落語もロックも生=ライヴが一番!

いきなり私事で恐縮ですが、このたび我がNaked LOFTにて『ロフト寄席』なる落語会を月一のペースで定期的に開催することと相成りました。ライヴハウスで落語を楽しもうだなんていささか突飛な発想ではありますが、落語もロックも聴き手の心を鼓舞し、様々な感情を引き出す良質なエンターテインメントの親戚 に違いはありません。そして何より、ホンモノの芸を堪能するならばやはり生=ライヴが一番であります。そんな落語の魅力を我々初心者に判りやすく伝えてもらおうと、記念すべき『ロフト寄席 vol.1』の高座にも上がっていただく桂 平治師匠にお江戸日本橋亭の楽屋にて話を訊くことができました。(interview:椎名宗之+やまだともこ)


落語は想像する芸なんです
──師匠はライヴハウスで落語をやるのは…。
平治:実は初めてじゃないんですよ。以前、新宿の2丁目辺りにあるライヴハウスで何回かやっていて、そこは照明が使えるってんで、怪談モノをやった覚えがあるんですけど。その時は事前に宣伝もあまりできなかったんで、お客さんは『かわら版』という落語雑誌を見てきた純粋な落語ファンが多くて、ロックをやるような人は来てなかったと思います。でも、今は落語を観に来る若い人たちがだんだん増えているという話ですね。
──落語の世界を舞台にした『タイガー&ドラゴン』というテレビドラマの影響もありますからね。
平治:ええ。昨日かな、夜のニュースで見たんですけど、あの藤原紀香さんも実は学生時代に落研(落語研究会)に入ってたそうですね。ビートたけしさん(立川錦之助)や高田文夫さん(立川藤四楼)は立川流の一門だし、伊集院 光さんは三遊亭楽太郎師匠の元お弟子さんで三遊亭楽大を名乗ってましたし、芸能人で落語に縁の深い方も結構いらっしゃるんですね。
──最近、若者の間でもちょっとした落語ブームが起こってますし。
平治:二ツ目さんでやってる新宿の深夜寄席があるんですが、前は入っても50〜60人だったのが、今はその倍になるくらいですからね。木戸銭は500円と手頃なんですが、若い人は一人じゃ来ませんよね。だから彼氏とか彼女を連れてくる。それがいい回り具合で。それに追い打ちを掛けるように今度は『タイガー&ドラゴン』ですからね。我々としては有り難いことですよ。
──そんななか、我がNaked LOFTで『ロフト寄席』という落語会を開いて頂けることになりまして。ライヴハウスに集う若者を相手に噺を披露するというのも、普段とはなかなか勝手が違うと思いますが。
平治:こっちも探りながらですから、判りやすい噺はするつもりですがね。落語は、一度その世界に入っちゃえばハマる人はハマるんじゃないですかね。落語っていうと、どうしても年寄りが聞くもの、古めかしいもの、現代とかけ離れたもの…そういう考え方があるんで、寄席の扉を開けると異次元に入っちゃうような気でコワイみたいな、そういう意識が若い人にはあるのかもしれませんね。若い人が行くところじゃない、みたいな。逆に、ロックをやってるライヴハウスみたいな場所は年寄りが行くところじゃない、っていう。その垣根を思い切って取っ払っちゃえば、ロックでも年いった人はハマりますしね。落語もきっとそうだと思いますけどね。
──日常生活に根ざした噺が多いですから、理屈抜きで楽しめますよね。
平治:必ず教訓みたいなものが噺のなかにはあるんですよ。「“小児は白き糸の如し”なんてぇことを申しますが…」というマクラがありますけど、今どき“小児は〜”なんて普段使わないですよね。赤ん坊というのは産まれた時は色が真っ白だけど、育ち方によってその色も変わっていく。親がちゃんと育てないと真っ黒になっちゃうよ、ってことなんですね。それから、嫌いで別 れたわけではない元夫婦が、かわいい一人息子のおかげで復縁するという「子は鎹〈かすがい〉」という噺。これも、子供は両親にとって大変な宝物であるという教訓ですよね。そういうのがだいたいの落語は最初にあって、その説明というか解釈なんです。説明が落語みたいなもんですよね。「こういうことはやっちゃいけないんだ」っていうね。
──そんな為になる話を、笑いのオブラートに包んで提供するという。
平治:そうですね。笑うことは健康にいいって言いますからね。不安があっちゃ笑えないですよね。
──それに増して不景気な世の中ですからね。
平治:具合が悪い、癌であと何日しか生きられないって人は笑えないですよね。そんななかで笑えることはいいことであって、落語は想像する芸なんですよ。テレビの『笑点』が落語だと勘違いしてる人が随分いると思うんですが、落語とは本来一人で喋るもんですから、自分が監督であり、役者であり、演出家なんですね。耳から入った言葉を連想して、自分で芝居を作って、想像して笑うものですから。

