Things as they are──“自分たちの在るがままに”

 昨年3月、ギター&ヴォーカルの大西俊也が加入し、不動の3人から無敵の4人へと進化を遂げたWRONG SCALEが、単独作としては約2年半振り3枚目、4人編成となって以降初のアルバム『triangle to square』を完成させた。切なく美しいメロディ・ラインと疾走感が見事に融合した彼ら独自のサウンドがギュッと詰まった捨て曲皆無の全12曲、至福の40分強を存分に堪能できる文句なしの最高傑作と言えるだろう。随所に絡むストリングスの響き、至妙なコーラス・ワーク、胸を締め付けられる儚い旋律…どれを取ってもこれまでの諸作品とは決定的に抜けが違う。アルバムを通 して得られるこの問答無用の気持ち良さはとにかく半端じゃないのだ。ベース&ヴォーカルの野田剛史にその抜け具合の訳を問い詰めるべく、話を訊いてみた。(interview:椎名宗之)

難しいところは増えたけど、だからこそ面白い
──メンバー増補後初の単独作『triangle to square』を聴かせて頂きまして…この突き抜け具合は一体何なんだ!? という、その要因を解明するのがこのインタビューの趣旨なんですが。
野田:なるほど。どうぞお手柔らかに(笑)。
──やっぱり、ギターの大西さんが加入されたことが一番大きいんでしょうか? タイトルもズバリ、“3人から4人へ”といった意味ですよね。
野田:判りやすいタイトルですよね。でも、4人編成になって特別もの凄く大きく変わったっていう実感は、僕自身あまり持たなかったんですよ。アルバムを構成する曲が明るめなのが多いからかな? とは思いますけど。
──曲調は明るいけど、「trace of grief」(深い悲しみ)や「Anxiety」(心配, 不安)、「Reason of sorrow」(悲しみの訳)など、タイトルは暗いものが多いですよね(笑)。
野田:僕ら、基本的に根暗なんで(笑)。4人になってバンドとしての足並みが揃うまで、どうしても多少時間が掛かりますよね。それが半年くらい経ってまとまってきて、同じ方向を向いてきた。そんなところを今度のアルバムにも反映できたことがポイントだと思ってます。
──昨年2月にHOLSTEINとのスプリット・アルバム『NIGHTINGALE』のリリースはあったにせよ、単独作としてはほぼ2年半振り。でも、待った甲斐は十二分にある非常に聴き応えのあるアルバムですね。
野田:セカンド・アルバム(『Upstairs for the bed』)を出してから『NIGHTINGALE』までは、スプリットに収めた3曲しかなかったんです。その後も全然曲はなくて、せいぜい1〜2曲程度。そのタイミングで4人になって、スプリット・ツアーを回って。バンドを始めたばかりのピュアな気持ちでライヴに臨んでいたので、それなりに固まるのに時間が掛かって。で、そろそろ腰を上げて「新曲、作ろうか?」っていうのは随分後になってからでしたね。合宿に行って、4〜5日間籠もって、寝る時間以外はずっとスタジオに入って集中的に曲作りをしてました。部分部分のネタは各人あったから、それらを巧く組み合わせて、煮詰めていった感じです。今回は曲を広げるのが大変でしたね、ネタって言うよりは。ネタが広がりすぎて、そのネタがどこに行ったのか判らないようなこともありましたから。ネタはあくまで起爆剤でしかないし、そこからどう広げていくかは各個人の可能性や引き出し、モチベーションに委ねられますからね。
──4人編成になったことで、そのネタの広げ方も微妙に変わりましたか?
野田:随分と変わりましたね。3人は3人の良さがあって、3人でできることを極限までやってきたんですけど、1人増えただけで大変なんだなっていうのがまず先に来ましたね。難しいところは増えましたけど、でもだからこそ面 白い。
──ギターが増えると音の重ね方にも慎重になるでしょうし。
野田:弦(楽器)が一本増えただけで相当違いますからね。ギターとベースが重なる部分でも判断に迷うことが結構あるので、ギターとギターになれば尚更ですね。だから今回はパートごとのコミュニケーションを細かく取ってやりました。ギターが2本になったことで、ライヴでは特に手応えを感じるようになりましたね。音源に関しては、2本のギターの音がぶつかって試行錯誤したり、コーラス・パートを練ってみたりといろいろ細かいことをやってみたので、実感として自分たちの中で掴みきれないところもあるんですけど。作業が終わってまだ時間も経ってないですし、今度のツアーを回っていくうちに噛み砕いていけると思いますけどね。
──アルバムの冒頭を飾る「p.s moved out」は、直訳すると“追伸:引っ越しました”という…。
野田:そうですね。レーベルも引っ越したし、メンバーも増えたし、っていう。歌詞との脈絡は全くないですけど(笑)。
──3曲目の「Things as they are -date 3.12-」はアルバムの根幹を成す曲だと思うんですが、これはHOLSTEINとのスプリット・ツアー初日、4人編成になって初めてライヴを行った去年の3月12日を指しているんでしょうか?
野田:それもあるんですけど、その1年後にメンバー全員とPAを入れた5人でバンドの在り方について深く掘り下げて話し合った日でもあるんです。今年の話なんですよ。WRONG SCALEの中での個々人の在り方みたいなものを、それまでの僕らはあまり話し合ってこなかったんです。各々がその場の空気を読んだり、必要以上の摩擦は避けてきたところがあったんですね。それがいよいよ話し合わなきゃダメだというレベルにまで来て。
──その話し合いの末に「Things as they are」、“自分たちの在るがままに”という結論に達した、と。
野田:メンバーが3人から4人になって、ゼロからバンドをやり直すとなると、いろいろと考えたりするじゃないですか? そうなると“まとめなきゃ、まとめなきゃ”っていう思いが先走って、その結果 、構えすぎたと言うか、気づかないうちにバンドとしてちっちゃいまとまり方になっていたんですよ。まとめること自体はいいんだけど、それによって自分たちらしさが希薄になったら本末転倒だろう、と。そんなことにハッと気づいて、みんなで話し合ったのがその日だったんですよ。それをあえてタイトルにしたのは、自分たちでも忘れないようにしたいと思って。
──そんな内部での話し合いが『triangle to square』制作の重要な機動力に繋がったんですか?
野田:作品の、と言うよりは、今後のライヴへの機動力になっている気がしますね。その話し合いをしたのはレコーディングの後でしたから。
──4曲目の「36」っていうのは?
野田:あれは単純に、36秒のインストなので(笑)。ファースト・アルバム(『effort for scale』)にも「45」っていう45秒のインスト曲がありまして、その曲は長谷川京子のDVDに使ってもらったことがあるんですよ。車を洗ってるシーンで。個人的にハセキョーは大好きだったから、観た時に「スゲェ! 車洗ってる! ホットパンツ!」って思って(笑)。

