当たり前じゃないと気づくことが、当たり前じゃないのか、当たり前なのかよう判らん
──今回遂に、満を持してのメジャー進出を果たしたわけですが、心境の変化は殊更ないですか?
堤 晋一 (vo) ガラっとはないですね。今まで自分たちが敷いてきたレールをそのまま伸ばした感じで、より逞しく。
山本聖治 (b) 俺はこれを期に、思い切って髪の分け目を変えたけどな。
堤 それは大きな変化やな(笑)。

──今度のシングル「プラスチックモーニング」は、如何にもBivattcheeらしい抜けの良いメロディながら、眼差しがストリートに根差しているというか、風刺の効いた社会的な歌詞が強く印象に残りますね。“ホームレスのおじさん 本当のやさしさを教えてよ”とか“宗教 日の丸 リストラ問題”というフレーズは、これまでの作風にはない衝撃的なものですよね。
堤 今までそういう面を出してなかっただけなんですけどね。3年前にはもう歌メロが仕上がってたんで。別 に、ここへ来て急に世の中へ問い質したっていうわけではなくて。昔からそういうことは考えてたし。
──“君の愛はいくらするんだ 今夜おれが買ってやろうか”というフレーズが生まれた背景には、どんな経緯があったのか興味深いんですが。
堤 いや、特にはないんですけど…。今の世の中、ちょっとおかしいじゃないですか? みんな普通 に狂ってるじゃないですか? 特に東京は何かが決定的に狂ってると思うし。初めて東京へライヴに来た時に受けた衝撃が、この曲に行き着いたというか。“何だこれ?”っていう。
──その“何だこれ?”っていう歪さ、居心地の悪さというのは具体的に言うと?
堤 何というか、一杯なのに空っぽみたいな。凄くたくさんあるけど、真ん中に芯がないっていうか。何がメインなんだか判らなくなるし、それが当たり前としてみんな普通 に暮らしてる。それが当たり前じゃないと気づくことが、当たり前じゃないのか、当たり前なのかよう判らん。
──ツアーで全国各地を廻って、やはり東京だけ突出しておかしいと感じますか?
堤 やっぱり日本の中心っていうか文化の発進地ですよね? 音楽にしてもそうだし。音楽で一旗揚げようと思ったから俺たちもこっちへ引っ越してきたわけだし。それも滑稽な話だったりするけどね。結局、日本を形作るものは何なのか? って考えた時に、物事が人情じゃなくてお金で解決するとか、愛も金で買えるのか? とか、凄く滑稽な話に思えて。東京へ出てきて1年半くらい経って、これでもだいぶ慣れたんですけどね。
──「プラスチックモーニング」の“プラスチック”というのは、不透明とか壊れやすいとか、そういう意味合いですか?
堤 人工的だったりとか、ウソっぽいとか、そんな意味です。
──それでもまた朝は来るというやるせなさもあり。
堤 そうですね。
──演奏面で気を留めた点は?
加藤英治 (g) 歌の内容により近く行こうと思って。曲の中で起承転結を付けて、落とすところは落として、泣かすところは泣かす、みたいな感じでやろうと。曲のイメージとしてそんな明るい曲ではないと思うんですけど、サビの部分は歌える感じというか、キャッチーにしたかったから、ちょっと広がりのあるフレーズを付けてみたりして。
──リズム隊はどうですか?
山本 静かに支える…みたいな感じですかね。下で待っとくぞ、みたいな。(田代に向かって)少々暴れても守るぜ! っていう意気込みでやったよな?
田代真一 (ds) いや、それは今初めて聞いたな(笑)。
山本 ウソーっ!? おまえの気持ちは知らん!
堤 知らん! って(笑)。それじゃリズム隊になってないじゃん!

「紅茶の恋(独り言)」は耳で聴く小説
──2曲目の「750キラー」は一転してノリの良さを前面に打ち出した曲ですね。ちょっとガレージっぽさもありつつ。
加藤 そうですね。出来上がってみたらこういう感じになってましたね。
──歌詞に出てくる“カストロローザー”っていうのは?
堤 それは田代のバイクの名前。
田代 …になる予定です。まだないんですよ。名前が先に決まっちゃったという。
山本 一回パクられたもんね(笑)。
田代 そうそう、幻のローザーが(笑)。
加藤 この曲は、全体的に音として聴いた時の捉え方が余り重くなりすぎないようにしたんですよ。「プラスチックモーニング」はイメージとして重い感じの曲で、その次にさらに重い曲を入れてしまったらニルヴァーナみたいになってしまうんで。だから2曲目は、これまでのBivattcheeの要素もかなり残して豪快な音作りを心懸けましたね。

──リハーサルの段階で細部まで詰めてからレコーディングに臨むことが多いですか?
加藤 そうですね。レコーディング・スタジオでいきなりアレンジを変えられるほど俺らは器用じゃないんで。それまでにきっちり固めておいて、出来たものを録るという。
──ということは、そう何テイクも録らなくて済む?
加藤 凄く少ないですね、俺らは。大体3〜4テイクで終わりますよ。一発目で「ああ、これでもう大丈夫です!」っていう時もあるし。
田代 余りやってるとウダウダしてくるだけなんで、3回ぐらいやって大体その日のうちにOKになるよね。

