「最終的には、10年20年と残る歌が作りたいですよ。今の若い子が俺くらいの年になってもまだこの歌が残ってたら、そんな嬉しいことないですよね」──取材終了後、エッさんことエスカルゴがぽつりと漏らした言葉である。確かにそうだ。流行に弄ばれる軽々しさなど必要じゃない。いつまでも心の奥に残る歌とは、本来とてつもなく重いものだから。モガ・ザ・\5の新作『居待月夜の話』は、そういう意味で非常にヘヴィな歌のアルバムだ。せつなさに胸を焼きやるせなさに心を震わせる、渾身の歌が全13曲揃い踏み。キーボードやヴァイオリンの導入もあり、過去最高に豊かな広がりを見せる大傑作といえるだろう。これぞまさに10年20年と残る歌ってやつである。しかしモガの皆さんは、どうしてそんな素敵な言葉を取材中には言ってくれないのか? 新作の変化と多面 的な人間性、そして気になる4人目のメンバーについて訊いたインタビューは、脱線と爆笑が9割を占める結果 となりました。(interview:石井恵梨子)

後付けで「よし、今回は歌もんや!」って(笑)
──『未完全論』から3年2ヶ月ってことで、ほんと長かったですよね。
坂口 うん、そう言われると長いですねぇ。
エスカルゴ アルバム作るかライヴやってるかしかなくて。同時進行できひん(笑)。アルバムごとに写 真が老けていってる。
──…非常にコメントしづらいですが(一同笑)。でも今回、とにかくスケールの大きさが変わりましたね。今までの“息をもつかせぬ ”なんて言葉で語れる作品じゃない。
西谷 おー、(同席したスタッフを指して)もっと言ってやってください(笑)。
エスカルゴ これ聴いた時、こいつらは頭ん中に?マークが浮かんだそうです(笑)。僕らも僕らで「…地味かなぁ?」って(笑)。 ──実際に曲作りの進め方が変わってきたとか、自覚的な変化はあるんですか?
坂口 いやー、ないなぁ。いつも通り。曲だけ先に作るんですよ。僕が作ったのをスタジオ持ってきて合わせて、それをエッさんが持って帰って詞をつけるっていう。
エスカルゴ そんで俺は曲覚えるのに必死やから、歌詞の宿題が録音前にブワーッてたまってきて。そのへんもいつも通 り(笑)。
西谷 でも、曲作ってる時に、今回はちょっと歌任せやな、っていうのが薄々わかってて。曲の展開がちょっとおとなしいっていうか、歌を乗せてみないとわからへんかった。今まではそれが嫌やからこういう曲作らなかったわけじゃないですか。でも今回はあえてそれをやってみて、「後はエッさん次第やな」ってよく言ってたな。エッさんが重い十字架背負ってる感じで(笑)。
──でも、ガツガツ詰め込んでないからこそ、一音一音の存在感が大きくなったような。
エスカルゴ 今までそういうのがなんか照れ臭かったんですよ。でもそんな照れ臭さもなくなって、さらけ出さなきゃ、って。
西谷 いつも曲が先にできるから、今までは曲だけで楽しめるっていうのが大事やったんですよ。でも今回は曲だけでは楽しめない。
──そんなネガティヴに言わなくても(笑)。
西谷 いや、でもそれが歌ものの一つの条件なんかなぁって思うし。
──ここに来て歌ものに向かった理由って、何か思い当たります?
坂口 もちろんこの人(エスカルゴ)は、昔も今と変わらずにずーっと歌ってきてるんですけど、バックが忙しいとか、激しすぎるとかがあって。それで歌が死んでたわけやないけど、ちょっと出てこなかった部分があって。でも今回はバックがちょっと引いた感じで、そしたら歌ものになったんかなって。 エスカルゴ でも、そうしようとした意識もないんですよね。結果的にこうなってしまったから、もう後付けで「よし、今回は歌もんや!」って(笑)。
坂口 インタビューで「歌ものですね」って言われたら、次のインタビューから「いやぁ今回は歌ものですよ」って(笑)。
──あと新鮮なのが、キーボードの導入ですよね。
坂口 吉田さんって、羅針盤の方なんですよ。前からやりたかったんですけど。 エスカルゴ でも人材的になかなか見つからず。だってねぇ、パンク・ロックやっててキーボードしゃらしゃら弾ける奴って絶対いいひんもん(笑)。
坂口 でも今回はちょっとだけ時間があって、頼むことができたっていう。それも「この曲のこの8小節にお願いします」って言うだけで。あとはもう丸投げです。
西谷 小泉内閣です(一同笑)。
──そういうのって、余裕の違いですかね。
坂口 うーん? どうやろう?
──いや、今までとにかく自分たちの音をギッチリ詰め込んでた印象があって。空間に鍵盤を入れるとか、誰かに任せるって発想自体に余裕を感じますけどね。
坂口 あぁ、そういうのもあったかもしれんけど…でも無意識に、ナートと絡んでたことから受けてる影響ってあるかもしれんな。
エスカルゴ そうやね。あの間をちゃんと楽しめるっていう。今までは空間あったらヒヤヒヤしてた。
坂口 なんか詰めなあかん、隙間を埋めなあかんと思ってて。間延びするのが嫌やったんですよ。そういうの意識的に排除しなかったのが今回は大きいんでしょうね。
──なるほど。あと面白かったのがはっぴぃえんどのカヴァーですけど。
エスカルゴ これはもう、僕がカラオケで歌ってる歌。モガのカヴァーは基本的にカラオケ・ソングやな。だから次は甲斐バンドで行きますよ、と(笑)。
──こういうのも昔は考えられなかったですけどね。
坂口 なんか昔はね、僕の個人的な考えで、カヴァーは邪道っていうのがあって。それでわざわざ外してたんですよ。でもやってみるとけっこう楽しかったりして。
