ロマンポルシェ。は死体カメラマンみたいなもの。テレビは報道しないけど、殺された死体が現実に山ほどいるという。
 男独自の曲がった価値観の啓蒙と、ニューウェーヴが持ついかがわしさの復権を目的に活動を続ける“ロマンポルシェ。” ライブでの説教、全裸、千本ノックなど、そのパフォーマンスに注目されることが多いが、80's New Wave を換骨奪胎した無機質でいかがわしいサウンドと、社会の最底辺までをも照射する不条理な歌詞は、現在のロックシーンでは誰も辿り着けない地平にまで到達している。ニューアルバム『おうちが火事だよ!』は、ロマンポルシェ。の独特の才能がバランスよく開花した現時点最高傑作と言えるだろう。陽の当たる場所から遠く離れ、社会の闇でくすぶる俺たちに残された最後の砦、それがロマンポルシェ。なのだ! (TEXT:加藤梅造)

●愛情は醜くて一方的なもの
──ニューアルバムは実に2年半ぶりのリリースですね。
 ここ数年、ハワイに行ったりグアムに行ったりと忙しかったからなぁ。
──ハワイって、それモーニング娘。のファンツアーのことですか?
 他にもメロン記念日の花畑牧場ツアーとか握手会とか色々やることがあって大変で……。その合間を縫ってアルバムもつくらなきゃいけないし。
──どっちが本業ですか(笑)。
 でも、今回はほとんど曲を自分で作ってないんで楽でした。人に丸投げ(笑)。昔からそうしたかったんですけど、以前は金がないからできなくて。あとロマン優光も人に借りたMC-303で3曲も作ってますから。
──ロマンさんの曲もいいですねえ。特に7曲目なんか初期P-MODELっぽくてカッコよかったです。あと、全体的にメロディアスな曲が多くて、そのせいか今作では唄がすごく際だってますね。作詞はすべて掟さんが?
 そうです。今回はすべて「愛」を歌ってるんです。もちろんトレンディードラマに出てくるような恋愛ではなくて、もっと醜くて一方的な愛情。お互いに分かり合っているつもりなのにすれ違っている、都会の若者の群像とでもいうのかな……今、オレ嘘ついてますね(笑)
──まあ、若者一般とはいかないですが、確実に一部の若者の群像にはなっていると思いますよ。
 世の中にあるラブソングの多くは美しくあるべき様に出来ているけど、現実は醜男醜女の間にこそラブソングはあったりするんですよ。例えばSMのサイトとかアクセスすると、もたいまさこみたいな女が喘いでる写 真がよく載ってますよね? もし谷崎潤一郎の小説の登場人物がもたいまさこみたいな女だと想像すると醒めるじゃないですか。だからみんなもっといい女を想像して読んでるだけで。でも実際、ちょっとぐらいルックス的にキビしい女が相手でも、自分の身の丈にあってれば意外と醒めないと思うんです。現実にはそういう妥協や憐憫などにすり替わった愛情が、月9的な空虚な理想像よりゴロゴロしてるんだよなぁと。
──特に4曲目「チャップリンの女」は、なんというかすごくマイナスのエネルギーが渦巻いてる感じで、聴いてて怖いんですが。
 単純にマイナスプラスってことではないかな。チャップリンについて言えば、俺は子供の頃からチャップリンにものすごく興味があって……。チャップリンって基本的に顔芸じゃないですか。顔の面 白さだけで笑わせるという。もちろん社会風刺なんかも入っているんでしょうけど、喜劇王チャップリンはそんなチンケなものは隠し味程度にしか使いませんよ。顔ギャグに己のすべてを賭けたという点では早すぎたコロッケですよね、チャップは。
──それがなぜ今チャップリンなんですか?