──結局は一番最初のテイクが良かったりします?
堤 そうですね。
田代 テイクを重ねていくと、だんだん落ち着いてきちゃう。うまく叩けてもまとまりすぎちゃうというか。
加藤 確かにミスタッチも多いんですけど、それ以上に全体の雰囲気とか、いい部分も一杯あるんで。

──3曲目の「紅茶の恋(独り言)」は、微かなアコギをバックに堤さんの独唱が続く特異な曲ですね。『青春の炎』に収められていた「プラスチックモーニング」がまさにこんな感じの朗読でしたよね。
堤 はい。切々と唄い上げてます(笑)。
──この曲のレコーディングの時には、リズム隊は何を?
田代 後ろから「頑張れェ! 頑張れェ!」って気を送ってますよ。
山本 僕は紅茶を沸かしてます、いい湯加減を保って(笑)。

──こういう、男性が女性の立場になって唄う歌って、70年代のフォークソングとかニューミュージックによくありましたよね。
堤 結構自然にそういうのが出てきたかな。まぁ、角度を変えて唄った恋の歌ですよ。ウチの母ちゃんはベタベタなフォーク世代だったんで、そのすり込みがあったのかもしれないけど。
──ポエトリー・リーディングからの影響とかはあります?
堤 ないですね。そういうのは余り聴いたことなくて、敢えて言うならラジオ小説とか、凄いガキの頃に聴いてた思い出があって。一人でナレーションして、役者になって…っていう、ちょっとシュールな空間。耳で聴く小説だったり、耳で聴く映画とか、そういうふうに聴いてもらえれば楽しめるんじゃないかなと思いますね。

“ドリカム・ミーツ・ハードロック”なバンド!?
──3曲とも感触が全く違うし、このヴァラエティ感からして相当に聴き応えのあるシングルですよね。
加藤 よく出してくれたなぁと思いますね、メジャーの人が。よくOKしてくれたと思いますよ、ホントに。
──他にもいろいろと候補があってのこの3曲なんですか?
堤 いや、結構トントントンと決まりましたね。アルバムの曲作りも並行してやってて、候補は何曲かあったけどサラッと決まった感じで。その結果 、いずれも表情が違う3曲が揃ったという。
──今、アルバムの話が出ましたけど、ほぼ仕上がりの状態ですか?
堤 もう完パケです。
──話せる範囲で結構なんですが、次作はどんな塩梅なんでしょう?
堤 シングルが3曲とも違うように、アルバムも10曲全部表情が違いますね。聴けば聴くほど好きになる。知れば知るほど虜になる。そんなアルバムだと自負できますね。
山本 今度のアルバムは自分でも珍しいくらいヘヴィ・ローテーションして聴いてますよ。『青いカラス』の時は俺、そんなに自分で聴かなかったんですよ。
堤 まぁ、バンドを結成してからライヴでずっとやっとった曲が『青いカラス』になったっていうのもあるよね。全然やってないまっさらな曲が今度のアルバムだし。何というか、違うバンドみたいな感じで聴けますね。
山本 “こんなバンドがあったらいいのに”っていう音なんですよね。自分たちで言うのも何だけど。

──それは期待できそうですね。さて、夏のツアーが終わって、ロフトではフラワーカンパニーズとの〈SATURDAY NIGHT R&R SHOW〉が控えてますが。
堤 そうですね。俺は昔からリスナーとしてすっごく好きだから、一ファンとして。
──誌面を通じて、フラカンの皆さんに何かメッセージがあれば。
山本 グレート(マエカワ)さんに、「今度その繋ぎを貸して下さい 」って。あ、あれはオーバーオールか。
堤 俺も同じくグレートさんに、「モノポリーいつするんですか? 連絡ください」と。

──モノポリーっすか?(笑) でも一ファンから始まって、こうして同じイベントで共演できるまでになるとは、感無量 ですよね。
堤 そうですね。
──他に対バンしてみたいバンドは?
堤 ドリカムですね!
──エエッ! マジですか!?
堤 本気ですよ。結構どこでも言ってるんですよ、実現しないかなぁと思いながら。
──〈ドリカムワンダーランド〉に出たいと?(笑)
堤 出たいですよ、オープニング・アクトとして(笑)。あとはウルフルズとかスピッツとか、中学とか高校時代にそのラインをずっと聴いてたから対バンしたいですね。やっぱ憧れじゃないですか。
──Bivattcheeの音楽的要である加藤さんは、完全に洋楽志向だったんですよね?
加藤 そうですね。邦楽はほとんど聴いてこなかった。グランジとかが出てくる前のハードロック世代で、ギターは速く弾ければいいだろうって思ってた時期もありました(笑)。
──イングヴェイ・マルムスティーンのように(笑)。
加藤 そうそう(笑)。『YOUNG GUITAR』は今でも読んでますから。
──そういう音楽的ルーツを考えると…不思議なバランスで成り立ってるバンドですよね。
加藤 ドリカムとハードロックですからね。“ドリカム・ミーツ・ハードロック”って書いてもらう?
一同 (笑)

