戦場が培った非戦 イラク「人質」渡辺修孝のたたかい  BOOK
渡辺修孝 (社会批評社)2000円+税

無鉄砲な若者が非戦に行き着く過程
 なぜだろうか? 私は渡辺さんと会った瞬間、若干失礼だが「この人は面 白い」と思った。私はイラクから帰ってきたいわゆる邦人人質の人たちとも随分会ったり見てきたつもりだが、誰もがどこかこの渡辺さんとは違うなって思っていて、この何かがっしりとした体つきと飄々とした佇まいに感銘を受けどこかで変な胸騒ぎを覚えた。それは、やはり渡辺さんの摩訶不思議な経歴にあったのかも知れないと思った。高校を卒業して自衛隊に入隊する。その動機が「高校時代のクラスメートと同じく平穏を成就する生活は考えられない、自分を試すには自衛隊が一番だろう」と言うことだった様だ。その後渡辺は「戦場を体験したい、実弾を撃ってみたい」という動機からビルマ・カレン民族解放軍、その後日本に帰ってから新右翼一水会、そしてレバノン、パレスチナに渡り、そしてイラクでの「人質」になるのだ。かつては戦争好き(?)で無鉄砲な渡辺修行がなぜ、今更非戦主義者となって自衛隊反軍・小西誠(著名で不屈な反戦自衛官)の所までたどり着くのか? この戦争好きの若者が本当の戦場を回る中「非戦」に行き着く課程が実に面 白いのだ。私は「非戦」がオールマイティで正しいと言っているのではない。ただこの無鉄砲な若者が「非戦」に行く過程が面 白かったと言っているのだ。こういう本にありがちな変な「論陣」を張ることもなく文章も平易で読みやすい。「この世の中で起きている出来事は自分とは無関係でない・・・だから私は行動するのだろう。どうせ動くのなら型枠にとらわれない方がいい。」というのが渡辺修行氏の飽くなき行動追求の原型なのだろうと思う。さてこれからの渡辺がどういうレポートをしてくれるのか楽しみだ。 (平野 悠)

ドキュメンタリーは嘘をつく  BOOK
森 達也 (草思社)1700円+税
「公正中立な視点」を疑え
 最近は映像よりも文筆業の方が忙しそうなドキュメンタリー作家・森達也の最新単行本が届いた。しかしなんとも挑発的な題名の本だ。知らない人が見たら、この本はドキュメンタリー批判の本なんじゃないかと思うだろう。もっとも長年森達也ファンである筆者などは「むっ、これは森さん本気だな」と思わず姿勢を正してしまった。「ドキュメンタリーは嘘をつく」とはまさしく森達也が長年にわたってドキュメンタリーの本質を言い続けてきた言葉だからだ。
 一般的にドキュメンタリーは事実の客観的な記録だと思っている人は多い。これは(特にNHKをはじめとする)テレビ・ドキュメンタリーが「公正中立」「不偏不党」を掲げているからだ。しかし森はこの大義名分に疑問を持つことから自身のキャリアをスタートした。すべての映像は撮る側の主観や作為から絶対に逃れることはできない。ドキュメンタリー作品とは作家が作り出した虚構だということを自覚すべきだと。映画『A』『A2』で描かれたのは、自らを客観公正と信じて疑わず、正義の旗印を手にオウム叩きをエスカレートさせていくメディアの姿だったが、その暴走は9.11以降さらに加速している。しかし、世界は善悪二元論で描けるほど単純なものだろうか?
