眠れない夜に響く旅路を往く男達の歌
 野暮なバンドである。今さら時代錯誤も甚だしいくらいに生真面 目で一本気に無粋な男の歌を唄うバンドである。  STRUGGLE MINDS。そのバンド名が雄弁に物語るとおり、必要以上にもがいてあがいてのたうち回る過剰な歌がクセになる。フックの効いた激しくもポップなメロディはどこか童謡を思い起こさせ、心の奥底に眠る遠い記憶をくすぐるのだ。ヴォーカルはテカテカの横分けリーゼントという風貌、ライヴのSEは中村雅俊の〈俺たちの旅〉というアナクロ具合、愚直なまでに全身全霊を傾ける激情のライヴ…。つくづく野暮なバンドだと思う。しかし、だからこそ恰好いい。だからこそ胸を衝かれる。野暮も突き詰めれば粋になるのである。(interview:椎名宗之)

 夜中に“独り祭り”で“スッポンポン”
──7月に渋谷のGIG-ANTICでライヴを拝見したんですが、昨年末にロフトで観た時よりも格段に締まりのいいライヴで度肝を抜かれたんですよ。やっぱり今回のファースト・アルバム『夜間飛行』でのレコーディング経験がプラスに作用しているんじゃないかと思うんですが。
小辻夏郎(ds)「そうですね、レコーディングをし始めてから、バンドとしての意識の置き所が変わってきた気がしてますね。ライヴへの挑み方もだいぶ変わってきて、お客さんが多かれ少なかれ関係ないというか。だから余計、より貪欲に動けるようになったんかな、って」
北窓綾平(b, vo)「むっちゃいいライヴをやった時は、お客さんが10人だけだとしてもちゃんと反応が返ってくるんですよね。そういうのはやっぱり嬉しいですね。ただ、ライヴってスッポンポンになる場やないですか? それが恥ずかしいんですよ、未だに(笑)」
──あれだけ堂に入ってるように見えるのに?
北窓「何かしらおっきいことをやってたらそのままバーンと見して“どうやー!?”って言うんやろうけど、僕らはほんま、ちっちゃい人間ですからね。普段はしょうもないこと考えてますから(笑)」
──ライヴでは特に、小辻さんのドラミングに凄まじい重さと尋常じゃない勢いを感じたんですけど。
小辻「あれは、9割9分ハッタリですから(笑)」
松尾健次(g)「今のストラグルは、ドラムとベースは跳んでるんやと思うんです。ギターがキープしてる形やな、今は」
小辻「うん、リズムのほうが前へつんのめったり、詰まったり…」
北窓「だからアカン時はもの凄くアカンのですよ(笑)」
小辻「いいライヴをしてる時は3人とも同じことを考えてるんですけど、ライヴがダメな時は、例えば『今日は○○さんが観に来てるんや』なんて考えたら曲の風景なんか消えてしまって、ただ業務的に叩くっていうか(笑)」
松尾「ライヴをやる上では、小難しいことを考えるよりもまず自分達が楽しもうっていうのを第一に考えてますね。そうでないとお客さんには必ず伝わってしまいますから」
──元々は北窓さんの弟さんがヴォーカルの4人編成だったんですよね。それが今の3ピースになって1年以上経って、バンドとしての手応えを感じるようになりましたか。
松尾「それは今、凄く感じてます。今はこの形でバンドをやることが間違いじゃなかったって確信してますね」
北窓「弟がバンドを抜けた時は血の滲むような思いをしたんですよ。でも、ベースを弾きながら自分で唄うって決めたのは僕自身だったんで、迷っとる暇はないっちゅうか」
──満を持してのファースト・アルバム『夜間飛行』ですが、そんなSTRUGGLE MINDSの今をギュッと凝縮した1枚ですよね。
松尾「はい。現時点でできることは全部やり尽くしましたし」
北窓「自分が夜寝られへん時とかに、頭の中が妄想で思いっきりデカなってるのがそのまんまこうして音として形になってるというか…それが凄いことだなって」
──タイトルの『夜間飛行』はサン=テグジュペリの著作と何か関係がありますか?
北窓「そうですね、サン=テグジュペリは僕が凄い好きなんです。そのニュアンスもありますけど、夜に寝れんで、こうチョコチョコチョコチョコとやってる感じ…」
──ん? というのは?
松尾「夜に寝られへんかったりしたら、もう強行ですよ。スッポンポンになって夜に表へ出たりとか(笑)」
──軽い犯罪者ですね、それは(笑)。
北窓「東京やったらヘンなことやねんけど、僕らの住んでるのはもの凄い田舎なんです。夜中に表へ出ても誰もおれへんですよ。夜中にいろんなことを考えてるんですよね。で、それが募っていって部屋の中に居づらくなるんです。ほんで、丸裸で外に出てみようかと(笑)。もの凄く不道徳なことをしてみたいと思う時があるんですよ」
松尾「ほんだらそこで、今まで抑圧されてた何かが爆発するかのように、ブルトーザーを勝手に動かしてみたり(笑)」

