北海道室蘭育ちで現在札幌在住、最小限で最大限を引き出す超ロック・バンド、The Jerry。ジャンルの多様化した今の音楽シーンの中で、その隙間を縫うように時に激情を叩き込み、時に繊細に唯一無二の世界観を表している。そんな彼らが初のフル・アルバム『Peel The Peal』を完成させ、全国ツアーを展開中だ。今後確実にこのシーンに多大な影響を与えるであろう彼らに、話を聞いてみた。(interview:大塚智昭/新宿LOFT)

ネコだと思ったらネズミだったんです(笑)
──まず最初に、The Jerryというバンド名の由来は?
長内雄太(vo, g)「スタジオへ入る前に俺とアマネ(辻の下の名前)と前のベースとで呑んでて、3人でやろうかってなった時にバンド名をどうしようかって考えてて、閃いたのがこの“The Jerry”だったんです。頭の中では『トムとジェリー』の“ジェリー”のイメージで」
──へぇ。『トムとジェリー』といえば、新宿LOFTにDVD全巻ありますよ。
長内「ああ、そういえば前、LOFTへ行った時に店内で流れてましたよね。昔からネコが好きで付けたんですけど、でも、後から考えてみたら“ジェリー”ってネズミだよねってことに気が付いたんですよ(笑)。でも今更変えるわけにもいかねぇなと(笑)」
──(笑)以前は室蘭に住んでいたんですね。
長内「はい。大学が室蘭だったんで」
──室蘭のバンドとかどうですか?
長内「室蘭は、サークルのバンドしかいませんね。まずライヴハウスがないですから。大学のサークルの中に10個くらいバンドがいる程度で」
──それで、札幌へはいつ頃?
長内「去年の4月くらいに越してきて」
──ってことは、それまで室蘭から通いで札幌まで? めちゃめちゃ遠くないですか?
長内「そうなんです。週一のペースで3時間半かけて」
──東京から飛行機で札幌へ行ったほうが早いですね(笑)。
市丸博史(b)「ああ、そうですね(笑)」
──札幌のシーンは現在どんな感じなんですか?
長内「よく訊かれるんですけど、実際のところは判らないんですよ。COUNTER ACTIONに集まるバンドとかも実は余り知らなくて、僕らはずっと札幌COLONYっていうライヴハウスでやってるんです。そこでもいろんなバンドがライヴをやってますけど、今はなかなか人が集まりにくいんですよね。渋々な状況で。でも、COLONYでは自主企画(“ALCHOHOLIC HEAVEN”)も続けてるんで、いずれ活性化させていきたいですね」
──初のフル・アルバム『Peel The Peal』なんですが、自主で出した『rude flowers』と比べて手応えはどうですか?
長内「『rude flowers』の時は、大学時代に室蘭から札幌へ3日行ってリズム録って、帰ってまた行ってベース録って…みたいな感じで大変だったけど、今回は東京に2週間くらいいて、ずっとレコーディングに集中してできましたね。録り終えた時の達成感が前より凄くあったんです。前のアルバムは今までライヴでやっていた曲を録ったんですが、今回は新曲ばかりだったんでそれも新鮮で良かったですし」
──スタジオも大きくなりましたか?
長内「いや、逆に小さくなりました。リハスタみたいな所でエンジニアさんとかも同じ部屋にいるような状況で」
辻 周(ds)「パートも全く区切られてなかったしね」 市丸「鼻をすすったりしたら音が入っちゃったりするような至近距離で(笑)」
──(笑)リズム録りはどうでした?
辻「全部一発録りで、だから普段リハでやってる時と特に変わりなく…」
市丸「僕ら、今まで別録りをしたことがないんですよ」
──でも、そのほうがライヴ感というか生音って感じがしますよね。
「修正したところ、1個もないよね?」
長内「俺の歌くらい?(笑)」
──凄いビリビリしたアルバムですよね。この感じ、大江慎也さんを観た時の緊張感を思い出したんですよ。
長内「おお! 凄いビッグネームですね(笑)。ありがとうございます」

