今は、底抜けに笑い飛ばしちゃうことのほうがアンチテーゼになるんだと思います  

 ホリエモン騒動をさかのぼること1年半、電撃の買収劇でメジャー移籍したビート・クルセイダース(以下、ビークル)は、以来、数々のロック・フェスへの進出、アニメ『BECK』の主題歌提供と我々の予想を越えた活躍をみせ、この度、バンド結成8年を集大成すべくメジャー第1弾アルバム『P.O.A. 〜POP ON ARRIVAL〜』を完成させた。お面、「おま●コール」といった小学生並みの発想からは想像もつかない、美しいメロディとバンド・サウンドを紡ぎ出すPOP界のジェダイマスター・ヒダカトオルにビークル流POPの極意とその暗黒面 について存分に語っていただいた。心眼を開いて読まれよ!(interview:加藤梅造+やまだともこ)

所詮、俺達お面ですから
──ビークル、メジャー移籍後の第1弾アルバムがいよいよ発売となりますが、意外と助走期間が長かったですね。
ヒダカ:途中に『BECK』がありましたから。当初の予定ではサンボマスターと同じタイミングでアルバムが出て直接対決になるところだったんですけど(笑)。
──そうか、『BECK』では楽曲提供の他に音楽監修も務めたんですよね。まぁ、結果 的には『BECK』後ということで話題性も増してると思いますが、手応えはどうですか。
ヒダカ:このアルバムは自分で改めて聴いてみて、混沌としてるというか、すべてをひっくるめた感じがします。今までは重箱の隅をつつきに行ってたのが、今回は重箱全体を歩き回った感じで、時には重箱の外にも出て行ってますね。
──それは時間をかけて作ったから?
ヒダカ:というより、『BECK』でいろんな人と作業する中で意外な発見が多くて、例えばTROPICAL GORILLAが普段よりもメロディックな曲を作ってきて珍しくちゃんと歌ってるなぁとか(笑)、逆に、TYPHOON24にYKZのTATSUZOが入ってちょっとHIP HOP的なことをやってくれたりとか。だから、自分を一回疑ってみるというか、もっとできるんじゃないかっていう問いかけを自分にしながらやりました。今回のアルバムの初回盤には、バラード曲(「SAY GOOD-NIGHT」)が入ってるんですが、これは、『BECK』に「MOON ON THE WATER」という曲を提供してSoweluちゃんに歌ってもらったところ、「すごく素敵なバラードですね」って言われたことが大きいです。自分としてはR.E.M.の「Night swimming」みたいにフォーキーな曲のつもりが、それをバラードと認識してもらったのが新鮮で。今までロックのバラードとしてはTHE MODSの「バラッドをお前に」かRCの「スローバラード」ぐらいしか認めてなかったけど、もっとPOPになるためにはそういうチャレンジもいいんじゃないかと。
──なるほど。僕はまたビリー・ジョエルぐらい狙ったのかと思いましたが。
ヒダカ:もちろんそういうふうに聴いてもらって全然OKです。バラードを無理にトンガらせる必要もないですし、よく考えたらそもそもビークルがバラードやること自体がトンガってるんじゃないかと。朗々と愛を歌い上げても、所詮俺達お面 ですからね(笑)。
──お面に愛を告白されても…(笑)。
ヒダカ:だって、普通にバラードを歌える人は『Rooftop』に載らないでしょう。平井 堅さんとか(笑)。
──あと、いつにも増して80's感が際立ってますね。
ヒダカ:まぁ、意識しなくても出ちゃいますよね。どうしても。
──一口に80'sと言っても、MTV的なものからポスト・パンク/ニュー・ウェイヴまでいろいろあって、例えばニュー・ウェイヴなんかは結構リバイバル・ブームもあったりしてるんですが。
ヒダカ:そうですね、80'sリバイバルというよりは、ニュー・ウェイヴが良かったところをちゃんとやりたいなと。例えばディペッシュ・モードって言ったら、英米ではスタジアム・クラスのビッグ・バンドじゃないですか。でも日本だと渋公か、せいぜいサンプラザぐらいだったと思うんです。キュアーとかも。だから、そういうバンドの何が良かったのかっていうところをちゃんと伝えたいなと。
──当時の日本ではそれほど受け入れられていたとは言えないですからね。
ヒダカ:クラフトワークって、パッと思い浮かべるのはラップトップの前にメンバー4人が並んでる姿だと思うんですが、俺がイメージするのは「Robot」のPVなんです。ちゃちな書き割りの絵に人間の口だけ合成されているというあのドロドロした感じ、そういうのをちゃんとやりたい。あとDEVOの「Whip It」とかね。
──当時MTVで流れたヘンなニュー・ウェイヴの感じですか。
ヒダカ:そうですね。僕の場合、MTVじゃなくて千葉テレビの『テレジオセブン』でしたが(笑)。あと、電グルがやってた“ミュートマ”(註:TVKでやっていた伝説の音楽番組『ミュージック・トマト』)は本気で面 白かったですね。だってレギュラーが根本 敬ですよ! もうありえない。根本さんが街で見つけたイイ顔のオヤジの写 真を電グルや森若香織に説明してたりするんですよ(笑)。これ、俺の為に放送してんじゃないかと思ってましたから。
──当時の千葉県民と神奈川県民は恵まれてますよね。
ヒダカ:ああいう感じをやりたいんです。僕ら電グル見て育ちましたから。電グルはバンドというよりもユニット感が強いと思いますが、僕らはそれをバンドとしてやりたいなと。それはインディーズの頃から一貫して思ってました。極論を言えば、それだけをやりたいです。別 に武道館でライヴやりたいとか、そういうのは全然ないから。
──『オールナイト・ニッポン』のDJとかいいんじゃないですか?
ヒダカ:やりたいですね。だから、僕らはテレビ・ラジオの一番いい時期に育ったと思いますよ。今、クラスで自分しか知らないみたいな気にさせてくれる深夜番組って少ないじゃないですか。シェアできる人間が限られてるんだけど、それがすごくカッコいいみたいな。音楽ってそういうものをシェアするためのツールですよね。だから、街を歩いてる人がみんなビークルを知ってるというよりは、ギラギラしてる奴だけが聴いてくれればいい。俺達も若い時はそうだったじゃないですか。チェッカーズがどうしたこうしたとか言ってる奴を尻目に、ラフィン・ノーズを聴いて自分をギラギラさせてる、あの感じですよ。
──情報化社会になって、売れるものと売れないものがどんどん二極化していると言われてますが、ビークルの場合、ずっとメジャーでもないしマイナーでもないという絶妙な位 置にいますよね。
ヒダカ:確かにその通りで、そういうのが好きなんです。永遠の5番手ぐらいが(笑)。2番手じゃちょっと上過ぎだろうと。
──「ビークルって知ってる?」っていう会話が成り立つぐらいな?
ヒダカ:でも、そういう位置って狙ってなれるものでもない。だからこそ、メジャーにいる限りは数字としての結果 をちゃんと出したいですね。

