80's ニューウェーヴ・リヴァイヴァルの先駆者、日本降臨!  
3年前にリリースされた『ダンセ・マカブレ』が、アメリカン・インディー・ロックの熱心なリスナーの間で話題を集めていたザ・フェイントは、イースタンユースとの交流で知られるカーシヴと同じく、ネブラスカ州オマハにあるサドル・クリーク・レーベル(*ブライト・アイズも所属しており、現在のアメリカで最重要インディペンデント・レーベルのひとつと言える)を拠点に活動してきたバンドだ。先の6月にようやく『ダンセ・マカブレ』の日本盤がリリースされ、8月には夏フェス=サマーソニックに参加する形で初来日。そして9月にニュー・アルバム『ウェット・フロム・バース』をリリースと、ここにきて日本での注目度も一気に急上昇している。  彼らの音楽性は、80年代のエレクトロ・ポップを彷佛させるシンセサイザーをフィーチャーした、思わず踊り出さずにはいられないダンサブルなディスコ・サウンドだが、同時にダークでアグレッシヴな雰囲気も持ち合わせた極めてユニークなもの。サマーソニックでの圧倒的なライヴ・パフォーマンスを観て判ったのは、彼らがパンクの攻撃性と狂気、さらにインテリジェンスとナイーヴさを兼ね備えたうえで、それらをダンス・ビートに乗せてブチまけているということだった。ここ最近ブームとなっているニューヨーク産のポスト・パンク・リヴァイヴァル・バンドたち=ラプチャー、レディオ4、!!!といった連中より、その表現は遥かにタフだと言っていいと思う。単独再来日公演が実現した暁には(ロフトでもやらないかな……)、その強烈なライヴ・パフォーマンスをぜひ目の当たりにして、ブッ飛ばされつつ踊り狂っていただきたい。(interview:鈴木喜之)