西谷 だから僕はね、あえて言わないですけど、言ってたこととやってることちゃうなぁ、って思った(笑)。ハイスタのカヴァーをあれだけブツブツ言ってた人が(一同爆笑)。
エスカルゴ もうじきアルバムの半分くらいカヴァーになりますよ(笑)。 のほほんな10年を節目に新メンバー加入!
──これは一般論だけど、年を取るたびに自分の中で「これをやっちゃダメ」っていう感覚がどんどんなくなっていきますよね。 エスカルゴ あ、でもそれはほんとそう。
坂口 なんかね、どんどん食わず嫌いがなくなっていって。悩んでた自分がバカみたいになってくる。
エスカルゴ なんかね、「俺はこれしかない」とか、そういう自分を着てるのがどんどん嫌になっていくんですよ。ガンガン脱いで脱いで、もう何やってもええわ、って。
坂口 そういうの考えなくなりましたよね。出てくるもんを素直に出せる。
エスカルゴ 前やったら「これはなぁ、パンク・ロック的にはなぁ〜」って。ええオッサンが何を言ってんねん(笑)。そういう意味では職人気質じゃないし、わりと融通 きく人間が集まってんねんな。
坂口 しかも10年やってるっていうの大きいでしょ。これが5年で解散して、また次のバンドで5年やってる関係やったら、同じことはできんと思うし。
エスカルゴ でもほんとなぁ、10年のほほんとやってきたなぁ。
──のほほんですか(笑)。あの、いっつも不思議なのが、なんでこの3人からこれだけの言葉が生まれて、これだけ聴き手の胸を打つんだろう、ってことなんですよ。
一同 ははははははは!
西谷 でもねぇ、こういう音楽を作ってて、インタビューしててもなんか暗〜い人間やったら、そっちの方が嘘臭いでしょ?
エスカルゴ ばりばりシリアスな?
西谷 そうそう。すっごい重い話とかばっかしててもねぇ。そうじゃないのが人間のほんとの姿でしょ。
──うーん、たまに本気で文学青年的な、ダウナーな人もいますけどね。
エスカルゴ どうやろう? 俺は別に病んでるつもりもないし、「あんたは病んでんねん」って言われても「いやぁ?」って。
西谷 だからみんなに「おまえらみんなネガティヴやなぁ」って言ってたら「あんたが一番ネガティヴや!」って言い返されたような。エッさんはそういう感じやな。 エスカルゴ なんやねん俺は(笑)。でも別にギャップとかもないし、自然に出てくる言葉やし。あんま考えてないんですけどね。(アルバム・タイトルを指して)これもいかにも僕が付けたような感じでしょ? 実際この人(西谷)考えてますからね。
坂口 それも、たまたまぽっと出てきて「それでええやん」って。意味もない(笑)。 エスカルゴ インタビューやりにくいバンドでしょ?
──正直、もっと意味深であった方が美しくまとまるのにって思う(笑)。
エスカルゴ ねぇ? 俺も思うわ(笑)。意味は全然ないです。すいません。
──たとえば、モガの音と歌詞だけを聴いて涙を流すファンもいるかもしれない。そういうのって何か違うなって感覚ですか?
西谷 いやもうナンボでも泣きやがれって感じですよ(笑)。それも僕らの真実やし。
坂口 もちろん僕らが作ってるものは僕らの事実で、ここでおちゃらけてるのも僕らで。出してる音はこんなんやけど、普段の僕らは愉快な感じで。
エスカルゴ 愉快な3人トリオです(笑)。
西谷 決してニセモンじゃないですからね。これは僕らの人間性っていうか、多面 性の問題で。だって僕らがもしね、人間性もこの音に沿っとったらね、まずピザ・オブ・デスからCDなんて出してないっすよ?(一同笑) もっと閉じた感じで、超DIYみたいになってると思うし。それで行き詰まって解散すんねんな。
エスカルゴ 絶対解散するなぁ。自分らでまとまりつかんくなってなぁ(笑)。
──はい(笑)。じゃあ話を戻して、この曲がライヴで聴けるのは次のツアーからですよね。その時は4人目のメンバーがいるとか。
坂口 はい。ユッケって言うんですわ。名前がユウコで、なんでか知らんけど出会った頃からユッケって呼ばれてたんで。神戸でハロゲンランプって、女の子ばっかりのバンドやってた子ですね。ちょうどいいタイミングで入ることが決まって。
西谷 ギターが欲しいって、漠然とした思いはあったんですよ。作ったものをライヴで再現するのが厳しくなってきたし、エッさんももっと歌に専念できるし。
エスカルゴ だから今回の録音の時に出た課題を踏まえて、このさい一気に解決してしまおうかって。コーラスも入りますからね。
──女の子が入ると、見た目もバンド内の雰囲気も変わるって言いますよね。
西谷 まぁね、もう一人むさ苦しい男が増えるぐらいやったら、女の子がいた方がね。
坂口 でも、実際僕らが10年間やってて、この中にまたもう一人男が入ってくるとなると、同じような付き合いができるのかって。そんなしょうもない心配するんやったら、女の子一人来た方が華やいでいいかなって。
エスカルゴ 新人社員の女の子に喜ぶ会社のオッサンみたいな(笑)。 西谷 まぁでも、結果オーライやな。ひらめきのみでやってますから。今後は、入ったことでちゃんと存在感がわかるような形になっていくと思いますよ。
──楽しみにしてますね。ツアーも東京では2箇所あるそうで。
坂口 シェルターと、最後にロフトかな。
西谷 まぁでも、ロフトに辿りつく頃には相当数ライヴもこなしてるから、かなり良くなってると思いますよ。だから最初のシェルター観に来て、もっかいロフト観に来てくれたら、かなり面 白いことになってるんちゃうかな。音楽が生モノやということが、よくわかると思いますね。


