踊る角には福が来る! 日本全国エジャニカドンドン!!  

男惚れするバンドである。古今東西で生き続けている行進曲、祭囃子、式典音楽等の要素を採り入れた“ハードマーチ”を奏で、渡世の義理人情を粋にいなせに唄い上げる浅草の一番星、または古き良き下町情緒を振りまく異形の音楽集団、浅草ジンタ。デスマーチ艦隊とテンタクルーズ交競楽団のメンバーが結成したマッハマーチジャポニカが転じて百怪の行列と改名、さらにかの三遊亭小遊三 師匠に浅草ジンタの襲名を受けたという数奇な変遷を辿っている彼らだが、通 底するテーマは変わらない。それは、お祭り好きのお調子者で、喧嘩っぱやくて涙もろい、文字は読めても明日は読めない、そんな愛すべきスットコドッコイの情緒を独自の感性で歌にすることだ。そのスットコドッコイとはすなわち我々自身である。だからこそ浅草ジンタの音楽は我々の心を捉えて離さない。人と人との情が交わる時、彼らの“ハードマーチ”は進軍ラッパの如く高らかに鳴り響くのである。(interview:椎名宗之)

“エジャニカ”を一言で言うなら“自然体”
──あの三遊亭小遊三 師匠に“浅草ジンタ”と襲名されてから初のアルバムが遂に完成と相成りましたが。
ダイナマイト和尚(ヴォーカル&ウッドベース/以下、和尚) 「そうですね。今の6人編成になって、落語芸術協会客員となってからは初めてのアルバムですね(笑)」
──浅草の日常を切り取ったサウンドトラックといった趣もあり、大変な充実作に仕上がりましたね。
和尚「自分達としては余り狙った感じではなくて。まぁ、普通 に頑張ったってとこですかね」
ヒロ(キーボード&アコーディオン)「特にこうしようっていうコンセプトもなく、ありのままの浅草ジンタを出した感じですね」
ミイカチント(ソプラノサックス)「レコーディングしたのが昔のことすぎてよく思い出せません(笑)。でも、自信作なんで一人でもたくさんの人に聴いてほしいです」 和尚「曲間にセリフが挟み込まれていたり、こういう音楽は一見変わった特殊なものに思われるかもしれないけど、これが僕達にとっては普通 の感覚ですからね」
──小遊三師匠率いる“にゅうおいらんず”(三遊亭圓雀 師匠、桂伸乃介 師匠、三遊亭右紋 師匠、春風亭昇太 師匠、落語芸術協会のベン片岡兄貴が参加した噺家デキシーバンド)や鉄拳がクラクションで参加した曲があったりと、余りにも豪華な顔ぶれが脇を固めてますね。
ヒロ「こんなにさりげなく入っててイイのかな? って自分達でも思いますね(笑)」
和尚「そもそも、『口上タンカタンカ』に参加して頂いた小遊三師匠に“判りづらい”って言われて浅草ジンタに襲名されたという成り行きです」
──それまでは“百怪〈ひゃっけ〉の行列”を名乗ってましたもんね。
和尚「ええ。“こんな名前じゃまず読めない”って(笑)。で、改名はイヤだけど襲名ならイイかなって。光栄なことだし、今は気に入ってますけどね」
──しかしこれだけ錚々たる噺家さん達が大挙出演すると、いろんな意味で現場は大変だったでしょうね(笑)。
和尚「“にゅうおいらんず”とのレコーディングは…もうほとんど老人介護状態でしたね(笑)」
ミイカチント「師匠達のリハビリに貢献しました(笑)。小遊三師匠は合図がないとダメで」
ヒロ「小遊三師匠は“1、2、3…”のカウントじゃトランペットを吹けないんですよ(笑)。だから“1、2、3、ここで!”って合図を出して(笑)」
和尚「“師匠、キューボックス(スタジオ・プレーヤーのためのヘッドフォンアンプ)使って下さい”って言っても“要らねェ!”って。それで無理やりヘッドフォンを付けさせたら、裏返して付けちゃって“耳に冷てェよ”って(笑)」
──その“にゅうおいらんず”の面々が参加した「エンコ節」の“エンコ”っていうのは?
和尚「浅草公園の古い俗称なんです。“公園”を逆さに読んでるんですね。“浅草〈エンコ〉が俺を呼んだからドスを抱えてきたんだぜ”なんていう(高倉)健さんの任侠映画もありますし」
──アルバムのリード曲と言える「浅草ロックII」の作詞は、駆け出しの頃に浅草フランス座でバイトをしていたビートたけしさんが手掛けてますが、“II”ということは“I”も存在するんですか?
和尚「『僕は馬鹿になった。』っていうたけしさんの詩集に同名の詩があるんですよ。その詩に凄く感銘を受けて、曲にしてみたんです。“これは俺がやんなきゃいけないだろう!”と。ただ、正式にたけしさんからは許可が下りたんですけど、先にハウンドドッグの大友康平さんがライヴでやってたそうなんです。音源化はしてないんですけど。だから僕らの『浅草ロック』は“II”なんですね」
──「日本全国エジャニカドンドン!」という曲もあるように、浅草ジンタの音楽を語る時に“エジャニカ”(ASIANICA)というのが重要なキーワードとしてあると思うんですが、この定義は?
和尚「例えばニューオリンズで言えばジャズ、ジャマイカならレゲエといった地域に根差した独自の音楽がありますよね。それと同じ感覚なんですよ。聴いてくれる人が自然と寄ってくるような大衆音楽で、それをたまたま何かのジャンルとして括っただけだし。単純に一言で言えば、“自然体”っていうことですね」

