岡野弘幹 with 天空オーケストラといえば、風のまつり、レインボー2000、そしてフジロックからグラストンベリーフェスティバルまで、大小様々なフェスティバルや祭りのあちこちに登場するバンドとして、フェス好きには知れ渡った存在である。世界中から高い評価を受けているこのバンドは、しかし、日本のロックシーンにおいては意外とまだ認知度が低いことも残念ながら事実である。2月8日に新宿ロフトで、天空オーケストラを中心とした「天空まつり」が開催されるのに際し、Rooftop誌上で、岡野弘幹にこれまでの歩みを聞かせていただいた。日本の音楽シーンには収まりきらない天空オーケストラの活動内容は、現在に生きる私たちに多くの希望を与えてくれるものではないだろうか。(TEXT:加藤梅造)

日本人のアイデンティティって何?
 日本の、アンビエント、トライバルシーンにおける先駆的存在である岡野弘幹は、大学在学中より音楽制作プロダクションに在籍し、TVCM、番組、アルバムプロデュースを行っていた。プログレ、ブルース、ジャズなどあらゆる音楽を分け隔てなく聴いていた岡野に最初の転機が訪れたのは、某メジャーバンドのプロデュースの仕事でヨーロッパに行った時だった。
「その頃はちょうどビート・ロックが流行ってる時代で、そういったプロデュースの仕事をしていて、あるバンドをヨーロッパでデビューさせようということで、レコード会社からかなりの予算をもらって、ヨーロッパに行ったんです。その時、イギリスのあるプロデューサーにバンドの音源を聴かせたら、「よくここまでそっくりに真似したなあ。あんたら日本人のアイデンティティはないのか」って言われて、結構ショックを受けたんです。それで帰ってきていろいろ考えたんだけど、こっちは生まれた時からコカコーラ飲んで育ってるんだから、日本人のアイデンティティって言われても、そんなのどこにあるんだろうって悩んで、すっかりやる気をなくしてしまったんです」
 その後、音楽制作の傍ら、自分なりの日本人のアイデンティティを模索し始めた岡野は、奈良の吉野や天川など、いわゆるスピリッチュアルな場所を徘徊するようになるのだが、ある時、仲間のミュージシャン、山本公成に天河神社の宮司さんから、新しい神楽をやってみないかと声がかかり集まったのが「風の楽団」だった。
「神楽と言えば、普通、雅楽が思い浮かぶんですが、雅楽のルーツを調べていくと、実は、雅楽で使っている楽器のほとんどは日本のものではなくアジアからきたもので、中には中東辺りからきているものもあるんです。「じゃあ、日本のオリジナルって何なんだろう?」って考えて、それなら雅楽のように、それぞれの国のルーツの楽器を集めて演奏してみたらどうなんだろうと思って始めたのが風の楽団で、僕が民族楽器にはまっていくきっかけでした。」
 ちょうどその頃ドイツのIC DIGIT(プログレ界の重鎮・タンジェリン・ドリームのクラウス・シュルツが作ったレーベル)とアルバム契約をした岡野は、多くのCDをワールドワイドリリースし、ヨーロッパツアーも行うようになった。そこで岡野は、音楽を通 じてヨーロッパ文化の深層を知ることになる。
「僕らがやっているのがナチュラルな種類の音楽だったこともあって、ヨーロッパでツアーをやってるうちに、行った先々で、そういう人達と親交が深まった。例えばグリーンピースの活動をしている人や平和運動家、環境アクティヴィスト達と繋がって、その人達のノウハウを学ぶことができたんです。といっても僕の場合、エコロジーと言えるほどたいしたことはやってなくて、音楽をやっている中で、なんでヨーロッパのミュージシャンの多くがオーガニック・フードって言っているのか、その理由がだんだんわかるようになったんです」

