1999.4のINTERVIEW
小林茂明(ロフト社長)
スマイリー原島(スマイリーズ)
鈴木大五(ホットスタッフ)
 

どうする!どうなる!ニュー新宿ロフト

先月のさよなら西新宿特集で、ロフトご隠居の平野悠に旧新宿ロフトの思い出を語ってもらったが、今月は、4月24日にオープンするニュー新宿ロフトについて、ロフト新時代を担う三人のニューリーダーに語ってもらった。ニュー新宿ロフトは、日本一の歓楽街「不夜城」歌舞伎町に、500人収容のライブスペースと100人収容のサブステージ付きのラウンジスペースを併せもつ、これまでにない新しい形のライブスペースになるという。日本のロックシーンを変える起爆剤にしたいという、この壮大な計画は果たして成功するのか?まずはこの座談会をその手がかりとしていただきたい。                 (INTERVIEW:加藤梅造)


音楽というもの自体をもっと身近なものにしていきたい
──今日(3/17)は西新宿の新宿ロフト最後の日ですが、旧新宿ロフトについて何か思うところはありますか?
原島(以下H) 先週もアンジーのライブやったけど、いやあいいところですよ。なんか謝恩会みたいになっとったけど(笑)。で、いつもそうだけど、あんだけ狭い楽屋に人がうわーとおっても、何故か居心地が悪くない。あれは不思議だね。何十年の人の流れでしょう。
──それで今日は、旧ロフトのことは置いといて、4月に歌舞伎町にできるニュー新宿ロフトについて、お三方に語ってもらおうという企画なんです。今度のロフトは場所も広くなり、いわゆるデカバコになるんですけど、同じ規模の他のハコとの差別化ってのはどのように考えてるんですか?
小林(以下K) キャパシティはもちろん大きくなるんだけど、あんまりそういうのは関係なく、一つの空間の中で音楽との関係を密着させたい、見る側とやる側の距離を縮めて、音楽というもの自体をもっと身近なものにしていきたいと思うね。
──今回、メインステージとサブステージという二つの空間が特徴になってますが
K メイン、サブという言い方はあんまり好きじゃないんだけど、それらを含めた全体の空間を使って日本のロックに対して新しいことを投げ掛けていきたい、と個人的には思ってるけど。
H ここ数年、何百本っていうライブをいろんなところで企画してきて思うのは、パーフェクトっていうのはなくていつもベターな方法をとらざるを得ない状況なのね。そりゃ今度のロフトもベストじゃないだろうけど、基本的な発想が、ライブを観て帰るというワンウェイな作業じゃないという前提でライブハウスを作るのはいままでなかったことなのよ。ライブに来た人間がその中でシャッフルされて最終的にいろんな形になって帰っていく、というのが一番いいんだろうなと思ってて。それは例えばアメリカだったりイギリスだったりどこでもそうなんだろうけど、ライブを観に来るだけじゃなくて、酒を飲みに来たり友達に会いに来たりという複合的な目的があって、そういうのができるスペースがいいなあと。今度のロフトはそういう空間に近いものができるんじゃないかという期待があるね。今回のテーマである「ROCKIN' COMMUNICATION」というのもまさにそうで、音楽というファクターから違うものが生まれてくるだろうし、今回それが楽しみだよね。だってどうなるのか全然わかんないもん。
──大五さんはどうでしょう
大五(以下D) 今のライブに来る人って、ハコに来るんじゃなくてバンドを観に来るってところが強いと思うのね。だから、新しいロフトでは、バンドを観るだけじゃなくて、その空間を楽しんで欲しいね。その日に出るバンドに関係なく「今日、ロフト行こうよ!」っていう、そういう場所にしたいですね。
──今だと、クラブがそういう溜まり場的な役割で機能してると思うんですが
H ある時期からライブハウスが変わってしまったと思うよね。そこに行けば誰かいるなというのりがなくなっていった。
D ただ、あんまり閉鎖的になってもだめなんだよね。いろんな人を巻き込んで、お客さんの意見もバンドの意見もどんどん取り入れて一つの雰囲気ができていけばいいんだろうね。
H 空間の中の一つの要素としてDJがいたりバンドがいたりっていうのが一番面白いと思う。音楽を全然知らない人も来れて、そこで初めて音楽に出会う人間がいるっていうのが大事だと思うし。今のライブハウスだとなかなかそれができないんだよね。

