地獄変  COMIC
日野日出志 (マガジン・ファイブ)¥1600(税抜)

ホントの意味で恐ろしい人間の狂気

 ボクは霊感とか全く持ち合わせていないので、飲み会とかで「オレ、守護霊が見えるんだ」などとのたまい、チンポをアンテナのごとくピンピンにしながら霊気を受信している霊感くんや、放課後の教室でいきなり「キャーッ! 吉田さんの肩の上に男の人の顔がッ」なんて騒ぎ立てて、みんなの注目を集めようとする不思議ちゃんを見ると、「霊なんかいるかッ! 死ね、腐れチンポ(or マンコ)」と叫びながら金属バットの底の部分でガッツンガッツン鼻骨を粉砕してやりたくなる。紳士だからホントにはやらないけど。

 そういうタイプなので、肝試しやお化け屋敷、怪談話、ホラー映画の類を全然怖いと思えず、基本的には「あー、血がビュービュー吹き出してる! ユカイだなー」程度のスタンスでニヤニヤしながら観ている。

 しかしボクにも子供時代、死ぬほど怖い物があった。それが「はだしのゲン」。絵が怖いとか、話が怖いというよりは、単純に「原爆落ちてきたらホントに怖いなー」(そりゃそうだ)という感じだったんだけど、冷戦が終わった後も、群馬の片田舎のガキのくせに核戦争の恐怖に恐れおののき、毎晩寝る前には布団の中で「原爆が落ちて来ませんように……」と世界平和をお祈りしてたもんだ。ま、今では「はだしのゲン」を上質なバイオレンス&ギャグ漫画として認識して、枕元の本棚に「はだゲン」(マニアはこう呼ぶのだ)全巻をズドーンと並べてるくらい好きなんだけど。

 そんな原爆トラウマバンバンの時期に読んで、さらにトラウマを取り返しのつかないくらいザックリ刻み込んでしまったのがこの日野日出志の「地獄変」だ。恐怖漫画の巨匠・日野日出志が油の乗り切ってた時期に描いてしまった、まさに集大成であり代表作。

 原爆の影響で奇形として産まれた地獄絵師が描き出すクレイジーにもほどがある自らの生い立ちの数々。家族の描写等は作者自身の内面、私生活に思いっきり踏み込んだ、ある意味自伝的な内容らしいんだけど、コレが自伝ってホントどんな人なんだ!? と思ってしまう。藤子不二雄にとっての「まんが道」にあたる作品って事でしょ!? ……ウワー。

 でも、作者自身「悪霊よりも覚醒剤やってる奴の方が怖い」と語ってるように、クソつまんないオカルト話ではなく、ホントの意味で恐ろしい人間の狂気が妙なリアリティを持って描かれている。ホント狂ったとんでもない漫画なんだけど、こういう人、現実にいるもんなー。  余談だがボクはこの「地獄変」と「はだゲン」、そして原爆の影響で巨大化した精子の話、根本敬の「タケオの世界」を「三大原爆漫画」と呼んでいる。……こんな事言ってるヤツ他にいないよな。(青春冒険王・北村ヂン)

※EVENT!!! 2月22日に日野日出志さんのイベントがロフトプラスワンで開催されます。

アイロニー?  BOOK
Oka-Chang (文春文庫)¥562(税抜)
気高く、美しく、凶暴な文章

 モノを書くって仕事はつくづくしんどい作業なんだなあと思う。もちろんこれは自分の事じゃなくて、古今東西の小説家だとか、思想家だとか、学者だとか、そんな人達の事を言っている。僕が今書いているものも一応文章には違いないが、こんなのは本来のモノを書くって行為ではない。

「Oka-Changは『an an』や『FIGARO』といった一流のファッション誌でモデルをこなす一方、ジャンキーの作家と結婚し、プロレスや根本敬を愛するというギャップが魅力で、本書は、あのとんでもない不良雑誌『BURST』に連載されていた連載をまとめたものだ」──以上はこの本に書いてあることなので間違っちゃいないが、これはただ文字の写しに過ぎない。モノを書くっていうのは、自分の中の最高と最低をじっと見つめ、それをとことんまでこねくり回すという、考えただけでも恐ろしい作業なんだと思う。いかにも痛そうな行為だ。「恥の多い人生でした」という太宰治の有名なフレーズを、昔は何カッコつけてんだと思ったものだが、今では彼がそういう言葉を吐き出した気持ちもなんとなくわかる。

