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鬼の闘論   BOOK
松崎明×鈴木邦男 (創出版)1500円+税

「今の時代、アウトローの存在が必要なのだ」
左右両極の論客が現状を憂え、変革を説いた(帯より)
 私は「書評」を書くつもりはない。いや、とても書けない。だから私は扱う本の周辺を書いて出来たらみんなに私が紹介する本をただただ手に取って欲しいと願って書いているのである。
 私は鈴木邦男さんと宮崎学さんの本はほとんど読破しでいると自負している。私はこのお二人が出す本や種々の発言にはとても影響を受けている。
 この「鬼の闘論」の筆者、鈴木邦男さんは日本の新右翼の代表格の人で、その昔は生長の家から右翼になり70〜80年代は右翼の武闘派だった人だし、松崎さんは新左翼過激派集団「核マル派」の幹部で労働運動に入った人だ。言うなればお二方ともなんとも「うさん臭い」人なわけだ(失礼)。まっとうな人でないことは皆さんも知るところであろうと思う(笑)。こういったまっとうでない人(アウトロー)が、実は社会をえぐり腐敗し続ける権力に立ちむかうには最適なのだ。いや、もう健全なマスコミなんかなくなってこういったアウトローの人達が頑張っているだけになってしまったのかも知れない。
 日本は今とてもやばいところに来ている。そしてイラクでの日本人人質パッシングのように、社会の規範から反した人をいわゆる善良な日本国民が猛然としたパッシングを加える。「あんな連中を助けることはない!」ってね。戦前はあの戦争に反対した「日本共産党」や「アジア諸国」を権力だけでなく善良な人々が平気で異質物を見るがごとくパッシングしてファシズムに行き戦争に突入して行った。繰り返すが善良と言われる国民ほど危ない存在はないと思う。異端者を毛嫌いする奴ほど危ない。このアウトローの二人の対談を読んでいてこの二人の発言がまっとうに見えてしまって思わずノートを取ってしまった。果 たして私は「まっとう」なのであろうか? こんな二人の本を薦めていたら私も社会からパッシングされるのか? この本を出版した「創出版」は出版界最後の良心だと思う。ちょっと誉めすぎ? (平野 悠)

サバイバー   BOOK
チャック・パラニューク (ハヤカワ文庫NV)840円
破滅へと向かう飛行機の中から語られる、 世にも恐ろしい愛の物語
 ブラッド・ピット主演で映画化された『ファイト・クラブ』(観ていない人はこれから観られるのが羨ましいです)の原作者、チャック・パラニュークの長篇2作目。カルト映画となった『ファイト〜』の評判もあり、この『サバイバー』もアッという間に映画化権は売れた。しかしこの作品はこれからも恐らく、決して映画化されることはないだろう。それは、NYにて9/11のテロが起こってしまったからである。何せこの小説、主人公がハイジャックした飛行機の中でただ1人(他の乗客は全て降ろした)、ここに至るまでの自分の一生を回想していく、しかも飛行機はもうすぐ燃料切れになる…というオープニング、それどころかページ数451から、章立ても47からカウントダウンしていく(最終ページが1)と、今までの出版界にも例を見ない風変わりなモノなのだ。大日本印刷の方、御苦労さまです。
 『サバイバー』=生存者、である。カルト教団の子として生まれ、厳しい戒律を守って生きてきたが、長男長女以外は人にあらず、という教えにて資金源調達のために「すてきな奥さま」的知識(「Yシャツの血のシミはレモンの輪切りで叩くとバッチグー」とか)のみ山ほど詰め込まれてお手伝いとしてのみ生活してきた主人公。それしか生きる術を知らないから。しかしある日彼はニュースで故郷である教団の集団自殺を知る…帰る場所を失った彼、テンダー・ブランソンの辿る奇妙な運命とは…といったザックリとしたあらすじ説明が意味ないほど、余りにもたくさんのモチーフが詰め込まれている。新興宗教、命の電話、予知能力、殺し屋、奇跡・・・・現代の病理の博覧会のようなストーリーがそこに紡ぎだされている。
