新・中学生日記4   COMIC
Q.B.B. (青林工藝舎)980円+税

背伸びして頑張ってたなぁ、あの頃…
 うわー、やばいです。これを読んでいたら沸々と中学時代のあんな事やこんな事が蘇ってきちゃいました!『ヘボヘボ中学時代』とあるように、どうやら誰もが通 ってきたはずのあの時期はカッチョ悪くてヘボーいものだったらしい。“どうやら”と付けたのは、私がその事に気付いたのがここ最近になってからだからです。え?遅い?
 少女漫画で育った私は、妄想・美化・封印をする癖が今も昔もある為、思い出すと穴を掘って埋めたくなるような恥ずかしい事は頭のすみっこに寝かせていたようです。…が、起こされました。ここに出てくるエピソードやクラスメート達はそれらを目覚めさせてしまうくらいの力があるようです。個人的に私は“キノジュン”とあだ名される女子に愛着持ちました。元気でおきゃんで惚れっぽくて、頑張ると空回り…。かわいらしいなぁ。他にもこんな奴いたなぁと思わせる魅力的なクラスメートが満載!それぞれがとても個性的。その子にしか分からないようなこだわりを持っていたり(今思うときっと些細な事)、全く意味のない行動をしてみたり(特に男子がやりがち)、個人的にしか流行らない言葉やモノがあったり。
 今回発売されたこの四巻では、そんなクラスメート達の個性も開花されてます。私が“キノジュンお気に”になったように、読むとそれぞれのお気にキャラができることは必至でしょう。サイトーさん(最強番長)の恋はいったいどうなるんだろう…ドキドキ、などとつい感情移入せずにはいられません。この感情移入しちゃう所が、恥ずかし乙女なあんな事やこんな事を呼び起こされてしまった理由のひとつかもしれません。
 浮かび上がってきますよー、あの日々が。
 背伸びして頑張ってたなぁ、あの頃…(遠い目) (鈴木 恵)

人間コク宝 ドトウの濃縮人生インタビュー集   BOOK
吉田豪 (コアマガジン) 1524円+税
人間国宝を超える人間コク宝たち!
 エロ本から朝日新聞まで、あらゆる媒体で連載を持つライター兼プロインタビュアー・吉田豪のライフワークとも言える芸能人インタビュー集第2弾が待望のリリース。
 前作『男気万字固め』(エンターブレイン)では、山城新伍、ガッツ石松、張本勲など大御所かつ男気系な人が揃っていたが、本作の方は、坂上忍、岸辺四郎、三浦和義、真木蔵人、田代まさしなどチョイスの幅は一見広く見える。しかし吉田豪が取材対象に迫っていくポイントはやはり、その人から溢れ出る業としか言いようのない、何かとんでもなくスゴいものをいかにすくい取っていくかだ。そうした作業は根本敬の因果 者探求にも近いが、吉田の場合、その対象の多くが芸能人であることから、駆け引きもまた独自のテクニックを駆使している。その一つが本人も忘れているような過去の著書や発言を徹底的に下調べしてから取材に臨むという「本人よりもその人に詳しい」インタビュー術だ。本書でも「俺、そんなこと言ってた?」という発言が頻発しており、吉田が仕掛けるいくつものトラップに取材対象が知ってか知らずかどんどんハマっていく様は読んでいて快感すら感じてしまう。あとがきで「(取材対象にとって)情けない話をあえて本人に直撃するのが重要なんだよ。実は、そこで相手の度量 を確かめてるって部分もあるんだよね」と少しだけ手の内をあかしているが、吉田が相手の胸ぐらに飛び込むためのテクニックの数々は、人間関係のいろいろな場面 で参考になるはずだ。
 前述したように本書には様々なタイプの芸能人が取り上げられており、読む人によって興味を引く部分も様々だと思うが、やはりジョー山中、桑名正博ときて内田裕也へと至る過程は、読者を果 てしない人間コク宝巡礼の旅に誘ってくれる最大の読みどころだろう。ちなみに僕の個人的な興味として強烈なフックとなったのは、ジョニー大倉とROLLYが語った自分の弱さについての独白だ。ROLLYが「僕は自分のことは何を話してもいいと思っているんですよ。ロックミュージシャンがそういう部分を隠して、カッコいい人を装うことに対してすごく反感があった」という発言は、まさにロックの本質といえるもので、これを読んで僕はROLLYの作品をきちんと聴いていなかったことを深く反省した次第。このようにいろいろと発見の多い濃密な単行本だ。 (加藤梅造)
山田洋次の<世界>−幻風景を追って   BOOK
切通理作 (ちくま新書) 740円+税
ふられ続ける寅さんは永遠の童貞少年だった?