 Oka-Chang 初めての単行本がこの『アイロニー?』だが、読んだ時思ったのは、なんでOka-Changはわざわざこんなツライことを仕事にしたのかなあってことだ。もちろんジャンキーのゴンゾ・ライターである元ダンナ・石丸元章の影響もあったと思うが、もともと彼女はモノ書きになろうなんて思ってなかっただろうに。いや、もしなったとしても、モデルという肩書きなら、もっと気楽にオシャレな感じにやって、タレント本の何冊かは出せたはずだ。

 しかし、モデル、芸者という経歴を経てモノ書きに専念することになったOka-Changはやっぱり、モノ書きの神様に見初められたんだろう。ずいぶんひどい神様だと思うが、そのおかげで僕たちは彼女の性器よりも恥ずかしい部分まで文章で読むことができる。とにかくここまで開けっぴろげで痛々しい、つまり痛快なエッセイは最近では貴重だと思う。口には出さないが周りの同姓に物足りなさを感じているような女の子は、ぜひ読んでみるといいんじゃないだろうか。(加藤梅造)
悪趣味エロ紀行  BOOK
がっぷ獅子丸 (キルタイムコミュニケーション)¥1,029(税込)

部外者が覗き、紹介する超絶抱腹絶倒フェチ道紹介! 君もアッガイで欲情必至?!

 『悪趣味ゲーム紀行』シリーズで業界を震撼させたがっぷ獅子丸…とか偉そうに書き始めたが、連れ合いの多田と違い私はそんなにゲームをやらない。だがそんな部外者まで愛読しちゃうほど、氏の表現力や着眼点は面白い! 今度のテーマは、何とエロ。ゲーム業界話でも怪談(お好きらしく、『ゲーム業界奇譚』にも素晴らしい怪談を寄稿している)でもない! エロ小説誌『二次元ドリームマガジン(通称ゲドマガ)』に連載されたコラムをまとめた、フェチ映像紹介だ。正直これだけならそう目新しくない…例えばむかーしブロスなどで柳下毅一郎氏が書いていたヘンなウェブサイト紹介連載とか、最近の下関マグロ氏のライフワーク、フェティッシュな人々観察とか。一般人がネットにそう気軽に触れられなかった頃、こういった「ディープな世界の入り口紹介もの」は本当に貴重な情報源だった。これだけ高速インターネットが普及し情報が溢れ返る現在、よほどの専門家が書いた文でなきゃわざわざ食指が動かない…そんなうるさ型のアナタにこそお薦め! 

 紹介されてるのはデブ女、大女妄想、超巨乳、動物交尾…と、知らない人にはそれだけで面白く、知ってる人は「何を今さら」と言いたくなるような有名どころフェチ。だが普段から趣味で変態さんたちをヲチしているわけではない、全くもって部外者のがっぷ氏の手にかかり、一見手垢のついた「フェチもの紹介」が抱腹絶倒のコラムとなっている。逆説的に、それら変態道への愛のなさ、「何でこんなモノを見て紹介せねばならんのだぁ」という首尾一貫したボヤキが読ませる芸になっている。正直に告白すると、私はお風呂での半身浴ひまつぶし用にこの本を読み始めた。しかしすぐに大後悔。爆笑に次ぐ爆笑、つい読み耽ってしまいのぼせて何度も卒倒しかけてしまったのでありんす。特に全身タイツ、通称「ゼンタイ」のネタには失神寸前に。顔無しもじもじくんみたいな全身タイツの男女がエプロンつけて仲良く夕食用意している画像、ロードムービー画像…。本でこれだけ長く深く笑ったのは久しぶり。あと女が虫を踏みにじり汁をまきちらし続けるだけの映像。本当に出演者が事故(自殺?)死し、関わったスタッフにも因縁めいた現象が起きている故AV嬢を、何と恐山で呼び出しファック/放尿したりする罰当たり映像とか!

