自分たちの音だけを手に全力でぶつかった記念すべき一夜

 渾身の一撃。もしくは開眼の一発。どう形容しても言い足りないけれど、あえてたとえるなら、ベースの合田 悟が大好きな阪神タイガースの、主砲・金本の豪快なフルスイング(もちろん特大ホームラン)を間近で見るような興奮が襲いかかるニュー・シングル「体温」のレコ発と、LOFTの6周年を記念するランクヘッドのワンマン。一文が長くてゴメン。年頭よりアルバムのレコーディング、そしてセカイイチらとともに各地を巡ったツアー「VINTAGE LEAGUE」を終え、よく考えたら東京では今年初のワンマン。めっさ満員の会場は、まさに人の波をかき分けなければ先へ進めない。「『○○○』、歌うかな?」「どうしよう、始まっちゃうよ?」等々、あちこちで交わされている。ライヴ前独特の、緊張とワクワクが交錯する落ち着かなささえも心地いいほど、とにかく誰もが待っていたんだよ! この日を。
 客電が落ち音が止み、歓声が上がる。その中へ、まずドラムの石川 龍が飛び出してきた。彼のスティックが、まず初めに会場の空気を破る。そこへ合田 悟が混ざり、ブリッブリッとベースを唸らせる。2人の顔つきはすでにイイ感じ。そして長身のギタリスト、山下 壮。おぉ、セッションだ! 続いて、フロントの小高芳太朗も登場。小高は定位 置に着くなり咆哮をカマし、一気に会場の温度を上昇させる。そして「東京にて」で、この夜が始まった。ジャンプする頭。その頭よりも高く上がる拳。揺れる髪。叫ぶ声。「白い声」「白濁」と続けてくるなんて、すでに沸点に達している会場の温度をさらに引き上げようとしてる? まるで暴動を引き起こしそうなぐらい、“もっと! もっと!”と言っているような強い音を浴びせかける。左手でマイクをつかみ、気持ちをギュッと凝縮させて歌う小高。何かをつかもうとしているのか、時に右手は半分だけ握りしめられている。「最後の種」、そして「魚の歌」のイントロでは、山下が両手を高々と上げて手拍子をとる。続く「桜子」では、その山下のヴォーカルが春の情景を描く。「グッド・バイ」、そして「灰空」のイントロに歓声が渦を巻く。落ち着いてゆっくりと楽しむ曲なんて、ひとつも用意されていない。最初っから全力疾走するのみ。息が切れたら? 苦しくなったらどうする?なんてことは完全に思考の外側。倒れたらその時考えりゃいい、ぐらいの4人の圧倒的なブッ飛ばし具合に、身も心も完全に持っていかれてしまいました。