 山田洋次の映画はあざとい。基本的に登場人物に悪人は出てこないし、「性」と「欲」に関わる生理的描写 は極力避ける。つまり「誰もが安心して楽しめる」優等生的娯楽映画というワケだ。  彼の師匠筋にあたる野村芳太郎の過剰な人間ドラマとも違う。小市民的世界を題材にするという点は共通 するが、小津映画の映像主義的な姿勢とも異なる。彼の映画にはいわば「アク」がない。見るたびにいつも、「ま、良くできてはいるんだけどさ…」と思わせられる。でも結局、見るとそれなりにニヤリとさせられたり、グッと来たりする。
 同書では、この「アクのなさ」は一体何なのかを洗いざらい追究している。それは、『男はつらいよ』以前の馬鹿シリーズをはじめとした他の作品、映画化以前の脚本や準備稿、さらに彼の引揚者としての出自にまでさかのぼる。そこから見えてくるのは、常に一歩引いた立場から物事を見る、冷徹なリアリズムだと筆者は言う。映画を見終わった後、観客に何かを考えさせるような事のない、スクリーンの中で全てが完結する徹底した娯楽映画なのだ。  考えて見れば、そんな映画を何十年にもわたって撮り続けているということは、監督自身はアクがないどころかかなりなタマだ。そして、一見人畜無害な寅さんの世界だが、人畜無害すぎて相当妙なシチュエーションになっていることも分かる。毎回、十代の少年のようなプラトニックな恋愛をしてはふられ続ける男。ちょっとした騒ぎはあっても、震撼するようなエグイ事件は全く起こらない世界。『男はつらいよ』といいつつ、寅さんはそんなにつらくなさそうに見える。ヘンだ。
 毎回恋が成就しない寅さんは、もてないのではなく、自らに「ふられることを課している」ストイックな男だ。性欲がないわけではない。間接的にではあるが、セリフなどでそれは表現されていることを本書は明らかにしている。で、その究極の対象が妹のさくらである。妹だし、第一作で早々と結婚してしまうしで、彼女は寅さんにとって絶対不可触の存在。悶々としつつも、恋の成就が見えると怖じ気づく。あげく決して手の届かない相手に理想を見る。これってもしかして「童貞」ってことじゃないですかね、北村さん? (今田 壮)
ジョン・レノン暗殺 〜アメリカの狂気に殺された男 BOOK
フィル・ストロングマン、アラン・パーカー共著/小山景子訳 (K&Bパブリッシャーズ)1800円+税
ジョン・レノンを死に至らしめた合衆国の深い闇
 ビートルズとジョン・レノンに関する書籍は、メンバーが参画した真っ当な伝記やインタビュー集に研究本、ゴシップのパッチワーク的読み物まで玉 石混合あまたあるが、本書はその類書ではない。主題はあくまでFBI(連邦捜査局)のジョンに対する執拗なまでの迫害であり、それがもたらした文化的・政治的原因は何か、そこからどういう結果 が生じたかを徹頭徹尾詳細に論じている。さらには20世紀を代表するいくつかの大きな事件とジョンとの関連性…ケネディ、キング牧師、ニクソン、レーガン、ブッシュ、ブレアなど時代を代表する人物とジョンとの繋がりまで考察している。
 オノ・ヨーコの前夫との娘・京子を追うことを契機にジョンとヨーコがニューヨークに移り住むようになったのは'71年12月。それ以降、2人はアメリカへの永住権獲得を巡って移民帰化局との過酷な闘いに巻き込まれていく。移民帰化局はFBIとCIA(中央情報局)と密に連携しており、これら3つの組織すべてが共和党右派の大統領リチャード・ニクソンの統括下にあった。FBIはそのニクソンからの命を受け、電話の盗聴や尾行などあらゆる手段を使ってジョンを国外退去しようと画策したのは今や有名すぎる話だ。ユースカルチャーが政治をも動かし得た時代、ベトナム戦争を推し進めるニクソンにとって、ジョンの発する“Love&Peace”は危険思想以外の何物でもなかったのである。
