2000年暮れ頃から活動を始め、“TOXIC PUNK WASTE”や“HOLLYWOOD JUSTICE”等の企画に出演、'80年代に存在した“ポジパン・ムーヴメント”を体現し、ハードコアのシーンに居ながら異彩 を放つEVIL SCHOOL。ポジパンとは何なのか? そして何故いま、ポジパンなのか? 初の単独音源『THE ESSENCE OF EVIL』のリリースを契機に、Petero Spinster(vo)、K.(b)、Wrong Time Zany(g)のメンバー3人(ドラムのTorは欠席)に話を訊いた。(interview:シンタロウ)

ポジパンの呪縛に苦しむ80年代の亡者達を解放するレクイエム

20年のタイムラグを経て往時のポジパンを体現
──そもそも何故、こういったコンセプト(ポジパン)やメイク(顔面白塗り)でやろうと思ったんですか?
Petero「バンドの旗揚げ主がWrong Time Zanyなんですけど、彼のコンセプトの中にあったんですよ、白塗りっていうのが」
Zany「もう絶対、これが必要だった」
Petero「最初は結構、メンバーも流動的だったんだよね」
──2000年暮れ頃から出没ということなんですが、それ以前から試行錯誤が?
Zany「いや、全然ないです」
K.「その2000年という数字も大事だったんだ」
Zany「そう、21世紀になる前に、早急に、とにかく形にする必要があった。それから考えようかと。だから時間を掛けて練ったというのはないんですよ。それまで自分達が聴いてきた音楽の中に、こういった見た目のバンドがゴロゴロあったし」
──“'80年代”や“ポジパン”というキーワードで紹介されているんですが、そういった音楽はやはり皆さん聴いてこられたんですか?
K.「勿論、超リアルタイムで」
──当時のそういったバンドや周りの雰囲気っていうのは?
K.「正に我々が今やっている通りの感じだよ。当時から異端視されていた」
──でも'80年代というと、お化粧したりするバンドって結構メインストリームにもいたような印象があるんですけど…。
K.「うーん、微妙かな。化粧しているバンドっていうのが今で言うヴィジュアル系っていうことだとしたら、それはまだ世代が移り変わる前のことで…」
──日本ではそういったバンドというと何がありますか?
K.「カヴァーもしたMADAME EDWARDAや(〈Nosferatu〉)、今度我々のレコ発に出演してもらうMOSCOWのメンバーがかつてやっていたSODOMであったり…。ただ、彼らもやっぱりイギリスの当時のポジパン勢に影響を受けて始めただろうし、スタート地点としては僕らも大きくは違わないつもりだよ」
Zany「そう、ただウチらはやるのが遅かったっていうだけで」
K.「うん、20年のタイムラグがあるけれども、空白っていうのは感じてなくて、そのままやってる」
──では、海外のバンドでEVIL SCHOOLが影響を受けたバンドというと?
K.「VIRGIN PRUNES、SEX GANG CHILDREN、BAUHAUS、KILLING JOKE、JOY DIVISION、SIOUXIE & THE BANSHEES…幾らでもいるよ」
──そういうバンドに影響されながらも、やはりより現代的に、ギターのコーラスが強調されていたり…という印象を受けたんですが?
K.「それは当然、自分達でやる以上はね」
Petero「ただギターのコーラスに関しては、当時はもっとグニャグニャになってるような、効果 音チックになってるバンドがいたと思う。その部分はWrong Time Zanyも試行錯誤してるし、そこにまだ可能性はある」
──曲はどなたが作ってらっしゃるんですか?
K.「メイン・ソングライターはWrong Time Zany」
Zany「最初はね。でもそのうち皆も曲を作ってくるようになった」
編集部・see-now「あと、EVILにはサポート・メンバーもいるんですよね?」
K.「サブ・メンバーとしてドラマーのDIE-SK(“ダイスケ”)。彼は困った時に現れる」
Petero「1曲作詞もしてもらった。まぁ、言うなれば2軍だね(笑)。だけど彼はこのバンドのメンバーとして凄い誇りを持ってるんですよ」
──アルバムはライヴで演っている曲が中心だと思うんですが、アルバムの為に書き下ろした曲はありますか?
Zany「ありますよ、3曲くらい。4曲目の〈心の死支度〉と5曲目の〈善悪の気象台〉。あと9曲目、〈露の世は露の世ながらさりながら〉はライヴでも1回くらいしか演ってない」
