黒沢健一と萩原健太による本気なアコースティック・カヴァー・ユニット
 ミュージシャン・黒沢健一がヴォーカルをとり、音楽評論家・萩原健太がギターを弾く。そして、そこで演奏される楽曲はすべてブライアン・ウィルソンやポール・マッカートニーなどを中心とした、2人がずっと敬愛してやまないアーティスト達の珠玉 の名曲、もしくは幻の名曲のカヴァーのみ。しかも本気。それがこの健'z〈ケンズ〉という異色(異職)な2人によるアコースティック・カヴァー・ユニットである。  我がロフトプラスワンで毎月開催されている萩原健太さん司会のCRT〈カントリー・ロッキン・トラスト〉&レココレ〈レコード・コレクターズ〉のトークイベントに4年近く前から健'zはちょこちょこと出没し始め、気付いたらウチでワンマンライヴ&トークをやっていて、気付いたら何とCDデビューまでしていたのである。  今回はそんな〈ロフトプラスワン〉と〈CRT&レココレ〉からすくすくと育っていき、去年末に目出度く、しかもいきなり傑作のアルバム『健'z』をリリースしたばかりの健'zのお2人にロフトプラスワンでのイベント出演の前に少しお話を伺った。(interview:シンスケ横山/ロフトプラスワン店長)

初めて会った時、喫茶店で延々何時間も2人でビーチ・ボーイズの話をした(笑)
──初歩的な質問なんですが、2人が初めて出会ったキッカケは?
黒沢健一 (以下・健一)「10年以上前に僕がL⇔Rっていうバンドでデビューした頃に、あるインストア・イベントを健太さんが観に来てくれて、そのイベントの後に2人で喫茶店で延々何時間もビーチ・ボーイズの話をしまして(笑)、それが最初の出会いですね」
萩原健太 (以下・健太)「うん、最初デビュー前のサンプル盤みたいなのを貰って聴いてみたんだけど、それが普通 のミュージシャンならやらないような色んな音楽の要素がいっぱい入ったもので、何かとんでもないことやってる奴らが出てきたなぁと興味を持って観に行って、それから健'zやるまではまぁずっと付かず離れずみたいな感じで何となく交流してて」
──前に健太さんの奥さんで音楽評論家の能地祐子さんに聞いたんですが、「健一と健太は何年振りとかで久々に会ってもいきなり、「『スマイル』のあの曲がさぁ…」みたいな会話から入るから、端から見てると気持ち悪い」って言ってましたが(笑)。
健太「(笑)オレ達は久々に会ってもお互いの体調がどうとか、仕事の調子がどうだとかって話題より、やっぱし『スマイル』の話のほうが上にあるんだよ。で、そういう話をまず一通 りすべて長い間話した後に初めて、“あっ、そういや最近忙しいの?”みたいな普通 の会話がやっとできるんだよね(笑)」
健一「そう言えば僕、今まで自分の取材とかでも、その相手が健太さんだと自分のその時出るニュー・アルバムの話とか自分の音楽性の話とかを余りしたことないですよね(笑)。前にも自分のニュー・アルバムのプロモーションの取材とか番組への出演で相手が健太さんの時に、最初っから互いに“聴きました?”“聴いた! 聴いた!”“どうでした?”“凄い良かったよ!”みたいな会話で僕らがいきなり盛り上がるので、それを周りで見てるマネージャーとかレコード会社の人とかは当然僕のニュー・アルバムの話題で僕ら2人が盛り上がってるんだと思って喜んで見てるんですけど、それは僕のニュー・アルバムの話じゃなくて、その頃に新たに出たビーチ・ボーイズのブートの話で盛り上がってるだけなんですよね(笑)」
健太「要するにオレも健一も、2人が出会うまでブライアン(・ウィルソン)とかポール(・マッカートニー)の話を深くする相手がいなかったから、そういう友にやっと巡り合えたっていう嬉しい気持ちのほうがいっつも大きくて。だから極端なことを言うと、オレは健一が何やっててもどうでもいいのよ(笑)。それよりオレ達2人にとっては、ブライアンが今何やってるかとか、あの曲のあれはどういう意味なんだろう? とかっていうことを会った時に互いに確認し合い深め合うことのほうがずっと大事なんだよ」