 カルトなどの刺激的かつ衝撃的なテーマを扱っているからだけではないだろうと思うのだが、パラニュークの語句の合間合間からは、「死」が色濃く匂う。そして、孤独感が。電話相談室に成りすました彼の元へかかってくる様々な相談への返答「死ねばいい」のリフレイン。破滅しか予見しない予知能力少女ファーティリティ。登場人物たちは決して混じりあえず、それなのに皆それを求めて足掻く。人間という生物にとって重要なコミュニケーションであるはずの「性」の匂いは、彼の小説には希薄だ。そしてそのかわりに、生を実感するための痛み、その延長上に浮上してくるテロリズム幻想…正直9/11後の世界に良く文庫化できた、と思うほどの危険な本ではある。そう、確かにパラニュークの幻視するように「『破滅』に向って人生は進む」のだ。過激なアジテートに拒否感を示す読者もいるかもしれない。しかし、もはや絶滅寸前のメディアと化した文学界で、一体どれだけの作品が現状に異義を唱えたり、固定観念を打ち破ったりできるのか。むしろ9/11の後だからこそ、一人でも多くに読んでもらいたい。
 パラニューク本人も、目の前で実父を射殺された経験があったり、短編朗読会で受講者が30人集団失神したりととても興味深い。間違いなく次作が世界一気になる作家である。(多田遠志)
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エヴリバディーエヴリシング   COMIC
ウィスット・ポンニミット (マガジン・ファイブ)1300円+税

果敢で、でも冷静で、本当に魂の美しい人が 描いた漫画なんだと思います。
 古い大学校舎の部室にある忘れられたノートに、誰かが描いていったようなかわいらしい絵柄。書店でふと気になって手にとってみると、左開き。でも外国の人の漫画には思えなかった。登場人物たちがいる世界はどうやら日本ではないみたいだけど、違う国のどこかの国の話しには思えない。自分の身近な話しに思ってしまう。どうやら作者はタイの人らしく、同じアジアだから共通 点が多いのかなと不思議に思いつつ、読んでいくとなんだか知らない間に涙が出てきた。
 人には(宇宙人にも)色々な人生があって、色々とあって日々を過ごしている。ごくあたりまえのそのことが描かれているその世界は、美しすぎずに心を動かしてしまう。
 もう「この本を読んで…」としか私には言えません。
 果敢で、でも冷静で、ちょっとひょうきんで、本当に魂の美しい人が描いた漫画なんだと思います。(斉藤友里子)

[ウィスット・ポンニミットprofile] 1976年生まれ、タイのバンコク育ち。1998年にマンガ家デビュー。タイでは中学生から学者までの読者を持つ、バンコクポップカルチャーの中心に位 置する若手アーティスト。他にミュージシャン、アニメーション製作など、漫画に留まらずその才能を発揮しており、東京都内では個展、アニメーション上映、音楽ライブなども行っている。日本の漫画の影響を受けていて、主に『タッチ』と『ドラゴンボール』とのこと(す、すごい…)

「暗室」のなかの吉行淳之介   BOOK
大塚英子 (日本文芸社)1500円+税
セカチューより純愛! 呪怨よりホラー! ショック! 愛する男に28年軟禁された女
 新刊として並ぶこの本を見て、不思議でならなかった。著者は、作家吉行淳之介が死ぬ まで愛人関係にあり、小説『暗室』のモデルだった女性。何と28年間、事実上の「軟禁」生活を受け入れ、時折連れ出される以外はワンルームでじっと隠遁しながら彼の訪れを待つ生活を送っていたのだ。詳しくは彼女自身が処女作『「暗室」のなかで』と『暗室日記(上下)』(95年、98年、共に河出書房)に書いている。
 正直吉行のことは余り知らないが、大塚女史の『日記』でも絶倫ぶりだけは物凄く伝わってくる(何を表してるのやら、○、◎やらの記号が吉行氏60代後半になっても3日置きくらい頻繁にでてきます)。とはいえ大塚さんは文才豊かで、性愛行為を描いても下品さを余り感じさせない。吉行の生涯にわたるパートナー、宮城まり子に対する敵意がどうしてもむき出しな嫌いはあるが…。メールもケータイもなかった頃、囲われ女(文学者らしく吉行は「手活けの花」と彼女を呼ぶ)として男を待ち続けるだけの生活。完全に彼のみに依存して生きながら見舞いに行けないどころか、彼の末期をTVニュースで知るしかない場面 は、どの本で読んでもたまらなく痛切で胸に迫る。
 とにかく彼女が自身に課した「愛人の掟」は凄まじい。要約すると、<…いつ訪れてもいいように、「暗室」ではベビードールのような薄物だけを着た。食物が体に詰まった状態で抱かれるのがイヤで、また「ある個室」に飛び込むことは美意識が許さなかったので、彼の滞在中は食べない、飲まない、出さない…を28年間守り通 した。> 凄すぎ!  ほとんど天女…この人間離れした生活の為か、このひといつまでも若い…91年ごろ撮影の写 真がどうみても20代前半にしか見えない。53才の筈なのに!
