珍寺大道場  BOOK
小嶋独観 (イーストプレス社)1190円+税

素晴らしきファンキー・ブッダ王国
 おとっとと・・・イーストプレスの変態編集者屋田悟郎氏から「これこそ、プラスワン的な全く素晴らしい本です。この書評を貴誌に載せないでどうする!」って脅された(笑)  表紙の帯にはみうらじゅん氏大推薦って書いてある。ページをめくって見てわたしゃびっくりしたね。だって、トップが「世田ヶ谷七副神堂」で、このいかれたお寺は私の住む世田ヶ谷の家から300メートル経堂の方に行った所にささやかに存在しているのだから・・・。勿論わたしゃ、この寺に何度も行ったことがあるが、こんな素晴らしい世田ヶ谷の名所を、ご近所の誰もがリスペクトしていないのだ。これは日本の恥である。イラクに自衛隊送ったり、アメリカの子飼いになっている日本よりも世田谷区の恥である・・・ていつも思っていたのが、とにかく小嶋氏のこの大胆企画を通 したイーストプレス社に感謝するしかない。とにかく、うさんくさい、やばそうな寺を筆者は日本国中回って取材している。素晴らしい。写 真がふんだんに使われていて、見る方は何か魔か不思議な世界に閉じこめられてゆくようだ。この本を開く前にはちゃんと「お払い」か念仏を唱えてから読むようにお勧めする。やばい、字数が・・・。とにかく、「因果 鉄道の旅」の根本敬さんが大喜びしそうな楽しい本である。 (平野 悠)

とうとうロボが来た!  COMIC
Q.B.B. (幻冬舎文庫)495円+税
男子は絶対犬派!
 「中学生日記」でもお馴染み、Q.B.B.こと久住兄弟がかつてガロに連載してた同名漫画に読み切り書き下ろし続編を加えた文庫版。
 犬を飼いたくて飼いたくてしょーがなくて、いつか犬を飼うなら「ロボ」という名前にしようとまで心に決めちゃっている小学生の話なんですが、当然Q.B.B.お得意の子供時代あるあるネタの宝庫が満載です。ホント、この人たちの漫画読むといつも思うんですが、中学、高校時代の青春話を覚えてる人は多いけど、小学生時代なんてまだ脳みそが成長途上段階のバカ丸出し期なんだから、まあ漠然とした思い出は覚えてるけど、こんなこと細かなエピソード覚えてないですよ。…しかし読むと確実に誰もが一度は経験した事のあるバカ子供エピソードの数々に記憶のフタをぱっかり開かれてしまい、懐かしくも恥ずかしくて笑い、悶えてしまうのだ。
 イヤー、しかし、男の子は犬に死ぬほど心奪われてしまう時期があるもんです。大人になるとペットを飼うんでも犬派、猫派とか、色々と趣向がわかれるんだけど、子供の頃は猫が好きなんて男子いなかったもんな。猫なんて、なんか女子供に「カワイー」とか言われてる軟弱な家畜っていう感じがして、男子達の眼中からは完全に外されてましたね。…やっぱり犬の醸し出す肉食感っちゅうか、狩猟感っちゅうか…飼い慣らされててもいざとなったら手ェ噛むぜ的なデインジャラスな雰囲気がなんともカッコよく、夢中になってしまうのだ。
 かくいうボクも、小学三年生の時、なぜかいきなり「捨て犬たちを救わなくちゃ!」という、よくわからない使命感に駆られ(シートン動物記かなんか読んだのかなぁ?)、夏休み中近所を徘徊し、捨て犬どころかただの野良犬まで毎日毎日家に連れて帰り、裏庭にプチ・ムツゴロウ王国的なものを築いた事がありました。…結局、いつのまにか保健所状態になってる裏庭に気付いた親父がキレて全部どこかに捨てられちゃったんですけど。…そんなマヌケながらセンチメンタルな記憶が蘇ってくる一冊。 (小学23年生・北村ヂン)
樹海の歩き方  BOOK
栗原亨 (イーストプレス刊)1575円(税込み)

くれぐれも電車の中では読まないで下さい!
