轟音ディレイ・サウンドに乗せて 髪を振り乱して唄い、叫ぶ“他者との距離”  
そのサウンドの原型はグランジを思わせるが、広い意味で50年代から継承するあらゆるロックの姿を内包した轟音ギター・バンド、wash?。並み居る新進気鋭のバンドの中でも個人的に今一番熱い期待を寄せているバンドである。どこまでも“いい歌”“いいメロディ”そして“いい歌詞”に拘った彼らのファースト・アルバム『?』は、処女作にして幅広い層にアピールできる極めて高水準な作品だ。久々に現れた「音楽なしでは生きていけない」生粋で桁外れな音楽バカ一代、ギター&ヴォーカルの奥村 大にwash?の今日までそして明日からを訊く。(interview:椎名宗之)

自分の中で咀嚼する一歩手前の“?”
──現在、全国ツアーの真っ只中ですが、手応えはどうですか?
「もう抜群ですね。レコーディングを終えて曲が一回生まれ変わって、その状態を2、3回はちょっと手探りしていた感じでしたけど、それを超えた辺りから自分達も生まれ変わった曲に馴染んできて。ちょうどいい具合でツアーの初日を迎えることができて、そのテンションのまま今日まで続いてます。元から僕らのことを好きでライヴに来てくれる人はもちろん、地方では『東京の友達に勧められて観に来ました』っていう人が結構多くて、凄く嬉しいですね。僕も含めて、メンバーは今が一番テンションの高い時だと思いますよ。“いいアルバムを作った!”っていう自分達で感じているものプラス、ツアー先でその作品に対するダイレクトな反応を貰ってますから」
──先月末に発表されたそのファースト・アルバム『?』ですが、まずこのタイトルの正しい呼び方は?
「これは“ン?”って読みます。最初は読み方も何もなくて、ただ“?”だったんですけど、マスタリングの時に『スイマセン、50音順で在庫管理をしているので何か読み方を付けて頂かないと…』って言われて(笑)」
──『?』の意味するところは?
「ロックやパンクといったプリミティヴな音楽っていうのは、反射的に応答するものじゃないと思ってるんですよ。目の前に起こったことを一度自分の中に取り込んでみて、それから吐き出す。意味がある、なしの判断は自分の中で噛み砕いてからだと思うんです。その最初に付ける“?”が凄く大事な気がしていて。沈黙は同意と同じなんですよね。だから同意するなら『同意します!』ってちゃんと声を上げたい。判断する前の段階には“?”を付けて、安直に見過ごしたりしないできちんと受け止めていく。そうすることができれば、どんな場所にいても常に自分が思う自分でいられるというか。そのぶん他者との摩擦は多くなるかもしれないですけど」
──一聴すると、音の輪郭はグランジの要素が多分に強い印象を受けますね。
「グランジは僕がリアルタイムで実体験したムーヴメントだったんです。自覚を持って行動するロック・バンドが同時多発的にドーンと出てきたんですね。やっぱり自分の中で血肉化されているし、純粋にそのエネルギーに憧れたんですよね」
──グランジという狭義の中にはとても収まりきれない多種多様な音楽性がwash?には秘められていますが、バンドとして目指しているところは?
「いいメロディとエネルギー量っていうのかな。その熱量はハッピーなほうでもいいし、悲しいほうでもいいし、一種類じゃなくありたいと思ってるんです。凄く楽しいことと凄く悲しいことは等比だから。そういったエネルギーを音楽として表現していけたらと思ってますね。日々精進してます」
──バンドを始めた当初から現在の爆音ファズ&轟音ディレイ・サウンドを志向していたんですか?
「いえ、もともと南波(政人/g, vo)と始めたんですけど、最初は2人でもの凄く暗いダブ・ユニットをやっていたんですよ(笑)。PORTISHEADとかMASSIVE ATTACKみたいなトリップ・ホップが当時好きだったんです。サンプラーを多用しながらも生楽器の音がちゃんと前面 に出ていて、しかも物悲しいっていうような。そんな、ロックを通過した人がやる“脱ロック”をやろうとしたんですけど、如何せんロックしかやったことがなかったんで、何でもかんでも暗くなるんですよ。『サンプラーを使うんだ!』『ロックじゃないんだ!』っていう方法論が先走ったせいで、気が付いたら完全に息詰まってしまいまして(笑)」
──ははは。慣れないことをするから。
「そうなんです。それから気分転換を兼ねて生楽器を入れてみることにして、ウッチー(ウチヤマユウキ/ds)を呼んで3人でリハをやったんですよ。で、生の楽器でおっきい音を出した途端にそれまで眠らせていたものが2人ともバーン!と噴出して、『やっぱバンドだな! 俺達はロックしかできねぇな!』って」
──今思えば、ダブ・ユニットとしてそのまま成功しなくて良かったです(笑)。
「ホントに(笑)。ダブ・ユニットの頃は照れ隠しで全部やっちゃってたっていうか。失敗はしないかもしれないけど、それじゃ幸せにはなれないぞって思ったんですよ。今、この瞬間にガーッと湧き立ったものをやんなきゃって。否定も一杯されるかもしれないけど、否定されることと愛されることは表裏一体じゃないかと思って。だったらもう自分のやりたいことをどんどんやって行こう、と」
──前任のベースが辞めて岡(啓樹/b)さんが加入して、今のラインナップになるわけですね。
「はい。前のベースが辞めた時は凄い落ち込んだんですよね。ユニットを捨ててバンドを立ち上げた時に、メンバーの代えは絶対に利かないと思ってたから。でも岡のベースと初めて音合わせした時はドンピシャで、もうこれしかない!と思いましたね。彼はそれまでwash?のほとんどのライヴに足を運んでたんですよ。僕達の一番のファンだったってくらい(笑)」