夜明け前、息をしてどっこい生きている
──どうかしてますね(笑)。レコーディングは大阪で、トラックダウンやミックスを東京で行うという変則的な作業だったと伺いましたが。
松尾「実際の仕上がりを聴くと、レコーディングをやろうと思ってプリプロを録った段階と比べると全然違うもんにはなりましたね。エンジニアの方にダメ出しをされながら試行錯誤をしつつ…。エンジニアさんにダメ出しを喰らわなかったら、こういう納得の行く形には絶対出来上がってなかったですね。自分達のツメの甘さを凄い感じましたよ」 北窓「次への課題ではあるよね。ツメるっていうんやなくて、どんだけ気持ちいいことをやりきれるかっていう」 松尾「録るだけやったら誰しもただ気持ちよくやるっていうのがあると思うんですけど、さらにその先の“もっともっと”っていう部分が必要なんですよね。その場だけで気持ちよくなってそこで終わりじゃなくて」
── 一言で言うなら生活の半径10メートル圏内の音楽というか、日々の暮らしの中で沸き立つ心象風景を音に封じ込めているような感じですよね。
松尾「まぁ、大袈裟な音楽ですよね(笑)」
──激しくもどこか懐かしいメロディは童謡っぽくもあり。
北窓「絵本が僕は凄く好きなんですよ。絵本っぽい展開の歌ってあるじゃないですか? それは日本の曲も外国の曲も関係なく。チビッコがテンション上がった時に発する“きゃー”とか“わーっ”っていう言葉が凄くいいんですよね。ポケモンの歌なんてむっちゃポップやと思いますしね。僕らがポケモンの歌を唄ったら“ホイサッサー”とか、そういう感じになるんですよ。“ホイサッサー”には何の意味もないですよね。それは夜に独りで酔っぱらってて、テンションが上がってきた時に不意に衝く言葉なんです。それをそのまんま言うただけなんです」
松尾「最初に『“ホイサッサー”ってコーラスで言うてくれ』って言われた時には戸惑ったけどな(笑)」
──直感でひらめいた、手垢の付いてない言葉が厳選されているように思えますね。
北窓「うん、絶対この言葉やなと思わなダメなんですよ」 松尾「歌もそうやし曲もそうなんですけど、何かひらめいてアイディアを出す時にも、浮かんだ風景の説明がちゃんとつかないとダメなんです。でも、曲を作る時はもっとアバウトですけどね。綾平が『祭りっぽいのをやりたい』と言って“ホイサッサー”を持ってきたり(笑)」
──1曲目の「独り月夜の怒真中」はまさに祭りの真っ最中という感じですけど、他の曲はどことなく“祭りのあと”っぽい寂寥感が滲み出ている気がしますね。
北窓「その祭りも“独り祭り”なんですよ(笑)。独りで勝手に盛り上がってブルトーザーを動かしてしまう(笑)」
小辻「何というか、誤解を恐れずに言うと、歌詞よりも聴いてもらう人や自分達の中で見える風景が一番大事なもんやと思ってるんですよ。理解不明な歌詞も多いと思いますけど」
──“ホイサッサー”にしても、あの性急で独特なメロディに乗るといろいろなイメージが浮かびますよね。キツネのお面 や行燈も浮かんでくるし、神輿を担ぐ若い衆の息づかいが聞こえてきたり。
北窓「そう、まさにそういうことなんです。そんな夜の風景を描写 してるっていうか、このアルバムに入れたのは全部夜の歌なんです。悲しくて泣いてるんですけど、笑ってるんですよ。泣き笑いしてるんです」 松尾「好きな人がおったらその人のことを考えたり、夜、寝る前にはいろいろなことを考えますよね。“何とかしたい”とか想像を逞しくしていくうちに、凄いことになったりして」
小辻「で、訳も判らない衝動に駆られて、スッポンポンで家を飛び出していくあの感じ…」
──またスッポンポンですか(笑)。
北窓「寝れへん夜の衝動やろね。そんな時に曲を書くことが多いですね。それで夜を超えて朝陽が差してきたら、部屋の中で鬱屈してたものがスパーンと取れていくんですよ。そんな時は…息をしてるわけですよ。“じゃあ行こうか!”みたいな感じですよね。考えて考えた挙げ句に、自分には何もないとか思い始めるんです。でも、息をしてることだけは真実なんです。どっこい生きてるわけですよね。だから一番最後の〈夜明け前〉には“吸ってー吐いてー”っていうコーラスを入れたんです。そんなありのままの自分を出すことしかできないんですよ、僕らは。スッポンポンになることしかできないんです(笑)」
松尾「次のアルバムは“スッポンポンのポン”やな(笑)」


■Release info.

夜間飛行

FREIHEIT FHSY-0402
2,000yen (tax in)
IN STORES NOW


■Live info.
<『夜間飛行』発売記念〜俺たちの旅 vol.5〜>
9月20日(月)大阪十三FANDANGO
guest: 宙ブラリ / YOUTH ANTHEM
OPEN 18:00 / START 19:00
PRICE: advance-1,800yen / door-2,000yen(共にDRINK代別)
【info.】juso FANDANGO:06-6308-1621

9月12日(日)南船場Club Mercury/9月14日(火)高円寺SHOW BOAT/9月25日(土)西脇STEPPING STONE/11月18日(木)池袋アダム

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