 『廃墟の歩き方』シリーズで知られる著者の最新刊。そのシリーズは気になりつつ未読だが、探検チームを組み、検証していくスタイルらしい。本書の隊員には、プラスワンおなじみ平山夢明さんのイベントでも紹介、衝撃を呼んだAV『青木ヶ原樹海伝説 赤いドレスの女』の脚本家もいる。本書は約2年正味36日間、樹海探索した成果 。
 巷間囁かれてきた「磁場でコンパスが狂う」「野犬の群れに自殺者の遺体が食い荒らされる」「携帯が使えなくなる」…が本当か否か検証される過程は相当面 白い。携帯については「バリ3でも使えない」そうだ。実は樹海独特の条件により、受信はできるのに、発信できなくなるのだ。これは恐い! 詳しくは本文参照。その他、意外と首つりに適した「横枝」が少ない、地面 の土の厚さはたった2センチ、遺体にたかるハエは「外界」の1.5倍の大きさ、アリも1センチはある、など目ウロコ落ちまくり。
 しかし、どうも読後感の居心地が悪い…。力作だが。現代日本最後の秘境にロマンをかきたてられ、探検家として挑む…触れ込みだが…正直、読み進む内「自殺遺体探しの野次馬根性」にしか思えなくなる。それが悪い、とは決して言わない。野次馬根性上等。が、モンド映画に必ずつく「こんなことがあって良いのでしょうか」という、芸の域に達した「心無い詠嘆(のフリ)」がどうもうまくない。徹底的に野次馬根性むき出し詠嘆ちょっぴり、にするか、心から死者の冥福だけを祈るか、のバランスが中途半端な気がした。ある「聖域」を作り上げ亡くなった人の遺体発見するエピソードでの時の踏みにじり方がかなり凄まじいのに、著者本人にその行為を「罰当たりなこと」と思う意識が微塵もない。むしろ「正義の行為」と即物的に思っていて… 「罰当たりだけど、でも観たいじゃん!」という「いけないことしてる感」が仄見えないとわくわくさせられない…これは怪談好きの私がロマンチストなのかもしれない。台風来てるのに半強制的に嫌がる隊員を連れて探索決行、遭難させかけるとかも感心できないし。読者個々の好みかと思うので、興味のある人はどうぞ。袋とじ衝撃写 真付きだし。 (尾崎未央)
※ロフトプラスワンで樹海イベント開催決定!
6/21(火)映画『樹の海』公開記念「樹海解体新書」
【出演】瀧本智行(『樹の海』監督)、栗原亨(廃墟&樹海探検家)、他
Open/18:30 Start/19:30 
前売り¥1000(飲食別)/当日¥1200(飲食別)

セックスエリート 年収一億円、伝説の風俗嬢をさがして  BOOK
酒井あゆみ (幻冬舎) 1500円+税
「ワタシには性欲がありません!」
 風俗ってどんな所なのかな〜? ヘルス、ソープランド、ホテトル・・・ って言われても、どこがどう違うのかさっぱりわかりません。  この4月、大学3年生になったワタシ、緑川ひかりは10代からの目標を実行に移すべく、芸能事務所ムーンストーンの門を叩きました。その後、代表である増田俊樹氏から、「あなたを人道支援系アイドルという肩書きで売り出すから、とにかく本を読んで沢山の事を勉強しなさい。」と言われ、様々なジャンルの書籍を何冊も手渡されました。その中の一冊に、酒井あゆみさんという作家の書いた『禁断の25時』があり、何気なくページを捲っていくうちに、何故だか理由のわからない胸騒ぎをおぼえました。そんなある日、「4月19日の『 NAKED @ BUNTA 』というトークライブが実質的なデビューイベントとなるので、親友の酒井あゆみさんに壇上で緑川を揉んで貰うコトにした。」という意味不明な通 達をされ、不安なまま幾日も過ごして当日を迎えてしまったワタシは・・・ 酒井さんからの「アンタねぇ、ハタチにもなってブリッコしてんじゃないわよ。カナリ遊んでるんでしょ? 言っちゃいなさいよ! アタシなんかハタチんときさぁ、ヘルスで稼いだカネ全部オトコに貢いでダマされたのよ! でもさぁ、惚れちゃうとアレしたくなるの当然じゃない? いいかげん遊んでるって白状しなさいよ!」との一方的な糾弾を浴びせられ、ネイキッドロフトの壇上で孤立無援となったワタシは思わず、「ワタシには性欲がありません!」と無我夢中で叫んでしまっていたのです。