ロック・スター願望は一切ないです
──やはりビークルはメジャーとインディーの橋渡し的な位置と言えますよね。
ヒダカ:最近ライヴハウスのスケジュールとか見ると、並びとして脈絡があまりないなぁと思うんです。例えば、ギター・ポップだったり、メロコアだったり、そういったバンド間のリンクが昔はもっとあったかなと。かといって、ジャンル分けをかっちりしろっていう訳じゃないんですが、もう少し一本筋が通 ってるといいなぁと。だからビークルが接着剤みたいになって、例えば俺がいいと思っているアスパラガスとユア・ソング・イズ・グッドをくっつけるみたいなことができるのが嬉しいですね。
──前からビークルはそういうシーンの接着剤的な役割を担っていると思いますが、ヒダカさんは気質的にも年齢的にも今後はもっとそういう部分が増えるんじゃないですか。
ヒダカ:そういうのが好きっていうのがありますね。基本的にどんな音楽も好きなんです。細川たかしとかも。音楽において仮想敵っていうのが存在しないんです。例えばお化粧系のバンドでも、彼らの背景にBUCK-TICKやオート・モッドとかがあったりするのが見えると音楽として愛せちゃう。まぁそこがビークルの長所でもあり短所でもあって、どうしても音楽性がとっちらかっちゃうから、コアなものやベタなものを求める人達からはそっぽを向かれる可能性があるんです。まぁそれでもいいのかなと思いますけど。どうせ愛されないなら徹底的に笑われてやろうと(笑)。ひねくれるっていうのは性格的にできないんで、嫌われている自分を笑いたいと思います。そこがビークルの基本的なスタンスかもしれないですね。
──ビークルはもっとひねくれてるかと思いましたが、意外とそうでもないんですね。
ヒダカ:俺自身はラフィン・ノーズやウィラード世代なんで、基本的に男らしいものが好きなんです。でも、同時にフリッパーズ・ギターも好きだったというのがひとつの分岐点だったのかと思いますね。
──70年代ぐらいまでは、ロックなんかやってる奴は、社会からドロップアウトした不良か、ギター買ってもらえるいいとこのお坊っちゃんのどちらかって感じがするんですが、ビークルはその両端とはまた別 の場所にいますよね。すごい不良ってわけでもないけど、お坊っちゃんでもない。
ヒダカ:俺らはロック・スター幻想を捨てた最初のバンドなんじゃないですか(笑)。最初のCDを出した時、既に30歳でしたから。スター願望やロック・アイコンへの憧れは一切なかったです。ミチロウさんやチャーミーさんには絶対になれないと。逆に、そういったカリスマ性を切り離すことが、俺にとってのパンクだと思ってました。だからロティカにはすごいシンパシーを感じます(笑)。ロティカほどのヨゴレはできないですけど…。あれは相当の熟練と技が必要ですから。最初にあっちゃんと会った時に「あつしさん」って呼んだら、「ダメダメ。あっちゃんって呼んでよ」って、向こうから尊敬されることを否定してきましたから。さすがだなぁと。
──ニューロティカって唯一無比の存在だと思うんですが、もしかしたらビークルってロティカの意志を継げる存在かもしれないですね。
ヒダカ:俺もそう思います。まぁ、頭髪だけは継がないように頑張りたいと思いますけど(笑)。だから、ロティカのバンド感と電グルのユニット感の間を行きたいですね。といっても、両者とも現役として君臨してるんで早く引退して下さい、と誌面 を借りてお願いしときます(笑)。