 さて、冒頭「不思議」と書いたのは、処女作で吉行との愛を極限まで書き尽くしたように見えた著者が、今、なぜ似たような趣向の新刊? という疑問だった。稲葉真弓(阿部薫と鈴木いづみの愛憎生活を小説化した作家さんですね)は処女作文庫化時の解説で「今後どのように(略)『暗室』を出て生身の女として生きていくのだろう」と書いている。私も全く同感で、処女作は遺書だろうか…と思っていた。が、10年を経ての新刊。何か新事実が?…ところが新刊を通 読してみたものの、処女作以上の描写はそれほどない。正直、「焼き直し?」と思われても…あれほどの美意識の著者なのに、なぜ? 何かひっかかる…  突如あることに気が付きました。本書刊行の少し前、昨年6月、宮城まり子の陰ですっかり忘れ去られた戸籍上の妻が回想記『淳之介の背中』を刊行していたのだ。帯は「だれが本当に淳之介を愛していたのか」。未読ですが、宮城女史も2001年に『淳之介さんのこと』を出してます。…勝手に推測するに、宮城女史の著書はまだしも、本妻の著書、特にその帯文は大塚さんにとって堪え難いものだったのではないかと… 大塚さんによると吉行は86年に「俺も40年もの(本妻)、30年もの(宮城)、20年もの(大塚)を抱えて大変だ」て趣旨の発言をしたとか。修羅の核にいた男が死んで10年しても60、50、40年ものの女らが火花を散らしあっているように私には思えます。書く事書いたら自殺してしまいそうな儚げな風情を醸していた大塚さんが、今回(既刊に似た)新刊を出して愛を叫ぶ姿は…美しくも恐ろしい… (尾崎未央)
日本の実話   COMIC
河井克夫 (青林工藝舎)1500円+税
ちょっとした日常からの逸脱
 冒険家でも芸能人でもない多くの一般人(もちろん僕もそこに含まれる)は、日常を退屈で平凡なものと考えがちだ。今日は昨日と同じだったし、明日も今日とたいして変わらないだろうと。しかし、ずっと続くかと思われた僕達の平凡な日常は、ふとしたきっかけで迷路に迷い込んでしまう時がある。それはほんのはずみのようなもので、例えば無理矢理上司に連れられて行った風俗店だったり、たまたまアクセスした出会い系サイトだったり、新しく始めたバイト先で、そのきっかけは突然訪れるのだ。
 河井克夫の新刊『日本の実話』は、文字通り「実話」を基にした短編マンガ集だ。実話といっても、ニュースで報道されるような大事件ではなく、普通 の人がちょっとしたきっかけで体験する奇妙な出来事とでも言うようなものだ。例えば「偽装結婚」は、寿司屋の板前が、客の中国人ホステスから突然、偽装結婚してくれと持ちかけられる話。入国管理局からビザがおりるまでは一緒に生活するふりをしなければならないが、250万の報酬につられて男は偽装結婚を承諾する。その中国人ホステスにはマフィアらしき男がついているのだが、その板前はSEXは拒否されながらも新婚気分を味わっているようで、偽装生活がまんざらでもない様子が読んでいておかしい。他の話でも平凡な人がちょっとしたはずみで事件に巻き込まれていく様が描かれるが、決して不幸とまではいかず、無事日常に戻っていく。どれも滑稽ですらあり、読後の後味は悪くない。これらの小さな実話が僕達の平凡な人生にスパイスを与えてくれるんだなと思える不思議な味わいの短編集だ。 (加藤梅造)
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西東(saitou) 01   BOOK
西東事務局(03-5286-3427) (鳥影社)1000円+税
何の気なしに読んでみた同人誌
 ある秋の深まった日。友達から何も言われること無しでこの同人誌をいただいた。タイトルの表題の読み方すら解らず、数ヶ月私の書斎の隅に埋もれていた本だ。先日何の気無しに手にとって見た。そう言えば長谷川現道さんが中国について書いていたな?って思い出したからだ。