 出番を終えて落ち込んでいるそんなワタシに、『熊篠福祉専門学校』のイベントで私を学級委員に推薦して下さったクマシノ校長先生から、「アレはボクと増田さんが共謀して、嫌がる酒井さんにお願いした愛のムチとでも言うべき試練なんだよ。でも、ひかりちゃん見事に合格したじゃない。」とのお言葉を頂いた瞬間、何故だか酒井あゆみさんという作家は女性に対して手厳しい反面 、すっごく優しい気持ちで接してくれる方なんだなぁ、という感情が心の底から込み上げてきたんです。数日後、地元の小さな本屋さんで新刊の『セックスエリート』を購入し、2日間で読んでしまいました。風俗って、一般 的にみると何か特別な仕事って受け取られているみたいですけど、この本を読むと立派な一つの接客業なんだなと深く納得させられます。また、決して不幸を背負っている女性ばかりではないんだ! という気持ちも感じとれ、それどころか、その店のナンバーワンになる秘訣とは何なんだろう?という酒井さん自身の疑問符が、今は映画の端役止まりであるワタシの現状とシンクロしてしまい、なんだかすごく考えさせられました。酒井さん本人と作品から受けたこの実感こそ、クマシノ校長先生のおっしゃる試練なんだなっ、と心底思えるワタシがいま、ここにいます。 (緑川ひかり)
※6月16日夜はネイキッドロフトで渡辺修孝さんとのトークライヴ、また6月18日はプラスワン〜ネイキッドと昼夜にわたって熊篠福祉専門学校の学級委員を努めさせて頂きますので、常連のみなさん、是非とも声をかけてくださいね。 
19992004―後藤真希クロニクル  BOOK
能地祐子 (竹書房)1500円+税
13歳から19歳のごっちん
 後藤真希が11000人の応募者の中から選ばれモーニング娘。のメンバーとしてデビューしたのが1999年。当初2人選ばれるはずが、後藤が「抜け出しすぎてた」(つんく♂)ために一人のみの加入になったというのは、その後の後藤の活躍を見れば十分納得のいく選抜だった。後藤加入後、モーニング娘。は黄金期を迎えるが、2002年に後藤卒業が発表されると一部で「ハローマゲドン」と呼ばれる程の激震を与える。卒業後の後藤は、歌にドラマに映画と順調にソロのキャリアを重ねているが、その5年間のキャリアを区切りに今回発売されたのが、その名もズバリ『19992004―後藤真希クロニクル』だ。
 写真集以外の後藤真希関連の読み物としては2003年に発売した『99の後藤真希』(ソニー・マガジンズ)が有名だ。ライターの能地祐子が後藤に対して「自分って誰?」をテーマに99の切り口でインタビューを行ったこの本は、自分自身の探求という青春期の普遍的なテーマを掘り下げていたことで、非常に読み応えのある名書であった。  今回の『後藤真希クロニクル』も同じく能地祐子が聞き手となり、後藤が5年間の活動をデビューから順番に振り返りつつ、ツッコミを入れるという内容の濃い読み物に仕上がっている。とにかくその資料の数がハンパでなく、写 真や画像、オフショット、グッズなどあらゆるものがギュッと掲載されている。特にデビュー以来の全衣装を新たに撮影していて、それが今回の白眉の一つだろう(ここだけ見るとまるで服飾専門誌のようで、特に女の子にとっては見てるだけで楽しいんじゃないだろうか?)。
