伝説のパンカビリー・トリオ、狂喜の復活!
「伝説の音源再発!」もしくは「伝説のバンド復活!」…もはや、こんな言い回しにイチイチ驚いてられないくらいに伝説の発掘作業が活発な昨今。しかしながら、このバンドの再発ニュースだけはホントに狂喜させられ、文字通 りWAOoo〜!! っと雄叫びをあげずにゃあいられぬよ。(text:恒遠聖文)

今にも一発やらかしちまいな!
 関西が産んだ偉大なるパンカビリー・バンド、その名はザ・バッツ。なんと、彼らが1983年に残した唯一のアルバム『WAOoo〜!!』がTIME BOMB RECORDSより再発中!! し・か・も、ボーナスあり。バッツ本来の魅力を(スタジオ盤以上に)存分に発揮したライヴ音源とデモ音源が15曲もプラスされまくったあげく、膨大なレア・ショット満載なブックレットも付いた上で見事にリ・ボ〜ンしての再発なんだからたまらない。全ビリーズ、いや、全ロックンローラー必聴・必見・必涙の内容である。だって、レコードはプレミア価格、以前再発されたCDも既に廃盤ですぜ。それどころかメンバーは「今、どこにいて、なにをしてるのかも謎」のままだったし。そりゃ興奮して当然よ!
 さて、ここでバッツを知らない御方々に…(いや、私もリアルタイムでは知らないのですがね)、昨年、ライナーノーツ用に決行したインタビューを参考にしつつ、彼らのことを簡単に説明させていただくとしようか。キングロッカーが彼らの「BLOWIN' THE MIND」をカヴァーし、「TOKYO JUNK TOWN」は今でもどこかのクラブで流され続けているものの、彼らは未だ謎に包まれたままなのである。
 バッツは80年代初頭の関西で、元ヒルビリー・シェイカーズのJIMMY(Vo, G)を中心に、KUBO(Slappin' Bass)、SHOW-B(Boppin' Drums)の3人で結成されたロカビリー・スタイルのバンドである。その頃、時代は50'sリバイバル真っ盛り。それこそロックンロールの名のもとにストレイ・キャッツもフィフティーズもローラー族も銀蝿一家もツッパリも一緒くたにされかねないような、ところかまわずツイスト踊っちゃうような時代であった。で、バンドといえば、キャロル・フォロワーやケントス的オールディーズ・バンドが主流(もちろんブラック・キャッツは例外ね)。そんなoldies but goodies的パーティー感覚に殴りこみをかけるかのように…ザ・バッツのお出ましである。ジョンソンズにドクターマーチン、ヴォーカルは金髪ウルトラ・リーゼントという、(今でこそ当たり前ながらも)当時としては異色なファッションに身を包んだ脅威の3人組がTOKYO JUNK TOWNに“今にも一発やらかしちまいな!”っとばかりにやって来た時のTROUBLE TRAVELLERっぷりを想像すると、まったくもって身震いしてくるぜ。
 ロカビリーと言うにはあまりにも斬新なそのサウンドを人は“パンカビリー”と呼んだ。フラストレーションをビートに乗せて一気にブチ撒けていたかのような、あのアグレッシヴなサウンドが最大の魅力には違いないが、彼らの歌詞も当時のティーンの胸を鷲掴みしてやまないものであったに違いない。なにかに苛立ってるような、現状に満足できないような、それでいてクールでヒリヒリしたバッツの歌詞は他のロカビリー系バンドとは一線を画すものであった。JIMMYの言葉を借りるなら「なんとかレディーとか、なんとかセクシー」みたいな歌詞はゴメンだったようだ。いやいや、なんでもかんでも“パンク”と言って安易に片付けるのはよくないし、メンバー当人もバンクを意識したことはないらしいのだが…彼らの刺激的サウンドとノット・サティスファイドな歌詞を判り易く表現するには、そんな例えをするしかあるまいよ。当時、彼らのライヴを体験した人によると、「衝撃的すぎて、どうノッていいのか判らなかった」とのこと。お約束のダンスやお約束のファッションが付け入るスキもありゃしないほどの緊張感は本作収録のライヴ・テイクを聴いてもらえればよーく判る。

