photo by Hidetomo Hirayama
一切の妥協をせずに自分の信じたことだけを貫くべきなんだ  
今夏、ロバート・スミス率いるThe Cureのアメリカ縦断ツアー『CURIOSA』にセカンド・メイン格として参加したUSインディ・ロックの至宝“cursive”。そのフロントマンであるティム・ケイシャーのサイド・プロジェクト“The Good Life”が、去る10月下旬に待望の初来日を果たした。米ネブラスカ州オマハを拠点に活動を続けるティムは現在のUSインディ・シーンにおける最重要人物の一人であり、当地では『THE NEW YORK TIMES』や『SPIN』といった主要メディアが相次いでオマハの音楽シーンの魅力を深く掘り下げて特集しているように、目下絶大な支持を集める存在である。劇的で切迫感のあるcursiveの音楽とは異なり、より多面 的なサウンドに彩られたThe Good Lifeとして活動するティムの真意とは? 日本滞在中の彼に話を訊いた。(interview:椎名宗之

日本でプレイできたことを光栄に思う
──昨年行われたcursiveのジャパン・ツアーに続く2度目の来日の感想から聞かせて下さい。
「日本に居ることは僕自身凄く楽しいし、感化されることが多いね。今回は僕以外の3人のメンバー…ライアン(・フォックス/g)、ロジャー(・ルイス/ds, per)、ステファニー(・ドゥルーティン/ba)を一緒に連れてくることができて良かったと思うし、感激もしている。とにかく彼らと共に非常に楽しい経験をさせてもらっているよ。こうしてThe Good Lifeとして日本でプレイできるなんて、自分では最初全く考えてもみなかったことなんだ。これも去年cursiveとして来日した時のショウが成功したお陰だよね。だから日本でプレイできるのはとても光栄なことだし、嬉しく思っているよ」
──『極東最前線 〜国境無きヘベレケズム〜』で共演を果 たしたeastern youthはどうでしたか?
「eastern youthとは去年のライヴでも共演したけれど、改めて素晴らしいバンドだと思ったね。The Good Lifeとして彼らのオーディエンスの前でプレイするのをずっと楽しみにしていたから、凄く興奮したよ。The Good Lifeにとって、eastern youthのファンの前で自分達の曲を披露することは音楽的にとても意味のあることだし、初めて東京でプレイするのは特別 な体験でもあった。アルバムも今回初めて日本でリリースされて、僕らのことを知らない日本のオーディエンスの前でショウをやれるのは大きなチャンスであったのと同時に、面 白いショウにしなければならないという点で凄くチャレンジしがいのあることだったんだ」
──実際、日本のオーディエンスに対してはどんな印象を持ちましたか? 海外のミュージシャンはよく「日本人はライヴでは大人しいね」と言いますけれど。
「“大人しい”って言うよりは、凄くよく注目してくれるオーディエンスだと思う。アメリカでも余りいないタイプだし、ヨーロッパなんかへ行くともっといないタイプだね(笑)。他の地域には見られないオーディエンスだよ。実際にプレイして思ったのは、とにかく日本のオーディエンスは素晴らしいってことだね。自分達が意図したことをショウの中で見せる時に、ヤジも飛んでこなければ演奏の邪魔をすることもない。僕らがステージの上でやりたいことをごく自然にできたからね」
──『極東最前線』でも、日本のオーディエンスはThe Good Lifeの大らかなサウンドを開放的に楽しみながらも、あなた方の一挙手一投足を見守っているようにも見えましたね。
「ステージに上がって緊張するとか居心地が悪いとか感じることは全くなかったけど、それは僕が去年一度来日していることもあると思う。オーディエンスの反応も多少は理解していたからね。日本のオーディエンスっていうのは、ステージを観に来る時にはちゃんと音楽を聴くことが第一義としてあるよね。たとえその音楽に余り興味が持てなくても、パフォーマンスする側の人間に対してきちんとリスペクトする心を持ち合わせているんじゃないかな。だからこそ僕は彼らの前でプレイするのがとても心地よかったし、やりやすい環境にあるんだと思うよ。ステージで演奏される音楽に対して関心を持てないオーディエンスっていうのは、往々にして態度が悪かったりするんだよ(笑)。そうなると、演奏する僕らとしては集中力が途切れてしまうんだ。曲に全く集中できなくなって、“この最前列のオーディエンスは何をダラダラと話しているんだろう?”“あの女性はなんで後ろを向きっぱなしなんだ?”なんてことばかりが気になってしまうんだよ(笑)」
──なるほど。ティムさんが日本のショウで余り緊張せずにプレイできたのは、ステージでも終始にこやかに呑んでいたアルコールに負うところも大きいと思いますけど(笑)。
「確かにそれはあるね(笑)。このバンドとしてはいつもリラックスした和やかな雰囲気でショウをやっているし、自分達が育ったネブラスカ州のコミュニティの文化として、酒を呑むことは非常に大きな位 置を占めているんだ。東西の海岸地帯と比べて真ん中のほうに位置する州はそういう傾向にあるんじゃないかな。とにかく、飲酒は自分達の文化的背景として不可欠なことなんだよ(笑)」
──イギリス独特の雰囲気を持つ居酒屋、パブで演奏されるロックのことをパブ・ロックと呼びますけど、日本に比べて諸外国のほうが音楽と酒が密接に関係していると思うんです。ティムさんが育ったオマハでもそれは同じなんでしょうか?
「そうだね、密接に関わっているよ。大酒呑みの僕が言うんだから間違いない(笑)。僕の知ってるオマハのバンドは皆そんな感じだしね。ステージだけじゃなくて、誰かの家の地下室に行って演奏する時にもビールを1ダース買って呑みながらプレイするし、バーに行ってプレイしながら呑むのは日常的なことだからね」