シンプルであることが一番難しい
──(笑)そのファーストに収められていた「Wait」を今回再録したのは?
野田:大西が入る前に、少しだけアレンジはしてあったんですよ。昔の曲はアレンジをちょっと変えてやらないとつまらないよね? みたいな話をしていたのが始まりで。大きな部分は一緒なんですけど、所々アレンジを変えて、ライヴを重ねると曲自体も変化していくものだから、聴く人によっては違う曲に聴こえるかもしれませんね。大西が入ったからこの曲を入れたわけじゃなくて、単純に「Wait」をやってみたかったんですよ。今の新しいWRONG SCALEがやる新しい「Wait」を。
──『NIGHTINGALE』にも収められていた「Reason of sorrow」と「PHOTO」、特に「PHOTO」をアルバムの一番最後に改めて配したのは、この曲がバンドの中で重要な位 置付けだからですか?
野田:いや、そういう位置付けで「PHOTO」を最後に入れたと言うよりは、アルバムを締めるのに適した曲だと判断したからですね。曲順を考えて並べていった時に、「PHOTO」だと最後に締めやすいような感じがして。歌詞の内容であったりとか、そこに特別 な意図があったわけじゃないんです。1曲1曲に重みがあるのは然るべきなんですけど、1枚を通 してちゃんと聴ける作品を常に作りたいと思っているので、曲順にはいつもかなりの神経を使いますね。そこはファーストから今作までずっと一貫してますよ。
──『triangle to square』はこれまでの諸作品を経てどんな切り口で行こうと?
野田:切り口とかコンセプトとかテーマ、そういうのは毎回すべて後付けですね(笑)。今ある自分たちの姿をねじ込んで、引き出して、そこで生まれた曲を客観的に聴いて初めてテーマが後付けされる、みたいな感じです。
──こうしてインタビューを受けて喋りながら、そこで自分でも初めて気づくことってありますよね。
野田:ありますね。こういう機会じゃないと作品を振り返る時間を持てないし、第三者が自分たちの作品をどう捉えたかを聞ける貴重な場ですよね。そういった意見を聞くといろいろな再発見もあるし。いつもレコーディング作業ではストレスが溜まる一方なので、今回は少しでもスムーズに作業が進むように、曲の7〜8割方は大体のアレンジまで固めてスタジオに入ったんです。お陰で今回は比較的円滑にレコーディングができたし、ストレスは少ないほうだったと思いますよ。
──WRONG SCALE最大の武器である切なく美しいメロディ・ラインは凛々しく引き締まっているし、アコースティックを基調とした「Things as they are -date 3.12-」はスウェーディッシュ・ポップ風な匂いも部分的にあり、緩やかなグルーヴ感溢れる大人なサウンドで、新機軸かなと思ったんですが。
野田:単独作は特になんですけど、毎回毎回新しい引き出しをひとつでも増やして可能性を広げていきたいと思ってるんです。「Things as they are -date 3.12-」のサウンド面には今回それが顕著に出てると思いますね。ただ、引き出しが増えるのはいいことなんですけど、そこからどうチョイスをしていくか、本質を見抜く力が必要になってくるんです。基本となるのは、自分たちらしさが出るようなやり方を模索することですね。そういうのはやっぱり、ライヴを通 じて手探りでやっていくしかないと思ってます。
──野田さんが考える“WRONG SCALEらしさ”っていうのは?
野田:音楽的にどうこうっていうのは一概には言えないから、マイペースでゆったりしてるところですかね。あまり肩に力を入れないスタイルでやってきたところが“らしさ”なんじゃないかと自分では思ってます。あんまりガツガツしていると…いろんなものが面 白くなくなっちゃいそうでイヤなんですよ。音楽は好きで楽しくて始めたことだから、ずっとそれは続けていきたいし、そうするにはどうすりゃいいか? くらいは子供じゃないから僕も考えますよ。そんな自分の考えに少しでも近づけるようにバンドをやっているつもりですけどね。ライヴでも作品でも、やればやるほどハードルは高まっていくけれど、それを乗り越えた時の達成感はどんどん大きくなっていくんです。だから凄く面 白いですよ。『triangle to square』に関しても、メンバー全員“いいものが出来たな”と素直に満足してます。
──とにかくこれだけメロディが際立っていい曲がギュッと詰まったアルバムもそうはないと思いますしね。
野田:ありがとうございます。自分で作るメロディ・ラインを客観的に捉えてみると、ちょっと難しいものを作ってるかな? とは思ってるんですよね。何度か唄い込まないとなかなか自分のものになっていかないんです。曲を作る時点では妄想なわけですよ。それを形にして自分のものにしていくまで、結構時間が掛かるんですよね。だから自分の書くメロディは“難しい”ってところに行き着くんじゃないかと。
──でも、あえて難しいことをやっているわけでもないですよね。
野田:そうですね。自分ではごくシンプルなことをやっているつもりです。でも、シンプルであることが一番難しいんですよね。シンプルでいい曲を作る難しさっていうのは、4人になって引き出しが多くなっても変わらないから、それはずっと藻掻きながら続いていくんでしょうね。僕たちとしてはこのアルバムで投げられるものは全部投げまくったつもりなので、後は受け取った人がどう感じるかが凄く楽しみな時期ではありますね。
──ツアーも下北沢SHELTERを皮切りにファイナルの渋谷O-WESTまで全国22ヶ所で真夏の盛りに断行されますが。
野田:ジャケットは沖縄の夏の夕暮れだし、思いのほか夏っぽい雰囲気に作品が仕上がったので、夏場の暑い時期にツアーをやるのは自分たちのやったことが実感できていいかなと思ってます。今回のツアーは1本1本噛み締めながらやっていきたいですね。音源とはまた違った、ライヴにはライヴの良さがあるし、ひりついて行きますから(笑)そのひりつき具合を楽しんでほしいですね。