──アルバム制作期間としてはどれくらいですか?
Zany「ミックスまでやって全6日」 K.「もういつの間にか出来てたっていう感じだね」
Petero「音に関しては懇詰めてやりはしたけど、試行錯誤をしなかった分、ソリッドな面 が出てると思いますよ。まぁファースト・アルバムってそういうものだと思うね。我々が聴いてきた往年のパンク・バンドもそうじゃないですか」
──そもそも素朴な疑問があって、“ポジパン”“ポジティヴ・パンク”って、こんなにネガティヴで退廃的なイメージなのに、何故“ポジティヴ・パンク”って呼ぶのかなと思ってたんですけど…?
K.「その言葉はイギリスの音楽紙『NME』の記者が付けたんだけど、それも従来のパンク・ロックに対する“ポスト・パンク”っていう中の一つなんだよ」
Petero「僕の憶測では、パンクっていうのが出てきた時に結構ネガティヴで退廃的な面 を出してたと思う。で、それに対する…ってことだけど、ポジパンのやり出したことのほうが退廃的だよね? もしかしたら、そこにパラドックスがあるのかもしれない」 Zany「俺達が掲げている“ポジパン”については、“ポジティヴ・パンク”っていう風にしなかったのは、'90年代に入って“ポジティヴ・ハードコア”っていうのが出てきて、それと混同されない為に付けたんだけど。多分これは“ヘヴィ・メタル”の“ヘビメタ”みたいな扱いだよ。それがこのジャンルの行く末を明確にしているんじゃないかと」 世間の流れを客観的に観て、参画し自分達の立場を明確にする
──ジャケットですが、この2つ並んだ墓標は?
Petero「これは僕が学生時代にパリの郊外で撮影した写 真で、ヴィンセント・ヴァン・ゴッホの墓です。その横は唯一の理解者であった彼の弟の墓標です。EVIL SCHOOLの雰囲気を伝えるのに凄くいいと思って。ゴッホの生きた人生っていうのは、自分が生きる上で数少ない指針になっているんです。彼の苦しみ抜いた人生っていうのはやはり凄まじいものがあるし、生きる上での苦しみを他の画家達の何百倍、何千倍も背負っていたと思うんです。畏れ多いのは覚悟の上で、ちょっとでも彼に近付きたいという気持ちの表れなんですよ」
──インナーも…これは、地下鉄サリン事件の新聞記事が使われてますね。
Petero「生きてる人間であれば誰でも“弱さ”を持ってるじゃないですか。何かにすがりたいというような。オウムの信者達が特異な人間だと僕は全く思わないんです。今の社会が抱えている病理だという意識があるんですよ。誰にでも起こり得ることだし、現代社会の暗黒の面 というか」
──最近のゴスロリみたいなものについてはどう思いますか?
Petero「ロリータという言葉には凄く反応するし、憧れますね。そういう耽美的なものには」
K.「語義としてのオリジナルのロリータね。今ではもう形骸化しちゃって変態のジャンルの一つになってるけど、そうではなくて、もっとロマンチックな」
Petero「そう、もっとこう、純粋でメルヘン性のあるものというか」
──EVIL SCHOOLのお客さんにも来てほしいですか?
K.「当然接点はあると思うよ。ちょっと前にゴスロリの女の子の彼氏が両親を殺傷する事件があったけど、そういう人達の救いになったりすることもあるかもしれないし、そんな接し方ができると凄く嬉しい」 Petero「それは重要だ」
K.「ヴィシュアル系のお客さんやゴスロリその他の人達っていうのは、世代は全然違うんだけど、結局そのスタート地点の影響を受けたものは一緒で、その枝分かれであって、言うなれば、大変な別 れ方をした異母兄弟ということになるんじゃないかな。だから当然、近親憎悪もあるわけで、“彼らとは違う”と思っていても、外側から見るとそっくりだったりね」
──普段はハードコアのバンドと一緒にライヴを演ることが多いと思うんですけど、ヴィジュアルやゴスロリ系のお客さんにもこういう音楽を聴かせたいですか?
K.「うん、そういうお客さんにアピールする自信もある。所謂日本のパンク・ロックの最近の傾向って、リスナーと同じ目線に立った言葉、同じTシャツ、ジーパンっていうカジュアルな恰好でやっているバンドがたくさんいると思うんだけど、でも実はそれは凄く“作られたもの”なんだよ。そういうのに比べると、我々の方が断然リアリティがあると思うね」