 気づけば、小高の白いシャツは汗でびったりとはり付いている。その小高が客席に身を乗り出すようにして言った。「俺は天才じゃないけん! 自分の思ったことを一生懸命歌うから!!」。そして「体温」。奇しくもこの日、25歳の誕生日を迎えたこの男。流れを断ち切るのを避けるように、ここまで特にまともなMCも挟まなかった彼が、やっとのことで一息ついたと思ったらこんな名言を吐いた。ヤツの一声に、うぉー、だか、わぁー、だかよく判らないけど熱い雄叫びがあちこちで勃発。胸の奥から湧き出た興奮のカタマリを、まるで取り出して手につかんで差し出すように、おびただしい数の拳が上がる。瞬間、ステージの4人とフロアの何百人もの間に、確かに何かが通 じているような感触があった。大きな声で叫ぶ人もいれば、思いはあっても声を上げることのできない人もいる。ただ手を上げることに、尋常じゃない勇気が必要な人もいる。ランクヘッドを愛しているというただそれだけの共通 点で集まった、生まれも境遇も性格も考え方もまったく違うオーディエンスたち。そのバラバラだけどクソ熱い気持ちが、4人の放射する熱とぶつかった、とてつもなく汗まみれの幸せな瞬間がこの日確かにあった。小高の声は割れ、サビはメチャクチャだった。さっきよりももっと近く、マイクが届くギリギリのところまで身をせりだして歌っている。どうしようもなく、そうするより他に彼も私たちも手段を知らなかったのだ。
 続く「ハイライト」もたまらなかった。嫌われたくなくて、適当にその場を繕って、そんな自分でも誰かにとっての何かでありたい。バカヤロー! そんなこと、自分だって毎日毎日考えてるよ。でも、そんなちっぽけなことを、割れるほど声を上げて歌って、メチャクチャに弾き倒して、叩きまくるヤツらが、彼らのほかにいるだろうか? 曲が終わる頃、ベースの合田は客席を見つめて笑った。つられて口元が緩むぐらいにいい笑顔だった。「前進/僕/戦場へ」。そして最後は「千川通 りは夕風だった」。客席の歓声に呼応するように山下、そして小高の表情が柔らかく崩れた。笑ってるんだろ? でも2人とも前髪が長すぎて、顔が半分見えねーんだよ。ここまで、本当にアッという間。ウソみたいにびっくりするほど短く感じた。
 一旦、ステージを降りた4人が、やけにサッパリといきいきした顔で戻ってきた。演奏のレベルや、各自の体調はどうなのか等、細かいところまでは判らない。けど、ものすごくいいライヴをやれているという事実が、4人の表情にも現れている。アンコールに応えて、宇宙一どこよりも早くニュー・アルバムのタイトル曲でもある「月と手のひら」を披露してくれた。グッとテンポを落とした曲を、心持ちゆったりとプレイする4人は、さっきよりも随分人間らしい顔をしている。そして最後は「プリズム」。信じるってことは、何の根拠も理由もなくて、ただ信じたいってこと。そんなかよわい真実を、めいっぱいの気持ちで吐き出す彼らは、最後までとてもいい顔をしていた。信じられる男の顔だった。
 5月11日にニュー・アルバムの『月と手のひら』が発売になる。約1年前に発表した前作の『地図』と比較して、小高芳太朗はこう話していた。「『地図』が、家の中にいて窓から外を眺めてる感じだとしたら、今度のアルバムは家から一歩外に出れた感じがあって」と。家の中にいて、外を眺めているだけでも、自分の中では十分に希望も絶望も沸いてくるし、葛藤もある。挫折だってある。それらを何とか払拭して、必死に足を踏みだそうとするけど、何故だか踏みとどまってしまう。『地図』を聴いて感じるのは、そのギリギリのところでどうしても踏みとどまってしまう自分に対する痛いほどの悔しさだ。今現在の彼らは、その時から確実に一皮も二皮も脱いでいる。「家から一歩外に出た」との言葉通 り、自分の意志で体を動かし、新たな地平に歩みを進めた。頬に感じる風は生やさしくはないけれど、その風を感じ空気を吸い込み、そこで戦うことを4人は選んだのだ。
 この日のライヴは、彼らをとても近くに感じた。ライヴハウスだから? それはNO。自問自答を繰り返しても結局、自分の姿は見えてこない。怖くて痛いけれど人とぶつかることで初めて、自分という人間の考えていることや感じることが手に取るように判ってくるのだ。そういう経験を重ねながら、人はやさしくも強くもなっていく。ランクヘッドの4人はこの日、ただ裸で、自分たちの音だけを手に全力でぶつかってきた。こっちだって負けちゃいないけど、その覚悟のようなものが聴き手の心にも作用し、確かな皮膚感覚を残してくれたんじゃないだろうか。これからアルバムを携えたツアーもある。フェスの季節になれば、大きなステージも待っている。が、どれだけ大きな会場に立とうと、彼らがありのままをステージにぶつける限り、この日感じた熱さや近さがなくなることはないはずだ。変わるとしたら、もっと手がつけられないほど獰猛になるんじゃないだろうか。確かなものを手に、見違えるほどたくましくなった男たちの記念すべき一夜だった。(文:梶原有紀子)

■Release info.


NOW PRINTING
New Single「体温
VICTOR ENTERTAINMENT
VICL-35776
1,260yen / IN STORES NOW
2nd Album『月と手のひら
VICTOR ENTERTAINMENT
VICL-61628
3,045yen (tax in) / 5.11 IN STORES
Reissue Single「千川通 りは夕風だった」 bounce records bounce-1003
1,200yen (tax in) / 5.11 IN STORES
Live info.

チーム日本人presents「宇宙・日本・甲府 VOL.10」
5月4日(水・祝)甲府KAZOO HALL

w/ LINK / ジェット機 / O-Front / and more...
OPEN 18:00 / START 18:30
TICKET: advance-1,500yen(DRINK代別)
【info.】KAZOO HALL:055ー227ー6970

RUSH BALL☆7 supported by NTT DoCoMo関西
5月22日(日)大阪城音楽堂

w/ 曽我部恵一 / つばき / ANATAKIKOU / BANK$ / CUBISMO GRAFICO FIVE / GREAT ADVENTURE / lostage / SWEEP
OPEN 12:00 / START 13:00
TICKET: advance-828yen フリーシート(自由席)/グリーンシート(芝生席)
*整理番号順のご入場となります。
【info.】グリーンズ:06-6882-1224

ワンマンツアー2005「月とすっぴんツアー」
6月24日(金)広島ナミキジャンクション 【info.】夢番地広島:082-249-3571
6月25日(土)福岡DRUM SON 【info.】キョードー西日本:092-714-0159
6月27日(月)松山サロンキティ 【info.】DUKE松山:089-947-3535
6月29日(水)岡山ペパーランド 【info.】夢番地岡山:086-231-3531
7月1日(金)新潟JUNK BOX mini 【info.】FOB新潟:025-229-5000
7月2日(土)仙台MA.CA.NA. 【info.】ノースロードミュージック:022-256-1000
7月10日(日)札幌COLONY 【info.】WES:011-614-9999
7月15日(金)名古屋ell.FITS ALL 【info.】ジェイルハウス:052-936-6041
7月16日(土)大阪 心斎橋CLUB QUATTRO 【info.】グリーンズ:06-6882-1224
7月18日(月・祝)東京LIQUIDROOM ebisu 【info.】ディスクガレージ:03-5436-9600

ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2005
8月5日(金)国営ひたち海浜公園

OPEN 9:00 / START 10:40 *雨天決行(荒天の場合は中止)
【info.】ROCK IN JAPAN FESTIVAL事務局:0180-993-611(24時間テープ対応、PHSからは不可)

ランクヘッド OFFICIAL WEB SITE http://www.lunkhead.jp/


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