噺の主役は我々一般庶民です
──当日はどんな演目をやる予定ですか?
平治:何をやるかは、当日、その場のお客さんに合わせて考えます。ちょっと話しながら噺の流れを変えてみたり、お客さんが受けたら何をやっても大丈夫かな? とかね。何しろ初めてですからね、我々も手探りでやりますよ。どんな噺家でも、5つから10は常に違う系統の噺ができるんです。普段やってる寄席なんかだと、噺が1日に40本くらい出ますんで、一番最後に高座に上がる人はそれまでのネタを全部避けてやらないといけないんです。だから、夜の部のトリは大変ですよね。同じネタはもちろん、同じ系統の噺でもダメですから。与太郎噺が出てたら与太郎モノはダメ、子供の話が出たら子供系統の噺も全部ダメ。事前に打ち合わせなんてないですから、早い者勝ちなんです。
──それじゃ、相当頭がキレないと噺家にはなれないですね。
平治:そうでもないですよ。利口は落語なんてやらないですから(笑)。
──落語もロックも、どちらも人を楽しませるエンターテインメントであることに変わりはないですよね。
平治:やっぱり生が一番でしょ? ライヴも目の前でドンドコやるのを観るのが一番。それと同じで、落語も生で聞くと迫力がありますからね。「やっぱり生はいいですね」ってお客さんによく言われますんで。
──Naked LOFTは新宿の百人町という所にあるんですが、新宿にまつわる噺も聞けたりしますか?
平治:そうですね。新宿は昔、江戸じゃなくて甲州街道の第一の宿場だったんですね。四谷の大木戸までが江戸で、その頃の新宿には内藤清成という大名のお屋敷があったから“内藤新宿”と呼ばれてたんです。今でも「新宿生まれの江戸っ子だよ」って言う人がいますが、それは勘違いされてるんですね(笑)。新宿を舞台にした噺は、郭〈くるわ〉、つまり遊郭を題材にした噺が多いんですよ。新宿、千住、板橋、品川、これが第一の宿場で、江戸の第一歩の外。で、どうしても旅に出るって時に、女郎屋、今で言う風俗が大変に発達して、そんな噺がそれぞれの宿場に残ってますね。
──音楽に絡めた噺もあるんですか?
平治:芝居話だとか音曲噺ってのはあります。僕はあんまりやらないんですが、音曲噺っていうのは、高座で義太夫や常磐津、端唄なんかを下座の三味線に合わせて演じる噺のことを言います。
──当日、平治師匠とともに高座へ上がるのは三笑亭一門のお二人。
平治:可女次さんは前座、恋生さんは二ツ目。恋生さんは体を使った落語で、陽気になりますよ。
──「時そば」とか「目黒の秋刀魚〈さんま〉」とか、落語にそれほど詳しくない人にも知られた有名な古典落語がありますけど、そういうスタンダードな噺はやはり披露されることが少ないんですか?
平治:ああいうのはこっちがやろうにも、先に誰かがやっちゃうんでね。「寿限無」もたいがい前座さんがやっちゃうんで、我々がやろうと思ってもできない。「時そば」なら冬の間、「目黒の秋刀魚」なら秋限定ってな具合に季節も決まってますから。「目黒の秋刀魚」は、お腹をすかせた殿様が目黒へ遠乗りに出掛けた時に秋刀魚を食べていたく気に入って、後日、日本橋魚河岸から最上級の秋刀魚を取り寄せた家来に向かって「秋刀魚は目黒に限る」とこぼすっていう下げ(オチのこと)なんです。あの噺は町人が笑ったことなんですよ。目黒は今で言う江戸の外れで山奥の田舎だったから、そんな何もないようなところで「秋刀魚は目黒に限る」と言う殿様はバカだ、ってね。