アコギ1本で『ペット・サウンズ』を再現しようとする健太さんにブッ飛んだ
──そんな2人が健'zというユニットを組み、演奏活動をするようにまでなったキッカケというのは?
健太「それはもうここ(ロフトプラスワン)ですよ。ここで毎月やってるCRTのイベントで健一とかをゲストで呼んだ時に、オレがステージにアコギを持ち込んで、曲を弾きながらその曲の成り立ちとかを説明する時に、健一を隣でメロディ担当にしてワンフレーズだけとか唄ってもらってたんだよね。で、そのうち丸1曲フルで演奏するようになって、気付いたらユニットとしてミニ・ライヴ的に何曲かやるようになってったんだよね。だから健'zはここロフトプラスワンから発生したユニットなんだよ」
──ホント光栄です(笑)。
健一「それと僕的には、何年か前に『音盤夜話』っていう健太さんが出てたTV番組にゲストで呼ばれたことがあって、その楽屋でギターを弾く健太さんというのを初めて見たんですよ。そこで健太さんが“オレは『ペット・サウンズ』が全曲アコギ1本で弾けるようになりたいと思っててさぁ…”って言いながら、僕の目の前でアコギで『ペット・サウンズ』の中の〈ヒア・トゥデイ〉って曲を弾き出したんですが、それがもうとんでもなく凄くて、楽屋の他の人達は“へぇ〜ギター上手いっすねぇ”ぐらいな感想しか言わないんだけど(笑)、ビーチ・ボーイズ・フリークの僕の中では、健太さんはアコギ1本でこんなことできちゃうんだ!? ってことにもう目からウロコでメッチャクチャ興奮したんですよ。で、そんなふうに『ペット・サウンズ』みたいなアコギ1本で再現なんか絶対不可能と誰もが思ってるようなものを全曲アコギ1本で再現してみせようと日夜研究してる健太さんと、それまで幻想の中で“そんなことがいつかできて唄えたらイイなぁ…”と思ってた自分のヴァイブレーションが見事に一致した気がして、“これはもうオレが唄うしかないだろう!!”とそれからずっと勝手に思ってたんです。でも、その“『ペット・サウンズ』をアコギ1本で再現して唄う”っていう感動をフリークの僕達2人から一体誰に対して訴えかけていけばいいんだろう? というとこでつまずきまして(笑)、でもいつか唄ってみたいという気持ちを健太さんになかなか言い出せないでいて、どこかそんな表現をできる場所があればイイのに、と思ってたとこにこのロフトプラスワンでのCRTという場所を与えてもらって。そこでビーチ・ボーイズの話とかをしながら、その間にちょこちょこっと健太さんのアコギで僕も唄えることができて、やっとやりたいことを一番理想的な形で表現できる場所を見つけたな、という思いもありました」
健太「確かにそういうCRTとかで、オレが弾くビーチ・ボーイズやポールの曲なんかを全部ちゃんと知ってるという人も今までなかなかいなかったし、しかもビーチ・ボーイズとかだと音域的にもテクニック的にも相当巧くないと唄えないんだけど、にも関わらず健一は何でもその場ですぐ唄えるし知ってたから、今までのフリーク同士のお喋りだけじゃなく、音楽としても実はお互いがやりたかったことができる相手だったということをそこで発見した、って感じだったんだよね」

健'zは2人組だけど弾き語りに聴こえるようにしたい
──それで、このロフトプラスワンのCRTでの演奏以外にも健'zとしては幾つか他でも活動したりすることも増えて、だんだんユニットとしての知名度も上がっていく中で今回遂にCD音源としてリリースしたという感じなんですが、健'zの音源をリリースしようと思った理由というのは?
健一「まずこの健'zというユニット自体が確実に自分の中でも音楽的に凄くやりがいのある挑戦だな、と真面 目に思ったんです。で、音源だけは個人コレクションでもいいんでとにかく録っておきたくて、それであわよくば誰かに聴いてもらえたりもするかも? くらいに思ってたんですが、スタッフから“どうせ録るんなら真面目にやろう”と言われまして、急遽機材とかもちゃんと揃えて事務所の会議室で3日間で50テイクくらい録ったんです(笑)」
健太「そう、それで録った音源を何人かの人に聴かせたら、その聴かせた人みんながみんな“凄くイイ!”って言ってくれて。オレ昔、大瀧詠一さんから学んだことの一つに“3人がイイって言ったら結構イイ”っていうのがあって(笑)、じゃあ、多分健'zは好きな曲をアコギでただカヴァーして唄ってるだけってものよりは一歩進んだとこにイケてるんじゃないかな? と思って、じゃあリリースしてみようかということになって」
──なるほど。それでこのアルバム『健'z』を聴かせて頂いて僕が驚いたのは、アルバムのすべての曲がギター1本と唄だけで、それ以外の音を全くと言っていいほど重ねてないんですよね。今の音楽シーンで、アルバム全曲をそういうスタイルでCDリリースするアーティストなんてほとんどいないじゃないですか。それが逆に余りにも斬新な感じがして、凄く新鮮に僕には聴こえたんですが。
健太「オレ、唄ってる人が弾いてるギターってのが好きなんだよね。だから健'zは2人組なんだけど、楽曲をパッと聴いた時に弾き語りに聴こえるようにしたいと思ってるのと、ライヴでもなるべく同じアンサンブルができるようにと常に思ってるから、それがコンセプトと言えばコンセプトかな」
健一「それと、例えば『ペット・サウンズ』の曲とかって、僕も最初聴いた時は余りにも情報量 が多過ぎて難しいと思ったんですが、それをシンプルなアコースティックと唄だけの構成で聴かせるとメロディの成り立ちってのが明確に見えてくるんで、“ああ、この曲は実はこういうメロディなんだ”と、聴いた人に楽曲の理解をより深めてもらいたいっていうのももう一つのコンセプトではありますね」
健太「あと、健一って割とサウンド・クリエイターとかソングライターとかそういう面 が強調されることが多いんだけど、 健一ってやっぱヴォーカリストとして凄いってオレは昔からずっと思ってて、その部分を出すんだったら極力伴奏ってのは少ない状態で、唄一発で聴かせられるみたいな環境でやると健一の底力が見えるんじゃないかな、と思ってこの形にこだわってる部分もあるかもしれない」

