Monthly Free Magazine for Youth Culture
ROOFTOP 10月号
BEYONDS

解散から11年を経て伝説の封印を解く意義

 '90年代初頭、US直系のメロディック・ハードコア/オルタナティヴ・ロックを根幹に据えて抑え難い感情の高ぶりや叙情的な心情の揺れを独自のサウンドで表現したBEYONDSが、解散から実に11年を経てまさかの復活を果たす。谷口 健(fOUL)、岡崎善郎(ex. PEALOUT)のオリジナル・メンバーに加え、工藤“TEKKIN”哲也(WORD/ex. HUSKING BEE)、アヒト・イナザワ(VOLA&THE ORIENTAL MACHINE/ex. NUMBER GIRL, ZAZEN BOYS)という鉄壁の布陣が揃った新生BEYONDSが今のこの時代に敢えて活動を再開させることの意義、今後の方向性などについて余すところなく訊いた。(interview:椎名宗之)

新しくBEYONDSを始めるにはこの4人しかなかった

──まず、この2005年に再びBEYONDSを始動させた意図というのは?

谷口 健(vo):今年の春にPEALOUTが解散を発表して、fOULも活動休止に入ることになって、僕も善郎も表現者の端くれとしてそこで足踏みをしたくなかったんです。新しく次のバンドをやろうと思い立った時に、2人で話していたら必然的に「もう一度BEYONDSをやろう」ということになって。それに当たって、以前のメンバー(大地大介、中村修一)にも「一緒にやらないか?」と声を掛けたんですけど、それぞれ今の生活や他のバンドがあって動けないということで。それでも諦められなくて、ベースとドラムをどうしよう? と考えた時に、人間的にも魅力があって、それまでの音楽性やスタンスも申し分ない人…そうしたらもうアヒト君とテッキンしかいないんじゃないかということで、2人をお誘いしたわけです。

──fOULとPEALOUTが同じ時期に活動停止になったのは、全くの偶然なんですか?

岡崎善郎(g):そう。発表は偶然だったけど、今年の頭くらいから健ちゃんと2人でよく呑むようになっていて。3月の〈砂上の楼閣〉にPEALOUTが誘われた時に健ちゃんと腹割って話をした時も、お互いに同じようなことを考えていた。テッキンとアヒト君にお願いしようというのは、健ちゃんと一致した意見だったね。

谷口:テッキンはHUSKING BEEが終わっていて、アヒト君もZAZEN BOYSを脱退した後で、それなら時間的な調整も可能かなと思ったんですよ。

──テッキンさんとアヒトさんは、その話を最初に受けた時にどう思いましたか?

工藤哲也(b):BEYONDSのライヴは結局1回も観られなかったんですけど、僕は当時自分のバンドでコピーしたりして、本当に大好きだったんですよ。2人(谷口、岡崎)は最初それを知らなかったみたいなんですけど。だから僕としては、声を掛けて頂いた時点で断る理由が全くなかったんです。

アヒト・イナザワ(ds):僕はBEYONDSという名前はもちろん知ってましたけど、実は音源を聴いたことが全くなかったんですよ。でも入る直前に谷口さん、岡崎さんと呑みながらじっくり話す機会を持って、いいなと思って一緒にやることに決めました。

──今やVOLA&THE ORIENTAL MACHINEのヴォーカリストとしての活動も盛んなアヒトさんが、敢えていちドラマーとしてBEYONDSに参加することの意義というのが僕は凄くあると思うんですけど。

イナザワ:1年近くドラムをしっかり叩くことから離れてみて、バンドのフロントマンとしてすべてを取り仕切るようになってからは視野が凄く広がったんです。それまでは単なるドラマーとしての立場からしか物事を見られなかったから、フロントマンの大変さが身に染みてよく判った。そんな自分の意識の変化を、このBEYONDSに参加することによって活かせるんじゃないかと思ったんですよね。

──テッキンさんとアヒトさんなら、古くからのファンも絶対に納得する人選だと思いますよ。

岡崎:2人からOKを貰う前から、そう言ってくれる人が多いはずだと僕は信じてたから。2人とも僕らとロック・ミュージックに対する意識が凄く近いと思ってたしね。

谷口:最初、善郎と僕の間には郷愁の念みたいなものもあったと思うんですけど、それは2割くらいに抑えて、後の8割はリニューアルされたBEYONDSでありたいんですよ。新しいバンド名を付けずに2005年にBEYONDSとして新しいロックを追求していくのならば、もう絶対にこの面子じゃないとダメだと思いましたね。

──健さんと岡崎さんの中では、当時のBEYONDSというバンドはどう対象化されているんですか?

