5月23日、個人情報保護法がついに成立しちまった。与党の政治家たちは、ろくに国会審議などやらず、官僚の作った作文を丸読みし、いっぱいあった法案の欠陥を自分自身で考えることもせずに、ただ国会スケジュールをこなすためだけに賛成票を投じてこの法案を通 した。馬鹿か、と言いたい。そもそも国会議員に知性など求めても無駄であるが、この杜撰(ずさん)で危険な法律を作った責任は、あげて小泉内閣にある。このことをよく覚えておこう。有事法制だって、そうだ。いまこの国の政治は、対米追随のポチ野郎=官僚どもに牛耳られている。政治家なんて、ただの操り人形みたいなもんだ。小泉は、操り人形の親分として、ブッシュに会いに行っている。いい格好をするばかりで、ひとつも国民のことなど考えちゃあいない。あれは、血の通 った政治家の顔じゃないよ。

 それはともかく、なぜ、あの個人情報保護法が杜撰で危険な悪法なのか。それはこの法律が僕たちのプライバシーなど、ちっとも守ってくれやしないってことだ。「えっ、なぜ? 個人情報を守ってくれる法律じゃないの?」なんて今ごろネムタイことを言ってるヤツは、政治家なみに頭が悪いか、本誌の平野悠の連載『おじさんの眼』を読んでいないロフトのモグリだ。僕たち「個人情報保護法案拒否!共同アピールの会」は、2001年の4月以降、ロフトの悠さんや梅造さんと共闘して、法案反対の集会やデモをシコタマやった。共同アピールの会は、ノンフィクション作家やフリーライターなどメディアの一匹狼たちが(ただの酔いどれ集団だったという説もある)、2年間にも及ぶ長期の闘いを担った前代未聞の集団であった。

■国家が個人のプライバシーを守るわけがない

 じゃあ、なぜ個人情報保護法が、僕たちの個人情報を守ってくれないか、考えてみよう。  そもそも、国家が僕たちのプライバシーを守ってくれると考えるほうがオメデタイ感覚なんだけどね。だって、行政機関は犯罪捜査のためと称して事件と無関係の在日コリアンの居住情報を警察に渡して来たし、警察は個人の犯歴情報を平気で行政機関に流してきた「前科」があるからだ。国家は、利用できる個人データは何でも利用しようとする、それはもう身に染みて僕らが感じてることだ。

 まず、この法律は、5,000件以上の個人情報のデジタル・データを持っているすべての企業、組織、個人を「個人情報取扱事業者」として、規制対象としている。一部に除外既定があるが、万民に法の網を掛けているところにこの法律の特徴がある。ロフトのメールマガジンも当然、規制対象だ。通 販会社やクレジット会社、インターネットのプロバイダや出会い系サイトまで、すべてが法の網が掛けられる。企業だけじゃない。ホームページを主宰し、5,000件以上の個人データを持っている個人も規制の対象だし、5,000件以上の同窓会名簿を有する学校や塾だって規制対象だ。

 そして、知ってるよね。法律は、個人情報は「その適正な取扱いが図られなければならない」と「義務既定」を定めていて、目的外利用など義務既定違反があった場合、主務大臣は、その個人情報ファイルを差し押さえるよう命令することができ(もちろん、警察に)、事業者は「6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金」が課せられる。つまり、摘発された5,000件以上の個人データは、みーんな、お上に持ってかれるのだ。

■国家が個人情報を強奪する

 例えば、こんなことが考えられる。「すぐヤレる!人妻出会い系サイト」に直行アクセスしてみたら、翌日から業者のエロメールがガンガン入ってくるようになった。出会い系情報ばかりでなく、大人のおもちゃ情報や、そのうち闇金融の情報まで入ってくるようになり、こりゃいくらなんでも個人情報の使い回し(目的外利用)だろうと怒った個人がクレームをつけ、通 信業者が悪質な出会い系サイトとして摘発されれば、当然のことながらそのサイト利用者の全個人データは警察の管理下に置かれる。

 そもそもこの法律は、個人情報の利用を制限するために作られたものではなく、むしろ個人情報を商取引に有効に活用できるよう「義務既定」を設け、そこに国家が介入できる仕組みになっている。しかも、個人情報の取扱いが適正か適正でないかは、主務大臣が決める。摘発したい組織や個人に、恣意的に網をかけることもできるわけである。

 もちろん、いきなり逮捕や罰金があるわけではない。法律では、主務大臣が「個人情報取扱事業者に対し、個人情報の取扱いに関し報告をさせることができる」「助言をすることができる」「違反を是正するために必要な措置をとるべき旨を勧告することができる」「その勧告に係る措置をとるべきことを命ずることができる」として、まあずいぶん大臣の権限があるものだと呆れるが、大臣様が下々の者に不正がないかどうか目を光らせておるよ、ということなわけだ。偉そうに!

