日本人ならではの“POP”な感覚を持ち合わせた新世代型ジャムバンド
 日本発のジャムバンドを紹介し続けているPLEASURE-CRUXから7月21日に1stアルバム『POP』をリリースするMELTONE。このバンド名はメンバーの富田進一郎が「melt(溶ける)」と「tone(音)」を合わせて考えた言葉遊びから生まれたものだが、同時にMelting pot(るつぼ)という言葉があるように、多種多様な音楽スタイルを一つのバンド・サウンドに束ねる彼らを体現するものだと僕は勝手に解釈している。  サイケデリックやルーツ音楽から派生した従来のジャムバンドを踏襲しつつも、日本人ならではのポップな感覚を重要視し完成した作品と共に7月にはアメリカの“Grateful Fest”そして“フジ・ロック・フェスティバル '04”へなだれ込む彼らに音楽のルーツ、現在のシーン、そして展望などについて語ってもらった。
interview & text:早坂英貴
http://hidemuzic.typepad.com

“今のMELTONEはこういう状態です”というファースト・アルバム
──アルバム『POP』、早速聴かせてもらいました。最近ジャムバンド・シーンの中でも世界的に若いミュージシャンに“80年代的なテイスト”を持ったバンドが増えてきていると思います。MELTONEというのは、その新しい世代のジャムを日本でやり始めたバンドというイメージがありますが、そのようなアプローチに関して特別 意識したことはありますか?
富田進一郎(g, vo)「“狙っていない”と言い切ると語弊はあるかもしれないけど、メンバーが個々に持ち寄ってきたものが違うと思うので。逆に聴いている人に“UKロック的だね”とか“サイケだね”とか全く違う意見が多数出てくるんですよ。最初から特別 “ニューウェーヴな感じを出す”とか“80年代のテイスト”とかいうのは全く意識していないんです」
──“色々なものを持ち寄って”というのがとても気になるのですが、各メンバーの音楽的ルーツについて語ってもらいたいのですが。
富田「80年代ロックを聴いて育ったので、その要素は根本に染み付いているとは思います。その後にブルース、レゲエ、ダブ、そしてグレイトフル・デッドのショウを観た衝撃から現在のようなインプロヴィゼーション主体のロックを演ろうと思い始めた。あとジャズにのめり込んだのも、即興音楽を聴く大きな動機になりましたね。ジャズの場合、新しい演奏スタイルが生まれて世に認知されるサイクルもとても速いし。それを踏まえて今があると言えるかもしれない」
深野卓也(ba, cho)「僕も80's半ばからの音楽に影響を受けました。その後にクラシック・ロックやウッドストック世代の音楽、その中からデッド〜フィッシュと繋がってきました。あとヴァージニアの大学に留学していた時には、ブルースとかブルーグラスといった音楽も随分聴きましたね。地元在住の南米の人々が演奏する音楽というのもよく観て刺激を受けました」
石澤敬祐(key, syn, vo)「元々僕はテクノポップがルーツなんです。YMOとか、トランス以外のテクノ音楽には随分影響を受けました。90年代になって日本の音楽、当時渋谷界隈で流行していたものも随分聴きました。以前海外のwebを通 してMELTONEのライヴ音源を発表したことがあって、BBSに“渋谷系のテイストがある”という海外の人の書き込みがあって驚いたことがあるんだけど。そんな要素を感じるとしたら、僕が持ち込んでいるものだと思います」
菅澤俊介(ds)「バンドで最年少というのもあると思いますが、僕はメタルを聴いて育った世代です。その後ハードコア、ヒップホップ、テクノ、トランス・ロックを聴きながら自分自身のフリースタイルの演奏に繋がってきたのかな? ジョン・ゾーンのようなフリーなものにも随分刺激を受けました。あとフィッシュやメデスキ、マーティン&ウッドといったジャムバンドに出会い、今のMELTONEのような音楽に近づくようになった」
──ちょうど1年前に「ジャム音楽はまだ日本ではポピュラーなものではないので、ポップなものを作りたい」と富田君が言っていたことを思い出しました。特に意識してきたことは?
富田「拘った部分は、当たり前だけど日本語で歌うこと。あとアンダーグラウンドなノリは個人的には好きなのだけど、バンドではポップなものを追求するというのは常に意識してきました」
──90年代の日本のポップス、フレンチ、ラウンジの要素も感じられますね。ボサノヴァ風の〈WALKIN'〉のような歌もあるし。その一方で2曲目〈MR.DOUGHNUT〉なんて中盤は60年代的なサイケやドアーズ等の雰囲気があり、これはMELTONE的には新しい方向性ですね。この手の曲はどのように生まれたものですか?
富田「ドアーズは大好きです(笑)。曲は各メンバーで持ち寄って作っていますが、演奏していくうちに変化していったモノも多いです。最初の狙いから反れてきたら意識的に修正することもありますが、根本的にはバンド4人が持っているものを出し合う感じで出来上がります」
──このスタジオ盤の時点で、とりあえず曲は完成って感じですか?
富田「ライヴ毎に曲はどんどん変化していますね。一度完成したと思っているものを、スタジオで手を加えてライヴで演って、どんどん構成が変わったり。昔のまま演り続けるよりは自分たちの曲をいじるのが楽しいし」
──このファースト・アルバムはかなりライヴ感覚が出ている内容になりましたが?
富田「スタジオに入っていざ録ろうと意識すると、演奏自体が小さくなる印象があって、今までやってきたものをほぼ一発録音で録りました。スタジオワークで凝ったものも作りたいとは思うけど、まずは“今のMELTONEはこういう状態です”というのを2004年に録音してみたかった」
菅澤「作り込んだり練り込めば、キレイに出来過ぎて。それも素晴らしいとは思うけど、それで全体が活き活きしないというか、こじんまりしてしまうということはあると思います。最初にデモ的な一発録りを聴き返したら、自分たちが伸び伸び演奏していることに気が付いたので、その感覚は出せたと思います。上手くてキレイに聴かせられる人たちも世の中にはたくさんいると思うけど、MELTONEの場合はそうじゃないから」