 長谷川さんの中国論は定評がある。収録されているのは「ちやいにぃず 曼陀羅・体験的辛口中国人論」なのだが読んでみる気になった。「ウン・・・なかなか面 白い」って思った。中国各地を何年も歩き続けた長谷川さんの中国人論は実に説得力があると思った。ついでに巻頭ロングインタビュー「高野孟に聞く 我カク戦ヘリ・21世紀への糞望」と言う題で福島泰樹さんがインタビューしている。これが実に面 白い。高野孟ってこういう奴だったのか? 歳も丁度私と同じ昭和19年生まれだと思った。インタビューでは60年代後半から70年代の日本共産党時代の事が中心に語られている。そして日本共産党エリートとして学生運動(共産党系)に関わるが、最後はこれも宮崎学さんと同じで、「裏切り者・スパイ・金で買収された」と言うレッテルをはられて放逐される。これが戦慄するぐらい面 白い。なぜあの時代格好悪いと言われた共産党入党なのか?も、宮崎学(キツネ目の男)さんを照らし合わせてよく解った。
 この小誌はどこで手に入るのかも解らない(模索舎あたり?)
 この小誌の書き手も、編集者もこの本がルーフトップで紹介されていることは知ること無しに終わると思う。ここの読者のたとえ数人でもいいから「こんな価値ある同人誌」を手にとって悦に入るのもいいのかも知れないと思って紹介した。 (平野 悠)
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LOVE   写真集
写真:橋本 塁 (MMP)2500円/『LOVE』+記念T-shirts スペシャル限定パッケージ 3200円

「LOVE」しか感じません。
 いつからだったか。自分が行くライヴで必ず視界に入るカメラマンがいた。その人は、ある時はステージの上に乗り出してカメラを掲げ、ある時はキッズの上でゴロゴロしながらカメラを構えていた。そんなことされたら、いやがおうにも気になるわけで。だって、ただ写 真を撮るっていう概念じゃあんなスタイルにはならないもの。ステージに立つバンドでもフロアにいるキッズでもないけど、違う立ち居地で「ライヴに参加する」ことが大前提、その上でカメラがついてきたとでも言うようなスタイル――順番こそ変則的かもしれないけど、徹底した現場意識を持っていて、且つ自分にしかできないことをしようとしている姿勢を感じた。そこに勝手に自分が目指してるものと共通 しているものを感じたりもして。で、ひょんなことから仕事で関わることになって、そっから何だかんだで、この原稿を締め切り3日前にいきなり振られるくらい仲良くさせてもらってます……もっと早く言ってよ〜!
 まあそんなことは置いておいて、この写真集『LOVE』は、そんなカメラマン橋本塁の、カメラマンを超えた生き様みたいなものが写 し出されている作品だと思うわけです。対象はバンドのライヴなのだけど、その1枚の写 真に人間性や音楽性やその日のバンドのテンションまでもが赤裸々に焼きついている。写 真の技術だけを育んできただけではない、バンドとの友情も育んできた塁くんにしか撮れない、言わば「塁くんそのもの」な写 真集なのだ。収録バンドは、Dashing Straight、DOLCE、DOPING PANDA、FUCK YOU HEROES、HAWAIIAN6、HOLSTEIN、iSCREAM7SHOWERS、jr.MONSTER、locofrank、LONG SHOT PARTY、LOST IN TIME、マキシマム ザ ホルモン、NOB、NO HITTER、PATHFINDER、SABOTEN、SAIGAN TERROR、SCUM BANDITZ、SHACHI、STOMPINユ BIRD、the band apart、The Water Buffalos、WRONG SCALEと、多岐に渡りつつも現在のライヴハウスを熱くしているバンドばかり。Tシャツ付で3200円で発売中です。お問い合わせ・購入はホームページ(www.mmptokyo.com)まで。 (ロッキング・オンJAPAN編集部 高橋美穂)

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追悼 岡本喜八  画像は『独立愚連隊』
東宝ビデオから\5607で発売中
また巨星墜つ