 たとえ推しメンがごっちんでなくても、ハロプロやアイドル自体に興味のある人にとっては、後藤真希の視点から見たハロプロ5年史としても読めるので飽きることはないだろう。しかし、それにしても濃密な5年間だなぁと改めて関心する。今後さらなる飛躍が期待されるごっちんの一つの区切りとして、本書の持つ意味は大きいだろう。 (加藤梅造)
五月金曜日  BOOK
盛田志保子 (晶文社)1680円(税込み)
なんて瑞々しく、潤いを与えてくれる文章か。
 縁があって手にしたこの本、少しずつの期待やら不安やらを持って読み始めたら、とても心地が良くって良くって良くなって、途中からニヤニヤとにやけ面 に。帰宅途中の電車の中で。
 そう、とある平日の埼京線の終電車内で、ハードカバーの本を読みながらニヤニヤとにやけていた髭面 の男は、ぼくです。  何故にニヤニヤとにやけていたのか、それを説明させていただきたいのですが、これがまた難しい感情だったんです。あ、いや、その、あの、心地良かったからにやけていたのですけど、その心地良くなり具合ってのが、なんだか複雑と言うか、単純と言うか、なんと言うか、かんと言うか。文章を読んで、こうも素直に自分の心が反応するものなんだ、という発見に対するほんの少しの恥じらいが含まれた喜びと言うか、って言い方で合っているかどうか、そんな感じ。
 クククとこみあげる笑いをこらえさせられたり(電車の中だったのでこらえざるをえない)、ドスッと唐突に落ち込ませられたり、フーッと景色を思い出させられたり、過去や現在の盛田家族の生活を想像させられたり、自分が好きな動作を確認せずにはいられなくなったり、ってかラララと大きな声を出して歌い始めたいのを我慢させられたり(電車の中だったので我慢せざるをえない)、驚いていないのに驚いたり、恥ずかしくないはずなのに恥ずかしくなったり、悲しくないはずなのに悲しくなったり、嬉しくないのに嬉しくなったり、そんなこんなな気分に、どう足掻こうともどうしようもなく、ってか足掻く間もなくさらりと強制的にさせられ、これがまたもうどうしようもないくらいに快感でした。なんとも心地良くって。  こうもおれの心をあっちへとこっちへと動かしまくりやがってこの野郎、脱帽いたします。ありがとうございます。 (宮城剛)
へたれ  BOOK
吉永マサユキ (リトルモア)2500円+税

 大阪十三青春グラフィティ
 僕が働いているいわゆるロック/サブカル界隈(?)には、写真家・吉永マサユキのファンが非常に多い。吉永氏の写 真として一番有名なのは、以前雑誌『BURST』の連載「若き日本人の肖像」で発表されていた暴走族の写 真だろう。時々「暴走族の写真なんて不謹慎だ」と間抜けなことを言う人がいるが、こうした意見はいかにも短絡的だ。暴走族の写 真は吉永氏でなくても撮れるだろうが、写真として大切なのは撮影者と被写 体との間にどのような関係性があるかだ。彼の写真は、物珍しさとは全く違った次元で、その被写 体が何を訴えかけてくるかを強く感じることができる。そのあまりに人間くさい写 真こそが吉永マサユキ作品の最大の魅力なのだ。肉体労働者、ボクサー、ミュージシャン、ヤクザ、おばちゃん──吉永氏の撮る写 真にはどれも血が通っている。ロックなんかをやってる人に人気があるのもそうした魅力からじゃないだろうか。  そして吉永マサユキ本人もまた相当に人間味溢れる人物だ。そのまま東映ヤクザ映画に出てきてもおかしくないぐらいキャラが立っていて、当然というべきか、彼の半生も相当に山あり谷ありの人生だ。その吉永氏の青春期を綴ったのがこの『へたれ』だ。