谷口:余りにも活動が濃密でしたね。僅か3年ちょっとの活動期間でしたけど、感覚としては10年間くらいの濃さがありました。それまでのハードコアの流れの中に、BEYONDSとして新しい異物を吹き込みたかったんです。

岡崎:僕は客も対バンも経験してからバンドに途中参加したんだけど、BEYONDSが登場してきた時、新しい感じが凄くした。間違いなくライヴハウスの中に新しい風が吹いてたね。

──岡崎さんは、健さんがBEYONDSを始める前のPUPPETS時代からのファンでしたよね。

岡崎:そう、ずっと観てたから。BEYONDSは他のバンドと明らかに違うオリジナリティがあったし、それは後々のfOULにも通じるような、健ちゃんが伝えたい空気や思想が当時のBEYONDSにはあったよね。精神的な部分まで踏み込んだところも含めて、斬新なロックだなと思った。自分が加入してからはライヴが多くて忙しすぎて、余りよく覚えてないんだよね(笑)。

谷口:故意に忙しくしてたわけじゃないんですけど、週一ペースでライヴの予定が入っていて、とにかくライヴと練習の繰り返しe´蕁だったですね。いろんな人達と交友関係を築くのにも忙しかったですし。

──今回、全く違うバンド名にしようとは思わなかったですか?

谷口:ええ。敢えて新しいバンド名にしようとは思わなかったですね。

岡崎:かと言って、過去のBEYONDSをなぞるつもりもない。音楽性云々よりも、当時このバンドをやろうとしていた意義を継承しつつ、全く新しいことをやっていきたいというバランスが凄く良かったんだよね。

──過去のBEYONDSのナンバーがこの顔触れによってどうプレイされるのか単純に楽しみだし、解散から11年を経たBEYONDSが2005年の今どんな音楽性を提示するのか、凄く興味深いですよ。

谷口:当時のBEYONDSの曲を今のこの4人でやることには当初余り興味がなかったんですよね。それよりも、この4人でこの先どんな曲を生み出していけるかが凄く楽しみなんです。


「I CAN'T EXPLAIN」はますます「I CAN'T EXPLAIN」ですよ

──リハーサルもすでに何度か重ねられていると思いますが、手応えは如何ですか?

岡崎:古い曲をやっても新しさがあるし、凄くいい感じだよ。新しい曲をやるのも純粋に楽しいしね。

工藤:僕はファン心理もあるのでとにかく嬉しいですね。音源だけを聴くと時代を感じたりする部分もあると思いますけど、スタジオで音を出した時には古さを全く感じなかったですよ。

イナザワ:僕は未知のゾーンと言うか、凄く新鮮でしたね。今までは大地さんがドラムを叩いていて、fOULの時にあの凄まじく巧いドラムを観ているから、最初は自分にできるかなと思いました。でも、やっぱり大地さんみたいにはいかんけど、自分なりに消化して臨んでます。意外とオリジナル・メンバーの2人にも変な気遣いなくやれてますし。

工藤:そうですね。あと、曲の展開とかはアヒト君がこの中で一番記憶力があると思いますよ(笑)。

岡崎:(笑)健ちゃんと僕はアヒト君とテッキンを凄いプレイヤーだと思って誘ったから、個人のプレイが今後より強く出て、早くこの4人にしか出せないグルーヴになることを期待してる。昔の曲をやるにも印象が違うのは当然だし、今は素直にいいと思ってるんだよね。とにかく僕は、初めてこの4人で「WHAT'S GOIN' ON」を合わせた時の感動は忘れられない。基本的に原曲をなぞっただけなのに、全然違ったんだよ。前のBEYONDSよりも恰好いいとすら思った。

──新曲は一体どんな感じのものになるのか、我々リスナーが一番気になるところなんですけれども。

谷口:新曲の中には日本語詞もあって、そうなるとBEYONDSじゃなくなるんじゃないか? という危惧も最初はあったんですけど、でもそれはそれで新しいBEYONDSなんだからいいと思ったんですよ。

岡崎:彼が11年間fOULをやり続けてきた後にこの新しいBEYONDSがあるわけだから、それは当然の流れだよね。

谷口:前のBEYONDSが終わりを迎える頃に、善郎が作った日本語詞の凄くいい曲があったんです。それをやろうとした矢先にバンドが終わっちゃったんですよ。もしあの後にそのままBEYONDSが活動を続けていたなら、そんな日本語で唄う流れになったかもしれない。日本語で唄うことは、違った意味で勇気が要るんですよ。ロックの衝動性として荒削りな自分の感情を出すには、英語で唄うほうがよりロックっぽいと言うか。でも、英語であろうが日本語であろうが、今は余りこだわらないようにしてるんです。BEYONDSにはそういう自由があると思うんですよ。fOULの時は愚直なまでに日本語に対する固執がありましたけどね。

岡崎:伝えるべきことは揺るがないわけだから、日本語でも英語でも、選択肢としては自由であっていいと思う。英語になるとより音楽的になると思うけど、それはそれで楽しみたい。ダンスの要素が強いサウンドの一方で文学的な詞があったり、そういうのが共存してもいいんじゃないかっていう発想なんだよ。

──現時点で新曲は何曲くらい完成しているんですか?