解散とかがあるとしたら、2人の間でブライアンに対しての見解が大幅に違うとかそういう理由(笑)
──このアルバムのカヴァー曲の選曲なんですが、ブライアンとポールのカヴァー曲のみで構成されてますけど、これは何か理由があったんですか?
健一「いえ、これは健'zが形になってきた頃にたまたまポールやブライアンの来日があったりして、それで健太さんがそういう時期にここのCRTやTVやラジオの番組とかで語り部&唄い手として僕をゲストに呼んで下さる機会が多くて(笑)。そこでポールやブライアンの曲をやはり何曲か演奏することになるので、結果 的にポールとブライアンの曲が健'zのレパートリーとして一番多かったし、何度か練習してた分やはり一番まとまってたので必然的にこうなっただけで、ポールとブライアンのカヴァーしかやらないとかそういうのでは全然ないです」
健太「この前なんか、CRTで遂にL⇔Rのカヴァーやっちゃったし。健'z初の邦楽のカヴァーですよ(笑)。それ以外に、まあ驕った言い方だけど、ブライアンやポールに恩返しができればって気持ちもどこかにあって。例えば健'z聴いて“初めて聴いたけどイイ曲だったんですが、誰の何て曲なんですか?”って訊かれたら“これはブライアンのこのソロ・アルバムに入ってるから買って聴いてみてよ”なんて教えてあげられるし、それでその人がブライアンのそのアルバムを買ったら、ブライアンにほんのちょっとでも何か恩返しができてる感じがするじゃない? それも目的の一つだよね」
──健'zのライヴを観てると、MCがライヴの半分以上の時間を費やしたりして(笑)たっぷりお客さん達を笑わせたり楽しませてくれるし、グッズも色々と作ってタダで全員に配ったりするし(笑)、エンターテイメントとしてお客さんを楽しませてくれるという部分でも非常に優れてると思うんですが、いざ演奏が始ると2人とも急に表情が変わってガチンコで、会場にも突然緊張感がみなぎったりしますよね。
健一「それは一つには、僕もいちミュージシャンとして、健'zでライヴをやるとなった時に演奏するカヴァー曲を2人で色々選ぶんですけど、僕自身はその2人で選んだカヴァー曲は当然大好きなんだけど、もしかしたら今後一生人前で唄うチャンスなんかないだろうなと思われるような誰も知らない楽曲ばっかりなので(笑)、唄う前に“この曲を人前で唄うのはきっとこれが最初で最後かもしれない”と思うと、やはり物凄い真剣に集中して唄えるんですよね」
──そんな健'zというユニットは今後一体どういう方向に進んでいくんでしょうか?
健一「ふと振り返るともう3年ちょいこのスタイルでやってて、やっぱり楽しいことは無理せず楽しくやれてるなぁと思うんで、このまま進んでいくんじゃないかなと」
健太「うん、私生活で何か凄いケンカでもしない限り、別 にやめる理由もないしね」
健一「例えば凄いケンカするとしたら、2人の間でブライアンに対しての見解が大幅に違うとか(笑)、そういうことですよ」
健太「この曲のベースラインの解釈をお前は間違えてる! とかね(笑)」
──では最後に、健'zで現在決まってる今年の予定があれば教えて下さい。
健太「2月にロンドン行ってブライアン・ウイルソンの『スマイル・ツアー』を2人で観るというのが今年決まってる健'zの唯一のスケジュールです(笑)」
──(笑)
健一「そう、健'zとしてかなり最重要な仕事です(笑)」

黒沢健一:健'z ヴォーカル担当。健'zおよび他の音楽活動はOFFICIAL WEB SITEにて→ http://www.rpm.co.jp
萩原健太:健'zギター担当。


★RELEASE

『健'z』
r.p.m. inc.

DDCZ-1041 2,200yen (tax in)
IN STORES NOW!!

★LIVE INFO.
CRT&レココレ presents Vol.53
『ビーチ・ボーイズまつり番外編! 英国スマイル・ツアー〜俺たちの壮行会』
 世界一有名な未発表アルバム『スマイル』の音源を爆音で聴きながら『スマイル・ツアー』をみんなでレッツ予習&補習!

【出演】萩原健太(音楽評論家)、寺田正典(『レコード・コレクターズ』編集長)
【Guest】瀬竹 誠(好事家)、他!!
【日時】2月13日(金)18:30開場/19:30開演
【場所】新宿ロフトプラスワン
【チャージ】\1,000(飲食別)
【official web site】http://www.st.rim.or.jp/~kenta/