──今でもたまに、「“秋刀魚は目黒に限る”っていうじゃないか」と言う人がいますが(笑)。
平治:海がないところで秋刀魚が旨いわけがない(笑)。落語はそういうのが多いですよね。イヤな侍におしっこ飲ませたり、侍の首切っちゃたり。直に口では言えないんで、落語の部分で仕返しをしようと。お上に逆らうという噺が多いですね。
──あくまで僕らのような庶民が主役であるという。
平治:そうなんですよ。落語には町人が出てくる噺が多いんです。特に江戸っ子の大工、左官とかの職人さんね。
──主役が我々と同じ視線だからこそ共感を呼ぶわけですね。
平治:そうですね。落語はあくまでも大衆芸能ですから。殿様や侍が聞く噺じゃないし、誰もが聞いて楽しいというのが落語なんですよ。だから落語は本来、誰でも判る間口の広いモノだったんですが、いつの間にか狭くなっちゃって。
──『ロフト寄席』を今後どんな感じの演目会にしていきたいですか?
平治:まず何より、落語に親しんでもらえる、興味を持ってもらえるような会にしたいですね。ここへ来た人が「もういいや」って思うより、「また次回来てみたい」と思えるように。そういう会にしていきたいんですがねぇ。例えば、噺家は普段どんな着物を着てるんだろうか? とか、あの下、何を履いてるんだろうか? とか、興味を持つ取っ掛かりはまず何でもいいですから。
──Rooftopの読者のような若い世代には、普段ライヴを観るのと同じ感覚で落語に接してもらえるといいですね。
平治:そうですねぇ。落語はそんなに固っ苦しいものじゃないんで、聞いてみると音楽と一緒ですから、ひとつ興味を持っていただいて聞いてもらいたいと思います。今年は(林家こぶ平改め)正蔵襲名から始まって、落語が世間から注目されていますからね。どうぞよろしくお願いいたします。

profile
二代目・桂 平治(かつら へいじ):本名、岡方靖治。
昭和42年8月25日、大分県宇佐郡院内町生まれ。昭和61年4月、十代目・桂 文治に入門。平成2年6月に二ツ目昇進、二代目・平治となる。平成11年5月に真打昇進。酒が出てくる噺「らくだ」「禁酒番屋」や滑稽噺を得意とする。趣味は釣り、絵手紙、俳句など。平成6年にNHK新人演芸大賞、平成9年に北とぴあ大賞、平成10年に第三回 林家彦六賞をそれぞれ受賞。

◆Live info.

芸協若手特選会『ロフト寄席 vol.1』
6月21日(火)新宿百人町 Naked LOFT


出演:三笑亭可女次/三笑亭恋生/桂 平治(二席)
開場 18:00 / 開演 19:00
木戸銭 1,500円+1 order ドリンク

【予約・問い合わせ】ネイキッドロフト:03-3205-1556/社団法人落語芸術協会:03-5909-3080

桂 平治 公式サイト『平さんがゆく!』 http://homepage3.nifty.com/katuraheiji/rakugo/
社団法人落語芸術協会 公式サイト http://www.geikyo.com/

三笑亭可女次
三笑亭恋生

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