遂に、遂に出た。日本脳炎、初のフル・アルバム。“まるで倍速のルースターズ”“『爆裂都市』のサントラを彷彿とさせる”等々…彼らのサウンドを説明する時に最早そんな喩えは不要かもしれない。メンバーの情操教育に絶大なる影響力を与えたルーツ音楽への熱いリスペクトの念は見事に消化/昇華され、まさに彼らにしか出せないささくれ立った狂気のバチラス・ロックンロールが1枚のアルバムにギュッと凝縮されている。彼らの放つ“ハード・ヒット・ウィルス”はいよいよ感染の度合いを増し、リアルなロックに飢えた急性脳炎患者を今後益々輩出させることだろう。(interview:椎名宗之)

これまでのパブリック・イメージを破壊したかった
──7インチの『HARD HIT VIRUS』リリース後に破帝さんが加入して、5人編成となった日本脳炎なんですが。
火野喧児(Gt)「勝手に入ってきたんですよ。気が付いたらなぜか1人増えてた(笑)」
破帝(Gt)「日本脳炎っていうハードコアじゃない部分を出せる場所があったんで、メンバーから認められてるのかどうかは判らないけど(笑)、とりあえず飛び込んでみたという感じです」
山谷雄次郎(Dr)「俺は最初、“ギター2本も要らない”って言ったんだけどね(笑)」
──『HARD HIT VIRUS』のリリース以降、メディアへの露出も高まってきて、バンドを取り巻く環境もかなり変わってきたんじゃないかと思うんですけど。
火野「Rooftopに取り上げてもらってからは、ライヴでお客さんの反応が良くなった気はしますね。あと、ライヴをやる本数が異常に増えました。まぁ、それはメンバーが5人になったってことをお客さんに伝える意味もあったんですけど」
桜田毅一郎(Vo)「今までやってきた曲も、5人になってだいぶ変わったからね