何事もなかったことにしてのうのうと生きたくはない
──あと、今回もライナーノーツにヒダカトオル(中州産業大学教授)による全曲解説が付いてますが、かなり情報詰まってますねぇ。
ヒダカ:曲作りよりこっちのほうが時間かかってますから(笑)。
──『渡鬼』とか『少女に何が起こったか』(註:小泉今日子、石立鉄男らが出演した大映テレビドラマ。1985年放送)とか、曲と全然関係ないような解説が多い気もしますが(笑)。
ヒダカ:いや、やっぱりキョンキョン好きなんで…。
──ていうか、石立鉄男じゃ歌詞の世界観ブチ壊しじゃないですか。
ヒダカ:自ら構築して自ら壊すというのは、パンクスの基本ですから(笑)。まぁ照れ隠しということで。
──でも、解説に出てくるバンド、映画、小説をチェックするだけでも初心者はかなりサブカル知識が鍛えられますよね。
ヒダカ:俺、先生キャラだと思うんです。そのうち伊藤政則さんみたいになるのかなって。ルックス的にも近いし(笑)。ポップ・パンク界の先生になりたいですね。以前は「わかんないことがあったら自分で調べろ!」ってスタンスだったのが、最近じゃ「俺のところに訊きに来い!」って感じです。時々ファンの子からプレゼントをもらうこともあるんですが、俺が一番喜ぶプレゼントって「ヒダカトオルが好きなバンドを好きになりました」ってことなんですね。バンドをやるってそういうことだと思うんです。俺には自分がナンバー・ワンになりたいとか、自分の内なる芸術性に人を酔わせたいっていうアーティスト・エゴは全然ない。むしろ21世紀においてそういうエゴはもう要らないと思いますよ。レコード会社がビークルのプロモーションに使ってくれる宣伝費っていうのは、俺が見てきたもの、聴いてきたもの、おもしろかったものに対する宣伝費だと思ってますから。だから、今音楽で悩んでる人はヒダカトオルを訪ねてくれと。まず最初はガスタンクから聴いてもらうけど(笑)。
──いきなりハードル高いなぁ。
ヒダカ:だからこのCDも、ロックおもしろ教科書として聴いて欲しいです。とりあえず、アジカンやエルレガーデンを好きなニュー・スクールも、ラフィンやガスタンクを忘れられないオールド・スクールも、ビート・クルセイダースを聴けば全てはひとつになるような気がします。それがおすすめポイントです。もちろん80's好きも大丈夫です。
 これは『Rooftop』だから言いますが、アルバム・タイトルの『P.O.A. 〜POP ON ARRIVAL〜』は今のJ-POPに対するアンチテーゼでもあるし、もちろん元ネタである『D.O.A.』(註:セックス・ピストルズを追いかけたドキュンタリー映画。デッド・ボーイズ、シャム69なども登場)の意味も当然ある。『DEAD ON ARRIVAL』っていうのは、あの当時の80'sハードコアによくあるタイトルなんですが、要は即死っていう意味じゃないですか。あの頃ってそこまでネガティヴだったんだなって。G.B.H.、The Exploited、Discharge…どのバンドも、世界っていうのは腐っていてダメなんだっていうことを言っている。それってよく考えてみると、当時世間はバブルだったからこそああいうアンチが必要だったんだと。逆に今は世間のほうが絶望しちゃってるじゃないですか。だから底抜けのことを言っちゃったほうがいいのかなって思う。だから、G.B.H.と真逆のことやってみようっていう発想でこういうタイトルにしたんです。
 もちろんあの頃のネガティヴ感って俺も持ってたし、ネガティヴなメッセージを発信してそれを受け止めることがカッコよかった。でも、今はカッコよくないじゃないですか。だって俺と同じ年ぐらいの人が包丁持って学校に入っちゃってるんだから。大人が路頭に迷ってる。そうすると、あの当時のハードコア闘争って何だったんだろう? って考えてしまう。まるで60年代末に安保闘争やってた人たちが普通に会社の重役になっちゃってるみたいな。そしてオレ達がまたそれを繰り返すのだとしたら、とても歯がゆい。あの頃のパンク闘争をまるで何事もなかったことにしてのうのうと生きてるぐらいだったら、俺は悪ガキでいたいですね。そういう大人なりの毒はあると思います。このアルバム、ないしはビート・クルセイダースという存在そのものに。だから簡単にキャーキャー言われたくないし、言わせないものをいつもやってるつもりなんです。だから退いていく人もいるんだろうし、それはそれで結構だと思ってる。そういう毒は常に盛り込みたいですから。今は、底抜けに笑い飛ばしちゃうことのほうがアンチテーゼになるんだと思います。
──「HIT IN THE USA」で底抜けに明るいアメリカを表現することが、逆に今のでたらめなブッシュ・アメリカのアンチになっているってことですよね。
ヒダカ:そうです。そこはロフトが抱えている問題と同じなんじゃないですか。80'sハードコア感とどう折り合いを付けていくかっていうのが勝負どころだと思うんです、平野さんの(笑)。