 「世界はもっと豊かだし、人はもっと優しい」という地平こそが森の立脚点なのだ。本書は、ドキュメンタリーのみならず、世界の見方そのものを豊かにしてくれるだろう。そして来るべき『A3』の完成を心待ちにしたい。 (加藤梅造)
JUICE MOOK『ロックな生き方』  BOOK
田代洋一 (バックステージカンパニー)1000円+税

ロックを手放さない
 筆者でありながら推薦文を書かせていただきます。まず『ロックの生き方』というタイトルは元々僕が考えたわけではなかったので、企画段階ではこのタイトルに(仮)が付いていた。若干気恥ずかしい部分もあったからだ。だが取材が進むに連れ、ロックとロックンロールという響きが少しずつド真ん中に入るようになった。24名ほど取材し、皆さんそれぞれのロック感が伝わってきた。絶対会って話す事ないと思っていた清志郎さんの取材では、あれ以上無いってぐらい緊張した。憧れの大江さんの時は福岡まで駆けつけて一対一で取材した。森山さんの時はザ・モッズのオリジナルアルバムを制覇し聴きまくって取材に臨んだ。この数ヶ月はRCサクセションとルースターズとモッズを何度も繰り返し聴いた。それだけで力が漲った。もちろん他の方々も、とてもためになる話ばかりだったし考えさせられた。そのロック好き度をヒシヒシと感じた。音楽シーンの最前線でCDの売上げ低下に悩む人がいる。他の誰かは次の何かを探している。ロックは身近になった。夜毎どれだけのライブが繰り広げられているのだろう。再生装置は小さく便利になり、音源は簡単に出せるようになった。ロックに賭ける思いは希薄になる。でもレコードを手にし、ロックンロールの魔力にとり憑かれた日々は忘れない。ロックを手放さない。そんな思いを抱き、ロックな生き方をしている人にこそ是非、手にしてほしい。(JUICE:田代)

愚者から愚民へ  BOOK
宮崎学 (スパイス)1400円+税
日本人はどこまで馬鹿なのか。
 うん、このタイトル、こりゃ〜いい・・・私も含めて日本人の馬鹿さ加減を実感できるな。先日、宮台真司さんと「Save the Simokitazawa」の話をした時「日本はもうどうにもならない。行くところまで行かなければ救えない」という話になった。この本は2003年から2005年までの間に東京新聞「本音のコラム」欄に書いた百回分を一冊の本にまとめ特別 寄稿として佐高信、魚住昭、姜尚中さん達のコラムまであるのだ。東京新聞で宮崎さんのコラムが始まったとき、それは評判で私ですら長年愛読していた朝日新聞をやめた位 でもあった。それ程面白かったと言うことだが、この本では100のテーマ(たとえば国家や市民運動の話から島田伸介事件まである)が簡潔に面 白おかしく書かれている。京都のヤクザの息子として生まれた宮崎さんはグリコ森永事件の「キツネ目の男」として警察に重要参考人としてマークされるのだが、・・・もう時効も成立しているのだから早く全部ゲロって気分を楽にしたらどうかね(笑) (平野 悠)
電波男  BOOK
本田 透 (三才ブックス)1500円
キモオタ界のニーチェ誕生、なのだろうか…。
 「横暴なDQNやイケメンがもて、ツラや金のみが全てと言った恋愛資本主義は間違っている!」「もはや恋愛は死んだ!」「我々はこの腐った3次元に見切りをつけてオタの見出した新しい価値観である『萌え』を胸に、2次元の世界へ旅立つのだ!」という過激すぎるアジテートを含むこの本。今までには全くなかった「サブカル本の皮を被った思想書」と言えるだろう。感化されたオタたちが、全国の書店にて平積みの『電車男』にこの本を重ねる…という抗議活動が流行中という話も聞く。教えに習って3次元を捨てて、「萌え」へと飛び込んでいく人も少なくないかもしれませんな。amazonで4位 という快挙を成し遂げてしまったこの本、かなり扇動的かつ挑発的に、アニメ、漫画に留まらず、映画、文学、事件(津山三十人殺しと宮沢賢治の対比には感心いたしました)まで出し、現実に対抗するための脳内逃避=「萌え」を構造的に解説していく。
