ツアー敢行前に中世の古城でホラー短編映画を撮影
 BALZACが昨年のアメリカ23ヵ所のツアーに続いて、今度はヨーロッパ・ツアーを敢行した。渡航期間約7週間(5月15日〜7月2日)、ドイツを中心にイギリス、オーストリア、スイス、デンマーク、チェコ計6ヵ国、33回のライヴ。昨年のアメリカが5週間。それより更に2週間長い…。ヨーロッパは「過酷」「飯がマズイ」「ビールが常温」「店が早く締まる」「会場のスタッフがみんなダラダラ」していて「ライヴがいつ開始か判らない」など悪い噂ばかり聞かされ、“期待”と“不安”と“憂鬱さ”を綯い交ぜにした複雑な心境で成田空港へ。
 ツアー前半だけはスチール、ビデオ・カメラマン、ディレクターも同行のため、PAスタッフ含め総勢10人で渡欧。いきなり空港で荷物の超過料金をブン取られ全員ブルーに。大体今までの経験上、事前に心配していること(入国審査、現地の機材や移動車の手配、宿泊施設、物販の手配など)は綿密に計画したりするので、結局何とかなってしまうものなんですが、こういう予期せぬ ことで全てが狂わされることが多いです。そして11時間のフライトでドイツのフランクフルトへ。
 まずツアー開始の3日前にドイツに前乗りをして、BALZAC初のホラー短編映画撮影を計画。ドイツのレーベル担当者に「ドラキュラが出そうな中世の城」「撮影許可料も安いところ」「電源が引けるところ」と散々我がままな条件を言ったら、本当にそれに合致する城を見つけてくれました。念願であったヨーロッパの古城“バーグファルケンシュタイン城”でのビデオ撮影が遂に実現。旧東ドイツの山奥の中、城の中には拷問部屋まであり、実際1000年前には魔女狩りもあったらしい凄まじいロケーションで、不謹慎にも「“紙袋男”にナイフを持たせて白人女性を追っかけ」たり、展示物の「鍋にお湯を入れて」本当にグツグツ煮たり、映画『リング』ばりに「深さ10メートルの井戸にスタッフを入れて撮影」したりと、この際だからやりたい放題の撮影を敢行。日本人は一度も来たこと無いらしい、正に“前人未到の地”に踏み込んだようでして、城の周りは見渡す限り、全てドイツの“黒い森”。「ロシアの悪魔、アンドレイ・チカティロはこんな森に少年の死体をブン投げていたんだろうな」と1人で納得。この短編映画は来年1月リリースの新作シングルの初回盤にDVDとして付く予定で制作中です。

予想以上の高まりを肌で感じた現地の“BALZAC熱”

 ツアーは現地のエージェントが用意してくれた9人乗りのベンツのヴァンで全て移動。ドイツの高速道路(アウトバーン)はご存知のように“無料”“制限速度ほとんどなし”なんで、常に現地のドイツ人ドライバーは180キロでぶっ飛ばしてました。ドイツ車だからそれに対応した車体になっているんですけど、日本車だったら確実に死にますね(笑)。
 今回はほとんどがBALZACがメイン・アクトのツアーだったので、動員等にも少なからず不安もあったのですが、すでにドイツのレーベル“G-FORCE RECORDS”から2枚のCDをリリースし、ヨーロッパ用のオフィシャル・サイト【http://www.balzac-europe.com】も立ち上がっていることで地固めは整っていたので、“BALZAC熱”は我々の予想以上に高まっていることを感じました。
 キャパ的にはLOFT、SHELTERクラスのハコで、平均200人近くの人が集まり、各地で異常に盛り上がる光景を目撃。ドイツ国内に関しては実に24ヵ所もの都市を津々浦々周ってしまったので、「もうヨーロッパのハコのことは何でも聞いてくれ」という感じです(笑)。「どのライヴハウス周辺が治安が悪いか」「PA卓が8チャンネル!!! しかないか」「ステージのド真中、それもVo.モニターの前!!! にデカイ柱があるか」「トイレに便座すら存在しないか」「シャワーが水しか出ないか」「ライヴハウスが用意してくれる宿泊施設は綺麗か」「宿泊施設にネズミの巣があるか」「ケータリングに手抜きが無いか」「ハコの人は親切な人か」「レコード店は近くにあるか」「綺麗な女性はどこらへんが多いか」全てメモりました!!!!(笑) いっそのこと、これから海外の長期ツアーをする関係者のために“マニュアル本”まで書いてしまえる勢いです。
 あと、現地の人と会話して認識できたことは、「旧西ドイツと旧東ドイツの地域では貧富の差が想像していた以上にある」「治安がかなり悪いところもあるらしい」「旧東ドイツ圏の人は英語を余り喋れない人が多い(=低賃金の仕事しか就けない)」。考えてみればソ連の支配下だった訳なので、英語を喋れないのは当然かもしれません。ロシア、ポーランド、ルーマニアは更に治安が悪く(すぐ刺してくるギャングが多いらしい…)、次回のツアーにも「行かないほうが良い」なんて言う人もいました。旧共産圏のお客さんのノリもメチャクチャで、お金が無いので「パンク・ファッションもマニュアル通 りでない」ところが80年代前半の日本っぽく、懐かしいものも感じます。
 さらにBALZACの代表曲「DAY THE EARTH CAUGHT FIRE」でチェコのお客さんが何と歌詞を覚えていて、キチンとコーラスして暴れる姿には驚愕。ここ最近の約2年間は海外中心で何度もライヴをやってきたのですが、何かこのシーンは一番感慨深いものがありました。オーストリア・ウィーンのライヴには何と“ロシア!!!”からたった一人で来てくれたファンも存在して、それにはだた驚愕するばかり。
 ドイツのフランクフルトではかつてのCRASSやCONFLICTのメンバーが住んでいたような所謂“SQUAD”(不法占拠地)がまだ存在し、一種の“左翼・アナーキスト村”になっている野外イヴェントに出演。大トリは“MAD SIN”“BALZAC”“LEATHERFACE”というメンツでやり、ドイツ中のパンクス、スキンズ、クラスト、サイコビリー、左翼な人達が1000人も大集結!!! BALZACのライヴでも盛り上がりすぎて、スキンズとサイコビリーの本場のケンカも目の前で見られたりしました。