 本編もテンコ盛りだが、補強するコンテンツも抜かりなく、海野やよい、しのざき嶺ら錚々たる絵描きの方々が各1ページ自身のフェチについて絵コラムを寄せている。表紙カバーもめくれ! また絶品なのが巻末コラムの催眠術大検証リポート。プロの催眠術師とアシスタントに術をかけられ、身近にあるモノで手軽にHな気分になろうという捨て身ヤケクソ体験企画。フラワーロックもどきやアッガイの人形に皆で必死に欲情します。最終的にはPS2のコントローラーで!!!(笑)「このグリグリが…ハァハァ」てな世界、悶死もの。単なる第三者的に不可解深遠なエロ道をからかい詠嘆するだけでなく、自身も新たなエロを極めてみようと言う意気やよし! …しかしその後解けたのかしらん、と妙に気になってしまう1冊であります。 (尾崎未央)

モンティ・パイソン正伝  BOOK
グレアム・チャップマン/ジョン・クリーズ/他(白夜書房)¥3,990(税込)
大英帝国がザ・ビートルズと並んで世界に誇るコメディー集団「モンティ・パイソン」

 モンティ・パイソン以前から以後に至るまでを、一人の故人を抜かしたメンバーそれぞれがそれぞれに話しすすめていくこの本は、1キログラムもの重量と、3.8ミリメートルもの熱さ、いや、暑さ、いや、厚さがあり、その中にはメンバーの生後まもなくから現在にいたるまでの写真が64ページにも及ぶカラーページで掲載されてもいる。

 この1冊で、お腹いっぱいどころか1ヶ月は楽々楽しめる。

 って、すいません。本当にすいません。締め切りまでに読み切れなかったっす。今まだ読んでる途中っす。ま、1週間あれば楽々行けるだろう、ってお気楽な予測で読み始めましたが、無理っした。

 言い訳させていただきますが、ただサラサラと読みすすめるだけだったら楽勝で読めました。ええ、たぶん、2日あれば読めました。楽勝で。ってか、パイソン前夜、メンバーがそれぞれに自分の生い立ちやらそれぞれとの出会いやらを語っているあたりは、とても読み応えがあり、それこそサラサラスラスラと読みすすんでいったんです。

 で、フライング・サーカスの放映が始まるあたりとなり、その裏話が始まると、中途半端な知識と記憶しか持っていないぼくは、あ、そういやそのシーンってそうだったっけか?とか、あ、そのコント知らないや、とか、気になり始めて、それらを確認せずにはいられなくなるわけですよ。もう、気になって気になって。ええ、気になって気になって。そりゃもう、気になって気になって。

 ということで、そんなにも気になりはじめちゃったので、もうまったく読みすすめられなくなりまして、とりあえずはDVDを借りてきて確認するのです。

 そんなことしてたら当然、1週間じゃ足りないっす。ええ。本当にすいません。でも、それくらいに、読み応えがあるんですよ。中途半端な知識と記憶でいるのが悔しくなるんですよ。きっとマニアの方なんかは、ああ、そうそう、とか、へー、そうなんだー、とかうなずき関心しながら読めるのでしょう。そういう風に読めないのが、もう、悔しくて悔しくて。え、なんでぼく、そんなことすら知らないの?ってなっちゃってなっちゃって。

 DVD販売店やレンタルビデオ店へ行きモンティ・パイソンを探したらけっこうな量が並んでいて怯んだ、って経験がある方、まずはこの書を手にするといいです。

 もちろん、モンティ・パイソンのことなら隅から隅まで語れますよ、って方は当然持つべき書なんじゃないかと思いました。 (宮城 剛)
萌え経済学  BOOK
森永卓郎 (講談社)¥1575(税込)
萌え魔人森永氏の暴走は止まる事はない…

 TVの生放送って面白いハプニングとか今でも結構起こってて中々に見逃せないんですよね。古くはロンパールームの「キレイなキ○タマ」発言から、塩爺ぃの騒音オバサン「こりゃね、キ○ガイの顔してますよ」発言、つい最近でも「笑っていいとも!」に基地外乱入、タモさんと熱いトークを繰り広げた事件があったそうです。大体放送禁止用語かアレな人、と言うのが多いようですが。この文章を書いている間にも、つけっぱにしてた番組で山手線ゲームやってまして、「アのつく国の名前ー」「アメリカ」「アルゼンチン」「アイルランド」ときてテンパったジャリタレ「ア、ア、アナルランド!」とかましていましたよ。これだから生モノはやめられませんね。

 この本の著者、森永卓郎先生は、『年収300万円時代を生き抜く経済学』等の著書でもおなじみの経済評論家なのですが、実は先生、TV、ラジオの生番組に御出演されるたびに放送界の予定調和をブチ壊して下さる凄い方でもあるのです! まじめな経済番組に財テク絡みのゲストで来た松田聖子を前に先生頭真っ白、思わず「好きです」と告白して事務所出禁。ラジオ番組のリクエスト、「あなたの好きな〜」シリーズが度を越して「〜AV女優」まで行ってしまった、とか鶴光師匠の番組に出演、「アスパラガスとかけて女性の乳首と解く、その心は?」「どちらもマヨネーズをつけるとウマい」とカッコよすぎです。

 そんな先生、萌え系にも造詣が深いのは有名でありますが、注目の萌えビジネスの経済効果を分析した本書、講談社の書籍だと言うのに表紙を飾るのは他社、三才ブックスの大ベストセラー、『萌える英単語 もえたん』の虹野いんくタン! 趣味全開です先生! 中は一応萌えを経済的に分析した本であります、ありますけど、各章の扉ページは様々なメイド喫茶での先生とメイドさんとの2ショット写真! やりたい放題です先生!