 岡本喜八までもが死んでしまった。これでは日本映画はリューヘーとかセカチューとかだけになってしまうではないか、とまた亡命など考えたくなってしまうのだった。とはいえここ十年ほどはほとんど作品も撮ってない状態ではあったのだが…。もう「キハチ」の事をあまり知らぬ 人も多くなって、皿やお菓子のブランド名、くらいにしか思ってないんじゃないだろうか?  後年はさておき、どちらかと言うと洋画偏向主義だった筆者にとって、あ、日本映画もわりかし捨てた物ではないなぁ、と思わせたきっかけがキハチの『独立愚連隊』だったのである。
 敗戦国である日本やドイツの戦争映画、というと『ガラスのうさぎ』『はだしのゲン』のような被害者に極端に偏ったものか、戦場を描いていたとしてもラストには何らかの悲劇と共に「センソウ・ヨク・ナイデス」というものだらけだったわけで。しかし映画、カツドーって言うくらいだからアクションだろ、だったら戦争でアクションやって何が悪いのか…そんな発想から生まれたこの作品、はみだし者の中隊が軍内での存在の都合の悪さから次々と死地に送り込まれるが、持ち前の機転でひょうひょうと生き抜いていく、そんな話であります。ラスト、5、6人で中国軍の大群に対して「一人あたま50人だ!」と死地に赴くあたりは『ゾンビ』にも似た名シーンだとおもいます。このクライマックスを「野蛮だ」と批判され、続編『独立愚連隊西へ』では日vs中国軍数千の大激突シーンを一滴の血も流さずに解決(解決法は是非観て確認して欲しいです)、そんな反骨もあった人なので。
 キハチは他にも、終戦時の青年将校のクーデターを描いた『日本のいちばん長い日』や特攻隊青年の回想からなる『肉弾』のように、あの戦火を生き抜いた、いやある意味死ねなかった者の矜持、といった物を持ち続けた作品が多かったように思う。これは同時代人の山田風太郎などにも言える事なのだが。組織や時代に弾かれ、はみだした者にこそ、物事の本質は見出せるもの。そんな彼の生涯テーマを、今こそキハチの作品を通 してかえりみられて欲しい…とはいえほとんどの作品がレンタルビデオ等でしか接する事ができない、というのは納得が行かない。ヤクザの縄張争いを野球で解決、死の野球ゲームが開催される『ダイナマイトどんどん』など、是非観て欲しい作品ばかりなのだが。
 しかし、筆者などキハチ死去の報に「お、これで追悼企画でDVDとか軒並み出ますね」などと不謹慎な事を考えてしまった事もまた事実なのだ。げにおそろしきことかな。でもナチスの残党が精神病者を訓練、スゴ腕の殺し屋に仕立て上げる『殺人狂時代』はでないんだろうなぁ、セブン12話みたいに。(多田遠志)
世界で一番パパが好き!   MOVIE
東芝エンタテインメント配給/3月26日(土)より新・みゆき座系にて全国ロードショー!
「失った大切なもの」
「今ある大切なもの」

 華やかなNYを舞台にストーリーは始まる。音楽業界の敏腕宣伝マンとして順風満帆な生活を送る主人公のオーリー。美しい編集者と一生に一度の恋に落ち、結婚そして妻の妊娠。仕事と家族の両方を手に入れた彼は「人生の幸せ最高潮」にいるようにみえた。しかし、いざ出産という日、妻は可愛い愛娘をオーリーに残し、一人天国へ旅立ってしまったのだ。そこからのオーリーの人生は一転、今までの生活からは想像もできなかった現実に次々とぶつかることに・・
 この作品の魅力のひとつにキャストの豪華さがある。主人公の取り乱しっぱなしの未熟なパパを演じるのはベン・アフレック。「セックスとビデオ」を論文テーマにする過激なヒロインにリヴ・タイラー。音楽界からもジェニファー・ロペスがベンの妻役で、ウィル・スミスがなんと本人の役で登場する。彼らをはじめとした魅力的な役者陣が、「家族」をテーマとした本作品において、愛すべきキャラクターとして登場し、観ている側を飽きさせることがない。そして、なんといってもベンの愛娘ガーディを演じた新人子役ラクエル・カストロ。特別 べっぴんさんではないけれど「おしゃまさん」という言葉がぴったりな彼女のキュートさにはもう脱帽である。