 あの人常にいっぱいいっぱいでしょ? 顔ギャグって基本的に出オチですから、出てきた瞬間に「さぁ、もう俺やることがねぇぞ」ていう雰囲気ビッシビシ漂わせてるのがカッコ良くて。この、「もう後がない」っていう感覚が子供の頃から大好きなんですよ。この前ライブでこの曲をやった後、杉作J太郎さんに「掟さん、困ってるんですねえ」って言われて。まあ、その通 りだなと(笑)。何も訴えたいことがないから、顔で笑わせてごまかしちゃえみたいなギリギリな状態。その感じを演出したかったんですよ。ちょっとアバンギャルドすぎて伝わらないだろうけど(笑)。
──ギリギリってことで言えば、他の曲もなんか鬱積しているものが崩壊しそうな感じがするんですね。
 だから、チャップリンもものすごくたまってたんじゃないですか。そうした鬱積した感情が表に出たものが、あのひきつった複雑な笑顔なんです。ギリギリで後がない人は何故か皆チャップリンに惹かれるのもわかりますよ。
──先日出た単行本『男道コーチ屋稼業』もかなりヤケクソな感じがしますが、やっぱり出たとこ勝負って感じなんですか?
 いや、これはものすごく念入りに企画を作り込んでますよ! キン玉袋ボリボリかきながら作った企画ですけど(笑)。俺ね、くだらないことをやってる時だけに生き甲斐を感じるんですよ。この表紙の撮影もイキイキしてましたね。頭の中で南沙織が“私は今、生きている〜”って歌いだして……。しかしこの表紙、武田久美子の衣装をパクっただけというのも後がなくてたまんないですね。「俺、今いっぱいいっぱいだなあ」って思うとなんかものすごく興奮してくるんですよ!
──全裸の時もそうですか?
 同じですよ。あれも基本的に出オチですから。出てった瞬間は面白いけど5分もすると気まずさだけが残るという。その時の俺は露出の恍惚感を感じてるんじゃなくて、「素っ裸で出て行くしかネタがなくなってしまった俺」といういっぱいいっぱい感を味わっているんです。ある意味、ちょっと変わったMなんでしょうね。道理に合わないこととかメチャクチャなことやってるとビンビンくるんですよ。
──それって根本敬さんの世界に近いですね。3曲目「助監督家族」でもそうした理不尽な世界が描かれてますが。
 世界は理不尽で成り立っているわけで、バカや吉外を排除して成立する社会などどこにもありえない。理不尽はあるがままにドーンと受け止めるのが大人のあり方ってものじゃないですか。非合理を変に正そうとするから間違いがおこるのであって。間違っているけど、でもそれはそれでいいんじゃない? とポジティブに言える社会を理想としているんだという歌です……いや、それも嘘だな(笑)。
──いつも思うんですが、掟さんの視線ってすごく下の方にあると思うんです。普通 の人間はもっと上を見たがるもんですが。
 ロマンポルシェ。のメンバーを選んだ時もそうですけどね。例えばブンブンサテライツってバンドあるじゃないですか。あれを見て思ったのは、なんか美容師みたいな普通 の顔の奴らがやってるなあって、あいつらのどっちとも一緒にはやれねぇなって。ケミストリーを見たときも、俺の相方は絶対堂珍じゃねぇなと。ロマン優光みたいにわかりやすい吉外でないとね。俺、まともな人間と普通 にコミュニケーションすることが退屈でしょうがないんですよ。俺の身の回りの人間、ボッコリ欠落した奴ばっかですから。モーニング娘。があまりにも好きでしょうがないから、所属事務所の隣のコンビニでバイトしてる奴とかいますよ。その欲望と社会性のバランスの欠如が俺をビンビンに惹きつけるんですよね。「なんでだよ!」ってつっこまれたくて生きているとしか思えない人々が俺の血肉になってくれるんですよ。