人の情けや喜怒哀楽を包み隠さずに唄う
──浅草という町に根差した音楽を体現していると?
和尚「特にそう限定してるわけじゃないんですけど、異文化を吸収し続けて肥大化してきた渋谷みたいな街とはやっぱり違いますよね。浅草は日本で初めてエンターテイメントが生まれた町で、今も変わらずいろんな芸人や音楽を送り出している所ですから、僕達の音楽を自然な形でやるには浅草が一番水が合うんですよ」
──浮き世の喜怒哀楽を独自の感性で描いた懐の深い音楽だと思うんですが、表向きは飾らず肩肘張らずにスウィングしてるのが非常にイイと思うんですよ。
ミイカチント「和尚がウッドベースを弾きながら唄ってるのが意外と大きいかもしれないよね」
和尚「デスマーチ艦隊の時からウッドベースは弾いてたんですけど、歌に専念したかったんで一時期封印してたんです。重いし。でも、今の編成になって周りのアドバイスもあって復活させたんですよ」
──エジャニカ・サウンドをハードマーチという形でやるスタイルは、百怪の行列の前身である“マッハマーチジャポニカ”時代から一貫してますよね。
和尚「その言葉は、実は下北沢で生まれたんですよ。デスマーチ艦隊をやってた僕とシンヤ二時、テンタクルーズ交競楽団のメンバーで結成したんですけど、当時僕達がやってる音楽に当てはまる言葉がなかったんですよね。その頃はメロコアの全盛期で日本語で唄ってるバンド自体も少なかったし、どう呼べばいいのか判らなかった。で、“どうでもええじゃん”っていうのもあったし、“アジア的”ってことでそう名乗ってたわけです。日本人を始めとして、音楽的に近い文化圏の人が持っている自然なノリや歌を表現したいと思ったんで。伝統的なものや形にはこだわってないんです。当たり前のことを形にしたいんですよ」
──和尚の奏でるウッドベースを筆頭に、アコーディオンやソプラノサックス、トロンボーンといった編成もロック・バンドとしては他に類を見ないユニークなものですが。
和尚「サウンドも勿論大事ですけど、最終的には“歌”なんですよ。日常から生まれるごくごく自然な歌。こうして僕が普通 に呑んでてノッてきたら自ずと鼻歌が出たりする。浅草ジンタの音楽はその延長線上にあるんですよ」
──躍動感に溢れたジンタのハードマーチは、やはり生で観るのが一番ですよね。
和尚「勿論。僕らのライヴは理屈抜きに楽しめると思うんで。なんせ、ロック・バンドとしては落語芸術協会の歴史上初の客員ですから(笑)、浅草演芸ホールや浅草のお祭りや仲見世商店街なんかでチンドン屋みたいなマーチング・スタイルでやることもあるわけです。そのほとんどがお爺ちゃん、お婆ちゃんっていうお客さんの前で普通 にロックをやってもしょうがないし、かといって妙に芸人ぶってもダメなんです。だからこっちも鍛えられますよね。でも僕らの音楽には年齢や人種、国境の垣根すらないと思ってるので、一度観てもらえればきっと判ってくれると思いますよ。お客さんと楽しみながらライヴはやってますね。ヘンに気構えることなく、『水戸黄門』を見るような感じでライヴを観てほしいですね(笑)」
ヒロ「黒塗りの自転車で移動しながら浅草の町をライヴして練り歩いたりもしてるんですよ。そんな機会に遭遇したら是非足を止めて観てやってほしいですね。見所のあるライヴだと思うし、町並みの風景とジンタの音が無理なく溶け込んでいるはずなので」
──浅草ジンタの奏でる音楽もその佇まいも“粋”という一言に集約できると思うんですが、和尚の考える“粋”というのは?
和尚「それはつまり“情”ですよ。手前のことを差し置いても、何があってもまず相手のことを真っ先に考えて行動すること。そんなごく当たり前のことですよ」
──なるほど。そんな当たり前のことをさりげなくもきちんと貫き通すからこそ、浅草ジンタの音楽は我々の琴線に触れるんでしょうね。
和尚「そこまで恰好いいもんじゃないですけどね(笑)。まぁ、この年齢になったからこそそんなことが言えるのかもしれないし。ただ、僕らの音楽は“和モノ”ではないですよ。“和”そのものですからね。人の情けや喜怒哀楽を包み隠さずに唄うのが僕らのテーマなんです」

◆Release info.

浅草ロック

ラビットハウスレコード
GLCG-25011
2,500yen (tax in)
2005.1.26 IN STORES

◆Live info.
<浅草ジンタ主催イベント『ロッキン新天地vol.2』>
2005年1月21日(金)浅草KURAWOOD
OPEN 18:00 / START 18:30
PRICE: advance-2,500yen / door-2,800yen
協賛:浅草ヨーロー堂、浅草KURAWOOD、(社)落語芸術協会

<浅草ジンタ レコ発ワンマンライブ『ジンタのロックンロールで無法松』>
2005年2月12日(祝・土)初台DOORS
OPEN 18:00 / START 19:00
PRICE: advance-2,700yen / door-3,000yen(共にDRINK代別)

浅草ジンタ OFFICIAL WEB SITE http://www.hyakke.com/