常に問題提起をしてそれを克服していく勇気こそパンク

 BAD RELIGIONやPENNY WISEのようなメロディック・パンクの中にストイックな魂を感じさせる楽曲を常に発表し、インディーズとメジャーの垣根が無くなった現在のシーンにおいて国内のバンドでは希少な本物のD.I.Y.を実践しているバンド、ENGRAVEがミニ・アルバム『VOTE PEOPLE』をリリース。前アルバム同様、プロデューサーにDARIAN RUNDALL(PENNY WISEなどを手掛けた)を迎え国内にてレコーディングを行なった新曲に加え、ENGRAVEの地元・会津若松市にて録音を行なったデモ、ライヴ・テイクを含んだ全7曲を収録。とても日本のバンドとは思えないクオリティの高さを導き出したENGRAVEのドラム兼ヴォーカル、Koichiro氏にメールにてインタビューを決行!(interview:梶川功一)


“警報”になるべき音楽が機能不全に陥りかけている
──まずENGRAVEというバンドをまだ知らない人に向けて、初歩的ではありますがバンド名の由来から教えて下さい。
「もともと“ENGRAVE”という単語の語源が『墓石などに名前を彫り刻む』というところから『心や体に刻み込む』という意味が出来たそうです。自分達の活動の中で、自分自身に何かを刻んでいきたいという気持ちがあったのが、このバンド名の由来の一つです」
──バンド結成のいきさつを簡単に教えて下さい。
「高校の時、小学校からの同級生と2人でPENNY WISEやBAD RELIGIONなどのコピーを演奏していたのがENGRAVEの原型ですね。そしてオリジナルを作るようになっていった。今のメンバーになった直後に、最初のCDをリリースしたんです」
──日本ではドラム・ヴォーカルのバンドは少ないと思うのですが、意識して現在の編成になったのですか?
「このバンドの原型の頃からギターとドラムの自分だけだったのですが、その頃には自分がドラムを叩きながら歌を歌っていました。現在の正式なメンバーに至るまで、そういう自然な流れみたいなものがあったのです」
──毎回メッセージ、テーマがあると思うのですが、今回のミニ・アルバムはどういったコンセプトで創作されましたか?
「日常の中で感じるモヤモヤとした気持ちがあって、これは決して単なる個人的な問題や厄介事ではなく、自分達の住むこの社会の歪みが原因ではないかというところが大きいと思います。そういう中で、自分にできることとは何かという問いかけが前作『YOUR SHARE OF IT』からの継続的なコンセプトですね。今作はその中でより深い追求が実現できる、自分にとっての大きな一歩だったと感じています」
──タイトル『VOTE PEOPLE』からも連想されるのですが、これだけはっきりとポリティカルなところに踏み込みメッセージを音楽で伝えていることにバンドのしっかりとした意志を感じるのですが、聴いた人にどうしても伝えたいものとはどんなものでしょうか?
「今回、色々な方向から歌詞を書いたつもりですが、その全てにまず共通 することは“このままで良いのか?”という危機感ですね。そして“その状況を打破するには?”という思考や行動へと展開していく、そういう流れがいま様々な分野で必要だと思います」
──個人的な見解になりますが、日本の音楽シーンではポリティカルなところに触れているアーティストは少ないと思うのですが、そういった日本の現状の音楽シーンに何か思うことはありますか?
「自分はパンク以外のジャンルは殆どと言って良いほど知らないのですが、そのパンクについて言えば、常に何かの問題を提示して、それを克服していこうとする勇気が自分にとって本来のパンクだと思っています。ところが現状を見ると、ややこしい問題や不幸な現実と向き合うより、“何とかなる”とか“今が楽しければ良い”というものがパンクに求められている気がするのです。でも自分にとってそれは現実逃避としか思えない。核兵器問題や犯罪検挙率の著しい低迷、少年犯罪の増加、超高齢化社会、温暖化、これからは食糧問題も更に激化する前兆もあります。それらのことを考えると、今の自分達はある意味で崖っぷちに立たされているような気がするのです。それは国内だけの問題ではなく、地球全体で見ても同じことが言えるでしょう。そういう時の“警報”になるべき音楽が、いま機能不全に陥りかけていると思うのです。アーティストを抱えるレコード会社だって歴とした企業です。企業は売上げを上げなくてはいけない。ポリティカルなイメージのバンドが少ないのは、それだけ需要がないからだと思うのです。だから最終的には、そういったバンドの存在が少ない理由にはリスナーの意識が大きく影響していると思います。幸いと言って良いのか、自分達はいま自主で活動しています。その中では無報酬の場合が多いのですが、でもだからこそ自分の好きなように動ける、自分の信じたことだけをとことん貫けるのです。決して良いことばかりではありませんが、今の自分達の現状についてはそう言い切れるのです」