田んぼで生まれた天空オーケストラ
 風の楽団や自身のソロワーク、またはセッションで、日本国内、そして海外で数多くのフェスティバルに参加していた岡野が、1995年に共鳴するミュージシャン達と自然発生的に始めたのが、天空オーケストラだ。
「三重県の伊勢山に崑崙舍(こんろんしゃ)という摩訶不思議なスペースがあるんです。そこで田植えの祭りをやることになって、田植えをしながら、そこにバンドが出て応援するという、そういうイベントをやってたんですよ。ある時、その祭りに行ったら、チラシに“岡野弘幹 with 天空オーケストラ”って書いてあったから、それ見て、「これって何なん?」って訊いたら、そこのオーナーが「お前らがいつもやってるセッションバンドのことだよ」って言われて、それで天空オーケストラという名前になった(笑)」
 人と自然の大切な繋がりをメッセージに、世界中の民族楽器を駆使し紡ぎだされる天空オーケストラのサウンドは、既存のワールドミュージックやエスニックの枠に収まらないディ−プな即興演奏から、クラバーをうならせるリズムマジック、そしてダンスワークを交えた圧倒的なライブパフォーマンス等、独自のトライバルロックというジャンルを確立した。また、こうした活動は、ちょうど90年代以降に盛り上がってきたレイヴ・カルチャーのシーンと呼応するものでもあり、日本のテクノシーンにおいて最重要イベントとなった98年のレインボー2000でも、岡野と天空オーケストラは重要な役割を果 たしたのだ。
「レインボー2000をプロデュースした越智(純)さんとは田植え祭りで知り合いだったんだけど、彼から頼まれてレインボー2000のチルアウトエリアのプロデュースをやったんです。その年、僕は風の楽団やソロ活動で、テクノと民族楽器をミックスした編成でヨーロッパツアーをしてたんだけど、ちょうどその頃、グラストンベリーフェスティバルで試された初めてのソーラー発電のコンサートに、僕らが実験台として出ることになった。その時のノウハウを僕らがもって帰ってきて、レインボー2000のプロデューサー達に「どうせやるんだったら、原子力発電のエネルギーじゃなくて、ソーラーでテクノをやるほうがカッコええんちゃう」って話をして、それがレインボーパレードや春風につながっていった。そういう流れがいろいろありましたね。」

画一化ではなく多様性を大事にしたい
 レインボー2000に始まり、その後のフジロック・フェスティバルの成功と、日本でも確実にフェスティバル(=祭り)という概念が定着した感があるが、こうした一連の流れの中にいた岡野はフェスティバルをどう捉えているのだろう。
「ヨーロッパやアメリカでは既にレインボー・ギャザリングという、お金を介在させないで、やりたい人がその場所に集まってギャザリングをするという方法が既にあって、そういう考え方ってすごく自由だなあって思っていた。日本のフェスティバルの場合、どうしても興行っていう意識が強いんだけど、メインアクトが誰それだから行くっていうんじゃなくて、フェスティバルに行ってそこで自分の知らない何かに出会える、フェスティバルそのものを楽しむっていう感覚が一番大切だと思う。また、そういう所から生まれてくるバンドってすごく活き活きしてるし、パワーが強い。そういうグループが日本からもっと出てくることがすごい必要だよね」 「あと、そういったミュージシャンって、歌詞にしてもMCにしても言いたいことをはっきり言いますよね。天空がヨーロッパツアーを始めた頃にツアーをコーディネイトしてくれたのが、元セックス・ピストルズのプロデューサーだったデイヴ・グッドマンだったんですけど、彼がよく僕に言ったのが、ちゃんと伝えることを伝えなければダメだってことなんです。今の社会の中でどういう問題があって、それを自分がどう感じているのかをはっきり言う。なかなか日本はそういうことがやりにくい社会であるんだけど、天空はそういった腰の据わったグループになっていきたいなと思ってやってます」
 世界中でフェスティバルを経験してきた天空の活躍により、日本でも最近はミュージシャンとアクティヴィストの交流が盛んになりつつある。
「やっぱり天空のメンバーは、そういう感覚がある人というか、熱い人が多いですね。もちろん天空オーケストラの中には、それぞれの人が考える平和の形があって、個人の意識は多様だと思うんですよ。違いもあるし、それはあって当然で、今の社会の問題は、多様性を否定してしまうことで、それこそが平和でなくなってしまう一番の原因だと思う。僕らが音楽で一番伝えたいことは、あれだけいろんな民族楽器を世界中から集めても、一つのロックができるんだっていうことなんです。多様性はそのままでかまへんのじゃないか、多様でええやんっていうのが、天空のメッセージだと思って演奏してます。面 白かったのが、以前イギリスのツアーで演奏が終わった後、トルコ人とアイルランド人とカナダのインディアンとイギリス人が皆それぞれ『あんたらの音楽は俺らの民族のルーツに近い』って異口同音に褒めてくれたんです。それを聞いたとき、ああ、俺たちのやりたいことっていうのはこういうことなんだなって思いました」