 また、'80年12月8日にジョンが熱狂的ビートルズ・ファン(とされる)、マーク・デヴィッド・チャップマンに射殺された時もFBI関係者がダコタハウスの現場付近にいたという説もある。フェントン・ブレスラーの著書『誰がジョン・レノンを殺したか?』(音楽之友社 刊/'90年)で唱えられた、FBIによるチャップマンへのマインド・コントロール説を本書でも肯定している。ジョン・F・ケネディを暗殺した(とされる)リー・ハーヴェイ・オズワルド、ロバート・F・ケネディを暗殺した(とされる)サーハン・サーハン同様の催眠プログラムをFBIがチャップマンに施した狙いを、著者は上記の暗殺事件と巧みに対比させながら紐解いていく。一見バラバラなパズルが奇妙な符合を見せた時に感じるスリリングさは、訳者の的確な筆致に負うところも大きいだろう。
 JFK、マルコムX、キング牧師、RFK、そしてジョン・レノンの暗殺の裏側にはアメリカ政府が絡んでいるという事実は確かに俄には信じがたい話だろうし、まだ一般 的に浸透はしていないのかもしれない。しかし、自分で鉄砲を撃って怪我をさせた相手を助けに行くような欺瞞に満ちた国ならばさもありなんと思えるのである。(椎名宗之)
長恨歌 -不夜城 完結編 BOOK
馳星周 (角川書店)1680円
失われてしまった本来あるべき姿の歌舞伎町は ここに
 プラスワンは元々新宿のはずれ、富久町にあって、歌舞伎町に移転して来た。もう結構経つのだが。その折に思い浮かべたのはやはりこの馳星周の『不夜城』だった。J・エルロイの『ホワイト・ジャズ』を下敷きとした、歌舞伎町という魔窟での台湾人と日本人のハーフ、どちらにも溶け込めない「あいの子」、そんな男劉健一が、運命の女夏美との出会いをきっかけに墜ちていく暗黒の世界…。処女作にして他の作家の到達できぬ 、日本初の暗黒小説といえる作品だった。あ、言っておきますけど映画はクソなんで。原作のみお読みになる事を強くお薦めいたします。警告しましたよ。
 2作目『鎮魂歌』に続いて遂に刊行されたこの『長恨歌』、待望の作品だったのはもちろんなのだが、正直ここでは何を書いてもネタを明かしてしまうような気がする。個人的には2作目で完結していてもおかしくはなかったと思うが、この世界をまた味わえるのは予想外の喜びであった。
 もともと『不夜城』は、馳星周が、食事していた隣の店で中国人マフィアの抗争による青龍刀での惨殺事件があった事から着想を得た、と言われている。慎太郎のおかげでか今の歌舞伎町は監視カメラだらけで風俗店もガサ喰らって休業状態、立ちんぼもいない、安全なのかも知れないけど実にツマんない街になってしまった。しかしまだ馳星周の生み出す世界には、かつて筆者が恐れつつも憧れていた歌舞伎町が、未だに息づいているような気がしてならない。
 ルーツとも言うべきこのシリーズに終止符を打った事で、馳星周の今後の行く先がとても気になる所だ。彼独特の「ハッピーエンドなど書く気はない」、そんなスタンスには大変共感するのだが、バッドエンドや破滅にもある種のカタルシスは存在してしまうのでは、と思いもするのだ。そのカタルシスが生む作家性と言うマンネリズムを、今後どうやって打破していくのだろうか。
 その新境地、とも言えたであろう馳の作品『無(ナーダ)』は、未完のままだ。オウムの井上嘉浩をモデルに、カルト教団や公安警察の闇に迫っていく、『週刊新潮』に連載されていたかなりの意欲作だったのだが、ビビった版元やハードボイルド気取った先輩作家等々の圧力によって、佳境にて打ち切りを余儀無くされ、未だ刊行どころか、完結にも至っていない。全くけしからん。何とかしろ新潮社。『新潮45』は頑張ってるじゃないか!(多田遠志)
怪奇トリビア 奇妙な怪談傑作選 BOOK
唐沢俊一 (竹書房文庫)580円
戦後混乱期に打ちあがった怪奇トンデモ小説乱れ打ちに幻惑!
