段階でのバンドの完成型を描出した蠱惑的作品

21世紀最大の謎かもしれない4人組・54-71が、メジャー契約するとは前世紀には思いもしなかったが、この夏には順調に2作目『true men of non-doing』をリリースする。
 7月、久し振りに54-71のライヴを見たら、随分芸風が変わっていて驚いたのだった。元々の芸風も言葉で説明するのが難しいので、それがどう変わったかを説明するのは更に難しいのだが、ワビサビ的緊張感は保ちながら、けれん味が増したと言っておこう。
 その要因が何かとメンバーに会いに行ってみれば、昨年11月に、ヴォーカル佐藤が交通 事故に遭い活動休止していたのだが、4月にはシカゴで新作『true men of non-doing』を録音、そのまま初のアメリカ・ツアーを行い、自信を深めてきた模様。
 いろんな意味で転機なのかとも思いつつ、全然転機じゃない気もする。いったいこの4人はどこへ向かっているのか、見ようとすればマンダラのように引き込まれるのみ。
 それにしても、前作はスティーヴ・アルビニのスタジオを使い、今回はジョン・マッケンタイアのスタジオを使っているにもかかわらず、エンジニアは前作に続きボブ・ウェストンを起用。スティーヴ・アルビニが率いるシュラックのベーシストでもあるボブと、54-71は相性がいいようだ。どんな音にしたいのか、というかどんな音にしたくないのか、という消去法で音を構築していくと、こういうことになるらしい。
 さてその新作『true men of non-doing』。曲間の信号音さえカットするストイックな音世界と、その上を漂う佐藤のヴォーカルが、あらぬ ところへ誘うような蠱惑的作品である。探るほど深みにはまりそうだが、これに込められた秘密を、ヴォーカル佐藤とベース川口の2人に解き明かしてもらおう。(取材・文●今井智子)


“こういう音になる”って見えちゃうのは面 白くない
──佐藤さん、事故に遭って入院されてたそうで。
佐藤 入院、1週間ぐらいですけど。
川口 クルマがスピンして、フロントガラスが外れちゃって、そこから飛び出しちゃったんですよ。
佐藤 クラーク・ケントだったからダメだったんですね。
──えっ? スーパーマンだったんですか?
佐藤 いや、だからクラーク・ケントだったからダメなんですよ。
──あ、変身前だった、と(笑)。でもお元気な様子で何よりです。普段からライヴで身体を動かしているから、直りが早いのでは?
佐藤 むしろ遅い(笑)。でも休んだおかげで、体重が10キロ増えました。
──全然見えませんね。
川口 まだ痩せ過ぎですよねぇ。
──それだけ普段ハードに動いていた、ってことですねぇ。
佐藤 話を、いい方向じゃなくて、悪いほうに行きましょうよ(笑)。
──そう言わずに(笑)。で、元気になられて、レコーディングでシカゴへ。療養がてらって感じですか。
佐藤 ツアーもやったんで、全然療養にならなかったですね。
──前回に続きシカゴで録音したのは?
川口 音がいいんですよね。それだけです。
──自分達の求める音が録れる?
川口 ていうか、生音をちゃんと録ってくれる。(音を)いじることを考えてない人達だから(笑)。
──ボブ・ウェストンは、そこで鳴っている音を、そのまま録ってくれる、と?
川口 そうそう。前回も、彼に「どうして日本人なのにアルビニにしなかった?」って言われて。「予想のできる音になるのがイヤなんだよね」って話をして。そしたら、「ふーん、彼もいいよ」って(笑)。
佐藤 「ここは彼のスタジオだからね」ってスタジオのマネージャーみたいな人が言ってました。つまりアルビニのマネージャーでもあるらしいんですけど。
──シカゴ音響派のもとで、そういう音を作りたいとかいうワケじゃなかったんですか。
川口 最初は、レコード会社のほうで勝手に「スティーヴ・アルビニを押さえた」って言うから、「なんてことすんだよ!」って(笑)。で、どうせシカゴに行ってやるなら、ボブにしてくれって頼んだ。
佐藤 成り行き半分ですから。
──今回も、ジョン・マッケンタイアのスタジオなのに、彼は使わない(笑)。
川口 やってて、こういう音になるって見えちゃうのは面白くない。でも俺らは両方調子っぱずれだからね。ジョン・マッケンタイアじゃないし、アルビニじゃないし(笑)。
──誰もがやってるような音にはしたくないということなんでしょうけど、録る時に音は見えてるんですか。
川口 音までは見えてないですよ。曲は見えてても。だいたいこういう風にしたいというのはあるけど。それが、ジョン・マッケンタイアとかは、想像できちゃうから。
──新作を聴くと、今まで以上に音の分離がすごいというか、ベースの下にベードラがあって、上にドラムが乾いて鳴ってる…。
川口 それを目指してるんです。だから、前作も良かったんだけど……。音域をそのまま、入れ替えなしでCDにしたかった。頭の中で鳴っている通 りにしたかった。
──イメージをそのまま音で表したいというこだわりが、こういう音になり曲になる?
川口 そう…でしょうね、たぶん。自分達の思うロックとは、こうあるべき、という……。ギターのうるさいロックはもう聴き飽きたんですよ(笑)。ドラムって一番、音象を聴かせたい楽器じゃない? 立体的だし。なのにベースドラムがちゃんと聞こえないってのは、どういうことなんだ、と。
──このバンドを始めるに当たって、“うるさいギターが鳴ってるんじゃないバンド”っていうのが当初からあったんですか。
川口 今のメンバーになってから、そうですね。別に音出さなくてもいいじゃん、一杯出さなくても、って。
──一瞬、念写みたいなものかと思った(笑)。
川口 宗教みたいですね(笑)。「聞こえねぇのかバカヤロー!」とか(笑)。
佐藤 空中に浮いてるかもしれません(笑)。