音楽と映像を融合させた圧巻のパフォーマンス
──今回、サマーソニック2004という大きな音楽フェスティヴァルに参加する形で、初来日公演が実現したわけですが、感想を簡単に聞かせてください。
Todd Baechle(vo, g)「このような大きなフェスに参加して、日本で初めて自分たちのパフォーマンスを見てもらうことができて、最高のイントロダクションになったと思うし、とても嬉しく思っているよ」
──私も昨日、東京でのライヴを観せてもらったんですが、後方に設置された2枚のスクリーンに映し出される映像が非常に印象的でした。あれはどのようにして作られたのでしょうか?
Todd「ライヴで映像を使う試みには、2年くらい前から取り組み始めたんだ。まだ始めたばかりの段階だけど、CDのジャケットも含めて、ヴィジュアル面 の創作も全て自分たちでやってるよ。このまま現在の方向性でどんどんやっていきたいね。将来的には、単に音楽を作って、それに映像をつけるというのではなく、音楽と映像をより融合させて、ひとつの作品として表現したいんだ」
──映像の内容が歌詞と見事にシンクロしていましたが、具体的にはどうやって同期させているのでしょうか?
Todd「ドラマーのクラークが、ヘッドフォンでクリックを聞いていて、そのクリックをハード・ドライヴ・システムのビデオと同期させているんだ」
──なるほど。まもなくリリースされるニュー・アルバムからのナンバーもたくさん演奏していましたが、これらの曲を組み込んだセットリストは、あなた方にとっても新しいものだったのではないですか?
Todd「うん、まさに。新作からの曲を演奏するのは初めてだったんだ。実はつい先週になって練習したばかりなんだよ。久しぶりに新しい曲をライヴでプレイできたのはすごくよかったね」
──そうだったんですか。では、日本のオーディエンスが世界で最も早く新曲をライヴで体験できたわけですね。どれも充分に良かったと思ったのですが、自分たち自身としては、新しいマテリアルを演奏してみた手応えはいかがでしたか?
Todd「うーん、やっぱり新曲に関しては、まだライヴで演奏する感触を学んでいる段階だね。これから先ツアーを重ねていくにつれて、もっともっとよくなると思う」
──さて、ニュー・アルバム『ウェット・フロム・ザ・バース』についてなんですが、このタイトルは最終曲“バース”の歌詞からきているんですよね? 自分自身の生誕について歌っているこの曲のアイディアはどういうところから出てきたのでしょうか?
Todd「前作の『ダンセ・マカブレ』を完成させてから、かなり時間が空いたわけだけど、新譜の制作に入る前に、バックパックだけでタイに1ヵ月ほど1人で滞在したんだ。名前も知らない島で、南国のパラダイスというか……僕の他には、ドイツ人がひとりとコックだけしかいないようなシチュエーションでね。そこで“バース”の詩を書いたんだよ。前のアルバムでは“死”をテーマに、その前のやつでは“セックス”をテーマにして歌詞を書いたから、今度は“生”について書くのが自然な流れだと考えたんだ。前作を作ってみて、次にバンドとしての新しい始まりというか、また違ったタイプの曲を書きたいと感じていたし、生まれることや、創造されることについて書くのは意味があると思ったんだよ」 来年初頭には単独で日本公演を実現させたい
──そう言えば、新作の歌詞は前作に比べて、非常にストレートな表現になっているように感じました。メッセージ性も強くなっているのではないでしょうか?
Todd「特に意図したわけじゃないけど、確かにメッセージ性は強くなったかもしれないね。“パラノイアタック”では、否定的になり過ぎないように注意しながら、自分が考えていること、みんなが考えるべきだと思うことを伝えたかったんだ」
──そうしたメッセージ色は、現在のアメリカを中心とした世界情勢の変化を反映したものなのでしょうか?
Todd「おそらく、そうだろうね。過去にもそういう傾向はあったはずだけど、以前は曖昧にしてきたと思う。ただ一方で、パーソナルなことを題材にした歌詞も多くなっているよ。その点もこれまでと違うことだね。例えば“デスパレット・ガイズ”と“サザン・ベルズ・イン・ロンドン”は、来年に結婚する予定のフィアンセとのことを書いたんだ。前者は2人の関係性の発展の中で絶望的になりたくないというようなことについて、それから僕の婚約者はアズール・レイというバンドをやってるんだけど、後者では、その彼女がツアーに出ていて、いなくて淋しいという気持ちを歌っている」
──今回、パーソナルなことを歌詞に書いてみようと思ったのには、どんなきっかけがあったんでしょうか?
Todd「その時々で、思っていたことを書いてみただけなんだけど。人との関係性というものについて興味があったし、政治的な歌詞にしても、普段から関心があったことを書いたんだ」
──“アイ・ディサピアー”や“パラノイアタック”などの歌詞は、ただ読んだだけではネガティヴな内容に感じなくもないですが、音楽と一体になって聴くと、すごく勇気づけられるというか、明日を生き抜いてやろうというポジティヴな力が涌いてくるような気持ちになります。特にライヴで体感するとそうだと思ったんですが、こういう効果 については何か意識していたりしますか?
Todd「幾つかの歌詞が持っている批評性は、ライヴのポジティヴさとか、他の歌詞とかとバランスをとるためのものと言えるね。様々なタイプの曲をプレイして、ダイナミックさを表現することに興味があるんだ。1種類のタイプの曲だけでは満足できないんだよ」
──さきほど、パーソナルなことを歌った曲としてあげられた“デスパレット〜”と“サザン〜”には、ストリングスがフィーチャーされていますよね。この2曲は昨日のライヴでは演奏されませんでしたけれども、ステージではどう再現するつもりですか?
Todd「前者では、ストリングス・パートのアレンジは難しいから、ライヴではサンプリングかキーボードで再現することになると思う。後者については別 のアレンジを考えるしかないかな。でも、将来的に2曲ともライヴで演奏するつもりだよ」
──では、前作と新作とで、作曲面で特に意識して変えた点はどんなところでしょう?
Todd「歌詞のテーマ、曲のスタイル、ビートに関しては、前作よりも曲ごとに多様性を持たせてある。キーボードやエレクトリック・ドラムを少なくしたりとか、そういう部分での変化は意識したかな。でも、曲によってはエレクトリック・ドラムをフィーチャーしたものもあるし、ケース・バイ・ケースだね。一貫性よりも、コラージュ的、パッチワーク的なものを目指したんだ」
──では最後に、今後の活動予定について、どんな計画があるか教えてください。
Todd「今は『ウェット・フロム・バース』を作り終えたばかりで、非常に満足しているから、この後のことはまだあまり考えられないな。日本から帰ったら、秋から始めるツアーに向けて、新曲をライヴで演奏するための練習をもっとやらなきゃね。で、来年の1月にはまたぜひ日本に来て単独公演をやりたいと思っている。それから、ライヴ用に新曲の映像を作ることも重要な作業だ。ステージではスクリーンを2つ使うから、1曲に対して2種類の映像を作ることになるんだよ」
──がんばってください。ちなみにそうした映像作品に関しては今後リリースしていくような話はないのですか?
Todd「それはぜひやりたいと思う。例えば、アルバムをDVD仕様にして、曲とその映像をどっちも収録するとかね。まあ、今の段階ではそれはちょっとまだ野心的すぎるかな(笑)」


■Release info.

THE FAINT / Wet from Birth

SIDE OUT RECORDS
VSO-0009 2,300yen (tax in) / 9.04 IN STORES

 通産4枚目となる最新アルバム。前作ではまだ、チープなシンセの音色を使ったサウンド・プロダクションがハッタリ的に聴こえるところもあったが、そうした要素が全体の構成の中で前よりも自然にフィットしてきて、アレンジ面 での確かな前進を示した、彼らの最高到達点と言える作品だ。現代社会での生活の中に沸き起こる狂気や、プライヴェートな恋愛に関する心情の他、流行りのポップ・パンクに向けてアティテュードを問い直す内容の曲もある。

BEEP BEEP / BUSINESS CASUAL

SIDE OUT RECORDS
VSO-0008 2,300yen (tax in) / IN STORES NOW

 少し先行してリリースされたこちらのアルバムは、フェイントのベーシストであるジョエル・ピーターセンが参加するもうひとつのバンド=ビープ・ビープの最新作。この人たちもオマハのバンドで、やはりサドル・クリークからのリリースとなる。その音楽性は、XTCやワイヤーからの影響が感じられるニューウェイヴ・テイストのサウンドにイギー・ポップ系のワイルドなヴォーカルがのっかる、といった感じ。ぜひ併せて聴いてみてほしい。

THE FAINT OFFICIAL WEB SITE http://www.thefaint.com/

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