 大阪・十三というこれまた人間臭い街に生まれ育った吉永氏は、子供の頃からものすごいゴンタ(不良)で、ケンカは日常茶飯事。近所や学校のツレと悪さばかりしているが、十三名物のヤクザに時々どやされたりと、街全体が喜劇的な空間にも見える。もちろん彼らにはグレるなりの理由があり、決して楽観的な状況ではないのだが、かといって悲壮感もない。時々テレビで紹介されるスモーキーマウンテンに暮らす子供がびっくりするほど明るかったりするのを見るのと近いものがあるのだろう。そしてこういう環境に育つ子供は精神的に強くなることが多い。例えば本書にもこんな場面 がある。在日の友達から、彼が自分の彼女の親御さんに挨拶に行ったら「お前みたいな朝鮮にうちの娘はやらん」と追い返された話を聞いた17歳の吉永は、酒を飲みながら涙が止まらなくなってこう思う。 「同じ人間やったら、もっと相手の立場になって考えたれや! ほんましょうもない国やで日本は。差別 をなくそうとかゆうてるまえに、まずはおのれらのオツムん中を掃除せぇ! そこにおる人間に国籍を与えんっちゅうことの方が、法に則ったタチの悪い一番の差別 やんけぇ!」  人間同士の血の通った関係性──本書を読むとそれこそが社会で一番重要なんだということを自然に感じることができる。600ページの分厚い本だが面 白くて一気に読めるだろう。 (加藤梅造)

RED  COMIC
村枝賢一 (講談社)540円
教科書には載らないもう1つの「叛アメリカ史」
 マンガは滅多に買わない。読みはする。でも立ち読みだ。いちいち買ってたらあっという間に場所がなくなるからだ。しかし、ここ数年で唯一全巻揃えてしまっている作品、それがこの『RED』だ。アメリカ西部開拓時代に、騎兵隊ブルー小隊によるインディアン(敢えてこの呼称を用いている辺りになみなみならぬ こだわりを感じますな)大量虐殺事件の唯一の生き残りとなった主人公レッドが、復讐に駆られ小隊の残党を1人また1人と血祭りに上げていく。しかしその先には、狂気のカリスマ、ブルーの遠大なる野望が待ち受けているのだった…。 現地のインディアンにまで取材をするほどの作者の熱気は銃器や歴史に大しての並々ならぬ リアリティを産む。特に個々人のキャラ(レッドの仲間は日本人や娼婦、障害者などのマイノリティばかり!)によって語られるアメリカ暗黒の歴史が。
 『小さな巨人』『ソルジャー・ブルー』などのインディアンものはもとより、マカロニウェスタンや時代劇まで飲み込んで遠大なスケールの日本産の西部神話が形作られた事は間違いない。レッドの個人的な復讐がいつしか大統領や国家そのものも巻き込み、いまやアメリカの未来は皮肉な事に弾圧したはずのインディアン1人の手にかかっている…一体どうなってしまうのか。これから、というところで掲載誌のアッパーズが休刊となり、死ぬ ほど読者をやきもきさせたのですが、この度無事ヤンマガ本誌にて連載再開、次に刊行される18巻をもって完結するんですよ …あああ気になる! 少なくとも、編集の口出しで引き延ばされた感のあるベルセルクよりも今はこっちの方が熱い!萌え盛んなる昨今でもこんな「燃え」もまだあったのね、と熱くなる作品ですよ。 (多田遠志)
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ノンフィクス・ナックルズ  MAGAZINE
(ミリオン出版) 562円+税
雑誌ジャーナリズムとは何か?