 二次元恋愛の優位性、と言った下りは正直もっと解説して欲しかったし、引用する哲学的用語も曲解、極論が見受けられる(そこが面 白いんだが)。養老猛司を引くのもどうかと。ただ、500ページを一気に読ませるのはこの本に「力」があるからだ。実際この本はオタに興味の薄い者が読んでも十分に面 白いはず。ともあれ、被差別層であったキモオタからの世間への逆襲第1発目、としてのもくろみは十分成功したのではないか。
 今の流通のメインターゲットである女性層をばっさり切り捨ててるのは勇気あるなぁ。ビバ童貞本なんてのもあるが、あー言うのはハッキリ言って「昔はこんな俺だったけど、今はイケてるyo!」って言いたいんだろ?「リアルな女なんていらん!俺はキモオタでもいい!」と堂々と敗北&決別 宣言する本田さんを評価したい。(多田遠志)
※5/9にプラスワンで『電波男』イベントあり。著者の本田氏主催の『妹祭』も5/19に。
死んだ目をした少年  COMIC
古泉智浩 (青林工藝舎) 1100円+税
嗚呼、恥多きダメ人間の日々を二度、三度
 ボクは中学生の頃、いじめっ子側にもいじめられっ子側にも属することが出来ず、さらに運動でも勉強でも才能を発揮しない、教室にいるんだかいないんだかわからないような、なんだか中途半端なスタンスの地味〜な存在でした。それでいながら心の中ではいつも「いつか爆弾を作ってこんなウザイ世界を燃やしてやりたい…」などというアナーキー&デンジャラスな事ばっかり考えていて、ついでに頭の中は常時エッチーな事でいっぱいいっぱいでオナニーばっかりしているような、エロティカル・ノイローゼ野郎だったのだ。
 …それに比べて周りのクラスメートたちはセイシュンを謳歌しまくって、毎日ニコニコすごい楽しく過ごしている様に見えてさぁ…。ホント、こんなどーしよーもなくって、ダメダメな自分にもうウンザリで、ボクは日本一最悪な中学生だろう…と毎日思い悩んでどんよ〜りしていましたよ。まあ、さすがに自殺したいとまでは思わなかったものの、平均寿命の80才くらいまでの、とてつもなく長ーい残り時間にクラクラしていたもんですわ。
 そんなボクも、もう29才。自分の中の色んなコンプレックスとも、それなりに折り合いをつけて生きていく術を身につけて、そこそこ楽しい日々を送っています。人間、生きてりゃそれなりになんとかなるんモンだね。…そんな今日この頃、「チェリーボーイズ」「青春☆金属バット」等でお馴染みのボクの中での童貞セイシュン悶々漫画の第一人者・古泉智浩氏の新刊「死んだ目をした少年」を読みました。そしたら、ドッギャーン! …と脳内で、あの毎日悶絶しまくっていたダメ人間な日々が大爆発し、蘇って来たのだ。立場、スタンスは違えど、揃いも揃って悶々、うだうだ、モヤモヤ、ダメダメな中学生たち。それぞれの思が絡まり合いつつ、胸の奥に溜め込んだ黒〜いモノをゲボゲボと吐き出して、もがきまくり、…最後には閉塞しまくった日常にちょっぴり風穴を開けていく。ある意味、正しくリアルで冷静な視点の元描かれたセイシュン漫画。なんだか、昔の自分がだぶりまくっちゃって…もう…あー! ムズカユイ。そーだよな、セイシュンなんて美しくも輝いてもいなくて、ただただドロドロ悶々ジタバタ足掻きまくってるモンだったよな。それでいながら僅かに前向き、前のめりで鈍く光ってる、そんな日々。あー、10代のカピカピ童貞時代にこの漫画読んでたら、さらにズドーンっとハマってたろうな。ヤングな皆さんは是非とも読んだ方がいいよ。
 何かやりたいと思いつつも、なーんにもやれてなかった中学時代のボクは、確かにダメな童貞で、思いっ切りコンプレックスを抱えていたんだけど、きっとサッカー部でモテモテだったアイツも、大好きでキラキラ輝いて見えてた陸上部のあの子も、授業中にカーテンにくるまりながら煙草を吸って(そこまでして吸いたいモンか!?)停学になってたアイツも、みんなそれぞれの立場で悶々してたんだろうなぁ〜…(遠い目)。よーっし、明日からもうちょっとがんばって生きてみるぞッ!? …30近くもなってこんな事言ってるボクはまだ大丈夫かい? (青春サンダーロード・北村ヂン)