 帯には「ミッキーマウスの霊が憑いた男がいる」だの「妖怪好きで、妖怪ぽい人間をコレクションした大名がいた」など、いかにも題名通 りの薀蓄が並んでいる。ところが、こういった、唐沢氏お得意の「一行情報怪奇版」の本だと思い込んで買うと、ちょっと「れれ?」と思うかもしれない。
 最近では大ヒットテレビ番組のスーパーバイザーとして知れ渡ったこともあり、唐沢氏を「トリビアの人」として初めて認識した人も多くなったことだろう。だが、もちろん彼のフィールドはそれだけにとどまるどころのもんじゃない。「と学会(疑似科学批判)」「怪獣、B級漫画などおたく全般 」「SF」「薬」など興味の対象が実に際限なく深く広いのは、プラスワンに集うようなサブカル好きならもちろんかねて良く知るところ。私にとっては更に、「昔のエロ雑誌に詳しい人」「レディースコミックの原作者」「女性雑誌の投稿欄のゴーストライター」としての印象もとても深い。つまり、「カルトな雑誌偏愛者」としての顔だ。
 さてこの本。トリビアとJホラーブームにかこつけて出版されたものかぁ…と正直思った。だが一読驚嘆。帯にあるような「一行豆知識」は全体のほんの一部。収録されている文章のほとんどが戦後混乱期、経済復興のドタバタ時代に雨後の筍のごとく出た、「カストリ」「クラブ雑誌」と呼ばれる読み捨て本に掲載された奇想小説の類なのだ。 「数行のうんちくが読みたかったのに文が長い!」と投げ出さない方がいい。これらの小説はもともと、読者の頭を全く使わせず、ただ興味を引く一発アイデア命で書かれたもの。飽きられたらそれまで…大体発表媒体の「次」号があるかも分からない、ある種の極限状況下で奇跡的に打ちあがった花火のようなもの。あっという間に読み終われて全く疲れません。どっちかというと、余りのストーリー展開の唐突さや無理さ加減に、それこそ花火で目をくらまされた「チカチカ感」で心地よく脳が痺れていくのを感じられる筈。特にお勧めは巻末に収録され、KKKとSMと宇宙のワケワカ乱れうち!の『涙は宇宙空間に輝く』と、唯一のコミック『恐るべき美貌』。余りに強烈なビジュアルのラスト1ページ、アゴが外れること請け合い。
 実は恐るべき仕掛けがもう一つ。唐沢氏自身の書いた短編2本のうち1本、『幽霊のいる僕の部屋』…ちょっと! 不覚にも泣いちゃったよあたし!!! 「よくまとまらないままに放り出していた」て作品だそうだけど、まさかこんな切ない純愛ものが本の真ん中にコソっと入ってるなんて…。偏屈一言居士たる普段のイメージに合わないため、照れ隠しにこの発表媒体を選ばれたんでしょうか? とか邪推してしまう、今年一番心に残った恋愛小説なのでありました。いろんな意味で損しないお得な本ですよ!(尾崎未央)
コフィン・ジョ−DVD-BOX vol.1 黒いボサノヴァ編
エプコットより発売中 15750円 ※単品販売あり
ラテンの日射しに頭をヤラれたホラー界最後の巨人、日本上陸!
 ブラジル映画界が世界に誇るホラースター、それがコフィン・ジョー。黒ずくめの衣装、黒マントに黒いシルクハット。『黒いせぇるすまん』ライクにブラジリアンを恐怖のドン底に陥れるような悪夢をドバドバぶちまけてくる、それも裸女数十人のケツに書かれた怪物の顔が迫ってくる…そんなヘボヘボで極彩 色のを。CGを多用したハリウッド大作などよりもよっぽど「未知の映像体験」だ。処女作『コフィン・ジョーのおまえの魂、いただくぜ!!!』などでは人に迷惑をかけまくる目的が自分の天才的遺伝子を後世に受け継ぐための「自分にふさわしい女」探し…とまぁかなり俗っぽい所もある憎めない一面 も。コフィンジョー、左手の爪は怪奇性誇示のために実生活でも伸びっぱなしです。偉いと思います、その作品のためにプライベートの不自由もいとわない姿勢が。女性問題で格好わるかった日本のデーモン(吉本所属)は爪の垢でも煎じて飲ませてもらえ!
 彼の作品は当時軍政下であったブラジル政府に目を付けられ、検閲によってズタズタにされてしまうが、ジョー先生それを逆手に取り、カットされたシーンをつなぎ合わせ、主人公の見た悪夢、という体裁で一本でっち上げてしまう(『コフィン・ジョーの狂った心で夢を見てるんだよ !!!』)。さすが。後に映画産業が斜陽となってからはポルノ映画を撮ったりもしたが、アメリカのマニアによって再評価され、人気爆発。ブラジルのハードコアバンド、セパルトゥラのライブに乱入、眼病を患ってもただでは起きず、ファン達に眼球手術(DVDにも収録予定)の模様を公開、と頭の下がるような活動を今でも続けていらっしゃる。今回のDVD-BOXのリリースによってその全貌が明らかになるのです。『コフィンジョーの人間終わってるぜ!!!』などの予約に勇気がいる刺激的なタイトルは特殊翻訳家の柳下毅一郎氏が0.5秒ででっち上げたものです(実話)。
 中でも、BOXのみの特典として収録された、『コフィンジョーの素顔はもっと凄いぜ!!!』はコフィンジョーの映画人生を当人や関係者たちに聞く、大変興味深いドキュメンタリーです。撮っていたポルノ映画が何と獣姦モノで、妻をテクニシャンの犬に奪われた夫が当てつけにロバとやる、というスゴ過ぎる内容。しかも撮影後妻を寝取られる事を恐れたコフィンジョーがその犬を毒殺した、そんな衝撃の事実が判る、なかなかに油断できぬ シロモノであったのでした。世界は広いなぁ。 (多田遠志) ※「コフィン・ジョ− DVD-BOX vol.2 サイケデリック・ブラジリアン編」は1月28日発売