歌集 セイレーン  BOOK
辰巳泰子 (邑書林)2700円+税

戦後と短歌
 まさか編集部からこんな難しそうな「歌集」の記事を書けと言われるとは思わなかった。この所いろいろな「会」に出席するとたまにだが、宴もたけなわな頃、どこともなく白紙の「短冊」が回って来て、突然「歌会」が始まってペンを持ったまま、いくら頑張ってもなんにもでてこないで冷や汗をかくことが多いのだ。もう随分昔の話だけど、あの特殊歌人(?)枡野浩一さんのイベントで、場内のお客さんに短冊が配られ、お客の各自が歌を作って枡野氏が批評するイベントがあって、不肖私めも頑張って3点ほど書いたのだが「これは酷い歌ですね」って軽く言われてしまい、それから私は短冊恐怖症になってしまった事があった。
 さて、この辰巳さんという歌人は、なんとも本格的な歌人だということを辰巳さんのホームページ「眠れない夜を越えて・・・」で知る事になった。この「眠れない・・・」と言うタイトルといい、センスはとても良いと感じたな。1990年「第一歌集・紅い花」で歌壇の芥川賞と言われる第34回現代歌人協会賞を最年少で受賞。現代歌人協会会員、日本文藝家協会会員。2000年から2001年にかけて、文芸誌「月鞠」第一〜五号を個人で編集、発行。同誌に小説作品も発表。2001年より朗読ライブ活動、インターネット活動を開始。中学生の息子を持つ、シングルマザーでもある。と書いてある。
 そんな辰巳さんがネイキッドロフトでイベントを行うことになった。私はこの日には是非出席しようと思っている。あなたもどうかな? (平野 悠)

●9/25(日)昼の部
辰巳泰子歌集『セイレーン』出版記念企画 短歌ライブ「戦後と短歌」
※詳細はNaked Loftスケジュール欄参照

むかつく人の真相  BOOK
ウエノミツアキ (コアマガジン)1200円+税
否新書、否ポジティブ本、単なるネタ本、
でも読後はポジティブ!?

 都内某書店。棚に面だしされた本の中、他とは毛色の違う一冊が目に留まり、思わず手にとる。見たところ新書。タイトルは『むかつく人の真相』。なるほど、世にいるむかつく人の行動などから心理を探り、その真相を探ればむかつかなくて済むといった感じのポジティブ系書籍ってことか……。  しばし立ち読み後。
 おーい! これ、完全にネタ本だよーい!
 よく見れば版元は、かのコアマガジン。編集はかの『裏ブブカ』を作った岡崎氏。そして著者はウエノミツアキって、そりゃネタ本だわ。そりゃ、お笑いタレント本と同じ並びに置かれるわ。こりゃ。否新書。要注意。
「いるいる!」って言いたくなるような世のむかつく人(150人程)を並び立て、それらに対し著者が次々と真相=真実の姿を暴いていくという体裁にはなっているのだが、要はむかつく人のむかつく行動を基に「その人は実は変な人、おかしな人なんじゃないの?」と著者が勝手に想像、妄想をし続けていくといった内容。それをシチュエーション別にしたり、小説仕立てにしたり、説明なしで畳みかける108連発にしたりと見せ方を変えてはいるものの、結局は妄想羅列。つまりネタ本。
 それらの妄想しているのがウエノミツアキ。ゲームライター時代にはコスプレ風俗レビューなどといった“狂”企画を数々残し、パチンコ誌では常連客を小馬鹿にする連載、『裏ブブカ』では『ワンフーの図鑑』というヲタクを完全にバカにしまくる連載を担当していたことで名を馳せ……てはいないが、一部マニア受けする完全主観的人間観察系企画を各種様々な誌面で行ってきたライター(※最近では『バーストハイ』でも連載しているので油断ならない)。万が一、彼のことを知っているのなら、例の暴走妄想っぷりが炸裂している本であると思って間違いない。爆笑ではなく苦笑&半笑いの連続。リズミカルな文体でサクサクっとスマイル読破できちゃう本。実際、立ち読みで読み切っちゃいましたからね。
 で、買う? この本に書いてあるようなむかつく人、例えば“電車の座席に無理矢理座るおばさん”を見かけたとき、「この本にアナタのことが書いてありますよ」って渡すっていう“ネタ”には使えるけど……。
 まあ、もう読んだからいっか。帰ろうっと……あっ、『むかつく人の真相』を手に取っているうつむいたサラリーマンが! その本で人間関係が改善されるって本気で思って買うと痛い目に……って、ま、いっか。
 とりあえず笑って気分は晴れるだろうから。(ダテクニヒコ)
読者投稿心霊体験 高港基資ホラー傑作選  COMIC
(少年画報社)380円

