自分の問題は自分で解決する。それがごみゼロナビゲーションの基本。
 フジロックやライジングサン、サマソニなどではすっかりお馴染みの光景となった「ごみゼロナビゲーション」。それを推進している環境NGO A SEED JAPANが新しいチャレンジとして提案しているのが、今回ロフトプロジェクトでも始めるリユースカップの導入である。多くのライブハウスで使用されている使い捨て紙コップの代わりに何度も使えるリユースカップを取り入ようというこの「LIVE ECO プロジェクト」について、A SEED JAPAN代表の羽仁カンタさんと、ごみゼロナビゲーションのスタッフであり自らもSOME SMALL HOPEでバンド活動をしている金子悦子さんにお話を伺った。(取材:加藤梅造)

会場入口で配られるキャンペーン・バッグ

●ごみゼロナビゲーションの始まり
羽仁「僕はアメリカの大学に行ってたんですが、当時よくフリーのロックフェスに遊びに行ってたんです。そこではお客さん同士が協力してフェスを作っていくという雰囲気があって、終わった後はみんなでごみ拾いをしたり、出演バンドがステージからごみ袋を回したり、そういうことがわりと当たり前にされていた。その後、日本に帰って来て1991年にA SEED JAPANを設立したんですが、ある時、他のメンバーと一緒にレゲエ・ジャパンスプラッシュというイベントを観にいったんです。そこで感じたのは、会場がごみだらけというのはもちろん、お客さんのマナーもひどかった。置き引きがっあったり痴漢があったり、お客さん同士が助け合う以前の問題。レゲエは本来ワンラヴという思想があるはずなのに、それどころじゃない。それでイベントの主催者に会って、もう少しなんとかした方がいいんじゃないかと提案したんです。そしたら主催者側もこうした問題をなんとかしたいと思っていて、いろいろ話していくうちに、じゃあ予算を付けるからA SEED JAPANでやってみないかという話になった。それがきっかけですね。」
 羽仁さんは、もともと戦略的に音楽シーンとエコロジーを結びつけようと思っていたわけではなく、たまたま行ったイベントでおかしいと感じたことをぶつけただけだったのだが、そこからごみゼロナビゲーション(以下、ごみゼロナビ)が誕生したのだ。しかし最初からうまくいったわけではなく、当初はボランティアが会場内のごみを拾って、資源物を回収するという作業を行っていたが、残念ながら手応えはほとんどなかったそうだ。その後、1996年のレインボー2000で実験的な方法を取り入れたりしながら、次第にごみゼロナビは進化していった。

●自分のことは自分でする
羽仁「1998年のフジロックでは、ごみゼロナビをもっと参加型にしてみたんです。来場者をお客さんと見なすのではなく、イベントの参加者になってもらう。音楽を愛する人同士で一緒にフェスを楽しくしていこうというキャンペーンを始めたんです。自分のことは自分でしようってことですね。例えば、入口でごみ袋を配って、そこに缶 を5本集めてキャンペーンブースに持って行くと抽選ができるとか、そういう仕組みを考えたんです。会場がクリーンな方がみんな気持ちいいじゃんというポジティブ・バイブレーションを伝染させていく。だから、ボランティアがお客さんの捨てたごみを拾うという作業は基本的にやらない。それは僕的にも人の落としたごみを拾うのは楽しくないし、自分のことは自分でするっていうのがロックの本質だと思うからなんです。だってロック好きな人が自分の事を自分でできないのはかなりカッコ悪いじゃないですか。ロックって演奏することだけじゃなくて生き方だと思うから。」
 この、まさにロックの合い言葉でもあるDIY精神は、ごみゼロナビゲーション、ひいてはロックフェスのあり方を根本的に変える原動力になった。今では、フジロック以外にもライジングサン、サマソニなどの定番ロックフェスでごみゼロナビは広く実施されている。今年はライジンサンで分別 の仕方が13分別まで細分化されたり、フジロックで3日目はごみ分別ナビゲーターを置かなかったりと、ごみゼロナビは年々進化している。それはもちろんお客さんの意識が高まっているからでもある。 羽仁「さすがに13分別は初めての試みでしたが、そこで何が起きるかというと、お客さんが冷静になるんです。ごみ箱が一つだと何も考えないでポイっと捨てる所を、このごみはどこに捨てるんだっけ?と立ち止まって考えるようになる。またボランティアとのコミュニケーションも生まれて、ちゃんと捨ててくれたお客さんに「ありがとう」と言うと、お客さんも自然に「こちらこそありがとう」となる。そういう「ありがとう」の関係がどんどんイベントをピースにしていくんです。これは全然意図してなかったことなんだけど、A SEEDが入ると会場がピースになるっていうのはここ最近よく言われますね」
──確かにボランティアの人も楽しそうですよね。 羽仁「ボランティアさんは、交代でお客さんになってフェスに参加できるようにしています。好きなライブでモッシュして、またボランティアをしてというのを行ったり来たりできる。そうすることによってボランティアのバイブレーションも高まっていくし、そこがアルバイトや警備員のような一方的な立場とは決定的に違う所です」

