しいよね。イースタンユースが演奏を始める前のセット・チェンジの間も、みんな静かに待ってるし、曲の合間にヨシノが話してる最中も、みんなじっと耳を傾けてる。ああやって、音楽を聴くことだけを目的に来てる人たちのためにプレイできるのは素晴らしいことだ。だってショウによっては……たとえばアメリカなんかじゃ、社交目的でライヴに来てる連中もいて、静かな曲の最中とか曲と曲の間に雑談が始まったりするからね。

レネ:日本に来られてものすごくエキサイトしてるんだ。ずっと来たいと願っていたからね。今まで経験してきたどこの観客とも違う日本のオーディエンスの前でプレイしたいとずっと思ってたわけだし、だから、うん、すごくワクワクしてるよ。バンドとして海外に出るのは初めてなんだ。

エリック:僕はショウの最中、何とかして日本語でオーディエンスとコミュニケートするようにしたい、と思ってたよ(照笑)。

──とても上手な発音でしたよ。

エリック:いやぁ(苦笑)、いくつかセンテンスを練習してたから。でも、セットの最中に観客の人達と何度か目が合って、そこでステージと客席の関係が、時間とともにどんどん深まっていってることを実感したんだよね。僕が何語を喋ってるかに関係なく、音楽そのものの力と誠実なパフォーマンスの力だけで、絆が出来つつあるのが判ったんだ。ショウが終 <わる頃には、観客との一体感をとても強く感じてたよ。 >

──イースタンユースとはアメリカでも一緒に対バンした経験があり、そのつながりから今回の共演という形になったと思うのですが、向こうで一緒にやった時のことについて教えてもらえますか?

レネ:初めてショウを観た瞬間から、彼らにはブッ飛んだね。あまりにも感動しすぎて、一緒にプレイしたくなくなったくらいさ(笑)。

マット:アッハッハッハ!

レネ:俺たちでいいの? こいつらスゴすぎる! ってさ。でも一緒にツアーを回れてホントに楽しかったよ。今まで以上に誠実にコミュニケートして可能な限りの情熱を傾けることの大切さを、彼らからは学んだように思う。

マット:イースタンユースのプレイを見たり、メンバーたちと一緒に行動する中で、それまで一緒にプレイしたりツアーしたりしてきた他のバンドとは全く違うものを感じたよ。ものすごく経験豊富なのと同時に、計り知れないムキ出しのパッションを持ってるんだよね。そして、バンドとしてすごいインスピレーションを与えてくれるのに、人間的にはものすごく謙虚なんだ。彼らと一緒に過ごしながらその世界を垣間見れたのは、本当に楽しかったよ。いつの日か成功することがあったら自分たちもああでありたい、って思うな。だって、ビッグになった途端に嫌な性格になるバンドが、あまりにも多いからさ(苦笑)。勘違いして思い上がっちゃう連中がね。でもイースタンユースのメンバーはみんな本当に謙虚なんだ。

エリック:ヒサシ・ヨシノは、初めて一緒にツアーして以来ずっと、僕にとてつもなく大きな影響を与えている人物だよ。彼のステージ・パフォーマンスはもちろん、オフステージの彼を通しての影響も、僕にとっては大きいんだ。オフでの彼って、いつも何かしら本を読んでいて――詩や何かに夢中になってる姿をちょくちょく見かけるし。自分の周囲の状況に対しても、とにかく静かに感知してるっていうか、周りのあらゆる動きをじっと見つめてるって感じなんだ。そしてそのすべてを自分の中に吸収して音楽の中で表している、ということだろうね。だから本当にパワフルな音楽だし、今までこんなバンド見たことないよ。

──イースタンユースの他にも、テイキング・バック・サンデイと一緒にツアーしたり、ワープド・ツアーに参加したりもしていますが、フェイシング・ニューヨークの音楽性って、いわゆる“パンク・ロック”とはちょっと違ってるじゃないですか。他に類のない独自のサウンドだと思うのですが、シーンの中に自分たちがしっくり馴染める場所がないと感じたりすることはないですか?