見かけにだまされるな! 黙って買え読めホラーの傑作!!
 こんな表紙ですが、うさんくさがって読み逃したら絶対損ですよ! わぁ! ぎゃー! 買って良かった!!  と久々に「一見判らないが大傑作」な本を引き当てて大興奮しています。「読者投稿心霊もの」て体裁をとって今コンビニに出回っているこの本…これ、あの高港基資の新作ホラー漫画なんですよ!
 高港さんは、現在の実録怪談、Jホラーブームを先取りしすぎたようなむっちゃくちゃ傑作のホラー漫画『顔を見るな』(98年)の作者。ほかの作品に奇想SFホラー刑事もの『双頭都市』(大都社)や、『マサイ』(少年画報社)、高橋洋脚本傑作ホラー映画のコミカライズ『女優霊』(角川書店)などがあります。安定した画力、生理的嫌悪感を引き起こさせる恐怖描写が素晴らしく、高い評価を得ています。その高港さんの新作が、このコンビニ本には14話たっぷり詰まっているのです。なんと「埼玉県のだれとかさんからの投稿」みたいな体裁を必ず1編1編取っちゃっているんですが… 一部分は明らかに『顔を見るな』からの再録なんです(笑)。少年画報社のHPではさすがにその旨断り書きがありますが…。
 しかし実に不思議な体裁。「読者投稿 心霊体験」という冠をかぶせている「高港基資ホラー傑作選」…(誰が描いたのか記してないけど、多分女性の手になる…2本の体験もの短編も付録に入ってます)。「本当にあったグリム童話」てな冠がついた分厚い漫画本がもう全くグリムに関係なくなっているようなものでしょうか?(あ、でも表紙にもなっている第1話めの、「神社前参道が線路で横切られているため大変なことが…」な神社は某県某所に実在しています。つい最近、知人がわざわざ確かめてくれました)
 ともかくコンビニに売っている本なんか普段手に取ろうとも思わない、という向きでもホラー好きならぜひ手にとってみてほしいですよ。高港さんの漫画は画もストーリーテリングもまじ凄いから! こんなすばらしい体験をする読者たちがいて投稿してくれていいなぁ、とかゆー野暮はこの際言いっこナシよ!(笑)  ともあれ実話かどうかにこだわる狭量な心を捨てれば(笑)、これほど戦慄できるホラー漫画は昨今なかったと思います。特に特に「ヨビト」「指切りげんまん嘘ついたら…」は秀逸すぎ。あたしゃサラミへの食欲がなくなったよ(笑)。粗い粒子の心霊写真の表紙が正直手に取りにくいという方もいそうですが…平山夢明さん、ケッチャムが肌に合う人なら絶対好きだと思いますので、ぜひだまされたと思って読んでみて!
 “コンビニ読み捨て本”てジャンルも今年は侮れない感じがします。山口敏太郎の「本気で怖い会社の怪談」もなかなか良いし… コンビニ本は後で「ああっ買っとけば良かった」と思っても店頭から消えた後は再入手が難しい。というかほとんど無理。ので、少しでもアンテナに引っかかったらバシバシ買っておくべし! こんな素晴らしい本が400円でおつりが来るなんて…読者にはいい時代だけど…嗚呼… (尾崎未央)