 日本には一応「表現の自由」が保証されているが、よほどの鈍感でない限り、そこには様々なタブーが存在していることがわかるはずだ。特に最近の公権力は巧妙で、個人情報保護法の名の下に取材の自由を制限するような条項を隠し入れることを平気でやってのけるから始末が悪い。長年政治家や権力者を震えあがらせた雑誌『噂の真相』が休刊した理由の一つが、この個人情報保護法の成立だったことを忘れてはいけないだろう。また、メディアが支払う損害賠償額の高額化も相まって、書きたいことを書けない状況が加速している。ここで注視したいのは、こうしたメディア規制の動きは、一般 人のプライバシーではなく、政治家や著名人など主に権力者の利権やプライバシーを守ろうという意図が大きく働いているというところだ。  そんな不自由な現状において、「世の中理不尽に喧嘩を売る雑誌」というコピーを掲げ、雑誌ジャーナリズムを真剣に追求する雑誌が創刊されたのは、驚異に値する。それが今回紹介する『ノンフィクス・ナックルズ』だ。
 思えば噂の真相休刊以降、ポスト噂真を狙った雑誌がいくつか創刊したが、どれもその意気込みに内容が伴わない感が否めなかった。
 『ノンフィクス・ナックルズ』は、現在の実話誌ブームを作り上げた『実話GONナックルズ』の久田将義氏が編集発行人を務めており、その期待は高い。もっとも、そうした期待に肩透かしを食らわすように、噂真とは別 物だということを編集者が語っているが、確かにその目的や内容は噂真とは異なっている。しかし、こうした雑誌に付きものの様々な障害、圧力に屈せず、雑誌の持つ信念を貫き通 そうという意志は噂真と同様のものだろう。
 この創刊号では、「金正日秘密資金」「石原都知事・恐怖の歌舞伎町浄化作戦」「芸能界と政治の闇コネクション」といった政治ネタから、「北海道警察の恥部」といった警察ネタ、「アントニオ猪木という闇」といったプロレスネタまで、様々な圧力が予想される問題を果 敢に取り上げている。久田氏がジャーナリズムの使命感を持った数少ない編集者であることは確かだが、もちろん本人はそんなこと口にしないし、商業雑誌としての娯楽性も十分に考えている。ゆえに「極上のノンフィクションは最高のエンターテイメント」と言えるのだろう。今後の発展が楽しみな雑誌だ。 (加藤梅造)
サハラ ─死の砂漠を脱出せよ─  MOVIE
6月渋谷東急他全国松竹・東急系にてロードショー
洗練された現代版アドベンチャー
 クライブ・カッスラーの冒険小説『ダーク・ピットシリーズ』といえば、ご存知の方も多いだろう。また、ワイドショーを騒がせた、ペネロペ・クルスとマシュー・マコノヒーの交際のきっかけとなった共演作といえば、これも別 の意味でご存知の方は多いはず。ベストセラーとなったシリーズのなかでも、特に人気のある『死のサハラを脱出せよ』を映画化し、その主役をマシュー、ヒロインをペネロペが忠実に再現したのが、この「サハラ」なのだ。
 主人公のダーク・ピットは、海底に沈んだ遺産を引き上げ現代に蘇らせるNUMAの優秀なエージェントであり、また、世界各地の財宝や神秘を追い求めるトレジャー・ハンターでもある。今回、彼のターゲットは、サハラ砂漠に眠る甲鉄艦の財宝だった。一方、ヒロインのエヴァはWHOの医師であり、担当する伝染病の感染源がサハラであると確信していた。共に同じ目的地を目指す彼らは、道中襲い掛かる危険をくぐり抜け、巨大かつ複雑な陰謀を発見することとなる。主人公のダークは、これまでのヒーロー像に笑いのセンスや軟派な一面 を加えた、誰もが納得のイイ男である。そして、アドベンチャー定番の古代遺跡のみならず、現代の自然破壊を絡めた展開がおもしろく、脇を固めるキャラクターの個性も秀逸だ。このように、今までの冒険映画にない要素がふんだんに盛り込まれているのが、「サハラ」の魅力なのだ。
 この映画はいい意味で、とてもハリウッド的だ。贅沢にお金がかけられていて、舞台の壮大な自然やダイナミックな演出は魅せてくれるし、ダークの部屋を彩 る小道具ひとつをとってみても手抜きなしに凝っている。冒険ものにつきものの、ご都合主義的なシーンも確かにあるが、とにかく観ていて気持ちがいい! これこそが、この類の映画では肝心なのではないか。鑑賞中は休む暇なくハラハラして、エンドロールではスッキリした爽快感に浸れる。その点で、この作品は完璧なアドベンチャー映画だ。小難しい芸術的な映画ももちろんアリだが、日常を飛び出して夢を見せてくれる、そんな映画らしい映画も絶対に必要だ。インディを超える冒険男を見てみたい、そんな人は必見。 (杉浦もも子)
あの胸にもういちど  DVD
キングレコードより4935円で発売中
皆さん御存じのあのキャラの元ネタがついに!