ソングライターとしての著しい成長
──まさに“国境無きヘベレケズム”ですね(笑)。ティムさんがありのままの感情を吐露するcursiveを私小説とするならば、The Good Lifeは敢えて言うなら客観小説だと思うんです。The Good Lifeとして発表された『Album Of The Year』に収められた曲はどれも生々しいラヴソングですが、三人称を曲の主人公にすることで多分に虚構的になるというか、リスナーが多面 的にイメージできる“のりしろ”の部分が多くなる。差し込む光の角度によって色が変わる海のような…。
「そうだね。……今、その海の光景を想像してみたよ(笑)。ソングライティングに関しては少しずつ変わってきていて、シリアスであったりドラマティックであったりするものをどう感情を交えて書いていくのかが今のテーマなんだ。歳を取れば取るほど、自分自身どうすればエンジョイできるのか判るようになってきたのが大きいと思う。物事を一面 からだけではなく、いろんな面から見ることができないといけないし、シリアスな対象でもユーモアを採り入れたりして表現することが凄く重要だと思うようになった。それはつまり、ソングライターとしてどれだけ自分が成長しているかということなんだよね。悲劇的なことは人生に必ず起こることだけど、それだけをモチーフとして扱っているとどうしても一面 的になってしまう。リスナーが僕の人生での経験と照らし合わせることのできるような歌を生み出したいといつも思っているんだ。人生っていうのは何も悲劇ばかりじゃないだろ? 凄く悲しい瞬間でも人間は笑えたりすることを知っているわけだから、喜びと悲しみの両面 を捉えないといけないって思うんだ」
──ユーモアの重要性は年々感じていますか?
「自分がバンドを活動してきて今に至るまでの長い間、ユーモアとはうまく付き合えてこれなかった。cursiveをメインにやっていた頃はまだ多面 的な物事の見方やアプローチができていなかったけれど、The Good Lifeになってうまい具合にユーモアを採り入れることができたんだ。だからまたcursiveに戻った時にここで学んだことを持ち帰っていい作品ができると思っている。自分の人生においても、ユーモアはとても重要だよね。それをどういうふうに曲に反映させるかをずっと考えてきたけど、ユーモアっていうのは必ずしもジョークやコメディに類するものじゃなくて、悲劇に襲われた時にどう対応していくかの手段じゃないかと思うね」
──曲作りの上で、これはcursive用の曲、あれはThe Good Life向きの曲…というような振り分けはありますか?
「cursiveとThe Good Lifeとでは、基本的なアプローチがまず違うんだ。The Good Lifeは凄くリラックスした自然な形で自分自身を出せるものが結果的に作品となる。自分に何か挑戦してみようというよりは、まずプレイしてみて、その中から出てくるいいものを形にする。その一方で、cursiveはもっと革新的なものというか、独特なものを作ろうとするベクトルで動いているんだ。心地よいコードを作るというよりは、何か他と違った独特な曲を作ろうとするわけだよ。だから両者は全くの別 物なんだ。そこで自分自身うまくバランスが取れているのかどうかは、正直判らないな。それが判っていたら、もっと賢くて今よりいい状況にいるんじゃないかな?(笑)」
──“The News From Nebraska: Local Bands Make Good”という見出しで『THE NEW YORK TIMES』にcursiveの記事が掲載されたことがありましたが、目下注目を浴びるオマハの音楽シーンにおける顔役としてご自身が捉えられていることについてはどう感じていますか?
「非常にポジティヴに捉えているし、自分達が励まされるような盛り上げ方をメディアはしてくれていると思うよ。ああいう記事が『THE NEW YORK TIMES』に載ることは、オマハの音楽コミュニティにだけではなく、もっと多面 的にいいところがあるんだ。他の州や外国からネブラスカに足を運ぶ人が増えて街も活性化するだろうし、何より若い人がどんどん音楽に関与していくようになるのが喜ばしいことだよ。そうしたポジティヴな状況の一部を自分が担っているのだとしたらとても嬉しい。どんよりとしたミッド・ウエストなイメージっていうか、オマハは長い間魅力的な都市とは思われてこなかったところがあるから(笑)、それが払拭されればいいね」
──The Good Lifeのプロジェクトが一段落したら、すぐにcursiveとしての活動に戻る予定ですか?
「まだはっきりとは予定を決めていないんだ。ソングライティングの面ではThe Good Lifeのほうが今は凄く調子がいいから、この状況に乗ってもう1枚アルバムを作りたいと思ってる。それが終わればまたcursiveに戻るかもしれないね」
──では最後に、日本のファンへ向けてメッセージを。
「ミュージシャンやライターの人達に特に言いたいんだけど、他人が言うことに対して妥協する姿勢を取っていると、自分の信念が崩れて心地よい音楽や歌詞、優れた文章は生み出せないものだから、一切の妥協をせずに自分の信じたことだけを貫き通 してほしいね。そうすれば必ずいいものができるよ。それは一般の人でも同じ。スパイク・ジョーンズ監督の『ADAPTATION』っていう映画、観たことある? ニコラス・ケイジが1人2役で演じる全く対照的な双子の脚本家を通して、妥協することとしないことの対比を描いたいい映画なんだ。それを観ればきっと自分の人生でも考えるところがあると思うよ」


★Release Info.

Album Of The Year Side Out Records

VSO-0007 2,300yen (tax in) / IN STORES NOW

*日本盤は、eastern youthの「東京快晴摂氏零度」カヴァーを収録した限定ボーナスCD付き2枚組仕様

Saddle Creak【US LABEL SITE】 http://www.saddle-creek.com/
Side Out Records 【JPN LABEL SITE】 http://www.v-again.co.jp/sideout/

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