バッツ=最高のロック・バンド
 さて、今でこそ、サイコビリー、ラスティックなどの呼び名も定着し、ロカビリーの進化&深化も進み、細分化されているものの、当時はロカビリーのなんたるかさえもちゃんと知られてないような時代。シーンなんてものもあるわけない。よって、バッツは当然、ロカビリー以外のバンドと対バンが当たり前(モッズやルースターズともやったことがあるようだ)。パンク・バンドと同じ舞台に立っていた初期のロカッツともイメージが被るが、他のロックンロール・バンドにとってもバッツの存在は衝撃的であったに違いない。実際、「普通 のロックンロール・バンドのほうが評価してくれた」「ロカビリーの枠から出たかった」とメンバーも語っている。
 また、今では「当方 G。ロカビリー・バンドやりたし。WB&Ds 募集」なんてメン募も珍しくはないし、金さえあればグレッチもウッドベースも簡単に手に入るだろうが、当時はソレを手にするのも一苦労。それどころか、「あのカチカチ音はどうやって出す?」ってな問題も山積だ。他に相談にのる人もいやしない。スラップ用のピックアップ? …そんなもん売ってるわけがない。ライヴハウスのPAだって頭をかかえるのもやむなし。そこで彼らがとった手段はというと…なんと自らで図面 を書き、楽器屋さんにピックアップを作ってもらったとのこと! これはもはや発明である。そんな話を聞いた上で本作を聴き直してみると、スラップ音の重みもまた違って聴こえてくるってもんだ。ともかく、情報の少ない中で手探りながらも彼らが追求した音楽は“ありきたりの言いぐさ”ながらも新鮮でまったく古びてないのである。  バッツの歴史を振り返る時によく話題に上るのが、ピテカントロプスで開催されていた“20 UNDER GIG”というイヴェントである。これは文字通り20歳以上お断りというティーンネイジャー限定のライヴ・ショー。なんて夢のあるお話! そんなクールなイヴェントがあったなんて! っと知ったところで、地方出身&リアルタイマーではない私にはどうすることもできないのだが…。しかしながら、こういった企画やクラブを中心に活動していたのはメンバー的に本意ではなかったとのこと。「普通 にライヴハウスでやるほうが楽しかった」とはメンバーの弁。夢を壊す言い方で申し訳ないが、レコード会社の戦略のひとつだったようである。また、今回インタヴューしてみて判ったのだが、1stアルバムが低価格\1,500だったこともレコード会社の意向だし、英国のグラム・バンド、マッドの「TIGER FEET」の日本語カヴァーである「TOKYO JUNK TOWN」にしてもレコード会社からのシングル向けセレクションだったとのこと。
 いや、ちょっと待っておくれ。「な〜んだ」っと口にするのは早計だ。君はセックス・ピストルズのドキュメンタリー的な映画『ノー・フューチャー』を観たか? あれはピストルズに付き纏う幻想、マルコムの戦略を一枚一枚剥いでいくような映画だったと思うが、最終的に浮かび上がったのは、セックス・ピストルズという名の付加価値なしにカッコいいロック・バンド像とバンドに情熱を傾けた英国の若者の青春であった。それと同じく、バッツを取り巻くエピソードを取り除いていった末に立ち昇るのは“バッツ=最高のロック・バンド”という図式なのだ。そして、それこそが今回のボーナス・トラックに収録されたライヴ・テイクやデモ・テイクに真空パックされた部分である。「最初の頃、ダンパみたいなイヴェントに出てたんだけど、ホンマ嫌やったなぁ。普通 にライヴして、みんながウワーッ! ってなるほうが好きやったわ」というSHOW-Bの言葉からも判るように、パーティーなんて甘っちょろい雰囲気とはほど遠い異常な昂揚感が音として記録されている。