楽器挫折者救済合宿 ギター・ジャカジャカ  BOOK
きりばやしひろき (K&Bパブリッシャーズ)1600円+税

 ぼく、ピアノとトロンボーンとギターの演奏ができます。ただ、どれもこれもできるってだけで、どちらかと言うと下手糞です。しかし、できるってことを人に話したり、実際に演奏してみせたりすると、けっこうな高確率で「凄いねー」と言われます。演奏できる人にしてみたら全くたいしたことやってないのに、演奏できない人にしてみたら「凄い」ってことみたいなんです。なので、楽器の演奏ができるってなんだか凄いらしいからモテるんじゃないかって小学生のぼくは思いました。それが大きな勘違いだったってことに、今はもうとっくに気付いてます。楽器の演奏ができるからモテるってことは全く無いっす。マジで。演奏ができるってことを異性に対して如何に上手にアピールするか、ってところが重要なんですよ。そう、モテるやつってのは、意識的にしろ無意識的にしろ、それが上手なんです。ピアノだったら、ベートーベンのピアノソナタ「悲愴」の全楽章を弾くよりか、みんな知ってるショパンのエチュード「別 れの曲」を弾いた方がモテます。ギターだったら、超絶速弾きソロを極めるより、コード掻き鳴らしてケミストリー歌った方がモテます。そういうアピールができる奴ってのがモテるんです。いや、モテるとかそういう話じゃないや。すいません。閑話休題。
 で、楽器の演奏なんてものは、音さえ出せればそれなりに格好を着けられるものなんです、実は。音が出れば楽器の演奏なんて出来たも当然。楽勝です。  ということでこの本ですが、ギターが簡単に弾けますよ、っていう教則本です。ギターってわりと簡単に演奏できる部類の楽器だってのが、この本を読むとよくわかります。楽器を演奏するなんて、全く大層なことではない、ってこともわかります。譜面 が読めないとか、音感が悪いとかそんなこと全く関係無いってこともわかります。「楽器挫折者救済合宿」ってのは伊達じゃないっす。 (ミヤギツヨシ)

時効なし。  BOOK
若松孝二 (ワイズ出版)1800円+税
心の足が地についていく
 己の信念を、体を張って貫いてきた人の言葉。それを読むのは、揺るぎない石段を登っていくようで、心の足が地についていく。
 若松監督のお話を聞いても、やはりこの本でもそのことを実感します。「映画監督には時効や執行猶予がないんです。監督はいつも自分の作品について責任をとらなければいけない」とこの本のタイトルにも通 じることを本文で話されていますが、監督人生35年間で作品数は100本以上、そして今も撮り続けられている上でそうおっしゃるのがまた凄い。そんな凄い人には凄い人が集まる。特に私が印象的だったのは、日本赤軍とパレスチナの人たち、「俺か、おまえか」という瀬戸際に自ら進んで危険な場所に残る足立正生さん、理由の言えないお金を工面 してほしいと頼んだ翌日に若松監督を捜して雨の東京中を探し回った赤塚不二夫さんでしたが、様々な出逢いと人間的なやりとりが35年分記されています。
 若松監督の痛快な映画人生を読むと共に、人らしくあるためにはなにが必要かを、この本は教えてくれた。 (斉藤友里子)
失踪日記  BOOK
吾妻ひでお (イースト・プレス)1140円+税
しぶとく生き抜き、描き続けて欲しい
 初めて「吾妻ひでお」に触れたのは、姉が買ってきた雑誌で見かけた『ななこSOS』(81−85年)だったと思う。10代前半だった私には「とにかく女の子がカワイイ」という印象が残った。70年代に超人的量 の人気作を描きつつ、SFネタをちりばめたマニアックな作品も発表していた伝説の漫画家だとは知らず、純粋に絵のカワイさを楽しんだ覚えがある。89年、吾妻は表舞台から消えた。文字通 り仕事も家庭もなげうち失踪した…とは、後から噂で聞いた話だ。