 主演のM・フェイスフルはM・ジャガーやK・リチャーズと多くのロックアーティストと浮き名を流した、ある意味世界でもっとも有名なグルーピー、である(当人も歌手ではあったんですよ、念のため)。「ミックの目の前でジミヘンに口説かれた」「J・モリソンの臨終に立ち会った」などなど、もはや生ける伝説と化している。この作品ではまだあどけなさの残るキュートな女性なのだが、背景を知ると何故かなお一層可憐さを増すから不思議だ。  夜明けに夫の寝ている間に寝室を抜け出し、浮気相手の元へとバイクを走らせる若妻の混濁した妄想と現実を描いたこの映画。レザー、バイクとかなりフェティッシュなイメージのある感じだが、若妻と不倫相手(アラン・ドロン)はかなり明確にSM的関係にある。無感動にドロンが歯でレザーのジッパーを引き降ろすシーンや、薔薇を用いた森での鞭打ちシーンとか、「SM」というとすぐヤクザが令夫人をかどわかして縄で縛って「ヒヒヒ」となってしまう我が国のSMと比べて何たる差か、と思ってしまう。「責めに胸ときめかせ、主人の元に馳せ参じる自主的かつ能動的なM女」の話なんてそうそうあるもんじゃないですね。考えるにこの映画が僕がフェチなるものに触れた最初なんじゃないだろうか。こんなのばっか観てたから即物的なAVは観なくなっちゃったんだな… マリアンヌのファッション、素肌に皮のツナギだけでハーレーを駆る、このイメージは間違いなく後の『ルパン三世』の峰不二子に受け継がれている。そうそう、日本、いや世界屈指のくすぐりビデオ作家、松下一夫氏(代表作『女スパイ拷問』)もくすぐりに目覚めたのは不二子ちゃんが悪人の秘密基地でコチョコチョマシーンにくすぐられるシーンを観たから、というのだからマリアンヌの魂百までといったあたりなのだろうか。 (多田遠志) ※サントラCD、Tシャツなどがついた「デラックス・エディション」も発売中。
Amazonで見る
UNDERCOVER JAPAN  DVD
4830円(ハマジム)問い合わせ03-5411-5012
第一部■暴風雨の北海道「風と共に去りヌ」(平野勝之)
第二部■さよなら東京(カンパニー松尾)
第三部■のほほん沖縄(真喜屋力)

 いろいろ問題になったDVDらしいが、とにかく平野勝之の史上に残る名作「ホワイト」が未だビデオ化されず、「もう一度見たいな」って思っていて、悲しい思いをしている時、加藤梅造が「そうですか、ホワイトもう一度見たいんですか? ここに真冬の北海道にチャリダーとしてはまった平野勝之監督がいるよ」ってこのDVDを渡された。あたしゃ、勝之監督の悪戦苦闘を一緒に感じたくって見たんだけど、いや〜凄いよ! 無茶凄い! なにがって・・・カンパニー松尾の真に迫った「はめどり」がだ! 何人ものはめどり志願の女性が出てくる。わたしゃ、今や歌舞伎町「裏ビデオ」専門家なのだが、これ程のぎりぎりアウトかセーフか知らないけれど、もうちょっとやそこらのエロでは滅多に抜けなくなってしまっている60歳過ぎの私が抜けたのだよ。なんと言ってもリアリティがありすぎ。いつも自然体で女と絡んでいる松尾監督の永遠の「はめどり名作」だ。これで君が抜けなかったら、わたしゃ、料金を返しても良いよって思うくらいだ。これまじ。これではいくら勝之監督が真冬の北海道で吹雪とちゃりんこで格闘しても、真喜屋監督がほのぼの沖縄を描いても、この「偉大なエロ」には絶対勝てないと思った。松尾監督のエロには何者も勝てない! これは私が断言する。カンパニー松尾のはめどりを堪能してから、勝之、真喜屋監督の映像を見ることをお勧めしたい。 (平野 悠)