引き出しの多さがBivattcheeの強み
──今まさに日本語パンクが隆盛を誇る時期で、Bivattcheeもその文脈のなかで語られることが多々あると思いますが、自分たちを“パンク・バンド”として捉えてますか?
堤 ないっすねェ。
加藤 次のアルバムを聴いてもらえればより判ると思うんですけど、パンキッシュな曲って実は余りないんですよね。8ビートの速い曲をやれば、それが何でもかんでもパンク・ロックというひとつのジャンルとして今は括られてますけど、それはちょっと違うだろうと思いますよ。

──確かに、今チャートを賑わせているパンクと称される音楽は、オリジナル・パンクとは似て非なるものだと個人的には思いますけどね。
加藤 ですよね。
堤 ハッ? って感じですよね。最近は恰好いいバンドが少ないですよね。
加藤 ロックをやってるのに、余り恰好つけようとしないでしょ。「等身大でいいじゃん」みたいにありのままの姿を強調して言うけど、等身大の意味をはき違えている気がする。
堤 それか、余りに恰好つけすぎて訳判んないのかもな(笑)。

──ああ、やりすぎて一回転しちゃったと?(笑)
加藤 僕らは基本的には歌モノですよね。歌がまずあって、それを盛り立てるための速いリフだったり、8ビートだったりが曲に馴染んだからそれを選んでいるわけで。“このアレンジじゃちょっとパンクっぽくないんじゃない?”っていうのもないし。
──改めて今回のシングルの聴かせどころを伺って締めたいと思うんですが。
堤 3曲とも三者三様の表情があったり、今度のアルバムでも傾向の違う10曲を揃えたり、そういう引き出しの多さが俺らの強みだと思うんですよ。Bivattcheeというフィールド、Bivattcheeというジャンルの。どんなスタイルでも、どんな形でも、聴いてくれる人の好きなBivattcheeを選んでもらえればいいかなと。これからも楽しみにして下さい。
加藤 これまでの『青春の炎』から今回の『プラスチックモーニング』まで繋がりがちゃんとあるので、その辺をよく聴いてほしいですね。単なるシングル・カットとかじゃないんで。「青春の炎」は次のアルバムには入らないし、シングルは独立した一作品として出しているので、是非聴いて下さい。
山本 今回のシングルは、聴く時は必ず歌詞カードを見ながら聴いてほしいと思います。5倍、いや10倍僕らの世界に入ってこれるんじゃないかと。
田代 「750キラー」っていう曲はですね、750のバイクを想像してもらうと困るんですよ。750のバイクよりも速い350ccなの、ホントは。
堤 それすなわち、“カストロローザー”。
一同 (笑)■■


Release

Maxi Single プラスチックモーニング
gr8! records
SRCL-5596
1,223yen (tax in) / IN STORES NOW

【収録曲】
プラスチックモーニング/750キラー/紅茶の恋(独り言)

Live Info
<LOFT presents SATURDAY NIGHT R&R SHOW 2003 Vol.5 supported by PIA Music Foundation>
2003年9月20日(土)新宿LOFT
Bivattchee / フラワーカンパニーズ
OPENING ACT: LOOSELY
OPEN 18:00 / START 19:00
PRICE: advance-2,800yen / door-3,300yen(共にDRINK代別)
INFORMATION: shinjuku LOFT 03-5272-0382

<BUSTER's ASSEMBLY>
9月5日(金)横浜CLUB24
Bivattchee / 怒髪天 / サンボマスター
OPEN 18:00 / START 19:00
PRICE: advance-2,500yen / door-2,800yen(共にDRINK代別)
INFORMATION: HOT STUFF 03-5720-9999

<Bivattchee インストアライヴ>
9月22日(月)TOWER RECORDS渋谷店 B1F (STAGE ONE)
START 19:00
【入場方法】「プラスチックモーニング」をタワーレコード渋谷・新宿各店にて発売日(8/20)よりお買い上げのお客様に入場券(CD1枚につき2枚まで)を先着で差し上げます。
INFORMATION: TOWER RECORDS渋谷店 03-3496-3661

<Bivattchee レコ発プレミアムライヴ>
9月25日(木)広島BADLANDS
OPEN 18:00 / START 19:00
【入場方法】「プラスチックモーニング」を広島県内および広島県近郊のCD店にてお買い上げの方の中から抽選で200名様をご招待いたします(一部扱っていないCD店がありますのでご了承下さい)。
INFORMATION: ソニーミュージックディストリビューション大阪営業所 06-4795-8510

◆Bivattchee OFFICIAL WEB SITE http://www.bivattchee.com/