★Release info.

居待月夜の話
PIZZA OF DEATH RECORDS
PZCA-19 2,300yen (tax in)
2004.3.17 IN STORES

★Live Info.
<MOGA THE \5 "居待月夜の話" TOUR>
2004年4月10日(土)下北沢SHELTER
MOGA THE \5 / Jr.MONSTER / MAKE WONDER
OPEN 18:30 / START 19:00
PRICE advance-2,000yen / door-2,300yen(共にDRINK代別)
【info.】shimokitazawa SHELTER:03-3466-7430

<"居待月夜の話" TOUR>
4月10日(土)下北沢SHELTER/4月11日(日)甲府KAZOO HALL/4月25日(日)十三FANDANGO/5月2日(日)京都WHOPEE'S/5月9日(日)静岡Sunash/5月23日(日)札幌KLUB COUNTER ACTION/5月30日(日)豊橋LAHAINA/6月12日(土)仙台BIRDLAND/6月13日(日)新潟WOODY/6月26日(土)福岡KIETH FLACK/6月27日(日)松山SALON KITTY/7月10日(土)千葉LOOK/7月11日(日)新宿LOFT/7月18日(日)十三FANDANGO
*開場・開演時間及び出演者は各会場で異なります。
【TOTAL INFO.】PIZZA OF DEATH RECORDS:03-5790-2381 http://www.pizza-of-death-records.co.jp

◆MOGA THE \5 OFFICIAL WEB SITE http://www5a.biglobe.ne.jp/~bismuth/moga/