──そんな絶好のタイミングで待望のファースト・アルバムが遂に発表となったわけですが。『狂い咲きサタデーナイト』というタイトルからしてもう、リスペクタブル石井聰亙! みたいな(笑)。
火野「そうですね(笑)。このタイトルだけは前からずっと頭の中にあったんですよ。意外に使う人いないなぁと思ってて、使われる前に使っちゃえ、って。ホントはこれのアナログ盤も作りたいんですけどね」
──ルースターズやモッズ、ARBといった“めんたいロック”からBOφWYなど80年代の日本のロックを意識したバチラス・ロックンロールは健在ですね。30代以上の人には特にグッとくるものがあると思いますよ。
桜田「自分達がルーツとして聴いてきたのがそういう音楽だし、聴いてくれる人達と出所は一緒ですから」
火野「ただ、今までのシングルとかはBOφWYやルースターズとかを意識してきましたけど、今はもっと広がって、(近田春夫&)ハルヲフォン、じゃがたら、ストリート・スライダーズ、クールスとかまで掘り下げて吸収してますね。例えば10人が10人“これはロックンロールだ”って答えるような曲はやりたくないんですよ。今回は日本脳炎のパブリック・イメージを破壊したかったっていうか」
十三(Ba)「よく言われるところのモッズとかルースターズ云々にしても、それならオリジナルを聴けばいいわけだから」 火野「そうそう。だから、80年代によくあった資生堂とかのCMソング+不良性みたいな(笑)、今はそういうのを目指していろいろ考えてますね」
──ああ、資生堂のコマソンって80's アイコンとしてありましたよね(笑)。永ちゃんの「時間よ止まれ」を筆頭に、ナイアガラトライアングルの「A面 で恋をして」とかユーミンの「メトロポリスの片隅で」とか。
破帝「あとあれ、『オレたちひょうきん族』のエンディング・テーマ(EPOがカヴァーした『DOWN TOWN』)とかね」
──僕も最初は“倍速のルースターズだ”っていう触れ込みから日本脳炎に興味を持ったんですけど、いわゆる“めんたいロック”のあのテイストそのままを期待したらかなり面 喰らいますよね。単なる懐古趣味に終わってないところに余計面白味があるし。
火野「当時はそういうルーツ的な音楽を意識してはいましたけどね。でも意外と難しいんですよね、ルースターズっぽさを出すのは。今度のアルバムは、週末の昂揚感みたいなものがテーマとしてあったんですよ。祭りのあとの寂しさは判ってるんだけど、その刹那的な楽しみをどうしても期待してしまう、というか。そういうのを匂わせるメロディの曲を最もよく捉えたのが『流線形』っていうナンバーですね」
──“流線形”と言えばすぐにユーミンの『流線形 '80』を連想しますが(笑)。でも確かに、妙に気持ちが高ぶってくる土曜日独特の雰囲気ってありますね。それこそ、DOWN TOWNへ繰り出したくなるような(笑)。
火野「うん。誰よりも目立ちたくなるような感じっていうかね。俺の中ではアルバム全体を通 してBAD NEWSみたいな感じがあるんですよ。結構ヴァラエティに富んだものが出来たんで、週末に家で酒でも呑みながら聴いてほしいですね」
──ジャケットもモッズ、ルースターズなんかを意識して。
火野「そうですね。あと、色遣いは横浜銀蝿を意識して(笑)。裏ジャケは俺達なりに東京ロッカーズのイメージで。LIZARDとかFRICTIONとか、あの辺の」
桜田「日本脳炎も最初は東京ロッカーズみたいなことをやろうとしていて。SSみたいに、いろんな要素を混ぜ合わせた曲を限界までアップテンポで暴走する、みたいな」
火野「アティテュード的な部分では、フライヤーから写 真1枚に至るまで全部自分達の手でやるっていうFRICTIONからの影響は凄く大きいんですよ」 日本脳炎を聴いた花田裕之が一言……
──今回、山口富士夫の「からかわないで」をカヴァーしたのは?
火野「そもそも日本脳炎は10代の頃に憧れた音楽を今に体現するバンドですからね。富士夫さんのアルバムは10代からずっと聴いてて、『からかわないで』は初期のライヴからやってたんですよ。今回のアルバムの曲順を決めてた時に、最後に締まる曲がないなと思って入れてみたんです。今の若い子はまず聴かない曲だとも思ったし。俺達なりのカウンター・アクションですね」
──8月に行われた《BACHILLUS ARMY》で無料配布された『KIKU TRIBUTE』には、ARBの「TOKYO CITYは風だらけ」のカヴァーがありましたけど、ラスト・ライヴやBOXセット発売に沸くルースターズの曲はどうなんですか?
火野「今は世の中が余りにルースターズ、ルースターズって騒いでるのもあって、このタイミングはイヤなんですよ。こうしてまたルースターズが話題に上がるのは凄くいいことだと思うけど、ここで俺達がカヴァーしなくてもルースターズの人気は変わらないし、誰でも認めるものだし。そこに敢えて首を突っ込むこともないっていうか。流行りものに対する俺達なりの反抗心ですよね」
桜田「もちろん、それはルースターズが大好きっていう大前提があっての話ですけどね」
十三「今までのライヴでは何曲かカヴァーしてましたけど。『All Night Long』とか『Fade Away』、あと『気をつけろ』」