アメリカのライヴだろうがやることは変わらない
──曲を作る時は、どのように?
川口 だいたい俺がベースを作ってって、ドラムと絡みを決めて、「何か乗っけとけよ」って。 佐藤 「やれ!」と。だから歌とギターは「へへ〜」と。
──そういう力関係が…。
川口 それもよく出たアルバムです(笑)。リズム隊が真ん中押さえて、うわものが虫の触角みたいについてる感じ(笑)。
──でも曲によって歌い方が違ったり…。
佐藤 言われるままに、触覚の役割を(笑)。前衛部隊ですからね。
川口 探ってこい、と(笑)。
佐藤 そういう気持ちでやりました。
川口 ドラムの堀川(裕之)は、ギターとヴォーカルのことを、バカと挟って言ってるからねぇ。
──えっ、使いよう?
佐藤 (笑)でも、うわものって、どんなバンドでももしかしたらそんなもんかもしれないですよ。やっぱリズム隊のほうがクールで…ジーニアス…である必要が……すいません、破綻しました(笑)。
川口 リズム隊はリズム隊で、あそこまでバカになれないなぁ、と。あの2人は何なんだって。
──意外に判りやすいバンドですね(笑)。
川口 そうなんですよ。勘違いされやすい。
──私も、修行僧のような方達かと。でも、ライヴ後の打ち上げでいきなり裸になって、そのままコンビニに買い物に行かれたのを見て、どういう人達なんだと(笑)。
川口 それは、脱いでから何ができるかっていうのが、男としてはテーマじゃないですか。脱ぐことは誰でもできるんですよ、開き直れば。そっから何ができるかだから。
──それはさておき、ライヴでも表現方法が変わってきた気がしましたけど。
川口 この人(佐藤)の場合、悟っちゃったんじゃないですか? (退院後)メンバーから見て、考えない人になってましたね(笑)。
佐藤 毎日TV呑んで…いや違う、TV見て酒呑んでましたから。
川口 前は、深刻な顔して「生きるとは何ぞや?」みたいな感じだったのに。鬱陶しいなぁこいつ、って思ってたのに(笑)。でもメンバーとしては迷惑なんですよね。一人変わっただけなのに、「変わったよね」って言われる。実際このアルバムは、今までより難しいことやってるんですよ。それなのに「バカになったよね」とか(笑)。ドラムと2人でしょんぼりしてるんですよ。
──でも2人の存在感はスゴイじゃないですか。ライヴだと、ドラムは横向いてるし、ベースは後ろ向いてるし。何か秘密があるのでは、と。
川口 いや、秘密も何もないから、ああやってるんですよ。最初は、天の邪鬼な発想でやってたんです。モニター通 さないから、あれが音の通りはすごくいいんです。聴くべき人が、聴くべき音を聴ける。まぁ、ギターとヴォーカルは、別 に聞こえなくても(笑)。
佐藤 ヴォーカル、ホントに聞こえないですから。ちょっとギターがガン! って鳴ると「俺はどこにいるんだ?」って(笑)。
──聞こえないと声を張りたくなったりしません?
川口 そうすると、メンバーからボロカスに言われるんです。「一日何時間練習してるんだ、これぐらい判れ!」って(笑)。
佐藤 「ダセー」とか「死ね!」とか。まだ死にたくないから(笑)。
──(笑)生音って自分達でバランス作らないといけないから、大変じゃないですか?
川口 でも慣れちゃうとそれが一番いいですね。信用できるし。自分が間違ってなければ間違ってない音になるし。あと一番嫌なのが、「モニターが悪かった」とか、ライヴの後に絶対聞きたくない。
──逃げは打たない。男らしいですね。
川口 間違ってるんですかね、このご時世に(笑)。モニターつけたら「スゲーやりやすい」とかなったり(笑)。
佐藤 いきなりワールドワイドなバンドになったり(笑)。
──身軽だから米ツアーもラクだったのかな。
川口 向こうの日本人の人とか手伝ってくれたんですけど、「アメリカは厳しいよ、モニターもないし」とか言われて、「何言ってんの?」って感じで(笑)。
──ツアーの感想は?
川口 日本で最初にやりだした頃と、変わんないですね。取り立ててコケたってこともないし。変に年くっちゃって行ったせいかもしれないけど、やることは変わんないな、っていうのを確信した。
佐藤 どのみち飛び入りみたいな感じで行ったから、誰も自分達を知らないっていう状態で。
川口 逆に、トップクラスに行かないと、ホントに大したことない国なんだな、とも。ひどいですよ、まともに演奏できてるバンドがなかった。ていうか、ライヴハウスの環境が整ってなかったから、下手な人は何やってるか判らないような状態。PAとかないから、よほど曲がいいとかテンション高いとかってバンドじゃないと頭ひとつ出ないな、って。だから、その中で出てくるって、やっぱり凄いんだろうなと。
佐藤 その代わり、低いほうはホンットに低いっていう(笑)。
川口 限りなく低い(笑)。ホントに何もない…PA、照明…ヴォーカル・マイクがないこともあった(笑)。でも面 白かったですよ、行くまで何があるか判らない。
──ていうか、何がないかも判らない(笑)。打たれ強くなって帰ってきたわけですね。
川口 日本にいる時点でも、「帰れ!」とか散々言われてたから。
佐藤 「帰れやぁ!」って言われて、「もうちょっとだけやらせて下さい」って(笑)。