他者こそが自分自身を映し出す“鏡”
──技術的にはかなり複雑で高度なことをやってると思うんですが、それを難解にせずサラッと判りやすく聴かせるというか、最終的に残るのは“歌の力”という、バンドとして非常に理想的な形だと思うんですよ。
「複雑に聴こえないように気を付けてはいますね。同じことを他のバンドがやっても絶対にできないって自信はありますよ。難しく聴かせるのは割と簡単なことなんです。ロックは歌モノであるべきだし、ポップ・ミュージックの一番尖った形であってほしいと僕は思ってるんです。確かに楽器オタクではあるけれど、テクニックだけで成立している音楽には魅力を感じないし、何よりドキドキしないんですよ」
──(奥村が『Washing Machine』のTシャツを着ているのを見て)SONIC YOUTHだって相当ポップですもんね。
「そうですよね。『Goo』『Dirty』『Daydream Nation』辺りの流れは特に。やっぱり自分自身がパンク上がりっていうのがあるのかもしれないですけど、自分の思う通 りに楽器を弾けるようになって初めてパンクをやりたいってずっと思ってたんですよね。“これしかできない”じゃなくて、選択肢が他に幾つもある中でのパンクというか」
──このファースト・アルバムでも、あくまで“いい歌”“いいメロディ”に拘ってますよね。
「ええ。それと“いい言葉”ですね。今回は歌詞のいい曲を優先して選んだ感じだったんです。日本のロックはやっぱり“言葉”だと思ってるんで。RC(サクセション)大好きだし。歌詞がいいと、それだけで宝物を聴いてるような気持ちになるし、歌詞の部分も絶対に手を抜きたくないんですよ」
──PVも制作された〈36.8℃〉の歌詞も、シンプルだけど胸に深くグッと突き刺さってきますね。暮れゆく空を喚起させるような情感にも溢れていて。
「ありがとうございます。この曲は頭の2行、“たまに見る未来”から“何が待ってるの?”までが曲を作ろうと思った時に歌詞が同時に浮かんだんですよ。そんな時は大体いい歌になるんです」
──そういう時って、何者かに突き動かされているというか、己を触媒にして既に形あるものを吐き出すみたいな感覚ありませんか?
「ああ、判ります。それは急に降りてくるものではなくて、ノドが乾いたから水を飲みたいっていう欲求と似た“曲を生み出したい”渇望感が普段からずっとあって、それがある時ふとした瞬間にバッと出てくるんですよ。求めていたからこそ浮いていたものを吸い込むんだろうなと思う。〈36.8℃〉は今まで自分が作ってきた曲の中でも1、2を争うくらい好きですね」
──全体を通して、他者との関わり、コミュニケーションの在り方みたいなところに歌の主眼が置かれていると思ったんですが。
「他人との距離感っていうのがテーマなんですよね。独りぼっち感っていうのかな、それは無人島に独りでいるから感じるものではないと思うんですよ。凄くたくさんの人達が周りにいて、そこで何も分かち合えてなかったり、誰も自分を知らなかったり、知っていても興味がなかったり。“人の真ん中に行けば行くほど孤立していくんだ、こんなに人が多くいるのに。…じゃあどうする?”っていうことなんです」
──そういう埋めることができない他人との溝みたいなものが、奥村さんが表現に向かう出発点になることが多いですか?
