──これはロフト・グループのフリーペーパーなんですが、まだ一度もロフトやシェルターに出たことない訳ですから、読者はこのバンドのことを知らないと思います。一体どんなバンドなんですか？
「70年代ロックの暗くてニヤニヤしてしまいそうな単音のリフの上に、歌謡曲っぽい日本的なメロを乗っけて、ごくごく個人的な苛立ちやモヤモヤをウダウダとぼやきまくるというか、不信とか憎悪を叩きつけるというか…。（急に真顔で）あのぉ、一般 にパンクのイメージってのは、体制や年寄りに対して適当に横文字並べて文句言って殴り合いばっか好んでしてる腕力重視で目立ちたがりの小洒落たヤンキー…みたいな感じに思われがちなんですが、実はそれは大きな間違い勘違いであって、本当のパンクスはただひたすら駄 目人間な筈なんです。何をやってもとことんうまくいかない、先輩も後輩もなけりゃ親友なんか作れやしない、誰からも後ろ指をさされ陰口を叩かれ尊敬なんかされないから派閥もチームも作れる訳ない、空気も読めず間も悪い…格好のつけ方も知らんし、大体、そういう気取りに馬鹿デカい抵抗あるからね。結局一番厄介で気に喰わないのは、度を超えた面 倒臭がり屋な自分自身ってことになる。それゆえのやけっぱちです、僕らのバンドは。そんなパンク・ロックで、うそ寒い世間からの独立を志そうと」
──（話、長ぇ…）そういうべクトルで言うと、中学生棺桶はパンク・ロックだと。
「どっから見てもそうでしょ!!（キッパリ） 僕らは、昨今の野球帽斜めかぶりで右に習え、上に習えで同じようなことを同じような歌い方でモテたさついでに肩組んで大合唱してる細眉ジャニヅラ面 バンドをパンクやヘヴィーだとは認めません。かと言って、鋲ジャン着て髪立ててカメラに向かって口とがらせたりアカンベしてる奴が、欧米かぶれの焼き直しで終わってたり、ファストであればそんだけで盛り上がれるぜ〜的なノリってのもどうかと思うし。見た目と音がロンドンで、ヴォーカルが天然チンピラ気取ってりゃパンクなんすか？ 何の思想信条もない糞チャラいエテ公でも!? アジアヅラ面のくせに!! そんなら僕らはそんな似非パンク・シーンとは一生相容れない。ファッション誌の表紙を誇らしげに飾るようなオシャレ・エリートにゃなれませんや。（ため息混じりに）棺桶は、普通 に聴いたらどうだろう？ ハード・ロックなのか…なぁ。やっぱり…」
──独り言終わりましたか？ ところで、鋭利なリフ主体の楽曲ながら歌メロ自体は非常に歌謡曲的と言うか、歌いやすく覚えやすいメロですよね。この辺はあえて心掛けてるとか？
「いくら邪悪さを表現したいったってデス声はあざといし、歌手デビュー果たしたグラビア・アイドルみたいなこと言うけど…歌うことが好きなんですよぉ、グフフフフ（受け口＆上目使いで）。打ち上げでは井上陽水や山崎ハコを気持ち良く歌い上げます」
──（興味なさそうに）あぁ、そうですか。基本的に憤り、怨み、愚痴、ぼやきが世界観の中心ですね。今時よくありがちな前向きなメッセージや、便所のカレンダー的な人生訓を乗せた歌は作ろうと思ったことはない…ですよね？ 当然。
「童貞がピュアだと美化したり、純粋まっすぐが一番綺麗でいかしてるとか、おかしなことをよくもまぁ。惨めなもんは惨めなだけだし、汚ェもんは汚ェだけだ。だから面 白いんじゃねぇかと思うんです。くどいようですが我々は、ああいう人情味の厚さとか人間最高！クンとか僕らは宇宙船地球号の乗組員だ…みたいなクラブ精神を信仰、継承して影響モロ出しにしてる連中とは口もききたくないし、こう思ってることを隠してヘラヘラ営業に回るような橋本元首相みたいな外交はできないので、どこでライヴしても大体村八分です。スタッフの人とも滅多に打ち解けないので、折り込みを捨てられたり、リハ順変えられたり、あからさまな意地悪をされます。（急にどんよりとなって）僕らが何したってんだ、チキショウ……どんどん人間がおっかなくなります。悪循環ですよ。話長いですか？ 嫌いになりました？」
──いや、別に最初から好きでも嫌いでもないので…。でも、そんな苛立ちが曲作りやバンドの糧になるのなら、逆に願ったりでは？
