狂気と破壊性を内包した“姿勢としてのロック”の現在
 あの問答無用の傑作アルバム『Heavy Rocks』から一年、BORISがまたしてもやってくれた。ジャパニーズ・サイケの重鎮・PEACE MUSICの中村宗一郎氏をエンジニアに迎えたミニ・アルバム『あくまのうた』は、前作で獲得したポピュラリティをいともたやすく薙ぎ倒し、“Ibitsu”で獰猛な破壊性と緻密な音像とが混沌と渦巻く快作である。彼らが標榜する“姿勢としてのロック”はこのアルバムで一段と深みを増し、本来ロックが持つ得も言われぬ 高揚感をも引き出してくれる。7月には伝説のハードコア・バンド、GREENMACHiNEとのスプリット・ツアーも控え、今後は海外での活動にも意識的に取り組むという彼らの矜持を訊く。(interview:椎名宗之)


モノラル盤のような強くて太い音像を目指した
──『Heavy Rocks』から丸一年、ミニ・アルバムとはいえまたかなり聴き応えのある作品になりましたね。
ATSUO 自分たちのなかではアルバムもシングルも区分けをしているつもりはなくて、一作一作がひとつの独立した作品なんですよ。今回も“ミニ・アルバムだから適当に作りました”という感覚では勿論なく。
──『Heavy Rocks』から進化した位置付けというところで、今回はどんな点に気を配りましたか。
ATSUO “強い”“太い”っていう部分を強く打ち出したかった。
TAKESHI これまではどんどん音を被せていく作りだったんですけど、今回はもっとシンプルで強い音にしたかったんです。重ねることで音は分厚くなるんですけど、芯の太い部分が逆に見えにくくなってしまうんじゃないかと。これまで粘土で作っていたものが、今度は岩をガリガリ削っていくような塊になったというか。
──確かに『Heavy Rocks』の時は周りから粘土を塗り固めていく作り込んだ美しさがありましたけど、『あくまのうた』のほうは極限まで削り抜いた果 てのいびつさ、ささくれ立った音像ですよね。でもそのシンプルさが瑞々しくもあり。
ATSUO 聞こえてこない気持ちとか、そういう抽象的なものも含めて強い音を目指しましたね。ステレオというフォーマットでどうしたら伝えることができるのか、その辺を凄く気を使った。録れてる音も大事ですけど、それを取り巻く空気感とか、音にならない部分への作り込みのほうを強く意識しましたね。
TAKESHI 聴き所は全部。全体を音の塊として聴いてほしいですね。全部を丁寧に作ったつもりなんで。
ATSUO 今度のはオーヴァーダブをほとんどしなかったんですよ。さすがに一発録りではないんですけど。左右でギターを鳴らすとか、そういうのは全然なかった。昔のデモテープを録ってる時と変わらない手法なんですね。一つ一つの音質がより理想的な方向に向かったというか。同じアナログ盤でも、やっぱりモノラルのほうが強い感じがするし、あの太さを目指したところはあります。デモテープの衝動感っていうのは凄く魅力的なものだし。あと、ライヴ盤の訳の判らない熱さ。「音割れてるじゃん!」みたいな。
──昔のブート盤とかそういうの多いですよね。
ATSUO うん。スタジオ盤が良くても、バンドの印象がいきなりガラッと変わっちゃったりね。
TAKESHI だから、自分たちの曲にも割と主観的な音が欲しかった。途中でシンバルがパン! って大きかったり、ギターがガーっと来たら他の音が聴こえなかったりするような。ちょっと押しつけがましい感じというか。「ここ聴け、ここ!」っていう(笑)。
──そういうデモテープの手作り感を再発見したり、音にも初期のような荒々しさが際立っているし、原点に立ち返ろうみたいな部分もあったんですか?
ATSUO 決して初期衝動だけではないんですよ。僕らが今まで重ねてきた経験と実感っていうものを活かしていかないと、大人として意味がないじゃないですか。衝動、衝動って子供じゃないんだから(笑)。その衝動を取り巻く客観的な僕らの意識があって、それが衝動を突き破っていくような作りにしたかったんです。衝動的に作り込んでいって、結果 的によりもっとブッ壊してしまう…意識的にそんな感じにしました。
TAKESHI そうならざるを得ない。事故みたいなものだしね(笑)。
ATSUO ロックとかパンクの文脈で、“衝動”と言えばすべてOKみたいな風潮があるじゃないですか。あれはちょっと安易だと思うんですよね。でも勿論大事な部分もあるし、それも踏まえつつ、自分たちが出すべきものはこういう感じです、ということなんです。
──今回エンジニアを務めた中村宗一郎さん(ゆらゆら帝国、渚にて、TEXACO LEATHER MAN、穴奴隷などで知られる)との相性も良さそうだし、3人の出したい音が巧く形になったんじゃないですか。
TAKESHI もうバッチリでしたね。レコーディング・プランの段階である程度3人で出したい音のイメージみたいなのは固まっていて、「こういう印象を作っていきたい」っていうところから中村さんと話して、それがちゃんと形に表れてくるし、後押しもされるし、お互いに暴走も始まるし(笑)。中村さんはロックの深い部分にまで精通 している方なので、器材の面も含めて巧くハマりましたね。