●尾崎豊のレコードは憎悪の対象でしかない
──以前、掟さんは、ロマンポルシェ。は80's ニューウェーヴの暗黒面 を継承していると言ってましたよね。それで思うのが、ロマンポルシェ。ってニューウェーヴの暗黒面 だけじゃなくて、社会のダークサイドを表現しているような気がするんです。
 これは言っちゃいけないことかもしれないけど、氣志團とか素直にうらやましくてしょうがないんですよ。俺とは通 ってきた青春が違うから。メインストリームの青春をいけなかったから、恥だと思うことが決定的に違うんですよね。紡木たくのマンガや尾崎豊のレコードみたいな、青春の苦悩や人間愛が根底にある表現に当時から憎悪の炎を燃やしていたわけだし。それで当然のように根本敬先生のマンガを読み、空手バカボンのソノシートを聴いて、「やっぱりこっちの道だな」と勇気づけられてきた青春裏通 り住人だったんですよ。あちら側に行けなかったという気持ちはあるし、今後もあちら側に行けないことは間違いない。ロマンポルシェ。が爆発的に売れることなんて青春の質が違う以上、絶対ありえない。
──先日、JOJO広重さんが自分のレーベル(アルケミーレコード)から作品をリリースする基準として「今の社会に満足している人はお断り」と言ってたんですが、ロックのアンダーグラウンドってそういうもんかもなと思うんです。
 弱い者を救済するための歌だらけの世界ってことですよね。ああ、よくわかります。これは昔から言ってることですけど、弱い者のためには歌わないようにしてるんです。質の低い慰めでも弱った人間にはすぐ必要とされちゃうから。それをやるのは男として志が低いなと思う。弱い者を慰める音楽っていっぱいあるけど、俺はそういった種類のものは甲本ヒロトさんがいればあとはいらないと思ってる。あの人の言葉だけは慰めのキメが細かいから。むしろ俺は、人間の気持ちがわからない者のために、同じく人間の気持ちがわからない俺が、賛同するでもなく、そちら側にいるよとだけ表明したい。まあ非常に押しつけがましいことをやっているんですね。
──8曲目の「ガラスの30代」で、結婚したいアイドルのニャンニャン写 真がBUBKAに載ったことに絶望する30代独身男の悲劇が歌われていますが、こんな状況を歌にできるのって掟さんぐらいだと思うんです。例えるなら、報道カメラマンが現場の写 真を撮ったような。
 一方的な愛情でしか他人と接することができない人の側に立って、残酷な事実を切り取っているだけですよ。死体カメラマンみたいなもんです。テレビは報道しないけど、殺された死体が現実に山ほどいるという事実を低い温度で切り取っているだけ。写 真には写らない美しさ? ドブネズミみたいなもんですかね(笑)。
──結局ブルー・ハーツじゃないですか!
 弱い者のために何かを歌ってくれる人がちゃんといてくれてよかったなと思いますけど、その裏側で、人の心の弱さを持っていないが故に蔑まれる者たちに向かって歪んだラブソングという金玉 をなすりつけたい。まあ余計なお世話ですね。でも愛情ってね、押しつけるものですから。俺が思う韓国人的な美しい愛情表現、「俺が愛してやるからお前も愛せよ」っていう愛情のゴリ押しですよね。そんなようなものを目指しています。まぁ、誰にも必要とされないですけどね(笑)。
──共感する人もいると思いますが。
 いやいや、ロマンポルシェ。のCDや本が「窓際のトットちゃん」みたいに売れて、トットちゃん基金みたいにポルシェ基金を作ってアジアの恵まれない子供達にワクチンを送るぐらい儲かって始めて共感を得てるってことだから全然ダメですよ。でも、恵まれない子供達にワクチンは送れないけど、日本にくすぶる、BUBKAのアイドルニャンニャン写 真に憤っているような若者達への発奮材料として、ちょっとしたカンフル剤になるものぐらいは作っているかなとは思います。まあ、一瞬でも氣志團みたいなポジションに行けるかもしれないと思った自分が間違っていた。梶原一騎先生も言ってましたが「おのれの星を知れ」ということですよ。最近やっと自分の頭上の星が見えて迷いがなくなったところです。俺はくだらないこと以外やらねぇぞ、と。
──まあ、そんなロマンポルシェ。も今度ロフトでワンマン・ライブをやるわけですが。
 これはほんとに事務所に一番ナメられてるなと思うところですが、今までロマンポルシェ。のレコ発ライブって全部ロマンポルシェ。が前座だったんですよ! 信じられねぇ! 未だに恨んでますよ! まあ、今回実質上初のレコ発ワンマンですから、なんかおもしろいことやらないとお客さん呼べないですよねえ。何しようかな? 来た人全員に金の延べ棒を配るとか、そのぐらいのことしないとダメかなぁ……。
──完全に原価割れじゃないですか(笑)。
 そうか……じゃあ、金の延べ棒は無理だから、俺の大事な金の如意棒をプレゼントしましょうか? 入場時に一人ひとシゴキできるっていうのどうでしょう!? ダメ? ダメですよねえ……。


◆Release info.

ロマンポルシェ。
おうちが火事だよ!ロマンポルシェ。

IDCI-1106
2,625yen(tax in)

09.22 IN STORESA

男道コーチ屋家業
掟ポルシェ

(マガジンファイブ)1,560yen+税

◆Live info.
<おうちが火事だよ!ロマンポルシェ。ワンマンライブ>
9月26日(日) 新宿ロフト

OPEN 18:00 / START 19:00
PRICE advance 2,500yen / door 2,800yen(共にドリンク別)
【info.】shinjuku LOFT:03-5272-0382