意外とオヤジの方が騒いだりするんだよな。いざとなりゃ。
──今、ロックは好きなんだけど、ライブハウスにはちょっと足を運びづらくなってしまったオヤジ世代っていうのが沢山いると思うんですよ。そういう人達も気軽に行けるような場所だといいと思うんですよね
H それは、2つのステージあるっていうのがポイントで、自分たちがもうライブで飛んだり跳ねたりできねえんだよっていう人でも、自分たちが飲んでるところと同じスペースでアコースティックライブをやってるとしたら割と普通に観れたりするわけじゃない。そういう意味でサブステージあるってことは、そういう年輩の人にも、もう一回ライブを直に感じてもらえるきっかけになるだろうし。無理して若者の中にまぎれていかなくても、自分たちの飲んでるところに音楽がまぎれこんでくるっていう逆の発想だと思うんだよ。
D 若者の中に入っていくのはしんどいからね。音楽の方からよっていくってのが必要だと思うよ。生のよさって絶対あるから。
H 意外とオヤジの方が騒いだりするんだよな。いざとなりゃ。
──ここにもいますが。
H 俺の方を指さすなよ(笑)
K 日本人って年とるとロック聴かなくなるじゃない。なんでだろうね。
H うーん、やっぱり環境にもよるんじゃないかな。ロックを聴いちゃいけないような雰囲気ってのが。周りにもそういう人が少なくなっていくだろうし。だからサラリーマンの人でも本当は来たいと思うのね。
──確かに今のライブハウスってスーツで行きづらい雰囲気ってありますよ。
H それはやっぱり、店をやってる側から変えていかなきゃね。スタッフワークの部分から考えて、どんなお客さんに対してもきちんと対応できるような姿勢がないと。だって、サラリーマンの人が普通に来て「○○ありますか?」って聞いて、「はっ?何だよー」なんて対応されたら、いやいやそうじゃなくてってことになるよなあ。だから、今すぐにすべてができるとは思わないけど、少しずつ時間をかけて、いろいろな層の人を取り込んでくようにしないと。今CDが300万枚とか500万枚売れる時代になって音楽が肥大しているんだけど、必ずしもその人達が現場に来るかっていったら来ないんだよね。そうするとその500万って数字がなんか泡のようなものになってしまうから。
──たぶん今はカラオケで消費されてるんじゃないですかねえ
H うん。だってカラオケ楽しいもん、俺もよく行くけど。昔はカラオケって悪みたいなところがあって、要するに何の芸もないやつに一方的に歌いまくられて、そのうえ拍手まで要求されたひにゃ、お前殺すぞ!っていう(笑)。でもカラオケボックスができてから、そこが非常にちっちゃなライブハウスみたいになって、一つの密閉された所でのコミュニケーションってのができたからね。
K だからカラオケも音楽がどんどん関係をつないでいくじゃない。
H そうだね。グローブを歌う奴もいれば、演歌歌うやつもいるし。「ああ、こんな音楽もあるんだ」ってなるようなリレーションがうまくできると面白いよね。そう考えると、パンク観た奴が帰りがけにもう一方のステージでブルースを観て、突然ブルースに開眼するようなことがあってもいいわけで、それは単にそれまでブルースをじっくり聴く機会がなかっただけで、それはジャズでもいいしカントリーでもいいんだよ。
──確かに生でブルース聴く機会ってないですね。
H ないない。カントリーなんかもっとないし。そういうのがあればそこで聴いておもしれえなって思うだろうしね。

ラウンジの入場料はお布施!?
──小林さんと大五さんは、アメリカのライブハウスにあっちこっち行ってましたが、そのへんの影響はありますか
K うーん、ミュージシャンの順応性というか、あんまりハードに負けないところ。あるもので演るっていうところが。
──機材とかそういうことですか
K うん、日本のあまりにもシステマティックになりすぎちゃった部分について、もう一度考え直したいというところはあるね。
──ボロボロの機材とかでやってますもんね
D 向こうはそんなとこ全然関係ないからね。やってる方も見に来る方も自然だし。演奏してる最中に客が酒飲もうが飯食おうが気にしないし。もちろん店の奴もみんな優しいし、誰でもウェルカムだし。飯食う場所にギター弾く奴がいるのは当たり前だから、そんなに構えて聴く必要もなくて。だから新しいロフトのラウンジスペースではそういう感じでうまくやれていければいいなあと。
H メインステージとサブステージを両方楽しめるような流動的な感じにしたいね。
──そういう意味では、歌舞伎町っていう場所もあらゆる種類の人間が集まる非常に雑多な街ですが、新ロフトを歌舞伎町に選んだことに関してはどうですか
H 最初、歌舞伎町が候補にあがったとき、はっきりいってこの三人は全員「NO」だったよね。でもそれは情報の中で肥大した歌舞伎町の先入観もあって、大五が青龍刀で斬りつけられたってわけじゃない(笑)。俺もここ最近プラスワンとかに何回か行ってるうちに、そういう街だからこそ人が沢山いるんだなあと、つくづく感じる瞬間もあるし。別に全員が中国人じゃないし(笑)。ウィークエンドなんか若い人が沢山いるしね。
K フラットな街だよね
D 逆にいろんな奴がいるから面白いんだよね。外国人もいるし田舎から出てきたばっかりの人もいるし。
──そういういろんな人間が出入りしやすいのが、サブステージのあるラウンジなんですが、ここへの入場料は200円ということですよね。
K 本当はノーチャージにしたいんだけどね。だからいつかは0円になってもいいんだけど、最初からゲームセンター化しちゃうのはちょっとな、というのがあって。
H オミットするためのチャージというよりは、そこに入る為の見物料というか、まあお布施だな(笑)。