Petero「人間は十人十色だから、精神論とか実際に生きる人生論がそれぞれあるのが当然だと思うんだけど、K.が言うように最近のパンク・バンドは唄う内容が皆似てきてるよね。自分の生きる世界観は耽美的だったり、もっと暗い一面 もあるわけで、そういう面も隠さずに出しているほうがリアリティがあったりするんじゃないかと。人間誰しも、生きていれば色々なことを考えたり経験したりもするし」
──以前、とあるバンドの方がライヴのMCで、タモリの話を引き合いに出して語っていたことを思い出しました。「彼は昼の番組では大衆受けするキャラクターを演じていて、深夜の番組では自分の好き勝手な感じでやっていて、その多面 性に共感を覚える」みたいなことを言っていたんですが、そういうことですか?
Petero「うん、彼はそういった二面性を出しているいい例だね。昼の“虚”の部分と夜の“実”の部分っていうのは誰にでもあると思う。職場に入って…とか、家庭に入って…とか、意識はしていないだろうけど、自分なりに演じているというか。歌の世界やバンドの音楽性に関しても、二面 性以上のモノがあってもいいと思う。特にEVIL SCHOOLではそれを出しやすい」
──今後、バンドとしてどのように活動していきたいですか?
Zany「それは、世の中の情勢によって変わっていきます」
K.「世の中に対してアンチというんじゃなくて、その事象にある暗黒面 を引き出す」
Petero「当時のポジパンのバンドには世間と常に乖離しているところがあったかもしれないけど、我々は世間の流れを客観的に観る目を失わず、そこに参画して自分達の立場を明確にしていく。そこが当時のバンドと一番違う部分かもしれないですね。俺達は他のバンドとは全然違うぜ、っていうんじゃなくて、自分達は今この時代のシーンの中に於いて果 たしてどういう位置にいるんだろうか? ってことを模索していくと思う」
──では、世間の状況次第ではこういうスタイルでなくなることもあり得ると?
K.「あるね。全くバンドがなくなってしまうことも可能性としてはある」
Zany「どうなるかは本当に判らないね」
Petero「これからのバンドが皆、全員白塗りとか、音楽形態が変わってクラシックやジャズを採り入れたりしてきたら、我々も変わっていくと思う。でも我々はアナリストではないので、今後の音楽シーンがどうこう語る気はない」
──ある種、人間全体から離れた目線で観ていくような感じですか?
Petero「そうですね。でも、傍観者ではいたくない。やっぱり自分達も主体的にその中にいて、模索して考えていきたい。だから全然違う容態のバンド、ノイズやハードコアからもっとアンダーグラウンドな暗い雰囲気を醸し出しているバンド…今でも一杯いるんだけど、私達がそこに居ても遜色のないグループで在りたい」


★Release info.

THE ESSENCE OF EVIL

Less than TV ch-84
2,625yen (tax in)
2004.5.26 IN STORES

★Live Info.
<Less than TV presents "HOLLYWOOD JUSTICE!!!" 〜EVIL SCHOOL 1st album "THE ESSENCE OF EVIL" release live〜>
2004年6月5日(土)東京・下北沢SHELTER

w) MOSCOW / TEXACO LEATHERMAN / ラジオの様に
OPEN 18:30 / START 19:00
PRICE: advance-1,800yen / door-2,000yen(共にDRINK代別)
【info.】shimokitazawa SHELTER 03-3466-7430

<"THE ESSENCE OF EVIL" release tour>
7月17日(土)名古屋・今池HUCKFINN
w) the原爆オナニーズ / IDEA OF A JOKE / etc...
OPEN 18:30 / START 19:00
PRICE: advance-1,800yen / door-2,000yen(共にDRINK代別)
7月18日(日)大阪・心斎橋PIPE69
w) サスペリア / ハードコアデュード / etc...
OPEN 18:30 / START 19:00
PRICE: advance-1,800yen / door-2,000yen(共にDRINK代別)

【total info.】lessthantv@hotmail.com