A SEED JAPAN 羽仁カンタ
先月のイベントIN THE CITYでもリユースカップを導入した。

●リユースカップという試み
 ごみゼロナビの成果もあり、今や日本のロックフェスでごみ処理をきちんとすることは当たり前のことになった。そしてA SEED JAPANが次に考えたのは「出ちゃったごみを集めてリサイクルするのも悪くないけど、出る前になんとかならないか?」ということだ。そしていくつかのフェスで、お客さんが食器を洗って返却するディッシュ・リユースシステムを実施し、今年のサマソニでは使い捨てカップの代わりにリユースカップを導入した。このリユースカップをフェスだけでなくライブハウスに導入できないかということで始めたのが、この「LIVE ECOプロジェクト」だ。このプロジェクトは、A SEED JAPANのメンバーであり、バンドSOME SMALL HOPEのメンバーでもある金子悦子さんが提案したものだ。
金子「自分もバンドをやっているのでライブハウスは十代の頃から通 い詰めているんですが、いつの頃からかライブが終わった後にカップが散乱しているのを見るのが切ないなあと思ってたんです。その後、A SEED JAPANでごみゼロナビに関わるようになって、フェスでこれだけのことができるんだったら、もっと身近なライブハウスでもごみを減らすことができるんじゃないかって。」
──年に何回かのフェスではなく、身近なライブハウスを変えていこうというのが新しいチャレンジですよね。
羽仁「まずは音楽のある日常を変えていきたいという思いがあるんです。もちろん社会全般 で戦争が起きないとか、搾取し合わないとか、権力格差をなくすとか、いろんな所で人々の関係が対等になっていけば不愉快な思いをする人が減ると思いますが。ロックフェスは非日常的な空間だけど、日常として音楽が溢れていてアーティストとも身近に接することができる空間となるとやはりそれはライブハウスだろうと。この空間を気持ちのいい場にしようというのは、結構みんなの共感を得られるんじゃないかと思うんです。もちろんハードルはたくさんありますが」
──店側はカップを回収して洗うという手間がかかりますし、お客さんにもカップをそのへんに捨てないできちんと返却するということをしてもらわないといけませんからね。
羽仁「音楽を好きな人はいけてる人が多いから大丈夫だと思っているんです。昔はタバコをポイ捨てしたり、ぶつかっても謝らないのがロックみたいな感じもあったんだろうけど、何年もフジロックをやってて思うのは、みんなリスペクトの気持ちがあるし、筋を通 すのがロックだという意識を感じます。まあ音楽好きな人に悪い奴はいないだろうと、それは信用していますね」
 今後、新宿ロフト、シェルター、プラスワンでは試験的にリユースカップを使用していきます。環境省はリユースカップを4回以上使えば使い捨てカップより環境負荷を軽減できると試算していますが、このリユースカップは通 常では100回以上使用できるものです。そこで、このリユースカップを手にしたお客さんは、飲み終わったらカウンターか回収箱に戻していただき、ごみ箱に捨てたり持って帰ったりしないようお願いします。ライブハウスがもっと気持ちのいい空間になるように、みんなで少しずつできることをやっていきましょう!

●A SEED JAPAN WEB http://www.aseed.org/

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