 プラスワンに御出演の際、前述の様々なエピソードを御披露下さった先生、「最近めっきり生放送のお呼びがなくなった…」とお嘆きでありましたが(無理もない気もしますが)、今も御出演なされている爆笑問題司会の情報番組、『人物ライブ・スタメン』でいまだに先生はトバしまくっていらっしゃいます。やおい、BL系のメッカ、池袋の乙女ロードに群がる腐女子達の特集で、他のコメンテーター達が「こんなんじゃ日本の未来が」と言いたげな所を先生、「いいじゃないか! BLとツンデレだらけになれば世界は平和になる! 池袋とアキバを合併せよ!」とぶち上げておられたのであります。 カッコよすぎです先生! 尊敬しております!(多田遠志)
男の花道  COMIC
杉作J太郎 (ちくま文庫)¥640(税抜)
これぞ男の花道

 杉作J太郎さんは本当に奥の深い人だと思う。僕はロフトプラスワンのイベント「東京ボンクラ学園」で長年、杉作さんとお付き合いさせていただいているが、年々その魅力が増していくのを感じる。世間的に見れば、以前よりテレビへの露出が減ったり、雑誌の連載が減ったりという理由で、「杉作さん、最近活躍してないねえ」なんてことを言う人がいるかもしれない。まあ世間てのは興味のない人に対しては冷たいもんだから。俺も人のことは言えないが。

 しかし、杉作さんとある程度接している人なら、今のJさんが活躍してないとは誰も思わないだろう。むしろ、ここ数年のJさんのエネルギッシュな活動ぶりは目を見張るものがある。例えば3年ほど前のJさんの主な活動は「あいぼん運動」だった。これは当時、TVで見るあいぼん(加護あい)に元気がないような気がする、と心配したJさんが、「私設あいぼん祭り」というイベントを開催し、みんなであいぼんを応援しようと団結した運動だった。端から見たらキ●ガイにも取られかねないこの運動だが、Jさんは当時の生活のほとんどを費やしていた。そしてこの熱意に多くの人が動かされ運動に協力していったのだ。

 バカげていると言えば、バカげている。しかし、こんなバカな連中がいない世の中は、どれほど冷たく味気ないものだろう。「金さえあれば何でも手に入る」(人生の目的=金)と思っている連中や、「将来は有名になりたい」(人生の目的=有名)と思っているような連中には、杉作J太郎の活動の意味がわかるはずもないだろう。

 僕のような30代の人間にとって、杉作J太郎といえばやはりいくつもの傑作青春エッセイ漫画を描いた人というイメージが強いだろう。代表作『卒業〜さらばワイルドターキーメン』などは、マンガ史に残る青春群像漫画だ。そして、今回、本書『男の花道』として装いも新たに甦った『ヤボテンとマシュマロ』(初版は1999年)もまた、後世に残すべき名品だ。当時、この本の帯には「生きていくのがつらい日は」とコピーがつけられていた。僕もつらい時にこの本を読んで、どれほど勇気づけられたことか。

 今はほとんどマンガを描いていないJさんだが、決してマンガの仕事がないわけではない。事実、多くの人が杉作マンガへのラブコールを送っている。しかし今のJさんの活動のほとんどは、ゼロから立ち上げた映画プロダクション「男の墓場プロ」での映画制作に費やされている。まさしく大バカだ。もちろんJさんのこのバカな夢に多くの人達が協力を惜しまない。だからJさんの新作マンガが読めなくてもよしとしよう。こうして旧作も復刊されたことだし、来年にはいよいよ男の墓場プロの映画が公開されるのだから。 (加藤梅造)

いよいよ来年新春一月二一日公開
男の墓場プロダクション映画 『任侠秘録人間狩り』 『怪奇!幽霊スナック殴り込み!』
2006年1月21日から 二本立て公開(シネマアートン下北沢)