奇跡の音源再発、そしてまさかの再結成!
 話を戻すが、バッツは1枚のアルバムを残し、それこそピストルズのようにアッという間に解散。そのアルバムこそが本作『WAOoo〜!!』なのだが、これまたジャケにしろ音にしろ本人たちには不本意な内容とのこと(キングロッカーのカヴァーを聴いたJIMMYは「ホントはこんな音にしたかったくらい」と嬉しき発言!)。今回もボーナスが入ることで再発をOKしたのが実情だ。しかし、いくら当人が、んなこと言ったところで、我らにゃあ心踊らす内容なんですよ。まぁ、当時の日本のメジャー・レコード会社の概念からすれば、これが限界であるだろうし、十分画期的な音であったのではなかろうか。所謂、今でいうところのメジャー的な音作りを差し引いても刺激は十二分な内容であることは間違いない。ただ、何度も言うようにデモ音源の勢い溢れる演奏を聴いてみれば、本人の言い分もよく判る。
 さて、解散後のそれぞれだが、まずSHOW-Bは一足先に大阪に帰り、現在もドラムを叩き続けている。ベースのKUBOはウッド・ベースをブルース・ハープに持ち替えたり、渡米したりしながら、今は関東に住み音楽活動は続行してた模様。最後にJIMMYは、かのジョニー・サンダースのプロデュースで、ジェリー・ノーラン、グレン・マトロックらの錚々たるメンバーとソロ・アルバム『TRAVEL TRAVELLER』を製作。「表向きはソロでやってたけど、裏ではまたバッツみたいなバンドやろうと思って練習してた」とのことだが、結局、メンバーが見つからず、大阪に帰ってしまっていた。ギターも弾かず、音楽もやめ、バイク(BSA)で一人でロックンロールしていたJIMMYを探し出し、再発のオファーをしたのがTIME BOMBのMr. 小玉。再発OKをもらっただけでは気が済まず、他のメンバー捜索を決行してしまうとこが、この男の凄いところ!
 インターネットを駆使してみたり、電話帳で調べた久保姓の方々に電話作戦を決行したりしながら、もう10年以上も会ってないメンバーを引き合わせたってんだから凄い情熱! ドキュメント番組にしたかったくらいの偉業である。しかしながら、これでは終わらない。伝説を蘇らせるべく、再結成ライヴを嘆願した結果 ……な、な、なんと、ザ・バッツ再結成が決定したのである!!! そっから1年弱、JIMMYは埃かぶったギターに再び命を吹き込み、SHOW-Bは自らのバンドと並行しつつ、KUBOは関東から練習のために大阪に足を運び、今回のライヴの準備を秘密裏に進めてきた。その結果 がどうなるのか? …ソレは、皆が自分の目で確かめるのが一番よかろうよ。バッツが単なる伝説で終わるのか、それとも再び、今にも一発やらかしちまうのか…熱い胸騒ぎはおさまらない。BLOWIN' THE MIND!!!
 最後にメンバーそれぞれコメントをいただいたのでここに掲載しておく。
「Battle Of The Single!」(JIMMY)、「はじめまして SHOW-B」(SHOW-B)、 「ロックンロールのツボに“鍼”打ちましょか?」(KUBO)


★Release info.
WAOOO〜!+RARE TRACKS
TIME BOMB RECORDS BOMB-70
2,800yen (tax in) / IN STORES NOW

★Live info.
2003年11月15日(土)・16日(日) 新宿LOFT
<THE BOTS「WAOOO〜!+ RARE TRACKS」発売記念 再結成 LIVE>
15日:THE BOTS / MAD3 / RETRO GRETION / DJ:MIWAKO (RETROCK)
16日:THE BOTS / BATTLE OF NINJAMANZ / NINE / DJ:MAR-KUN (BIG RUMBLE)
OPEN 18:00 / START 19:00
PRICE: advance-3,000yen / door-3,500yen(共にDRINK代別)

INFORMATION: shinjuku LOFT 03-5272-0382