「そうですね。昔に比べりゃ随分と安楽だし、物好きな大人達が頑張ってくれたおかげで今回こうしてCDも出せた訳だし。今後もこのまま自閉的態度を貫いて、パンクスとして決して保身にだけは走らぬ ままで、数少ない同志…気兼ねしいしい世の片隅につつましく負け残っている人達の代表として、矢沢あいの漫画とか『BECK』とか愛読してる連中に雷落としていこうと」
──やはりそこら辺はお嫌いでしたか。
「勿論！ 時代にピッタリ歩調を合わせた行列行進的英語詞ミクスチャーで、あまつさえこの期に及んでアメリカン・ドリームを口走るなんて狂気の沙汰だ。感情移入するならもっと良い漫画たくさんあるのに。日野日出志とか岡田あーみんとか。あとはやっぱ坂口安吾と太宰。とりあえず、日本のバンドは皆母国語で歌おうや、と。小洒落た雰囲気作りたいんだか、糞チャラいありふれた言葉並べるしか能がない自分をごまかしたいのか、多分両方なんだろうけど、英詞で吠えてる売国奴はとっとと海渡って二度と帰って来るなっての！ 永住しちまえっての！ アメリカでヒットさせてろ！ って本気で思います。僕らは自分の国の独立にしか興味ないです。だから裏原宿も嫌いです。そもそも裏原宿って何よ？ 原宿＝ハロプロ・ショップなんだから“裏ハロプロ・ショップ”って言うべきでしょうが」
──ハロプロ・ショップ？ まぁいいや。では人気取りの為に割り切って、ああいう曲を作る気は更々ないと？
「ありませんよ。靖国の英霊に誓います。大体、僕らが例えば押尾 学みたいなファッション・ラウドロックをやったところで、果 たして売れるでしょうか？ 中学生棺桶のメンバーにはエイプ着た無造作ヘアのイケメン君も、香水臭いボディ・ピアスの部分ブリーチ君も、シド・チェーンだのドクロだのジャラジャラ付けたカラコン君も一人もいませんよ。結局、大多数の皆さんが求めてんのはそういうのでしょう？ 手間暇かけたルックスと、オシャレなサブカル人種とツルんで、TVタレントに成り上がって洋服屋も開いて…的な下心。どちらも僕らにゃ欠けてます。僕らにあるのは、嘘ばかりつきながら平気で笑い合う人間どもへの不信と、パンクをナンパ・ファッションに使うヤンキーどものマッチョ主義への憤怒、それから、バンド以外にハケ口が無いという切羽詰まったこの情欲、ただそれだけです。（いきなり立ち上がり）そりゃ僕だって有名になって『タモリ倶楽部』には出たいさ!!!! ベリーズ工房の皆と駄菓子屋デートとかもしたいさ!!!! 梨沙子とうまい棒食べてぇ、夏焼とラムネ飲んでぇ、嗣永には500円玉 あげてキミはガッツあるね…って頭撫でてぇ、そしたらまあさがこう言うんだ、“葉ちゃん、わたしにはなにもないの？”なんて。そしたら俺は、俺は……」
──オイ、ちょ、ちょっと待てそこのキ●ガイ!!!! なんだそのそのキーワード！ そういえば、歌詞の中に「りか危うい」だの「あさみは折り紙の姫」だの「れいなが皆殺しに来た」だのという言葉があるし、『BUBKA』にいきなり載ってるし、モーニング娘。メンバーに対する屈折した愛情が明らかですよね？ パンクがどうだ、ドゥーム・ロックがどうだとか言うとるけど、アンタらただの腐れヲタじゃないですか!!
「（頭を振りながら）想像力の貧困な人だなぁ。僕は個人的なモヤモヤしか歌わないと言ったでしょうが。あの曲は僕の脳内の俗天使及び大悪魔の歌で、僕の頭ん中で終わらずに続いてく女生徒のはしゃぎ回る姿だ。だから実在はしていない。て言うか何かね？ ロッカーがアイドル好きになっちゃいかんのか!? 好きでも公言控えたり、緒川たまきとかアートかぶれな女優の名を挙げてごまかすのがバンドマンだと言うか君は!? 断言するがムッツリ助平はパンクスではない！ 己の下劣さ醜さを晒して然るべきではないのか！ 昔、頭脳警察という悪たれ小僧はアグネス・チャン見てナニかいたと歌ってたぞ。ジェネレーションXに至っては、ビートルズよりもストーンズよりも司会のキャシーちゃんに夢中な俺〜！ と『レディ・ステディ・ゴー』という曲でおたけびコイてる始末だ。アイドル好きで何が悪いとよォ〜ッ!? 君は無知だ！ 文学読め！ ハロプロのCD全部聴け！ それよりなにより『ハロモニ』見ろ！ むしろ『ハロモニ』しか見るな！ そ・し・て！ 俺たちを、中学生棺桶をなめるなァァァァッ！」
──あのぉ、もう帰ってもいいですか？