■インターネット時代の治安維持法

 確かに、自分の知らないところで個人情報が使い回しされていたり、身に覚えのないDMが突然舞い込んで来るのは気持ちのいいものではない。そうした個人情報の保護が、業界ごとに個別 法で規制されるのならともかく、国民一人一人に法の網をかぶせ、巨大な主務大臣の権限によって恣意的な摘発が可能となるこの個人情報保護法が、市民監視法だと批判されるのは、当たり前のことではないか。

 もっと、恐い話をしよう。この法律が、「インターネット時代の治安維持法」だという人がいる。つまり、治安弾圧のために、個人情報保護法が有効利用されるというのだ。朝鮮有事を誇大宣伝しながら、在日米軍がスムーズに活動できるよう、自衛隊が民間施設を自由に破壊したり、民間人を勝手に徴用できるようにするのが有事法制であるが、この治安維持活動に個人情報保護法が利用されかねない危険性があるのだ。

 自衛隊や警察に従わない「社会不適応者」は懲罰の対象だし、永遠の不服従を気取る「反社会的分子」は早々に逮捕投獄し刑務所に入れておかなければ、治安維持活動などスムーズに行きやしない。そのような「危険分子」を平時から監視しておくために、個人情報をあらかじめ収集しておこうという話だ。

 話は変わるが、最近、地下鉄の駅などに、「過激派のアジト発見にご協力ください」という警察庁のポスターが貼ってある。「過激派」というのを「ヘルメットをかぶったお兄ちゃん」とだけ考えるのは大間違いで、要するにこれは「政治運動をしている人間が出入りする場所を知りませんか?」という、“密告のお誘い”なわけだ。これってロフトプラスワンじゃないか!って思わなくもないが、つまり、あなたも私も「危険分子」にされかねない恐ろしい時代が、もうそこまでやって来ている。

■官に甘い個人情報保護法

 ところで、個人情報保護法は、民間の規制には主務大臣が強大な権力を発揮するのに対して、行政機関の規制には国民の前に大きな壁が設けられ、その中でどのように個人情報が扱われているのか、よく分からない仕組みになっている。

 自分の個人情報が間違っていないか、適正に運用されているかをチェックできる「自己情報コントロール権」すらこの法律には明記されていない。小泉が、そんな概念はまだ確立されていないよ、と逃げたのだ。また、「第三者機関」を設けて、個人情報が適正に運用されているかチェックする仕組みも、必要がないと退けられた。さまざまなところで集められた個人情報を、行政機関がデータ・マッチング(寄せ集め)しないとも限らないし、事実、そのように警察と自治体は日常的に連携しあっている。警察ばかりではない、自治体から自衛隊にも個人情報は流されている。

 国会審議の終盤で、自衛隊が隊員募集のため、市町村から「適齢者名簿」を提供してもらう際、本人の四情報(氏名、住所、生年月日、性別 )だけでなく、親の職業などの情報が流出していたことが暴露された。しかし、小泉が「厳正に取り扱う」よう指導するなどの曖昧な答弁でこれをウヤムヤにしてしまった。なんのことはない、「適当にやりますよ」という程度の話ではないか。

■自分のことは自分で守ろう

 政府与党は、個人情報保護法がメディア規制と捉えられないよう、修正案で一定の妥協を試みた。しかし早晩、情報統制の策略は張りめぐらされてくる。すでに、声高に国益を叫び、国家の忠実な下僕となる新聞やTV番組が増えてきている。国益ではなく、国民の利益などどこかに忘れら去られ、国民は国家のために在るかのような宣伝がまかり通 っている。騙されてはいけない。国民は自分の生活を守ることを第一義に考えるべきだし、国家が国民の生活を守ってくれないことは、歴史が証明している。

 こんな時代だからこそ、一人一人がインターネットを武器に、メディアにならなければならない。自分を情報発信の基地とし、仲間を増やせ。そして、僕たちと共に、「悪法の枢軸を撃て!」。

 


個人情報保護法案拒否!共同アピールの会行動記録遂にビデオ化!
LOFT/PLUS ONE BOOTLEG SERIES 「悪法の枢軸を撃て!」

【監督】小金澤 朝朗 【製作】平野 悠
【出演】吉岡忍/吉田司/宮崎学/佐野真一/井上ひさし/他 ロフトシネマ作品 /本編118分+付録映像17分
【VHS】LPOV-005 /【DVD】LPOD-005  1,900円(税込)

●個人情報保護法案て何? 書いた原稿を相手に見せる? 相手の承諾得なきゃいけない? ぢゃあ俺達ノンフィクションライターはどうすんだよ! 国会議員のスキャンダルなんかどう暴くんだよ! おまんまの食い上げだ!ヤバイヤバイ絶対反対!  だけどちょっと待て。これは俺達だけの問題か? ヨクヨク調べてみたら、携帯持ってると誰でも取り締まられるって? こりゃ日本人全員がヤバイじゃないか! ……というわけで、ぼんやりしていたメディアに火をつけ、文壇の大御所を巻き込み、 街宣車を繰り出してまで熱く語り、日比谷野音まで借りてイベントを開いちゃって 北海道から沖縄まで全国巡業に出かけ、個人情報保護法案をまさかの3回の継続審の末 、遂に廃案まで追い込んだ、突然変異のような「てなもんや集団」=「個人情報保護案 拒否!共同アピールの会」 の奇妙奇天烈な2年間の映像記録、 堂々のビデオ化!
●詳細・申し込みはコチラへ! http://www.loft-prj.co.jp/busters/

 

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