フェスティバル・スピリット
「地方のフェスティバルや祭りを見るとすごいレベルが上がってきてるし、本質的なスピリットが芽生えてきてると思います。興行として巨大なイベントも増えているけど、地方の数百人単位 の小さなフェスティバルでは、地元の人達が自分たちの想いを大切にしながら場を作っていますね。今は小さいかもしれないけど、それが十年続いたらどうなるんだろうっていうのが楽しみです。今でこそ世界最大規模と言われているグラストンベリーフェスティバルだって、もともとあそこの農場主の誕生日会に身内のミュージシャンが集まったもので、35年続けていたらあれだけの規模になっていた。だから意識はすごく高いし、今でも収益金の何割かを環境NGOに寄付したりしてるじゃないですか。ちゃんとフェスティバル・スピリットがあるんですよね」
 そして、今回ロフトで行われる天空まつりも、天空オーケストラを好きな有志が集まり、一から手作りで作っている、フェスティバル・スピリットに溢れたイベントといえるだろう。
「もともと天空のライブに来てくれてた人達が、ライブを観て感じたことや、自分たちもこんな祭りを作りたいって始めたのが、天空まつりですから。まあ、いろいろ難しい所もあると思うんですが、こういった手作りの祭りがうまく続けていければ、これからもっと面 白くなっていくと思いますね。もちろん天空オーケストラもどんどん変化していて、今度のロフトではよりロック色が強くなると思います。みんなが元気になって、自分の内側のパワーをガーンと出せる場になったらええなあと。溜まってるもんを全部出しきってほしいですね」(文中敬称略)

参考:天空オーケストラOfficial Site(http://www.tenkoo.com/


Release

岡野弘幹 with 天空オーケストラ
RISE
AMB-005 \2500+TAX / OUT NOW

新曲とメンバーが選曲した天空ベストソングをニューレコーディングした現在の天空オーケストラの決定版!トライバルロックの醍醐味を存分に味わえる。

岡野弘幹
ヒアリング・ゼア
AMB-004 \2500+TAX / OUT NOW

アンビエントミュージックの先駆者・岡野弘幹の7thソロアルバム。緑の大地や満天の天の川、大海原を感じさせるナチュラル・アンビエントサウンド。

岡野弘幹
BAMBOO CEDAR OAK
SWM TFCD01 \2500+TAX / OUT NOW

イギリスの代表的アンビエントアーティスト、ナイジェル・ショーとギエモ・マルティネスをフューチャーしたアースミュージック。


◆LIVE
2004.2.8(日) 『天空まつりVOL.7』
LIVE:岡野弘幹 with 天空オーケストラ、OZONE BABY、児玉なお&GORO(from MAJESTIC CIRCUS)、サヨコ オト ナラ(ex・ZELDA)(ex・じゃがたら)
VJ:万華宙

時間:*LIVE・START18:00、ラウンジエリア・START16:00
場所:新宿ロフト 
料金:前売り¥3500/当日¥4000
ご予約・お問い合わせ RainbowSPIRIT
e-mail rainbowspirit@tenkoo.com
<ラウンジエリア>
■SHOP ぐらするーつ、アフリカンフード・ビングル、麻こころ茶屋、ぎゃらり和楽、NATIVE AMERICAN STYLE LEATHER CRAFT、ALOHA Cafe他
■サブステージ 「大好き・楽しい・幸せをありがとう」をテーマにさまざまなアーティストがそれぞれのPEACEを表現します。
☆天空まつりはWorld Peace and Prayer Dayを応援しています。収益の一部はWorld Peace and Prayer Dayへ寄付させていただきます。