火野「オリジナル曲が増えてきたんで、最近のライヴではほとんどカヴァーはやらないですね。誰もルースターズだなんて言わなくなった頃に俺達がやりますよ(笑)」
──周りが右へ向くところを左、白と言えば黒と言うようなスタンスは、やっぱりパンクを通 過してるからこその反骨精神ですよね。
火野「ええ。日本のロックからの影響も充分に受けてるけど、それ以外にもCOMESやGAUZEなんかのジャパニーズ・ハードコアの洗礼も受けてますから」
桜田「ただ、俺は“ハードコアを通過して…”とかの言い方が今いちピンと来ないんですよね。当時から俺の中ではGAUZEもサンハウスも同じ次元で存在していたし、それは今も続いてますからね」
──菊さん(柴山俊之)とGAUZEを全く同次元で消化吸収しつつも、この『狂い咲きサタデーナイト』を聴けば判るように、完全に日本脳炎のオリジナルになっているじゃないですか。カヴァー・バンドじゃないんだから当たり前の話なんですけど、つくづく不思議なバンドだと思うんですよ。
火野「曲を作る時に、“これは○○○っぽい、あれは△△△っぽい”って決めながらそのバンドみたいな音に近づけていくんですけど、いつも結果 的に全然そうはならないんですよ。後で人から“あの曲は○○○っぽいよね”って言われるのがイヤだからそうなってしまうのかもしれないですけど(笑)。ただ、全部は拭い切れないことがたまにありますね。『NO NO BOY』の出だしはSTIFF LITTLE FINGERSだし。STIFFよりは当然アナーキーのほうが俺は好きですけど(笑)」
──ファースト・デモテープの『Kick Boy Face』の頃と比べるとオリジナリティの幅が格段と増したし、これからの動向が益々楽しみですね。
火野「今までは、自分達が心地良く感じるメロディを8ビートでやってるっていうところに主軸を置いていたんですけど、これからはよりクオリティの高い曲を生み出していきたいと思ってます。まだ人を感動させるレヴェルにまで達していないですから。曲の作り込み方やギターのテクニックも未熟だし、まだまだこれからですよ」
──そう言えば、7月にルースターズが新宿LOFTで行なったシークレット・ライヴに皆さんお忍びでいらっしゃってましたよね。率直に言ってどうでしたか?
十三「1曲目の『Rosie』からもう…頭が混乱して自分ではよく訳が判らなかったですね」
火野「俺はですね、10代の時に初めてルースターズを聴いた時の衝撃と同じものがありました。ただただ恰好良かったですよ。金を払って観て良かったって思えた久々のライヴでしたね」
桜田「会場内で菊さんに挨拶することもできたし。ちょうど《BACHILLUS ARMY》でZi:LiE-YAとして出演してもらう前で。酒もご一緒することができたし…今でも信じられないですよ」
火野「俺達はZi:LiE-YAのライヴを個人的に下北へ観に行ったりとかしていて、普通 のファンですから。Zi:LiE-YAは本当にいいバンドだと思いますよ」
──ところで、ルースターズが“流行り”となった今、皆さんの中で今一番熱いのは何なんですか?
火野「……ARBですね(笑)。特に中期。余り注目されない時期ですけど」
──『砂丘1945年』とかあの辺ですか?
火野「そうですね。『Deep Inside』とか最高ですよ。ARBみたいなロックは他に聴いたことないですから。あの曲調と(石橋)凌さんの歌声ですね、やっぱり。いつかライヴで共演したいですね、ARB。あとモッズ(笑)」
山谷「凌さんに是非聴いてほしいですね、俺達のアルバム(笑)」
──花田(裕之)さんは日本脳炎の音源を聴いたことがあるそうですね。
火野「ええ。宮崎のレコード屋の友人が、“日本脳炎っていう面 白いバンドがいるから”ってツアーで来てた花田さんに『HARD HIT VIRUS』を渡してくれたらしいんですよ。ジャケットにある“BACILLUS ROCK'n'ROLL”って文字を見たらニヤッと笑って、花田さんが“ここで聴かせてくれ”って頼んだらしくて。で、その場で音を聴いた花田さんが言った言葉が……“ルースターズみたいだね”って(笑)」

interview at 高円寺ROOSTER


★Release info.

狂い咲きサタデーナイト

MANGROVE LABEL
ROOT-048 2,100yen (tax in)
IN STORES NOW

【info.】MANGROVE LABEL/BASE:03-3318-6145

★Live info.
<狂い咲きサタデーナイト TOUR 2004>
10月8日(金)大阪ファンダンゴ/10月9日(土)愛媛新居浜ジャンドール/10月10日(日)高知フィート/11月5日(金)京都ウーピーズ/11月6日(土)広島ネオポリスホール/11月20日(土)福岡デカタンデラックス/11月21日(日)宮崎ゼットン/12月4日(土)仙台パークスクエア/12月5日(日)新潟ウッディ/12月18日(土)東京 高円寺20000V【ワンマン・ギグ〜プレゼント付】

日本脳炎 OFFICIAL WEB SITE http://www.geocities.jp/bacillusbrains/


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