 92年、かつて自販機エロ劇画誌に描かれた作品などを集めた『夜の魚』(太田出版)が出た。一読して「かわゆいラブコメ作家」だと思い込んでいた彼の内省的、性的な妄想に満ち満ちた作風に驚愕した。しかも、収録の描き下ろし短編『夜を歩く』は浮浪者体験記…まさか、噂が本当だったとは! その単行本でも後書きなどに登場することなく、吾妻は沈潜し続けた…90年代後半、1本だけ描いていた連載を読んだが、正直往年の力が描線には感じられなかった…  そして今年。沈潜していた間の事情を赤裸々に描いた本作が出た。巻頭、「なるべくリアリズムを排除して描いています」とある。失踪、自殺未遂、宿無し生活、肉体労働、アル中、強制入院…事象は悲惨極まるのに、明るく、そして確かな描写 力のカワイい絵のため、悲愴感を持たせない。腐ったリンゴで暖を取り、拘束された警察署でサインをねだられるなど、つい笑わせる。極限体験記という点で花輪和一の『刑務所の中』を想起するが、大きく違う点がひとつ…吾妻のアル中体験記は「続く」のだ…  収録作連載時にアル中の中島らもを心配する言葉があるが、単行本化に当たり追悼の言葉が添えられている。らももH・トンプソン(映画『ラスベガスをやっつけろ!』原作者)も逝ってしまった。だがぜひ吾妻さんには踏み止まり、描き続けてほしい…それこそバロウズのように、しぶとく生き抜き、描き続けて欲しいと、切に思う。 (尾崎未央)
話の特集2005  BOOK
(WAVE出版)1000円
雑誌が最も輝いていた時代の伝説の雑誌
 伝説の雑誌『話の特集』が創刊40周年を記念して10年ぶりに復刊した。『話の特集』は1965年という日本のカウンターカルチャー黎明期に創刊され、その後隆盛する若者雑誌文化に多大な影響を与えた。表紙は横尾忠則、デザインは和田誠、編集長は矢崎泰久。執筆者には、五木寛之、植草甚一、永六輔、遠藤周作、筒井康隆、寺山修司、野坂昭如など、今見ると錚々たる顔ぶれだが、60年代後半の時代の高揚するエネルギーが雑誌から発散していたことがわかる。特にビートルズ来日を追った「ビートルズ・レポート」の斬新さは今だ語り草になっている名企画である。
 これだけの雑誌をまとめていた編集長・矢崎泰久は当然のことながら相当に破天荒な人物で、雑誌の運営が厳しくなった時、執筆者に「雑誌を潰すか、原稿料を払わないか、どっちがいいんだ」と迫り、原稿料を払わないどころか執筆者からカンパまでもらったという笑える(笑えない?)エピソードがたくさんある。  そして10年ぶりに復刊した本誌は、A5版、400ページ以上の分量で定価1000円という驚きの内容で登場した。懐かしい顔ぶれから今をときめく人物まで、全部読むのに1ヶ月以上はかかる濃厚な1冊だ。是非一家に一冊。 (加藤梅造)
となりのイカン  BOOK
文:中山千夏 絵:長谷川義史 (自由国民社)1500円+税
ちなっちゃん、はじめてのえほん
 たまに実家に帰った時、子供の頃に読んだ絵本を引っぱり出して読んでみると、結構細部まで自分が記憶していることに驚く。たぶん何十回も読んだんだろう。今改めて読んでみると、すごくシュールだったり、滑稽だったりするのだが、それらは今の自分の人格形成にかなり影響を与えていると思うのだ。
 本書は中山千夏、初の絵本。「となりのイカンが いえでした とうさん あんまり しかるから あれしちゃいかん これしちゃいかん いってはいかん いかんでもいかん」といった軽快な節回しの平易な文章が読んでいて楽しい。ストーリーは、親にあれもだめ、これもだめと言われた子供が次々と家出していくという、大人が読むとちょっと恐い内容。でも、考えてみたら僕が昔好きだった絵本は、子供が冒険に出ていろんな経験をするといったものがほとんどだった(逆に教訓めいたものはあまり好きじゃなかったな)。
 子供のいる方は是非読ませてあげるといいのでは。 (うめ)
COALTAR OF THE DEEPERS 「FOREVER」  DVD+CD
IDBA-1001 3500円+税 4.13 ON SALE
これがCOTD!これぞCOTD!
