最初の妻イヴ・メイヤー。プロデューサーも務めた才女。 日系のトゥラ・サターナ(北海道出身)。「由紀さおり似」は禁句。 スゥエーデン出身、ウシ・ディガート。名はよく態を表す。

  W・バロウズ、勝新、…人生の師とも言うべき巨人たちは余りにも自分より先を行きすぎていて、人類の悲願である不老不死を実現しているのではないか、つまり、死なないのではないだろうかと思ってしまう。それほど彼等の存在は強大で、まさに宇野千代の著作、『わたし死なない気がするんです』という発言もうなずけるほど(宇野千代も死んだが)。しかしもう彼等の誰1人としてこの世には存在してはいない。その喪失感に耐える、ということが大人になるということなのかもしれないが。そしてまたぼく達は大人にならなくてはいけない。
 そう、あの巨乳映帝R・メイヤー翁も死んでしまったのである。巨乳ひとすじ40ウン年、という誰も真似できない存在であったメイヤー翁、その作品はかつて洋ピンコーナーにホコリを被って置いてあったのがウソのように、上映祭のたびに若者が大挙して押し寄せ、ポップ!キッチュ!カルト!オシャレ!などと騒がれている昨今だ。しかし皆、どれだけ彼の本質、本心、真に撮りたかったものを理解しているのであろうか。
 確かに彼の映画では強く解放された女性がのびのびと画面狭しと暴れ回り、性と暴力の世界をノシ歩いていく。しかしそこがウケるのは今日のメシもファッションも映画もメスねらいの白痴化したマーケティングにマッチする、と誤認されただけの話なんじゃないだろうか?

キトゥン・ネイティヴィダッド。日本のTV『びっくり人間大集合!』に出て、カネやんに乳揉まれてました。乳ガンになったと言う噂もあり、心配です。 パンドラ・ピークス。最晩年のお相手。どう見ても偽乳だが、大きければ真偽にこだわらない所が漢らしい。

 かつては第二次世界大戦でノルマンディーに従軍し、戦場撮影の腕を買われ『パットン大戦車軍団』の第2班監督も務める、とまああまり乳とは縁遠い経歴だった彼がなぜ乳道に?と誰もがいぶかしむところですけれど、ヌード写 真→映画界に監督として出てからは一転、乳界の王として君臨したのであります。そのフィルモグラフィー20本近く。そのどれもが女性の胸部、特に豊かなものに対する興味のみをあらわにしておりますよ。
 日本で「おっぱい星人」というような単語は女性の性の商品化、もっと言うと女を下に見ていると思われてしまうものですが、その実は絶えず女性上位 (文字通り騎上位)の視点に立ったモノだったのであります。ワーイ。性や暴力をモチーフに、翁の興味は人間と言う生き物の行動のおかしみやかなしさといった方向に…いややはり乳だったと、乳しか見てなかったのだとこの場を借りてハッキリと申し上げておきたい。だから「お色気女優に私もなりた〜い」といったチャラけたメスガキ用じゃないの! オヤジがビール片手に「グヘヘ、いい乳してんなぁ」、これが正解なの!  生涯を通じての飽くなき乳への欲求、一日の撮影は必ず女優とのsexから始めていた、と豪語していた翁は「作業の中で一番編集が好き」と言っていただけあり、その早いカッティング、編集テクは、今でも全く時代を感じさせない。高評価を受けメジャーでも仕事をする事になるのだが、20世紀フォックスに呼ばれて取った『ワイルドパーティー』が女の子バンドとハリウッドバビロンと連続殺人と両性具有がグッチャグッチャにこんがらかった傑作になってしまったのが災いしたのか、はたまた70年代から隆盛してきた結合部分もグリグリ見せるハードコアのせいか、性的なモノに興味はあっても性器局部とかの解剖学的なものにはあまり興味がなく、また自分の欲望を制約なくストレートに表現したいメイヤーは以降自費、インディーズで作っていく事になった。おかげで彼の望むままのもの、例えば1時間ゴーゴーサウンドに合わせてオッパイがブルブルするだけの『モンドトップレス』、趣味はレースと殺人、そんな巨乳アマゾネスが暴れ回る、観賞後は逆レイプされた気になる事請け合いの『ファスター・プッシーキャット・キル!キル!』のような映画史に残る作品ができたのだから世の中判りませんね。これによってよりメイヤーの映画の鑑賞は、乳房至上主義世界に飛び込む事に他ならなくなったのだと思います。
 そのワンマン撮影ぶり、性的なテーマからよく日本のピンク映画(若松孝二など)と比べられることもあるが、その時代性の欠如、もっというと「オレ」映画、つまり「俺は自分の好きな乳を取る、流行りなんかどうでもいい」といったひとりよがりで断固とした姿勢が時代を越えて我々の胸ぐらをつかんで離さないのでありましょうなぁ。勿論もれなく乳ビンタ付きで。
 遺作となってしまった『パンドラ・ピークス』がメイヤー翁の追憶と巨乳美女のプロモのような映像が脈絡なく連続する、アルツハイマー的傑作だっただけに、逝去の報は大変残念でならない。
 しかし『ヴィクセン』『ワイルド』『モンド』の各DVDボックスの発売(単品もあるのだから至れり尽せり)で、日本で観られないメイヤー作品はほとんどない状態となった。世界で最もメイヤーの観られる、メイヤー大国に生まれた事を感謝しつつ、乳帝の冥福を祈りたい。(文◎多田遠志)


■Release info.

モンドBOX
ワイルドBOX

共に11/26発売。各20000円。モンドBOXにはラス・メイヤーのド キュメンタリー等収録の特典ディスク付き。※同時に『ファスター・プッシーキャット・キル!キル!』等の単品販売も開始。



■Live info.
11/29(月) 『ラス・メイヤー追悼 巨乳映帝鎮魂祭』
巨乳…じゃなかった巨星堕つ! 超貴重な自宅訪問体験談、幻の映画『恍惚の 7分間』等々、秘蔵映像を見ながら乳神となられたメイヤー翁を鎮魂したてま つる! 巨乳映像テンコ盛り!
※微乳ギャルもニュウ店OK!
【出演】柳下毅一郎(特殊翻訳家、メイヤーに会った男) 中原昌也(三島賞作家)他、メイヤーにゆかりのあるゲスト多数!


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