天空まつりとオーガナイズするRainbow SPIRIT

●Rainbow SPIRITとは。。。
 天空祭りのオーガナイズ他、ヒーリングマーケット、癒し屋和楽の開催、アロハカフェ出店などをてがける総勢9人のチームです。ほとんどのメンバーはヒーリングセンターのマッサージ、ヨーガクラス、そこでの満月のパーティなどで知り合いました。自分自身を見つめる密な時を過ごしながら、一緒にライブや地方の祭へいったり、神社、温泉、ヒマラヤなどの旅へ行ったり。初期メンバー4人が一緒に住み始め〜その後、入れ代わり立ち代わり。。。今も続いています。〜生活を共にし家族のような親戚 のような付き合いから生まれたものです。

●天空。。。祭
 Rainbow SPIRITのメンバーは元々、天空オーケストラのファンで全国のお祭やライブに足を運んでいました。どの会場もレインボーカラーの旗が風になびいた、調和的な気持ちよい空間。。。世界がこんなに平和だったらなぁ。。。そんな印象でした。現実社会の中に、なかなか、未来に受け継ぎたい希望あるモノを感じられず、そんな時に見つけた未来への希望の穴だった気がします。まるで万華鏡を覗いたような。。。スピリットある音楽、プリミティブな音。イノチが生かされていく循環型社会の情報。手作りの愛あるモノ。人々の笑顔、、、都会で失われた人との繋がり、安心感のあるコミュニケーション。理想的なコミュニティの姿がそこにありました。まだまだ、私達、1人1人はぎこちないにせよ、そんな希望を、天空オーケストラの音楽、そして、岡野さん達がオーガナイズするお祭りに感じました。私達もそんな「祭り」を東京でつくりたい。漠然とした思いから、少しづつ、身近な人を集めて、歌や踊りのガクゲイカイを企画したりワークショップを開催したりしていました。そんな時に天河神社で、音魂舞魂ワークショップというステキな催しがあり、そこで岡野さんと宏子さんとお会いし、今までの思い、そしていつか天空オーケストラを呼びたいとお話したところ、岡野さんから「東京で一緒にお祭りをやろう」と声をかけていただいたのが、はじまりです。

●そして天空まつりへ
 で、岡野弘幹with天空オーケストラをお呼びして祭り作りがはじまる訳ですが、、、。実際には、はじめての事だらけ。岡野さんをはじめ、まわりの先輩方に色々教わるわけですが、内部の役割も出来ていない状態。家族的な付き合いから理想のコミュニティ作りの体験型、ワークショップのはじまり、そんな感じでした。成長、学びの場。。。色々な問題が発生しては、皆で話し合い、その度ごとに解放がおきては扉が開かれる。夢を持って始めたのに色々な現実を見せられ、もう、これで終りにしたい、、何度も思いましたが、当日になるとすべて解放、解決されてしまう。不思議でした。そして、くり返しくり返ししてるうちに生かしあい、分ち合うそんなエネルギーの循環を学びました。。。最近はそんな大変なワークショップも終わり(もちろんまだまだ乗り越える事はありますが)それぞれが充実し、皆の響き合いが楽しく1人では叶えるのに難しい夢も1人1人の力を合わせれば、形になっていく、、、。そんなわくわく感でいっぱいになってきました。これからも愛の波動が広がっていくように、未来へいいイメージを持ってそれを、現実にしていきたいと思っています。  地球という同じ船にのり、時の川を共にゆく仲間達と、皆で「やったね!!!」と大笑いできたら嬉しいです。

●Rainbow SPIRITの夢
<祭>。。。1人1人のPeaceのPieceをもちよって理想のコミュニティを皆で手作り夢を現実にしていく。音楽、踊り、美味しい食べ物、愛あるモノ、情報交換の場etc <アロハカフェ>。。。自然のパワーあるものをいただく〜イノチへの感謝。喜び。生き生きした毎日〜 <ヒーリングマーケット、癒し屋和楽>。。。未来への新しい愛ある循環型社会、心、体、精神の健康を自然とサポートし合う。