●ニューヨークのストリートで歌い続ける男、デヴィッド・ピールは本物だ!
 デヴィッド・ピールという名前を聞いてすぐにピンとくる人はあまりいないかもしれない。しかし、ジョン・レノン&オノ・ヨーコのアルバム『SOME TIME IN NEW YORK CITY』の中の曲「New York City」で“彼の名はデヴィッド・ピール”と歌われている人物と言えば思い出す人も多いだろう。ジョン・レノンが作ったこの曲の中で、デヴィッド・ピールは、ジョンのそばに来て「マリファナでもやるかい?」と歌ったり、「法王は毎日マリファナを吸っている」と歌ったりする“本物の野郎”だと描かれている。1971年にイギリスからニューヨークに移住したジョン&ヨーコを政治運動に引き込んだ重要人物として、活動家のジェリー・ルービンやアビー・ホフマンらとともに必ず名前があがるストリート・ミュージシャンがこのデヴィッド・ピールなのだ。
 ニューヨーク生まれのデヴィッドは、60年代半ばのグリニッジ・ヴィレッジで音楽活動を始めた。折しもヒッピー・カルチャーが花開く真っ只中のニューヨークでは、毎日のように街頭でストリート・ライヴが開かれていたが、ひときわ声のでかいデヴィッドは(RAMONESのマネージャーとしても有名な)ダニー・フィールズに見いだされ、68年にエレクトラ・レコードからデビューする。ちなみにファースト・アルバムのタイトルは『HAVE A MARIJUANA』。反体制とマリファナ解放を叫ぶデヴィッド・ピールは、ニューヨークのアンダーグラウンド・シーンではかなり有名な存在で、ニューヨークに移住したジョン・レノンが最初に親交を結んだ友人の一人だった。ジョン&ヨーコは、デヴィッドと一緒にストリートで歌ったり、ライヴで共演したり、国営テレビへの出演までしたが、最も特筆すべきは、共同プロデュースでアップル・レコードからデヴィッド・ピールのアルバムを出したことだろう。それが世紀の問題作『THE POPE SMOKES DOPE(法王はマリファナを吸っている)』だった。しかし、ローマ法王をおちょくったこのアルバムはわずか1週間で発売禁止、回収となり、イギリスをはじめヨーロッパでは発売すらできなかった。
 それから31年。長らく幻のレコードとしてその存在のみが伝えられていた『THE POPE SMOKES DOPE』を含む全16枚組のデヴィッド・ピールBOX SETが、なぜか極東の地・日本から発売された。この無謀ともいえるリリースを成し遂げたのは、日本が誇るヘヴィ・サイケデリック・バンド“マーブル・シープ”の松谷 健氏が運営するキャプテン・トリップ・レコーズなのだ。
 キャプテン・トリップ・レコーズといえば、日本のバンドはもちろん、グルグルなどのジャーマン・ロックからジョニー・サンダースなどのパンク、はては、ハワイのマウイ島に拠点を置く20世紀最後の謎のサイケデリック・カルト教団「ヤホワ13」のBOX SETなど“なんだか凄い”音源を次々と世に送る気狂い…もとい、ユニークなレーベルとして有名だ。しかし、一体なぜデヴィッド・ピールの16枚組という途方もない大作をリリースするに至ったのだろう。
 松谷「13枚組の『ヤホワBOX』を作った後、なんかまたそういう無茶なことしたいなと思って、いろいろ探してたんです。それである時、デヴィッド・ピールがいいんじゃないかと思って、デヴィッド本人に『ヤホワBOX』を送ったら気に入ってくれて、結局それよりも枚数の多い16枚組のBOXを出すことになっちゃったんです(笑)」
 このように、常人がおいそれと手を出せないヤマをあっさりと引き受けた松谷氏だが、そもそもデヴィッド・ピールとはどのように出会ったのか?
 松谷「僕、昔レコード屋さんで働いてたんですけどそこが変わった店で、デヴィッド・ピールから直にレコードを輸入してたんです。それで僕は結構好きで聴いてたんですけど、当時はそのまんまになっちゃって。」
 エレクトラ、アップルなどのメジャー・レーベルで様々な制約を受けたデヴィッド・ピールは、1975年に自らのレーベル、オレンジ・レコーズを立ち上げ、そこから精力的なリリースを続けた。こうした彼のDIY精神は、その後に巻き起こったパンク・ムーヴメントの先駆けとなり、その後、彼のレーベルからアングラの帝王・GGアリンのアルバムをリリースしたり、MC5のウェイン・クレイマーが様々なレコーディングに参加したりしている。もともとシンプルなロックンロールに乗せて言いたい事を遠慮なく歌うデヴィッド・ピールの音楽スタイルはパンク・ロックにこそ相応しいものだったのかもしれない。
 松谷「今回僕がリリースを決めたのは、デヴィッド・ピールがいまだに現役で活躍しているからです。今でもCBGBとかでライヴやってるみたいで、しょっちゅうニューヨークの街中にいて、自分の写 真とかポストカードとかを人に配ってるんだって。今回、彼といろいろやりとりして思ったのは、とにかくすごいいい人です(笑)、エネルギッシュで。なんかヤバいイメージが先行してますけど、彼はダメなものに対して素直に“NO”を言ってるだけなんです。過激なLOVE & PEACEの人って感じかな」
 このBOX SETは16枚組というボリュームに相応しく、木製焼き印入りの外箱や、デヴィッド・ピールにとって最も重要な歌詞の全訳と貴重な写 真を配した100ページ以上のブックレットなど、非常に手の込んだ作りとなっている。実際、企画からリリースまで2年近くかかったという。ということは、松谷氏がこの企画を立ち上げたのは、ちょうど2001年の9.11NY同時多発テロ前後にあたることになるのだが。
 松谷「そうですね。僕がデヴィッドにコンタクトをとった後に、あの9.11が起こったのかな。デヴィッド本人は、9.11についてはすごい複雑な気持ちだったみたいですね。やっぱりニューヨークがすごい好きだし、それが目の前で崩れてしまった。でも、その悲劇を招いた原因はアメリカにもあるわけで」
 デヴィッド・ピールの精神を育んだアメリカのヒッピー・カルチャーの背景には、60年代から70年代のアメリカに暗い影を落としたベトナム戦争がある。ベトナム反戦をはじめ、女性解放、人種差別 撤廃、核兵器・原発反対、銃社会への警鐘など、一貫して反体制的なメッセージを歌い続けてきたデヴィッド・ピールにとって、軍事路線を突き進む今のブッシュ政権下のアメリカはさぞかし息苦しいものではないだろうか。それゆえ、ストリートで彼の歌が止むことはないだろう。かつてジム・モリソンが「デヴィッド・ピールは、俺が知っている限り、潜在意識下の狂気が俺と同等な唯一の人間だ」と語ったが、アメリカの国家的な狂気に対抗するには、今こそ、デヴィッド・ピールのような狂気が必要なのではないだろうか。
 松谷「60年代後半以降のヒッピー・カルチャー全盛期、あるいは70年代後半のパンクの時代ってニューヨークが特別 だった時だと思うんです。音楽とアートと政治が全部混じり合ってる。最近のニューヨークは、テロがあったからかもしれないけど、それほど勢いが感じられない。でも、僕はやっぱりニューヨークはキラキラしたイメージであって欲しいですよね。まぁ、デヴィッド・ピールがいる限り大丈夫だと思いますけど(笑)」


