人間による“妖怪狩り”が盛んだった安政2年(1855年)。人間を信じたばかりに一族を全滅させてしまった人狼の牙吉(原田龍二)。あてどもなく旅をするが、ある宿場町で鬼蔵親分(清水健太郎)と出会い、その腕を見込まれる。実は鬼蔵一家は住処を奪われた妖怪達で……。  特殊造型における日本映画界の第一人者・原口智生監督作品の『さくや妖怪伝』から3年。最新作の『跋扈妖怪伝 牙吉』が2月7日より公開されることを記念して去る1月25日にロフトプラスワンでイベントを行った、そちらを契機に原口監督と俳優の中山夢歩さんに『牙吉』についてお話をして頂いた。(TEXT斉藤友里子)

 藩のならず者を始末する見返りに、妖怪たちの安息の地を与えると約束をするが……。革新的な切れ者としてうたわれる美しき策略家、家老・山路要之助を演じるは中山夢歩。幼い頃はCMやドラマに出演、その後サッカー選手となりアルゼンチンのディボルティボ・イタリアーノに所属。97年には全22試合フル出場。帰国後J2モンディオ山形とも選手契約をした。2000年から、本格的に芸能活動を始め、ドラマやCM多数出演している。そんななか、映画出演は初めてだったという。

 中山夢歩 interview

イ男なのに一番悪い役
良さそうに見える奴が実は世の中一番悪い

●原口監督と同じ町内なんです。僕の母がやっているバーによく来てくれていて、母から僕のことを聞いていたそうです。しばらくしたら原口監督から「映画やってみない? 悪役だけど」と直々に言ってもらって。役柄は始めから聞かされていて、監督曰く「イイ男なのに一番悪い。良さそうに見える奴が実は世の中一番悪いというところをみせたい」と。いや、もう、僕は「なんでもやります!」っていう気持ちでいまして。
私見だが、邪悪さの微塵も感じられない中山さん。笑顔を投げかけられると、そのオーラに自分が悪鬼に思えてくる程の輝きである。一方、非人間性の山路。演じた中山さんはどうとらえていたのだろう。
●妖怪と人間が交わるなか、山路って人間なんだけど自分以外何も信じていなくて、ずっとずっとそのまま来てしまった。だから新しい南蛮渡来のものを受け入れたりしたんじゃないでしょうか。でも自分が固めていったものが崩れてしまえば、すごく弱い人間になってしまう。スキがないように見えてスキだらけの人じゃないかと。僕は考えをストレートに出してしまう人間なんですけど、山路は足の爪先からずっーと考えて喉元を通 って口するのやめて、脳を四回転ぐらいしてやっと口にするかしないかっていうぐらい、石橋を叩いて叩いてでもやっぱり渡らないような、そんな気持ちの巡らせ方をする人間じゃないかって思ってやっていました。全く真逆の男ですね。
全く性質の違う人間を演じる難しさはなかったのだろうか
●正直、難しかったです。ファーストシーンは緊張しましたねぇ。しかも僕は妖怪を取り仕切る鬼蔵と取引をしていくあのシーン。清水健太郎さんの迫力を目の当たりにしまして、色々と指導してもらったりもできたんです。非常に貴重な体験をさせてもらいました。演じるにあたっては、身体が自然にその人物の動きになるように、山路がどう動きたいのか
を考えて脚本を読む込むべし、でした。何か少しでも動く時は何か意味のある、そのくらいあまり動きのない人間のように振る舞う必要があったので、そんな緊迫が僕を支配していた感じがあります。だから例のシーン(ラストに山路はこれでもかという凄いことになる)はその全ての緊迫を大放出です!(笑顔)
 こんなまぶしい笑顔をくったくなくできてしまう中山さんの熱量 を思う。フィールドを駆け回りボールを追いかける男の一点集中の熱。それが静かな動きの中に封じ込められた時、山路は完成したのだろうか。あらゆる者を抹殺してしまう男の憎しみと狂気。その姿は両性具有を思わせる妖艶さまで醸し出す。それがこの笑顔の下にあったのかと思うと、末恐ろしいとさえ思う。そんな中山夢歩のスクリーンの姿を待ったなしにご覧下さい。


 原口智生 interview

無類の妖怪、時代劇好き。
大映妖怪シリーズや時代劇映画を観て育ったという 原口智生監督は無類の妖怪、時代劇好きだ。
●造型や特殊メイクといった生業をしていればそういった映画で仕事ができるのではないかと思ってたんだけど、結構ないんですよね。ないならば自分で創っちゃおうと『さくや妖怪伝』を作ったんですけど。もちろん今回も妖怪が出てくる映画を撮りたかった。
そんな今回の主役のキャラクター性は一一。
ただ妖怪がでてくるだけじゃ映画じゃない。
●人狼の牙吉というのは、鬱気味な奴なのね。人間という種族を信じてしまって、自分の一族を全滅させてしまったからなんだけど。だから超人間嫌い……になるはずなんだけど、ちょっと違う。心のどこかに人を信じたことを後悔したくない部分がありつつ、でもやっぱり皆殺しにあった傷はおってしまっている。自殺もできなくて、どうすることもできずにさすらっているのが牙吉なんです。スーパーヒーローではない。頑張るんだけど、ことごとくうまくいかなかったりするし。なんでそうしたかって? どんなに正義の味方でも助けきれないことって現実に多いと思うんだよね。
そんな哀しい過去を持った牙吉が出会う鬼蔵一家。彼らも何かを背負ってきた人たちの重みを漂わせる。
●人間に追われて住むところを失った人たちの集まりだから、さんざん痛い目にあってきた。でもめげずに甘いぐらいに何かを信じて生きていこうとしてる。僕は思うに、あまりに酷いことを経験し過ぎると、もしかしたら心を閉ざしてしまったり歪んでしまう場合もあるかもしれないけど、本当にヘビィなめにあっている人は心の奥底で一番正しいことがわかる、というか持っているんじゃないかな。表現をうまくできないことがあっても。牙吉に出てくる人たちには、そんなイメージがあるんですよ。映画に出てくる「いい人たち」はそういう人だと僕は思う。
そういった人格を妖怪たちに感じてしまうのは、昼間穏やかに過ごしているのを観客は知っているからかもしれない。
●今回は妖怪たちの夜の生活の部分だけでなく、昼間の生活もいれたんだけど。色町賭博場の午後みたいな。妖怪の昼の姿なんておかしいと言われるかもしれないけど、穏やかに昼を過ごしていてもいいじゃない。そこに生きてるならば、生活があるでしょ。  そんな生きた妖怪たちが、これでもかとまたも非情な命運にさらされていく中、気持ちのいい仕掛けが大爆発。CGなどの合成カットは使用せずに、本物の爆発でとられた生のド迫力。ドッカンドッカン上げられる爆発の花道は爽快な娯楽。松竹撮影所で撮られたのだが、あまりに凄い爆発となったゆえ苦労もあったそうだ。
●粉を入れて勢いよく爆発するように見せたんだけど、昼間に撮ったもんだから撮影所のお隣近所の干してた布団が粉だらけになっちゃいまして(笑)。  
そんな威力もスクリーンより劇場でお確か確かめを!  


★information
渋谷シネパレスでの上映は、好評のうちに終了し、次は大阪・名古屋です!




牙吉
オリジナルサウンドトラック
全16曲(35:59)・全オリジナル曲収録!!

音楽:川井憲次
発売元 :牙吉製作委員会
販売元 :GPミュージアム
GPMC-0715


劇場窓口(公開中)、HMV渋谷店、一部レコード店にて発売中
web通販
http://www.kibakichi.jp/mail_order2.html