バンドをどう最高に伝えられるか、毎日考えている
──ジャケットのアートワークも、張り詰めた音の感じに呼応してて統一感がありますね。
長内「artvibesという札幌のチームにお願いしたんですけど、ミーティングにミーティングを重ねてイメージを伝えて。普段は企業のウェブデザインとかをメインにしていて、CDのジャケットを受けたのはTHA BLUE HERBのジャケとかやった以外は余りないらしく、ロックな人達は僕らが初めてらしいです。最高にハモってできました。ちなみに、このジャケの表は岩の写 真を処理したらしいんですよ」
──そういえば、そのTHA BLUE HERBとライヴで共演したことは?
長内「ないですね。片思いなんです(笑)。いつかはやってみたいですけど…」
──確かにその2組でやったら、The Jerryの新たな一面が垣間見られるかもしれませんね。
長内「ええ、THA BLUE HERBはかなり解釈がロックだと思いますし。でも、畏れ多いです」
──歌詞がとても文学的ですけど、特定の作家から影響を受けたりしましたか?
長内「本は普通に読んでますよ、村上春樹とか安部公房とか。でも、純文学とかは余り読んだことないですけど」
──歌詞が日本語なのは、こだわりがありますか?
長内「曲がまずあって歌詞を書くんですけど、パッと浮かんでくるのが日本語で、それしか出てこないんで…」
──The Jerryの曲は静と動がはっきりしていて、静の時に浮かんでくる歌に重点が置かれているのかなと思ったんですけど。
長内「特にそういう意識はないですね。そういう流れで自然にできた歌も中にはあると思いますけど」
──現在ツアー中ですが、札幌以外の土地でやるライヴはどうですか?
長内「東京はお客さんの反応が早いな、と。ダイレクトに応えてくれるというか。今までずっと北海道でやってきて、そんなに劇的に客が増えたって感じはしないけど、東京ではちょっとずつ増えていっている実感はありますね」
辻「このツアーが終わっても、ずっとライヴの連続で今年は行きたいですし。札幌では月一で自主企画もありますから」
──ライヴを通して一番伝えたいことは?
長内「特にこれを伝えようっていうのはなくて、メッセージ性みたいなものも余り考えてないんです。それよりも音を出した瞬間、消えた瞬間の、瞬間瞬間を感じてもらえたら…」 市丸「聴いてもらうって感じではなく、感じて欲しいですね」
──ツアーを通してライヴの在り方も変化してきましたか?
長内「変化してきてますね。3曲入りのCD(『A Passage of "P.T.P."』)を出した時にも10何本か廻ったんですけど、その時は僕らを初めて観る人が多くて。でもそれから3ヵ月くらいしか経ってないのに、現時点で5ヵ所を廻って曲を知っている人がいて。それがたとえ2、3人でも凄くやり甲斐があるんですよ。あと、以前はライヴ後のミーティングとか皆無だったんですけど、これじゃイカンと思って。だから今はライヴをやっては必ず話し合いをして、1回1回反省点を見直してます。そのぶん絶対良くなれてると思いますね」
──ライヴ中は冷静な自分を俯瞰で見てますか?
長内「ええ、そういう冷静な自分を持っていようという理想の形が最近は見えてきました。真っ白に燃え尽きることを目標にライヴをやろうっていうのが常にあって、冷静な自分がいて、なおかつ燃え尽きる自分がいるっていうのが言葉にすると一番近いです。それが形にできた時のライヴは自分達としても達成感が凄くありますね。The Jerryというバンドをどう最高に伝えられるか、それは毎日考えてますよ」
──そのために自分達を追い込んだりも?
長内「追い込むっていう感じでもないですね。今はまだ試行錯誤の最中なので、結構その日その日で全然違うことを考えてたり。“良いライヴできたな”って時は必ず3人とも調子が良くて、逆に“駄 目だな”って時は3人とも駄目で、それが何なのか、感覚だけじゃなくて直接話し合ってみようかっていうところなんです」
「でも、話し合って判らない部分、感覚的な部分がやっぱり一番大事にしているところではありますけどね」
──となると、ツアー・ファイナルのシェルターでは相当いいライヴが期待できそうですね。
長内「the blondie plastic wagon、detroit7、THE CIRCULATORSと、自分達が好きなバンドばかり呼んでるんで、イヴェントとしても面 白いものになると思います」 辻「ブロンディーは、大学のサークルの先輩なんですよ。向こうが2つ上で」
長内「昔から凄い呑むんですよ、ブロンディー。音楽のサークルじゃなくて、ほとんど呑みのサークルなんで(笑)」
──打ち上げが凄いことになりそうですね(笑)。では最後に、ライヴに来るお客さんにメッセージを。
市丸「ライヴをやるごとに、それが今までで一番良いライヴになればいいな、と」
「音源とライヴ、併せてひとつで僕達のことが伝わると思うので、ライヴは是非来て欲しいと思いますね」
長内「とにかく来て下さい。もしかしたら全然違う方向に行ってるかもしれないし、ファイナルの頃にはどうなってるか、自分達でも判らないので。アルバムを聴いて、ライヴを観て、カッとくる…そう思わせるライヴが出来たらいいなと思ってます」


◆RELEASE  

Peel The Peal

Chameleon Label
CHA-009
2,100yen (tax in)
IN STORES NOW

◆LIVE INFO.
<The Jerry「Peel The Peal Tour」>
6月9日(水)下北沢SHELTER
w) the blondie plastic wagon / detroit7 / THE CIRCULATORS
OPEN 18:30 / START 19:00 PRICE: advance-2,000yen / door-2,300yen(共にDRINK代別 )
【info.】shimokitazawa SHELTER:03-3466-7430

<Peel The Peal Tour>
6月1日(火)福岡 DRUM BE-1/6月2日(水)名古屋 HUCK FINN/6月4日(金)静岡 SUNASH/6月7日(月)千葉 LOOK/6月8日(火)横浜 CLUB24

<loft presents ロフトノススメ>
6月14日(月)新宿LOFT
w) lostage / FOUR THE MG / コンタクト / buddhistson / MELTONE
BAR LOUNGE:ロッキンエノッキ−ワンマンバンド
OPEN 17:30 / START 18:00
PRICE: advance-2,000yen / door-2,500yen(共にDRINK代別)
【info.】shinjuku LOFT:03-5272-0382

<The Jerry 自主企画“ALCHOHOLIC HEAVEN vol.3”>
6月18日(金)札幌COLONY
w) ノスタルジックマン (札幌) / ジアンペア (旭川) / monochrome omita (札幌)
OPEN 19:30 / START 20:00
PRICE: advance-1,000yen / door-1,500yen
【info.】COLONY:011-532-3329

The Jerry OFFICIAL WEB SITE http://www.the-jerry.com/