岡崎:4〜5曲かな。やっていてとにかく制約がないよね。今の段階では曲作りは健ちゃんと僕がやっているけど、いずれは4人が持ち寄ってセッションで作っていくのもいいと思ってる。ロックに対する価値観はみな通ずるところがあるから、その感覚を信じて、後は自由にやろうとしてるね。

工藤:昔のナンバーをプレイしてみると、凄くひねくれた、変な展開をしてるのが今さらながらに判りますね。それに比べると新曲はそういう要素は少ないし、割とストレートなものが多いんじゃないですかね。僕は最初、健さんも岡崎さんも昔のBEYONDSとは全く違う方向でやろうと意識的にしてるのかなと思いましたけど、そうじゃなくて、今のこの4人でどんな感じでやったら一番楽しいかを模索していたんですよね。

──新生BEYONDSとしての新しい作品の発表はいつ頃になりそうe´蕁ですか?

岡崎:年内にはレコーディングに取り掛かりたいと思って計画してる。来年の春くらいにはアイテムを出したいね。今は曲を作りつつ4人のグルーヴを固めてる状態だから。

谷口:僕は、BEYONDSでやろうと思っていてできなかったことを今回成就したいと思ってるんです。fOULを始めた時はBEYONDSのイメージを払拭したかったけど、今のこの時代の中で“その後BEYONDSを続けていたらどうなっていたか?”に挑戦したいんですよ。それで今のBEYONDSがどこまで浸透するのかをこの目で確かめたい。

岡崎:もちろんツアーの意欲も充分にあるし、ライヴも呼ばれたらできるだけ応えたい。近くに魚の美味しい店と釣りができる場所があればなおさらね(笑)。ただ、各々の生活がちゃんとあった上で、そこから生まれる己の感情を音楽として表現していく、そのスタンスだけは崩したくない。その意味では、20歳くらいの人がバンドをやる感覚とはちょっと違うかもしれないね。4人それぞれのキャリアを肯定した上で、当時のBEYONDSのイメージにとらわれることなく新しいことにどんどんチャレンジしていきたいよね。

谷口:今のBEYONDSでは、この4人だからこそできるロック・ミュージックを純粋に追求していきたいですね。ただ、きっとここ1年くらいはまだ模索し続けると思う。それが僕は凄く楽しみなんです。BEYONDSって“向こう側の人”っていう意味なんです。突き抜けたいんですよ。突き抜ける以上は、古いBEYONDSのイメージを余り思い描かないでほしいですね。「I CAN'T EXPLAIN」は発表から12年を経てますます「I CAN'T EXPLAIN」ですよ。あの曲は軟弱な中にも突出したヴァイオレンスが潜んでいるからこそ、2005年の今もなお曲自体が古くなってないと思うんです。センシティヴなのに力強い、臆面もなく脆弱さを出すことが最も恐ろしく狂暴であるという、それがBEYONDSのハードコアであり、そんな表現をすることこそこのバンドの使命だと思ってるんです。

Live info.

Weeklyぴあ presents ROCK YOU LIVE vol.8
12月20日(火)SHIBUYA-AX
BEYONDS / ストレイテナー / スパルタローカルズ
OPEN 18:00 / START 19:00
TICKET: 1F立見-3,150yen / 2F指定-3,150yen
【info.】VINTAGE ROCK:03-5486-1099

遅れてきた青年
2月17日(金)・18日(土)代官山UNIT
詳細未定
【info.】UNIT:03-5459-8630

profile.

 日本でごく初期にアメリカン・タイプのメロディック・ハードコア・パンクを鳴らした早すぎたバンド、BEYONDSは1990年10月に結成された。オリジナル・メンバーは谷口 健(vo)、高杉大地(g)、中村修一(b)、ヘラ(ds)。間もなくドラムが大地大介に替わり、'93年2月に1stアルバム『UNLUCKY』を発表。その後ギターが岡崎善郎に替わり、同年11月にミニ・アルバム『THE WORLD, CHANGED INTO SUNDAY AFTERNOON』を発表するが、'94年3月にその余りに短すぎる歴史に幕を閉じた。解散から11年を経た今年12月、谷口、岡崎の両名に工藤“TEKKIN”哲也(b)、アヒト・イナザワ(ds)を加えた布陣で奇跡の復活を果たす。

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