「そうですね。その瞬間に生まれるわけじゃないですけどね。ラヴ・ストーリーとかでも、対象は不特定多数の誰かではないんですよ。横にいる筈の君、みたいな。それはレストランに座っている目の前の君かもしれないし、横に並んで同じものを見ている君かもしれないし、手をつないでいる君かもしれないし。その距離を唄うとすべてに繋がる気がするんです。やっぱり皮膚感覚が凄く大事だと思ってるし、自分が触ることのできる距離が一番リアリティあるんです」
──そもそも自分自身という曖昧な“個”も、他者を通 じて初めて見えてくるものですよね。
「他者のマイナスな部分に目が行くのは、同じマイナスな要素を自分が持っているからなんですよ。それはつまり、鏡なんですよね。目に映るあらゆる事象は自分自身を映し出す鏡なんです。ジョー・ストラマーも言っていたけど、他人を糾弾すれば自分にすべて跳ね返ってくるし」
──『?』を聴いたり、ライヴを体感したリスナーにとってはwash?の歌が鏡となるでしょうね。
「何かしらのエネルギーやきっかけになれば嬉しいですね。安易な共感だけじゃないところに僕達の音楽を提示できればいいなと思います。共感することは最初のキーワードなんで、もちろん否定はしませんけど。『何だかよく判らない』でもいいんです。『詞の1フレーズだけがやたらと耳にこびり付いた』でもいい。自分が書いた曲の意図は絶対に明かさないですけど、それと全く違う受け止め方をされてもいい。その人にとってwash?の歌が線ではなく点になってるといいですね。ただし、その点は虫眼鏡で見たらもの凄く細かい僕達の書き込みがされてありますけど。その点が爆発するのがライヴという空間だと思うので、是非一度足を運んでほしいです。wash?は“1曲でも多くいい歌を作る”“ライヴは絶対にハズさない”を信条にやってますから」



"?"

BEATSORECORDS EFCN-91001
2,205yen (tax in)

IN STORES NOW


▼LIVE
<BEATSONIGHT!>
8月9日(月)新宿LOFT

w/ DAMNDOG / URCHIN FARM / ナミノネ
OPEN 18:00 / START 19:00
PRICE: advance-2,000yen / door-2,500yen(共にDRINK代別)
【info.】BEATSORECORDS:03-5456-0314 / shinjuku LOFT:03-5272-0382

<The first of million "?" 〜wash? live tour 2004〜>
8月19日(木)渋谷 O-West/8月29日(日)渋谷『全力投球!! '04夏』 *会場未定/9月4日(土)下北沢 CLUB251/9月6日(月)仙台 MACANA/9月8日(水)札幌 COLONY/9月14日(火)大阪 OSAKA MUSE/9月15日(水)名古屋アポロシアター/9月23日(木)那覇 mnD
【info.】BEATSORECORDS:03-5456-0314

wash? OFFICIAL WEB SITE http://www.xplasma.com/wash/
EARTH ROOF FACTORY INC. OFFICIAL WEB SITE http://www.e-r-f.com

wash?さんより素敵なプレゼントがあります!