リトルボーイとファットマン  BOOK
マッド・アマノ (七つ森書館)2310円
全ての中学生と高校生に、この本を推薦する。 「抗議する事は、権利ではなく、義務である。」と言ふ言葉が有る。マッド・アマノさんは、正義の人である。だから、アマノさんは、この言葉を実践して居る。この1945年8月6日と9日に、アメリカが行なった行為−−広島と長崎への原爆投下−−を、アマノさんは、絶対に許さないのである。(もちろん、私もである。)そして、そんな国際法(ハーグ条約)に反する残虐非道な行為をしておきながら、戦った相手国だけを「裁判」の名の下に裁いた「東京裁判」を、アマノさんは、全く認めて居ない。
 この絵本は、パロディストであるマッド・アマノさんが、御自分の持つ、パロディーと言ふ武器で、原爆を投下した者たちを告発した、正義の本である。そこには、原爆で、罪の無い子供たちを殺したあの国の大統領らへの告発と、彼らの「正義」への嘲笑が、溢れて居る。そして、中学生や高校生が、歴史を良く理解出来る様に、分かり易い言葉で書かれた文章が、載って居る。
 日本の全ての中学生、高校生が、この本を読む事を期待する。(西岡昌紀)
娼婦たち  MOVIE
配給:インター・フィルム  9月24日よりアップルリンクXにてロードショー
それぞれの欲望。そして本音。
 世界最古の職業、それは「娼婦」。SEXという「行為」を媒介に貨幣が流通するこのビジネスは、人類の歴史とともにあった。法の規制をものともせず、世界各国で行われてきたこの職業は、秘密裏でありながら公然と存在する。そして、これからも消滅することはないだろう。この映画は誰もが興味を持ちながら、なかなか知ることの出来ない「娼婦」という職業の実態を、彼女たちばかりでなく、買う側の男たち、男娼、ポン引きなどのインタビューを中心に多角的に進められていく。しかし、ただのドキュメンタリーとしてではなく、ドラマを交えたり、テレビゲーム風の画面を交えたりと、アバンギャルドな映像手法の中、ねじ曲った空間を歩むように進められていくのだ。まるで娼婦という職業が、ねじ曲った欲望の対象物であるかのように・・・。
 インタビュー内で飛び出すのは、全てを悟ったかのような格言めいた言葉の数々。世界各国、人種も多種多様な娼婦たちの本音が覗ける。ヨーロッパで売春をする日本人娼婦まで出てくるから驚きである。私は何故か、娼婦の人たちに独特なせつなさというか。。私自身が絶対に出来ない職業であるからこそ、彼女たちが何を思い、何のために自分を売るのかに凄く興味があった。人間の三大欲の中で性欲だけが唯一、対人に欲望をぶつけるような気がするのだ。そのぶつけられる欲望をお金にする。至って分かりやすい流れではあるが、実際そこまでして彼女たちが何を望んでいるのか?その答えは十人十色ではあるが、最も多い答えは、意外であり、当たり前の事であった。彼女たちは決して特殊ではない。
 ドラマ部分に登場するのは、隣人を性の世界へといざなう女優役として、「キル・ビル」のダリル・ハンナ。その女子大生役として、「007 ワールド・イズ・ノット・イナフ」のデニーズ・リチャーズとキャストも豪華。監督はスペインの女流監督ルナ。彼女の才能は母国スペインだけでなく、ハリウッドからも注目されている。ポップでハイセンスな映像の中から溢れる欲望と本音の数々。21世紀版、性のバイブル決定!  (アカセ ユキ)
ランド・オブ・ザ・デッド  MOVIE
みゆき座ほか全国で公開中
ゾンビ映画の本家本元遂に登場!
ロメロにメロメロ!

 遂にやって来た、ロメロゾンビ最新作! 何と言っても注目すべきは、今までのシリーズでも描かれてきた「ゾンビの知性化」が今回特に深く描かれている所だろうか。互いに会話(らしきもの)を交わし、道具、武器を用いて仲間の死(とは言わないか、元々死んでるんだから)には感情を露わにし…。あいも変わらず目先の欲求を満たすのにいがみ合い続ける人間達とは対照的に実に「人間らしく」進化している。
 いままでもゾンビを題材に人種問題や人間のエゴのぶつかり合いを社会的な視点で絶えず描いて来たロメロ先生。今回は街を囲い込んで高層マンションに居を構え、死者の満ちあふれる現実から眼を背けるブルジョアと、その周りにひしめく貧民…世界は滅びかけても人と人との格差は変わらない、そんなストーリーであります。明らかに9.11を意識しているであろう出来。やはり『宇宙戦争』といい、目を背けるわけには行かない事件だったのですねぇ…。 人vsゾンビの基本構造の他に富vs貧に代表されるような様々な階級闘争が今回は著しく、今までの作品中もっとも社会的かも知れません。新しき種としてのゾンビと、彼らに世界を明け渡しつつある人との共存、と言う将来まで臭わせている本作、今後の展開がとても気になりますよ。
 後はなんて言ったって残酷描写につきます! 最近のホラーはCGとか、やってもスタイリッシュとやらな早いカット割りで、なるべく血や内臓を見せまい見せまいとしてますよね。この映画は違います! そんなヌルい風潮を断ち切ってノンCGでガンガン見せてますよ! やっぱゾンビはモツを奪い合ったり手足をカジカジしたりしてナンボでしょ! 試写上映時、喜びに耐え切れず喝采を上げていたボクに向かって「こんな映画で喜ぶ人の気が知れない!」と言い放ったオバハン(実話)、じゃあなたは一体何を観にきたんでしょうか?
 この欄でもたびたび触れてきました今までの様々なゾンビもの、全てはこの作品の前にひれ伏すと言っても過言ではないでしょうね。前座だ前座! エピゴーネンやリメイクが軽く吹き飛ぶような本家本元真打ち登場であります。やっぱりゾンビはヨタヨタ山ほど来ないと! 走っちゃダメダメ! 前3部作が『夜〜夜明け〜日中』だったのに対応して、今回は「場所」の3部作かぁ、と気もはやってしまうほどであります。ロメロ先生にはもう1日でも長生きして頂いて新たなゾンビサーガを紡いでいって欲しいもんであります。オレは一生ついていきます! (多田遠志)