※公開直前EVENT!!! 12/29 (thu) @LOFT/PLUS ONE
杉作J太郎の東京ボンクラ学園『任侠秘録 人間狩り』『怪奇!幽霊スナック殴り込み!』公開直前記念!男の墓場プロ大忘年会!!歌って踊って笑って泣いて、これが本当の馬鹿騒ぎ!絶対面白い企画目白押し!
緊急告知!
究極のカルトBOXセット ヤホワ13『ゴッド・アンド・ヘアー』ついに発売!
ヤホワのすべてのアルバムを、繰り返し聞くのは重要だ。 何故なのか? それは、これからまた繰り返し聞いてから考えることにした。みんなもこの機会にぜひ一緒に考えて欲しい…<中原昌也・作家/ミュージシャン>

Yahowha神 再び奇跡の降臨。買うべし、聞くべし、ひれ伏すべし。三度目は無い。<T.MIKAWA・ミュージシャン>

アウトサイダー・ミュージックとは音楽の外=アウトサイドにある音楽である。それはどんな音楽にも似ておらず、そしてすべての音楽に似たものである。それはすべての音楽の始原の塊であり、すべての音楽が詰まっている。ちょうどYAHOWHAの中に全宇宙のすべての英知がこめられているように。<柳下毅一郎・翻訳家>

前人未踏の快域の渦渦渦の箱。サイケだのカルトだのいう奴でこの箱を持っていない奴はインチキのクソ野郎だ。せめて人から借りるなり皆でまわしのみしながらまわし聴きせねばならない。<湯浅学・音楽評論家>

●謎の集団、ヤホワ13とは・・・
「ファーザー・ヨッド」と呼ばれる人物を中心に1960年代のカリフォルニアで誕生した音楽宗教団体である。菜食や動物愛護、愛と平和を説く「ファーザー・ヨッド」の元には、その思想に共鳴する人々が徐々に集まり共同生活(コミューン)をしながら自給自足のライフ・スタイルを実践し、その支持者はハワイ、マウイ島にまで及ぶようになった(その後、教団の本部はマウイ島へ移る)。反戦はもとより宇宙規模のファーザーの教え(現在チャネラーと呼ばれている人々の草分けともいえる)に多くの信者が集まるが70年代半ば、ファーザーの事故死によって実質的な活動は終止符をうたれた。しかし、彼の信者は現在でもファーザーと精神的交信(チャネリング)をすることによってメッセージを受け取り続け、マウイ島にてコミューン生活を続けている。

 ファーザーの教義は文章化されたものではなく、「言葉」や「音楽」で伝承され、それはレコードという形をもって信者に配布された。そのレコードにはサイケデリック、フォーク、ジャズ、ブルース、ロックなどの20世紀アメリカ音楽の様々なスタイルが盛り込まれており、音楽ファンにとっては極めて評価が高いものであったが、当時配布された物は信者へだけの限定製作であったため、一般での入手が大変困難であった。その希少性もあって、現在ではコレクターたちの間で驚くようなプレミア価格で取引されている。

サイケデリック・ミュージックにのせて歌われた教典の数々を13枚のCDに収録したボックスセット
「ヤホワ13/ゴッド・アンド・ヘアー」
CTCD-130R-142R ¥15,000
NOW ON SALE!
完全限定盤 世界共通1000セット
木箱入り・ワックスシール封印仕様
問い合わせ●キャプテン・トリップ・レコーズ
FAX: 03-3659-5169
e-mail: info@captaintrip.co.jp
マッドボンバー  DVD
(紀伊国屋書店)¥3990(税込)
爆弾魔とレイプ犯が大暴れする映画をリリースする老舗書店! 絶対支持!

 オンライン書店が花盛り、AMAZONだのbk-1だのと皆さんも利用されている事でしょう。というかそもそもリアル本屋行ってますか皆さんは? +1のあるここ新宿も本屋たくさんありますけど、ABCがツブれたりとなかなか大変なようです。関西資本のジュンク堂やなんかはタワーレコードみたいにインストアイベントとか盛んに行っておりまして、新宿一番の老舗であります紀伊国屋書店あやうし、と思う所なんですが、大丈夫紀伊国屋は安泰です!他の書店はやっていないDVD制作&販売してますからね!