■Release info.

New Single 『FEEL

DefSTAR RECORDS
DFCL-1188
1,223yen (tax in)

POP IT NOW

Major First Album『 P.O.A. 〜POP ON ARRIVAL〜

DefSTAR RECORDS
DFCL-1199(初回盤)
DFCL-1200(通常盤)
2,730yen (tax in)
5.11 POP IT OUT

DVD Single『LOVE POTION #9

DefSTAR RECORDS
DFBL-7071
1,260yen (tax in)
6.01 LOVE IT OUT

 

7inch Single『 LOVE POTION #9 / BLOCKBASTARD

DefSTAR RECORDS DFKL-1 1,529yen (tax in)
6.01 LOVE IT OUT
Live info.

FM802 & SPACE SHOWER TV present SWEET LOVE SHOWER 2005 SPRING
5月8日(日)大阪城音楽堂(野外ステージ:雨天決行)
w/ the miceteeth / jackson vibe / ストレイテナー / ELLEGARDEN / フラワーカンパニーズ / アナログフィッシュ / and more...
OPEN 13:00 / START 14:00(開場時 OPENING ACT 有り)
TICKET: フリーシート(自由席)/グリーンシート(芝生席)advance-3,675yen(DRINK代別 )
【info.】FM802リスナーセンター:06-6354-8020/GREENS:06-6882-1224 BEAT CRUSADERS

LIVE TOUR 2005 〜アタック2005〜
5月22日(日)沖縄ヒューマンステージ/6月1日(水)東京リキッドルームebisu/6月4日(土)名古屋クラブクアトロ/6月5日(日)大阪ビッグキャット/6月7日(火)富山ソウルパワー/6月8日(水)松本アレックス/6月9日(木)新潟クラブジャンクボックス/6月11日(土)仙台クラブジャンクボックス/6月19日(日)札幌ベッシーホール/6月23日(木)沼津バーサル/6月25日(土)広島ナミキジャンクション/6月26日(日)福岡ビブレホール/6月28日(火)鹿児島SRホール/6月29日(日)大分トップス/7月1日(金)松山サロンキティ/7月2日(土)高松ダイム/7月4日(月)岡山ペパーランド/7月5日(火)米子ベリエ/7月7日(木)神戸スタークラブ/7月8日(金)京都磔磔/7月12日(火)高崎フリーズ/7月13日(水)宇都宮ヴォーグ/7月15日(金)水戸ライトハウス/7月16日(土)柏クラブザックス/7月18日(月)さいたま新都心ヴォーグ/7月19日(火)八王子リップス/7月21日(木)横浜F.A.D.
【total info.】VINTAGE ROCK:03-5486-1099(平日 12:00〜17:00)

BEAT CRUSADERS OFFICIAL WEB SITE http://www.beatcrusaders.net/

BEAT CRUSADERSさんよりステキなプレゼントがあります。
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