サブステージからメインステージに上がっていくバンドが出てくるのが一番面白い
──メインステージの方はキャパが500人ぐらいということですが、これまで新宿ロフトで100〜200人の動員でやってきた人達っていうのはどうなっちゃうのかなっていうのがあって。実際「今度のロフトは広すぎて俺達は出してもらえない」っていう声もあるんじゃないでしょうか。
H まず、広いからやらせてもらえないっていう発想自体がナンセンスだという気がするよね。そういうネガティブな発想で音楽をやってほしくないし。動員だけの部分で切り捨てられるっていう考えを持ってるとしたら、逆に、じゃあ自分達は動員の部分だけで出ていたのっていう気がするよね。それは今まで俺達は150人でOKだと思ってたってことだよね。でもそれはなしだよ。だから、そういうネガティブな発想の人達は出れないね。150の客をなんとかして200、300に増やしていこうという発想がないと。
──では、ブッキングする方から考えて、例えば動員が未知数の新人バンドを出そうとした場合、500人というキャパは非常にリスクが高いですよね
H じゃあさあ、新しいロフトは動員の2人しかない若いバンドは絶対出れないってことだよね、動員っていう部分だけで考えると。それはそいつらが持ってる可能性までも否定することになるんだよ。でも、その可能性をみていくのが俺達だから。
D 俺達はその役割をしないと。ただの貸しホールじゃないからね。
K 人を集めるために自分たちがどれだけ努力するかってのも大切だよ。
H 結果論として動員っていうのがあるけど、そのプロセスを俺達がまるで見てないってわけではなくて、例えば「あいつらっていつもビラ撒いてるよなあ」っていうのがあって、その音楽性も含めた上で、そのバンドがやってることを、こっち側も見ていかなくちゃいけないし、そういうのをわかった上でのジャッジをしていかないといけないと思う。
K やっぱりがんばってるバンドは自然と応援したくなるよ。それが伝われば。
──なるほど。でも新宿ロフトってやっぱりちょっと敷居が高いっていうイメージがあると思うんですよね。
H それは俺達がはずしていかないと。だから俺は、ラウンジのサブステージからメインステージに上がっていくバンドが出てくるのが一番面白いと思うよね。

「来てくれてありがとう」という感謝の気持ちを、今のロックシーンは忘れてるような気がする
──小林さんは今回初めて新しい店を作るわけですけど、どんな店にしようと思ってますか
K そうだねえ。現場で一緒にものを作るんだっていう高い意識のチームを作りたいなっていうのがテーマとしてあるよね。それは、スタッフもPAもバンドも一緒に共有しながら生まれる尊い空間を作ろうという意識。そのテーマがドーンとあるよね。あとは、一人一人がいい意味でプライドを持って。ライブを作った人間にしかわからない充実感ってあるじゃない、ブッキングしてからライブをやってお疲れするまでの、あの醍醐味というか、それを分かち合える空間であればいいなと。それを具体的に、こういう場合はこうだという、そこにいなければわからない空気をどう読んでいくか、本当にお互いにみんながあって成り立っていくという意識を作っていかないといけないとすごく感じるね。だから本当にゼロからスタートしたい。
H 一人一人が参画しているという意識をもてるスペースにしていかないとダメだろうね。毎日がルーティンで、働いてる人たちはただのバイトで、ただジュースを出せばいい、としか思ってないとしたら今度の新しいスタッフにはいらないだろうね。自分がそこに参画してるという意識があれば、そのライブで自分は何を得るのかということを意識できるだろうしね。
ご隠居 俺が27年間ライブハウスやってきて一番うれしかったのは、若い子が駅から走ってきて、握りしめていた百円玉がまだ温かいのね。そこで例えば、お金が足りなかったりしても、「いいよいいよ入んな」ってことをいつもやってたわけ。だから俺は受付やるのがすごい好きなの。だからお客さんに「来てくれてありがとう」という感謝の気持ちを、今のロックシーンは忘れてるような気がするのね。
H だからコミュニケーションの場面で、その場その場にいる人が自分の責任を持ってジャッジする機能を持たせてやるっていうのが必要で、誰かに聞かなきゃ分からないっていうんじゃなくて、その前に自分の判断でできることをやるっていう雰囲気を作っていかないと。例えば、アメリカのイースト・ウエスト・エアラインが急激に伸びたって話もそういうことじゃない。じいさん、ばあさんが2人できて、シルバーシートが満席だったけど、「ちょっと待って下さい」って言って見てみたら、レギュラーシートが空いてたから、自分の権限で、こちらへどうぞって案内する。そうしたら次もまたその航空会社を利用してくれたっていう。だからお客さんにまた来てもらえるようなサービスの考え方を一人一人がちゃんと持ってるかってことだよね。