■Release info.

triangle to square

K-PLAN
HKP-004
2,300yen (tax in)

7.06 IN STORES

Live info.

WRONG SCALE release live“triangle to square TOUR 2005”
7月15日(金)下北沢SHELTER

w/ And Mark Her / discord
OPEN 18:30 / START 19:00
TICKET: advance-2,000yen / door-2,300yen(共に1DRINK代別)
【info.】SHELTER:03-3466-7430

release live“triangle to square TOUR 2005”
7月15日(金)下北沢SHELTER【上記参照】/7月22日(金)新潟JUMK BOX mini/7月23日(土)熊谷VOGUE/7月25日(月)甲府KAZOO HALL/7月27日(水)宇都宮VOGUE/7月28日(木)仙台MACANA/7月29日(金)福島いわきSONIC/7月31日(日)つくばパークダイナー/8月2日(火)千葉LOOK/8月5日(金)名古屋HUCK FINN/8月7日(日)大阪KNAVE/8月9日(火)滋賀 B♭/8月11日(木)岡山PEPPER LAND/8月13日(土)熊本DRUM Be-9/8月14日(日)福岡DRUM SON/8月16日(火)松山SALON KITTY/8月17日(水)高知CARAVAN SARY/8月20日(土)京都WHOOPE'S/8月21日(日)伊勢クエスチョン/8月23日(火)浜松メスカリンドライブ/8月27日(土)富山SOULPOWER/9月3日(土)渋谷O-WEST【TOUR FINAL】

WRONG SCALE OFFICIAL WEB SITE http://www.wrongscale.net/

WRONG SCALEの皆様から素敵なプレゼントがあります!
LOFT PROJECTトップへ戻る
←→ROOF TOPトップへ戻る