 映像は全体的に深みがある。NYの都会的で煌びやかな美しさ。一方ではニュージャージー(主人公の故郷)の田舎ならではのゆったりとした時間の流れや温かみを感じさせ、舞台となる対照的な土地の魅力を効果 的に演出している。子育てを第一に考えるなら、父の家があるニュージャージーに留まるべき。しかし、自分の夢を追い求め、華やかなNYでの生活に返り咲くことを望むオーリーは、ふたつの相反する美しさをもつ街の狭間で苦悩し、成長していくのである。
 映画全体にちりばめられたブラックユーモアや、これまたブラックな舞台「スウィーニィ・トッド」が作中の重要な要素になっていることからも、決してファミリーだけに向けられた作品ではないことがわかる。この作品は、その延長線上にふと足をとめて「家族」や「家族と同じくらいあなたを大切に想ってくれている人たち」について考える時間を与えてくれる。作品冒頭でガーディにだされた小学校の宿題「作文テーマ:MY FAMILY」の答えを、あなたも作品を通じてみつけてみてはいかがだろう。 (杉浦もも子)
BAMBO   吉永マサユキ写真展 3/21まで 入場無料 at graf media gm (TEL/06-6459-2082 URL/www.graf-d3.com)
じっと見ることから全てが始まる
 大阪・十三生まれの写真家、吉永マサユキの写真展が、NYに引き続き地元大阪で開催されている。暴走族、ヤクザ、在日外国人、ドラァグ・クイーン、ロッカー、ボクサーなど彼の被写 体は圧倒的に社会のアウトサイダーであることが多いが、今回の写 真展では、特にライフワークとも言える暴走族やバイクの写 真が展示の中心だ。暴走族を賞賛するのでもなく、また非難するのでもない吉永のスタンスは、ただ彼等暴走族の姿をありのまま写 し撮ることである。そこに見えてくるのは、暴走族という抽象的なイメージではなく、十代の少年少女たち一人一人の姿であり、生き様であり、真っすぐな視線である。一般 社会が暴走族を単なる社会悪として排除する前に、もっとやらなければいけないことを吉永は写 真という表現活動で示している。人間が人間をじっと見つめること。それはすべてのコミュニケーションの始まりであり、社会にとって一番大切なことなのではないか。雑誌『DUNE』の林文浩は吉永を「彼ほど人間が好きな人はいない。そして、何かの要因によって社会から疎外されている人々や社会的弱者、差別 を受けている人々に対して、本当の意味での優しい眼差しを向ける。」と評している。
 写真集も多く発売されているが、是非この機会に吉永マサユキの写 真をじっくりと見つめに行ってみてはどうだろう。(梅)
ことばをうたうバンドあなんじゅぱす3本立てライブ公演 『タンポポ咲くソングラインに沿って』『ピチベの哲学』『夜の江ノ電』 
4/2〜4/10 こまばアゴラ劇場 予約・お問い合わせ:青年団 TEL03-3469-9107
人はなぜ「うたう」のでしょう?
 「あなんじゅぱす」とは、正岡子規の短歌から谷川俊太郎の現代詩までをオリジナルの楽曲として演奏する「ことばをうたうバンド」。作曲、歌、ピアノを担当するひらたよーこは日本の現代口語演劇を代表する劇団・青年団の俳優でもあり、「詩と旋律の必然性」を問いつづけるあなんじゅぱすの活動は、音楽というジャンルを越え、演劇、短歌、そして現代詩といったさまざまの分野で高い評価を得ている。
 今回の公演は、現代詩人・藤井貞和の詩をタイトル曲にした『タンポポ咲くソングラインに沿って』。夭折の天才詩人・中原中也が生涯をとおして到達しようとした“たしかにあすこまでゆけるに違いない”場所を、写 真家・田中流の幻灯写真とあなんじゅぱすの音楽で綴った『ピチベの哲学』。そして、詩人・田村隆一の詩をテーマソングに、鎌倉ー藤沢間を走る単軌鉄道”江ノ電”の車窓に写 る叙情詩を歌った代表作『夜の江ノ電』の3本立て! 僕も一度観て以来すっかりその魅力にとりつかれているのですが、是非多くの人にあなんじゅぱすの幻想的な美しい世界を体験して欲しいと思っています。超推薦!(梅)
●詳しくはあなんじゅぱすHPを参照> http://homepage3.nifty.com/unangepasse/