見た甲斐があったと思ってもらえるようなライヴを
──ところで、新作は曲間が短いというか、ないに等しいというか…。
川口 それはドラム(堀川)が、曲間があると嫌らしいんですよ。自分でCD聴いてて、曲間があると止めちゃうんだって。
──それが新作に反映されてるんですか?
佐藤 何かあるみたいですねぇ。
川口 向こうでテープ繋いできちゃったんですよ。「全部、任すわ」って。一人でゲラゲラ笑いながらやってたもんねぇ。
佐藤 その姿を見て俺らは、嬉しいというか、穏やかになりましたけどね。
川口 だけどマスタリングの時、(曲間の)信号が打てなかったんですよ。
佐藤 前の曲の音が被っちゃったりとか。
川口 それでCDにお詫びが書いてある(笑)。
──プリンスの『LOVESEXY』みたいですね。
川口 今度の、7、8曲目あたりは、プリンスも悔しがるんじゃねぇかって、俺は勝手に思ってるんですけど(笑)。
──このファンクなベースラインが。
佐藤 ぜひ送りつけないと。
──この曲はほとんどリズム隊だから(笑)。
佐藤 いいんですよ。
──ライヴは、どうなるんでしょうね。
佐藤 修行僧ですよ(笑)。
川口 昔の踊りができなくなったのが痛いね。
佐藤 左肩を打ったらしくて、腕を吊っている靱帯が伸びちゃって。痛いんです。……アピールしてるんですよ、同情とか(笑)。
──してます、してます(笑)。お大事に。じゃライヴは大変なんですか。
川口 ライヴは、ビックリですよ。内緒だけど、たくらんでますから(笑)。
佐藤 ギターとドラムが、スペアのギターを置く位置とかで喧嘩してますから。
──通常では、思いつかないようなところでエネルギーを使うバンドですね(笑)。
川口 お金を払っていただく以上、見た甲斐があったと思って帰っていただきたいんで。芸人魂って言うんですかね(笑)。だって、終わってからイマイチだったとか思われたくないじゃないですか。これならCD買ったほうが良かった、とか。
──見て満足してもらうためには身体を張るぞ、と。単なる負けん気のような気もしますが(笑)。もしそれにお客さんが気付いてくれなかったら寂しいですね。
川口 何かは気付くでしょう(笑)。それでもいいんですよ。見て面白かったって満足してもらえれば。■■



true men of non-doing
BMG FUNHOUSE
BVCS-24008
2,800yen (tax in) / OUT NOW

Live Info
<54-71 TOUR 2003 "one hour show of true men">
2003年8月31日(日)下北沢シェルター
54-71
OPEN 18:30 / START 19:30
PRICE: advance-3,000yen / door-3,500yen(共にDRINK代別)
INFORMATION: shimokitazawa SHELTER 03-3466-7430

◆54-71 TOUR 2003 "one hour show of true men"
8月18日(月)仙台マカナ/8月20日(水)松本アレックス/8月22日(金)金沢van van V4/8月25日(月)京都メトロ/8月26日(火)十三ファンダンゴ/8月28日(木)博多DRUM SON/9月2日(火)名古屋アポロシアター

【TOTAL INFO.】 LASTRUM CORPORATION: 03-5772-6691
◆54-71 OFFICIAL WEB SITE http://www.54-71.com/