 日本アニメの歴史、なんて何十万もする個人じゃとても買えない図書館や学校のライブラリー用のSET物、なんていかにも書店らしいものも出しているんですが、そのラインナップに隠れて「ん??」都思うようなものが数多くリリースされているんですよ。それも 幻の名作とされるようなものが多いってな事は意外と知られていないでしょう。今回リリースされるこの『マッドボンバー』も、同時に出る『少年と犬』も熱狂的ファンの多い幻の作品待望のソフト化、なんですわ。

 妻と別れ、一人娘を麻薬中毒で失った男が社会を憎み、学校や病院などを次々爆破していく。事件担当となった警部は、病院爆破の際、女性患者をレイプした暴行魔が爆弾犯人の顔を見ている事に思い当たり捜査を続ける……。爆弾魔と暴行魔、どっちか一人でも充分恐いのに、狂人二人揃うとは…タイトルは「マッドなボンバー」ではなく「マッド&ボンバー」という意味なのです! また間の悪い事に爆弾抱えてイライライライラしている爆弾魔の前にチャラチャラ出てくる奴等は皆揃いも揃ってポイ捨てしたり、クラクション鳴らしたり…と無闇にハラハラします。DVD化は無理であろうと思われていた、というかよく昔はこんなのTVでやってたね、と思う作品奇跡のソフト化ですよ。こういうのを出すメーカーはあるかも知れないけど、普段はテオ・アンゲロプロスとかストローブ・ユイレとかの一般的名作やクラシックをリリースしている会社が出している、と言うのは他の業界ではなかなか考えにくい現象ですよね。音楽業界でいったら夏川りみと同レーベルで非常階段や三上寛を出しているようなもんですよ!んなことありえないでしょう。しかも日本屈指の老舗書店が! 担当者の人となりが今一番気になるメーカーです。エリック・ロメールと若松孝二と『ゾンビ特急地獄行き』が同じ映画とはいえ同一パッケージなんてマトモじゃないよ(褒めてます)!

 今後の紀伊国屋書店の御健勝を心よりお祈り申し上げます。(多田遠志)
フォー・ブラザーズ 狼たちの誓い MOVIE
(UIP映画 配給)みゆき座ほか全国で上映中
映画は社会に投げかけるメッセージだ

 『フォー・ブラザーズ』は映画のタイトルが文字通り示す、4人の兄弟の物語。しかし、この兄弟はかなり一癖も二癖もある連中だ。そもそも兄弟4人の内、2人が白人で2人が黒人、しかも4人とも凶暴な顔をしていて、まるで堅気には見えない。それもそのはずで、実はこのマーサー兄弟、かつては街の札付きのワルで、あまりにも非行歴がひどいせいで里親が見つからずに、街で里親を紹介する仕事をしていたエブリンが、自分でこの4人を引き取って養子にしたという過去があるのだ。この養母エブリンは、時に厳しくそして時に優しくこの4人のワルを可愛がった。そのおかげか、大人になったマーサー兄弟は独立し、皆それなりに堅気としての生活を送っていた。しかし、4人の平穏な生活はある事件をきっかけに再び悪と暴力の世界に引きずり込まれる。感謝祭の前日に、エブリンが食料品店で強盗に撃ち殺されてしまったのだ。

 このエブリンの突然の死に疑問を感じたマーサー兄弟は、独自にこの件を調べ始める。そして、この強盗殺人事件は最初からエブリンの殺害を目的にしたものだと確信するのだ。

 季節は冷たい雪が降りしきる冬。黒人の多いデトロイトの街で、兄弟4人と悪の組織との死闘が繰り広げられる。雪の中のカーチェイス、街中の銃撃戦などハードなバイオレンス描写が観客の度肝を抜くが、単なるアクション映画に終わらず、事件の解明という部分でも見る者を最後まで楽しませてくれるのがこの映画の特徴だ。

 監督はデビュー作『ボーイズ’ン・ザ・フッド』で、ブラック・ムーヴィーの新鋭としてスパイク・リーと並び評されたジョン・シングルトンが務める。主演のマーク・ウォールバーグが監督のことを「彼はこの映画にぴったりの監督だと思う。その上彼はこういう世界をよく知っている」と評しているのも頷ける。シングルトン監督は、単なる映画の中だけの話でなく、現実社会の反映とそれに対するメッセージとしてこの映画を作っているのだ。  他の見所としては、マーヴィン・ゲイ、テンプテーションズ、ミラクルズといったモータウン・ミュージックが随所に使われているのが、舞台のデトロイトの街に深い陰影を与えている。ストリートに住む黒人達のファッションも、好きな人には気になる所だろう。そして最後は、この映画の主題である「兄弟の絆」の強さが、見る人の心を熱くさせるはずだ。(加藤梅造)