ジャムシーンの外へ向けてアピールしていきたい
──あと、ルーツ・ミュージック的な要素を泥臭くなく演るのがMELTONEの特徴だと思うのですが。何か特別 意識していることはありますか?
菅澤「元になる音楽を深く知らないというのも強みかも? 雰囲気だけを吸収して、いいとこ取りというのはよくあります、逆にそのバランス感が特徴だとも言えるかな。曲タイトルにある〈SECOND LINE〉とか“ちょっと説明してみろよ”とか言われても結構困るし…強要されるわけでなく、自然に演奏していて後からそういうスタイルに気が付く場合もありますね」
──歌詞が結構ユニークだと思うのですが、あれはメンバー全員で考えてるとか?
富田「ネタばらしみたいになるけど〈SLIME〉に関して言えば、僕がある日甥っ子と買い物に行ってスライム買ってあげて、2人で遊んでいた時のことをメロディやギターのテーマを考えた上で、ケイスケに一切説明しないで“スライムから連想する言葉”を幾つか携帯メールに送ってもらって、それをメロディに合わせて並べ替えた、一種の言葉遊びみたいな感じ。この曲の場合、歌詞にメッセージ性を持たせないで遊び心を出すのが狙いだったりするんで」
──アルバムは前半がポップな小曲が並び、後半は即興も多くて弾きまくっているけど、構成には拘りましたか?
富田「僕は最初に長いジャムを頭に持ってきたかった(笑)。でもタイトルが『POP』に決まった時点で、順番を入れ替えて“いきなりジャム・メドレーはまずいだろう?”ってことになって」
──『POP』というアルバム・タイトルは全員一致で決まった?
富田「最初は皆で話していてなかなか決まらなかったんだけど。偶然にも僕とケイスケが同時に全然違うところで同じタイトルを思いついていたんですよ」
菅澤「僕は最後に加わったメンバーなんだけど、このバンドの最初のイメージが原色なんだと思うんです。例えば、ロゴとかステッカーがオレンジやグリーンの原色だったりすることもあるんだろうけど。だから、『POP』っていうタイトルを聞いた時にしっくり来ましたね」
─話は変わりますが、ジャムバンドという言葉が結構ブームになった反動か、「自分たちはジャムバンドじゃない」という海外のバンドが増えてきていたりしますが、MELTONEはどう思いますか?
富田「ジャムバンドがブームで片付けられるのは、ジャムというシーンがまだ日本に根付いてない証拠だと思う。例えばジャズも元々は流行音楽で、後にジャンルとして認知されたのも音楽がしっかり根付いたからだと。そういったシーンをしっかり作るのが重要だと思うんですよね。僕たちはジャムバンドと言われることに関しては“MELTONEは、ジャムバンドです”と言い切っちゃうスタンスなんで。実際、日本にもジャム・シーンがあって、MELTONEも今の状況まで来ていると思うし。それが切っ掛けで、ジャムがシーンとして音楽そのものが根付いてくれればいいと思いますし。そうやって広めていきたいという気持ちが強いんですよ」
──自分たちが今演っているジャム・ミュージックに関して、“日本人らしさ”を意識したアプローチは特にありますか?
石澤「日本の音楽で海外の人が評価するものの多くは、色々な要素が混じり合って一つの形になる雑多性に驚くかららしいです。だからMELTONEを聴いた時にそのように思ってもらえるもの、“日本人が作る多彩 な音が混じり合った面白いものを作り上げる”というのは軽く意識はしています。
──来月アメリカで初めてのツアーに出ますが。あとオハイオで開催される“Grateful Fest”に参加しますね? 元々どのような経緯で決まった話だったのですか? その後“フジロック”にも参加するし。
富田「長年MELTONEを支持してくれているNobさん(gouda music 主宰 / http://www.goudamusic.com)という方が、グレイトフル・デッドの演奏を再現しているダーク・スター・オーケストラというアメリカの人気バンドと交流があり、ある日MELTONEのデモCDを渡したことが切っ掛けで、メンバー間でCDを聴いて“これは何だい?”という話になり、彼らの中で“じゃあ日本から呼んでみよう”と、最終的に彼らの最大のフェスに招かれることになりました。こういう機会は滅多にあるものではないので、嬉しいですね。あと、シカゴのクラブで幾つか演奏する予定です。僕はデッドが大好きなので、このフェスでの演奏を思いっきり楽しみたいと思っています。海外に行って、CDを出し、更に“フジロック”に参加できるというのは、凄く嬉しいですよ」
菅澤「僕は海外フェスに先に出た後で、“フジロック”に出る流れがいいなと思っています。海外での大きな衝撃を吸収して感じた後で、フジのステージに立ってフィードバック出来ることはラッキーだと思っています」
──最後に、今後MELTONEとして目指していることを教えて下さい。
富田「ジャムのシーンだけから発信するのではなくて、むしろ外に向いて“こういうシーンがある”ということをアピールできればいいと思う。この時代にこのような音楽があったり、そういうシーンがあったという時代性の真ん中に近いところで、音楽を演り続けることには常に興味を持ち続けています」
菅澤「僕は違う音楽を聴いている人たちが聴いてくれて、個々に持っているフィールドに繋がっていければ楽しいと思っています」