文化としてのロック、パンクが根付いた土壌

 ツアーの後半はサッカーのユーロ・カップ開催中であったため、サッカーの試合が終了する夜10時30分ぐらいまではライヴハウスの従業員も、観客も、巨大スクリーンで上映会。みんな大酒飲んでサッカー中継に夢中です。出演バンドのリハーサル、音出しも“一切禁止”!! サッカーに全く関心の無い我々は試合が終わるまで何もさせてもらえず…。タイム・スケージュール上は10時30分スタートなのですが、大抵演奏スタートのOKが出るのが夜中の12時。日本で言えば毎日がオールナイトのライヴに出ている感覚。それでも、平日でも200人近くの若者が夜中の12時から観に来たりするのが不思議です。そして彼らみんな朝の4時ぐらいまでガンガン飲みます!! それでも仕事も学校も次の日にはキチンと行っているようです。彼らがいつ寝ているのか不思議です。ということで常に寝るのが朝5時ぐらいでした。
 客層的にはメインはパンクス、酒を飲みに来てついでに暴れるスキンへッズ、MISFITSとかも好きそうなメタル、日本のヴィジュアル系とかも聴いてそうなゴシックなルックスの少女、単純に日本文化好きの人という幅広くミクスチャーで動員できたところはSOLD OUT状態で、それはそれで良かったんですけど、向こうのハコは空調施設が日本みたいに良くはないんです!! 地下室で天井の低い所は完全に“監禁状態!!”、汗の雨が降る尋常でない灼熱地獄ぶりは拷問に近いものです。
 という感じでサイド・ストーリーが辛い話になりがちな海外ツアーなのですが、さすがに2ヵ月もいるとだんだん向こうのやり方に、味覚に、体調まで誰もが染まってしまいます。風呂とかなんてどうでも良くなりますね。ライヴ動員もツアー後半になるにかけて確実に口コミ、ネット等で増えていき、「これだけ期待されているなら絶対来年も来ないとマズイな」と強く実感できたことが一番。同時期に偶然にも同様のルートをギターウルフもツアーをしていたこともあり、日本のロックへの関心も予想以上に高いということを強く認識。
 ライヴハウスの経営システムも日本とは違うことも多々あり、ギャラ以外に“食事(夕食&朝食)”と“宿泊”は必ず保証されるということで、バンドにとっては長期ツアーを組みやすい、コスト的にもやりやすいシステム。日本とは状況も違い、お客さんがみんな死ぬ 程酒を飲むので、ハコはそれだけ採算が合う等いろいろあるのでしょうが、それは新人バンドやベテラン・バンドも「ライヴをすればバンドで一応生活できる」という流れの一端を形成しているようで、アーティストを尊重、育成していく土壌が随所で確認できます。それはまた様々な年齢層に“文化としてロック、パンク”が根付く基盤になっているのではと思います。
 次はやっぱり最強の漢達がいるロシア、ブラジル・ツアーですかね。 text by 下北沢MURDER JUNKIES (DIWPHALANX RECORDS)


■Live info.
<WHEN THE FIENDISH GHOULS NIGHT VOL.3 / VOL.4>
9月22日(水)/23日(木・祝)下北沢SHELTER (ONE-MAN 2DAYS)
OPEN 18:30 / START 19:30
PRICE: advance-2,000yen / door-2,500yen(共にDRINK代別)
【info.】FIENDISH CLUB:06-6531-5601/SHELTER:03-3466-7430

<BALZAC LIVE SCHEDULE>
9月5日(日)広島CLUB QUATTRO/10月3日(日)富山 CLUB MAIRO/10月8日(金)豊橋LAHAINA/10月26日(火)名古屋BOTTOM LINE 【info.】EVILEGEND 13:06-6531-5601

*2005年1月、ニュー・シングル発売決定! 初回プレスのみDVD(ホラー・ショート・ムービー)付き!
BALZAC OFFICIAL WEB SITE http://www.samuraifactory.com/balzac/
DIWPHALANX WEB SITE http://www.diwphalanx.com