▼歴史的BOX SETを手に叫ぶCaptain Trip Records・松谷 健氏 ▼『デヴィッド・ピール/ロックン・ロール・アウトロー』 CTCD-320-335(16枚組ボックスセット)
メーカー希望価格 ¥30,000 (日本語対訳、レア写真満載の100ページにおよぶ豪華ブックレット付き!)
参加メンバー DAVID PEEL, TOM DOYLE, WAYNE KRAMAR, ALAN DONSON,JOHN LENNON, YOKO ONO, GREG REX, G.G.ALLIN, TINY TIM...etc.
▼Pope Smokes Dope 『THE POPE SMOKES DOPE』
──これが全世界で発禁になったアップル・レコードからのいわくつきサード・アルバム。ジョン&ヨーコの共同プロデュース。
▼『BRING BACK THE BEATLES』
──ビートルズに捧げられたアルバム。しかし、このジャケット大丈夫なのか??

★TALK LIVE SHOW
12/2(火)新宿ロフトプラスワン
「デヴィッド・ピール/アップル&オレンジ・レコーディングス ロックン・ロール・アウトロー・ツアー前夜祭」

出演:デヴィッド・ピール、湯浅学(音楽評論家)、藤本国彦(CDジャーナル編集長)、他
開場18:30/開演19:30 チャージ¥1,000(飲食代別)

Rock'n' Roll Outlaw Tour
12/3(水)高円寺JIROKICHI
開場18:30 開演19:30  前売¥3,500 / 当日¥4,000
共演:三上寛(問)03-3339-2727
12/4(木) 鶴見RUBBER SOUL 「Imagine Live Vol,1」
共演:パウロ鈴木。他 前売¥2,500/ 当日¥3,000
 (問)045-586-0302
12/5(金)新宿RED CLOTH
開場18:00 開演19:00  前売¥3,000 / 当日¥3,300
オープニング・アクトあり
(問)03-3202-5320
12/6(土)さいたま新都心JOHN LENNON MUSEUM
12/7(日)DISK UNION渋谷店・ロック館(インストアイベント)
開場/開演21:00
入場方法:メールにて(dp4@diskunion.co.jp)に「入場希望」と記入のうえお申し込みください。
12/8(月) 法政大学 学生会館大ホール
開場18:00 開演19:00 カンパ¥3,000
ゲスト未定
(問)03-3264-9470
12/10(水)難波ベアーズ
開場18:30 開演19:00 前売り¥2800/当日¥3200
ゲスト未定 
(問)06-6649-5564
12/11(木) 京都拾得
開場17:30 開演19:30  前売¥3,000 / 当日¥3,500
共演:和久井光司&ニッキーホプキンズ (問)075-841-1691
12/12(金)名古屋DAYTRIP 「CAPTAIN TRIP RECORDS & DAYTRIP PRESENTS」
開場18:00 開演18:30 前売り¥2000/当日¥2500
共演:ごくつぶし (問)052-241-5019