意識のブースターが掛かった音を上回りたい
──それだけ優秀なエンジニアの方に出会うと、自分たちが思い描く音が次々と具現化しますよね。だから表現へと向かう貪欲さが無限に広がっていくんじゃないですか?
TAKESHI そうですね。今回はレコーディングが終わった時点でまたすぐにスタジオへ入りたいと思った。それはこれまでのレコーディングとは明らかに違ったよね。今までは“終わった…やっと終わった!”って感じだったもんね。
ATSUO またすぐにスタジオ入りするんですけどね。海外で出すアルバムを今準備してる最中なんですよ。
──2nd(『AMPLIFIER WORSHIP』)を海外でリリースしたり、かなり意識的に海外へ視野を向けているんですね。
ATSUO それは最近、凄く意識しますね。やっぱり、海外のリスナーが喰い付いてくる部分と日本のリスナーのそれとでは、微妙なズレがあるんですよね。何だろうね? イギリスへ行った時は「flood」みたいな長い曲や、今回で言うと「無き曲」とかが受け入れられるし。
TAKESHI ドラッグも蔓延してるしね、向こうは(笑)。やっぱり受け入れられる土壌の資質が明らかに違うんじゃないですかね。
──日本だとある程度の先入観を持ってその音楽に向かいますけど、海外のリスナーのほうがその辺はもっとピュアでフラットなんじゃないですかね?
ATSUO 言葉だけに感動するのが音楽じゃないですからね。訳の判らないものも込み上げてくるじゃないですか。何だかテンションが上がる、とか。あの高揚感はまさにロックだと思うんですよね。言葉の意味の判る人でも意味の判らない人にでも、同じく何か高まる感じが伝わるのがロックな関係だと思うんですよ。今までは伝え方という部分に余り意識的ではなくて、どう見せるか、聴かせるかっていうところが、後ろから殴りかかるだけじゃダメだなっていうのはここ数年意識していて。最近のアルバムではちゃんと服を着て手紙を書くようになったからね。
TAKESHI というか、ズボンだけ後ろ前に穿いてる感じじゃない?(笑)
ATSUO ああ、そういう感じ。
TAKESHI 常にボタンを掛け違えてるよ、みたいな。
ATSUO 微妙な伝え方だけどね。
──そういえば、同時発売されるLPは収録曲、ミックスが一部異なるそうですが。
ATSUO LPのほうは、僕らが『flood』の頃からやっている爆音のパワー・アンビエント調の曲がアタマに10分ちょっと入っていて、その内容をCDで不特定多数の方に提示するのは如何なものかと…。本人たちは凄く気持ちよく演奏し続けているんですけど。
TAKESHI でもどちらも凄くいいミックスで勿体なくて、CDとLPで別々のヴァージョンにしようと。CDのほうは判り易いほうがいいし…いや、決して判り易くはないけどね(笑)。
──しかもLPのアートワークはニック・ドレイクの『BRYTER LAYTER』の完コピ(笑)。道路の外灯が写 る裏ジャケまで徹底してるし。 ATSUO 服も本人と同じようなものを持っていったし、同じ具合に靴も脱いでますからね。袖のまくり方から相当作り込んで。そういうジャケット周りまで含めて、LPのほうはわがままさせてもらった(笑)。
TAKESHI でも、実際の音にはフォークロックの“フォ”の字もないけどね。
ATSUO いいですね、ドレイクは。狂気の入り方が凄まじいっていうか。普通に聴けるんですけど、聴き込めば聴き込むほど暗い闇が待ってるじゃないですか。
──このジャケットを見ていると、BORISがフォーキーになったらどうなるんだ? という妄想も生まれますけど。
ATSUO そうですね。歪みばかりでもなく、今は結構生音に対しても追及してる部分があるんで。でもね…ヘタクソなんだよね。
WATA そう、単純に弾けない(笑)。
ATSUO ちゃんと聴かせられるくらいに自分たちの技術が付いてきたら、発表していきたいと思ってるんですけど。
──BORISの音楽は敷居が低いけど一度ハマったらどうにも抜け出せない中毒性があるから、何の偏見も持たずにいろんな人に聴いてもらいたいですね。
ATSUO そうですね。今度のシェルターのライヴにも是非足を運んでほしいです。ライヴハウスという空間のなかで、僕らの音楽を聴いてきた人たちの意識のブースターが掛かった音と、僕らが実際にライヴで演奏する音との、誤解という名のエネルギーが充満したロックをやりたいですね。
TAKESHI 誤解を上回りたいね、来てくれた人の。
ATSUO どんどんエネルギーが上昇していく感じのライヴができれば。アルバムを聴いて来てもらうっていうのが凄く楽しみなんで。 TAKESHI …今の言葉、全部WATAが喋ったことにしといて下さい。今日は全然喋ってないから(笑)。
ATSUO 最後にWATA、いいこと言ったな、って(笑)。
WATA 情報操作だ(笑)。■■


■Discography
あくまのうた
DIWPHALANX RECORDS
【CD】PX-102 / 2,000yen (tax out)
【LP】PXLP-102 / 2,300yen (tax out)
2003.6.6 IN STORES
▲PX-102 (CD)
▲PXLP-102 (LP)

■Live Info.
<BLACK SUMMER TOUR>
2003年7月12日(土)下北沢SHELTER
BORIS / GREENMACHiNE
OPEN 18:30 / START 19:00
PRICE: advance-2,000yen / door-2,300yen(共にDRINK代別)

OTHER LIVE SCHEDULE
6月1日(土)名古屋HUCKFINN / 6月28日(土)下北沢ERA / 7月26日(土)大阪CLUB WATER / 7月27日(日)名古屋HUCKFINN

◆BORIS OFFICIAL WEB SITE http://www.inoxia-rec.com/boris/