 11月ロフトでの2DAYSを中心とした91年結成以来初の映像作品。お茶の間でディーパーズが! 首が伸びきってどうしようもなかったファンの方々、いやファンならずともお世辞ぢゃなくほんとこれイーです! まずザッと内容目次見て、これはヤバい!と確信。一筋縄ではいかない我らがCOTD。ライヴ映像とゆえどもただのライヴ映像ぢゃぁなぁい! 様々なCGが組み込まれたり、ある曲では映画を見ているような美しい映像だったり。曲の雰囲気とリンクするような退廃的演出が施されたカットや現在の姿と折り重なって泪目になってしまう当時のライブ&レコ風景…勿論あの日のイチマキさんの姿も! 1曲ごとに力の入った編集の仕方など見る者を飽きさせない常軌を逸する内容です。ちなみに映像と音に吸い込まれるので明るい部屋で画面 とは距離を置く事をお勧めします。  そしてPVは四曲納められゾンビ映画好きなナッキーならではのこだわりなのかリアルに恐怖な作品も! これにはメイキングも有りでメンバーは勿論、サポートのお二人も参加してゾンビへの成り方、楽しそうな製作の裏側も垣間見えます。是が非とも見て頂きたいインタビューはやっぱりです! やっぱりゆるいです! これぞCOTD! やられました。最後の最後にコレかあ!ですよ。ほんとこのバンド、好きだなあ〜てほっこり気分になる事間違いなし! CDもこれまたちゃあんと手が加えられて、やる時はやる! 抜く時抜くっなCOTD。これはほんとEーと思いまーす!! (村上えつこ)
マーク・トゥエインの大冒険   DVD
5040円 カプコン・セルピュータから発売中
やっぱコマ録りっていいわ…
 かつてTVCMで流れていてトラウマになった子も多いであろうカリフォルニア・レーズンのコマ録りアニメ。これを手掛けていたW・ヴィントンの長篇アニメがDVD化。粘土を使った「クレイメーション」なる言葉の創始者でもあるのです。周囲は書き割りやセットで動くのは人形だけ、ってのが普通 なのですが、ヴィントンは異なり、周囲、風景もクレイで作っているので、波頭や草木もグネグネと動く様はアシッディーで悪夢的でさえあります。
 DVDは日本語吹き替え版も収録、ヴィントン自身へのインタビューも収録と文句ない出来映え。子供の頃、恐竜はカクカク動くんだ、と思っていた僕のような向きには最適の1本ですな。この勢いでヴィントンがアニメを手掛けたマイコーの怪作『ムーンウォーカー』(映画の半分以上がPV! 悪い博士から子供を助けだせ! …ってそれ助けてないよ!)も出して欲しいものであります。(多田遠志)
Amazonで見る
ウィンブルドン   MOVIE
4月23日よりユナイテッドシネマ他でロードショー
スポ根と恋愛、どっちが必要?
 テニスを舞台にしたアニメは多々あるが、テニスの実写映画っていうのはあまり見たことないなあ、ということで本作品を観たのですが、これが結構新鮮な映画だった。主人公のピーター(ポール・ベタニー)は、引退を決意して最後のウィンブルドン大会に出場するランキング119位 の冴えないテニスプレイヤー。宿泊先のホテルで新鋭の若きプレイヤー、リジー(キルスティン・ダンスト)と偶然出会ったことから、ウィンブルドン大会と同時に2人の恋も始まっていく。伝統的なスポ根ものだとここで、恋をとるかテニスをとるかの間で揺れ動くのだが、このピーターという男はそんなこと全く気にしない。そして、リジーと親密になればなるほどテニスの調子もあがっていくという都合のいい男で、リジーの父親から面 会を禁止されても、リジーのアパートメントに窓から忍び込んで一発キメてから翌朝の試合に臨むという脳天気さだ。もっとも試合で調子が崩れるとすぐにナーバスになるのだが、観客席にリジーが表れたとたん調子を取り戻すというわかりやすさ(いやあ藤堂くんにも是非見習って欲しいなあ)。
 この勝利の女神(とういかアゲマン)を演じるのはキルスティン・ダンスト。『スパイダーマン』の“MJ”役ですっかりブスかわいさNO.1女優の座に君臨したが、彼女のコケティッシュな魅力こそがこの映画のキモだといえる。テニスルックはもうシャラポワ以上に魅力的! ちなみに撮影は実際のウィンブルドンで行われているので映画館のスクリーンで見ると臨場感抜群です。 (加藤梅造)
恋の腹痛、見ちゃイヤ!イヤ!  BOOK
井口 昇 (太田出版)1300円+税
従来想像するようなうんこのイメージが 出てこないまま読めてしまう
 井口昇さんと言えば、大傑作『恋する幼虫』の監督で、映画や舞台に役者でも出演していますが、他にAV監督としての顔もある方。その井口さんが本を出された。この本には、井口さんがどうして「うんこ」というものに拘りを持つのか、幼い日から今日に至るまでの思い出と、AV監督活動で出会った人たちとのエピソードと共に綴られています。本文の2行目から「うんこ」という単語があり、索引をみると「うんこ」登場ページ88P「うんち」25Pと、確かにうんこに纏わる話しはかなり出てきます。度肝を抜かれるエピソードも満載です。しかしなぜでしょうか、従来想像するようなうんこのイメージが出てこないまま読めてしまうのは。読後には切ない余韻が漂い、憑き物が落ちたような気分にすらなります。そしてまた手にとると読むことがやめられない、癖になるこの本。うんこと言って敬遠なさらずに、ページを開くとそこにはえもいえぬ 面白さが待っていると思います。 (斉藤友里子)