◆RELEASE  

POP

PLEASURE-CRUX
RTPC-005
2,415yen (tax in)
2004.7.21 IN STORES

◆LIVE INFO.
<MELTONE『POP』 RELEASE PARTY.... "MELT & WELD vol.3">
8月12日(木)下北沢CLUB 251
MELTONE / ネタンダーズ / らぞく
OPEN & START 18:00
PRICE: advance-2,000yen / door-2,500yen(共にDRINK代別)

7月30日(金)〜8月1日(日)“FUJI ROCK FESTIVAL '04”@苗場スキー場
*MELTONEは8/1(日)@FIELD OF HEAVENに出演

7月2日(金)〜7月5日(月)“Grateful Fest. 5”
*MELTONEは7/3(土)に出演
7月10日(土)“NATURAL HIGH @earth garden夏”@代々木公園野外ステージ
7月18日(日)“happyLIVEs”@代々木公園野外ステージ
7月27日(火)“RADICAL MUSIC NETWORK FESTIVAL”@川崎CLUB CITTA'
8月3日(火)@横浜GRASS ROOTS
8月8日(日)“Jerry's Week”@梅島ユーコトピア
8月13日(金)〜8月15日(日)“Summer Music Festival 2004”@四日市
*MELTONEは8/14(土)に出演

TOTAL INFORMATION MELTONE http://www.meltone.net
PLEASURE-CRUX http://www.loft-prj.co.jp/pleasure-crux


MELTONEのみなさんから素敵なプレゼントがあります!