マット:そのへんのことは、あまり意識しないようにしてる。とにかくプレイして楽しむ以外は、周りから影響されないようにしてるんだよ。すべてのエネルギーをメンバー同士互いに交換・注入し合うこと、これが一番大事なことだからね。とにかくステージに出て、自分たちのやりたいことをやりたいようにやって、願わくはオーディエンスにもそれを受け入れてもらう――僕らが望んでるのは、それだけなんだ。

エリック:確かに僕らの音楽って、言葉で表現するのが難しいことがあるんだよね。他の人に「どんなジャンルのバンドなの?」と訊かれても、答えるのが難しいし、正直うっとおしいと感じる時もあるよ。「とにかく聴けば判るよ」って言いたくなる、っていうか(苦笑)。それってライヴ・ショウはもちろん、このバンドのすべてについて言えることで、僕らとしては、言葉もジャンルも全部とっぱらって、文字通り音楽だけで説明することのできるバンドになろうと努力しているんだ。

──なるほど。それがフェイシング・ニューヨークの信念なのですね。

エリック:このバンドを結成した <時、“特定のスタイルに固執せずに、いろんなスタイルを探索できる余裕を持つこと”っていうのが、バンド・プランの中にあったんだ。実際、前のアルバムとちょっとでも似てるアルバムを作ったりしたら、僕たち自身おそろしく退屈しちゃうと思うんだよね。そういう考え方をしてると、従来のファン層をそのまま維持し続けるのが難しくなるかもしれないけど……ソングライターとしては、やりたい放題に楽しみながら新しいことにトライしてこそ面白いっていうところがあるからさ。ただ、バンドのキャラクターまではそう簡単に変えられないのも事実で、今までと違うことを試してみたいとどれだけ考えていても、結局いつもの部屋にいつものメンバーが集まってプレイするわけだから、そのまま残り続ける要素っていうのも絶対にあると思うしね。メンバー同士の関係性が音楽に表れちゃうってことで、それはもうしょうがないと思うよ。 >

──では、次の作品ではまた新たな展開が聴けるのでしょうか?

エリック:イエス! もちろんだよ。


LIVE REPORT Facing New York Japan Tour 2006

6月8日(木)東京 LIQUID ROOM ebisu『極東最前線〜荒野に進路を取れ!〜』【w/ eastern youth】
6月9日(金)東京 下北沢SHELTER【w/ toe】

正直、筆者も自分の目で確かめるまでは、これほどまでに強力なバンドだということを判っていなかった。実際、彼らが昨年7月にリリースした記念すべきデビュー・フル・アルバム『フェイシング・ニューヨーク』は確かにかなり良いアルバムだったが、そこに収められた楽曲群は実際にステージで演奏されることによって初めて、スタジオ・ヴァージョンを遥かに超える勢いと逞しさを加わえられ、このバンドの真の力量を示すものとなっていたように思う。

6月8日リキッドルームの『極東最前線』に詰めかけた、ツワモノぞろいで知られるイースタンユースのファンも、いきなり爆音で鳴り響いたフェイシング・ニューヨークのプレイにさぞや圧倒されたことだろう。特にドラムのオマー・キュエラーのとてつもなくエネルギッシュなブッ叩きっぷりは凄まじかった。その変拍子にピタリとくっついていって極太のグルーヴを生み出すブランドン・カンチョーラの確かなベース・テクニックもスゴい。そこに、名器フェンダーローズの音色を基調としたレネ・カランザのキーボードがスペシャルな響きを与え、さらに激しく暴れながらも多彩な音色を紡ぎ出すマシュー・ファッジのギターと、同じく複雑なギター・フレーズを押さえながら叙情感あふれる澄んだトーンの歌声を聴かせるエリック・フレデリックによるヴォーカルがのっかることで、彼らの音楽性は平凡なインディー・バンドのそれとは大きく一線を画したものへと高められるのだ。

そして、翌日に下北沢シェルターで行なわれたメイン公演ではセットリストも2曲増え、小さめの会場ならではの臨場感を存分に体感できる最高に素晴らしいライヴになった。この日に対バンしたtoeの熱演も好サポートだったが、フェイシング・ニューヨークのパフォーマンスを見ずに帰ってしまった数人の観客には「本当にもったいないことをしたね」と言いたい。

インタビュー本文を読んでもらえれば判る通り、今回の日本でのライヴはバンド自身にとっても特別な経験となったようで、シェルターで終演後に話したエリックは、普段の少し大人しめな様子からは信じられないほど高揚した状態になっていた。「アメリカに帰って、さらに良いアルバムを作ったら、また来年きっと日本に来るよ!」――彼はそう興奮気味に話してくれた。再来日が実現した暁には、もっともっと大勢の日本の音楽ファンに見てほしい。絶対的な自信をもってお勧めしよう。(text:鈴木喜之)

Facing New York

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