与えられた時間の中で自分達にできることを行動に移す
──今回もDARIAN RUNDALL氏をエンジニアに迎えてレコーディングされたそうですが、どうでしたか? 順調に進みましたか?
「DARIAN RUNDALLとの作業は今回で3度目だったこともあり、限られた時間の中で比較的スムーズに進んだと思います。アメリカでの作業では時間が足りず、日程を延長したこともあったので。そう考えると今回は、順調に行ったのではないかと思います」
──実際出来てからの手応えはいかがですか?
「凄く良い感じで仕上がったと思います。今後の課題も残せた分、とても意味のある内容だったと感じています」
──今回のアルバムの聴きどころは全部だとは思うのですが、あえて選ぶとするとどういうところでしょうか?
「〈Silent Sounds〉のイントロでは、ギターの篤志と秀夫のパワーコードがとても良い感じで展開していると思います。あとは地元会津で録音をした〈Test It〉の中のダウンストロークの部分ですね。あの曲はストロークで容易な部分が全くないので」
──10月24日からライヴ・ツアーがスタートしていますね。本来ならその前にKEMURIとの合同ツアーがあったのですが、非常に残念な結果 になってしまいました…。改めてツアーに向けて一言頂けますか?
「KEMURIの森村亮介氏の他界は、自分達を含めたファンにとっても本当に悲しく残念な出来事でした。ですが、ここで自分達にできることとは何かということを改めて深く考えるきっかけになったことも事実です。それを今回の自分達のツアーの中で、与えられた時間の中で行動に移していく、そういう気持ちが強くありますね」
──次回作のテーマは当然、このミニ・アルバムからの流れとなるでしょうが、何か決まっていることはありますか?
「次のフル・アルバムでは、今回の『VOTE PEOPLE』での表現を踏まえてより具体的な内容へと進んでいくと思います。より身近な問題も挙げていければと思っています」
──今後の予定を教えて下さい。
「ツアーが終了すれば、当面は次のフル・アルバム制作の準備に入ると思います。今まで通 りの気持ちを持ち続けてこれからも活動していきたいです」
──ありがとうございました。最後に何かメッセージがあれば…。
「今回の作品のリリースにあたって、自分達の活動へ深い理解を頂けたタイガーホールの石川氏、浦野氏、大沢氏に感謝します。そして最後に、ENGRAVEの音楽をサポートしてくれているリスナーの皆さん、そして家族がいなければこのバンドの活動は不可能です。この場をお借りして感謝の気持ちを申し上げたい」


Release info.
VOTE PEOPLE
LOFT RECORDS/TIGER HOLE CHOICE
THCA-026 1,680yen (tax in ) IN STORES NOW

Live info.
<『VOTE PEOPLE』RELEASE TOUR>
11月1日(土)会津BARD LAND/11月2日(日)前橋CLUB FLEEZ/11月4日(火)新宿ACB/11月5日(水)今池HUCK FINN/11月6日(木)京都CLUB MOJO/11月7日(金)高知CARAVAN SARY/11月8日(土)松山SALON KITTY/11月9日(日)福岡KIETH FLACK/11月11日(火)岡山PEPPER LAND/11月12日(水)大津CLUB B♭/11月13日(木)静岡SUNASH

◆ENGRAVE OFFICIAL WEB SITE http://www.engrave-melodix.com