静かなる激情が生んだメロディのダイナミズム

 躍動的なリズム・アレンジに絡む美しいメロディ、そして感情の起伏に富んだハイトーン・ヴォイスはbuddhistson〈ブディストサン〉の大きな魅力のひとつだ。今回満を持してリリースされたアルバム『yes, but I'm alive』ではそんな彼らの最良の部分がさらに深化し、静けさのなかに激しく渦巻く音の旋律が格段のスケールアップを遂げている。メロディのダイナミズムを追求したこの会心の作について、ヴォーカル&ギターのシマ タクヤに話を訊いた。
(interview:椎名宗之)


バンドにとって新たなスタートを意味するアルバム
──セカンド・アルバム『yes, but I'm alive』を作り終えての心境は?
シマ 今回のアルバムは曲の構成も練ってあるし、単純にいいものが出来たな、と。メンバーそれぞれが成長してると思うし、自分たちというものを失わないように作ったところはありますね。突拍子もないことはしてないかもしれないけど。
──収録曲はどれも切迫した生々しい音だし、ライヴ栄えすると思いますよ。
シマ 曲の繋ぎとかはライヴで変えたりしてますけど、今回はもっとタイトにしようと思って。よりライヴっぽい音の作りにしたかったんです。割とメロディアスなものが重なって出来ている曲が多いと思うんですよ。唄のメロディとギターのメロディが全然違っても、巧く絡み合っているというか。その辺を特に聴いてもらえたらと思いますね。
──アルバム・タイトルが意味深だなと思ったんですが。一度マイナスな現状を肯定しつつ、それでも自分は今ここにいるんだという。
シマ 実は凄く適当に付けたんですけどね(笑)。でも後から結構いいじゃん、と。いい意味で取れば、前作から2年間のブランクがあるんで“再スタート”ですね。
──今回、制作はどれくらい掛かったんですか?
シマ 曲によって違うんですけど、前回のアルバム(『where are you going to bury the contents your mind?』)が出来た頃にはすでにあった曲もあります。全体としてはここ1年でやってる曲ばかりですね。
──ゆったりとした曲調ながら、激情をかきむしられるサウンドが凄く特徴的ですよね。
シマ そうかもしれませんね。ただ、アルペジオでゆっくり始まって…みたいな典型的な曲調が余り好きじゃないんで、そういうのは壊そうとしてるんですけどね。ありきたりな激しい音は出さないというのが前提としてあるし。
──ライヴのオープニングSEでMETALLICAの「...AND JUSTICE FOR ALL」が使われていたという話を聞いて、元々はもっとスラッシーな方向だったのかなと思ったんですよ。
シマ ああ、ありましたね(笑)。あの日(昨年5月19日、柏ZAXでのライヴ)のSEは何故かそうなってましたね。バンド的にスラッシーな感じだったことはないんですけど、やっぱりメンバー各人がメタルを普通 に通ってるんで。80年代のポップスからハード・ロックやメタルに流れて、それからオルタナに行って、パンクに目覚めて…みたいな。それが典型的な僕らの世代の聴き方ですね。
──シマさんのなかではパンク/オルタナティヴが出発点みたいなところはありますか。
シマ そうですね。ニルヴァーナとかがちょうど僕の思春期にブチ当たってるんで。その前からヘタなギターを弾いてましたけど、ニルヴァーナを通 過して(セックス・)ピストルズを聴いて、“ギターは簡単なのにこんなに凄い曲が出来るんだ!?”って衝撃を受けて。
──例えば、ニルヴァーナの強弱のついた音作りからは影響を受けていますか?
シマ ああ、静と動の対比みたいなところですよね。あるかもしれません。ニルヴァーナ以降のバンドは結構そういうのが多いですよね。
──去年の年末にシンガポールのフリー・イヴェント(“baybeats”)に出演されたそうですが、これはどんなイヴェントだったんですか?
シマ マーライオンの川を挟んで反対側にある、エスプラネード・シアターという所でやったフェスティヴァルなんです。シンガポールの若いアーティストを育てよう、エスプラネードを新たな観光地にしようっていう一環のイヴェントで。僕らが友達になったシンガポールのレーベルの人に呼ばれて行ったんですよ。ニュージーランドやマレーシアとかいろんな国のバンドが出て、音楽もオールジャンルで。だけど、余りの暑さに僕が熱中症になっちゃったんですよ(笑)。
──それはご愁傷様でした(笑)。観客の反応は如何でしたか? シマ 凄い良かったですね。曲の構成が変わるたびにワーッと歓声が起こって(笑)。いわゆる“エモ”と呼ばれる音楽が、最近アジアのほうでも認知度が高まっていて、彼らは英語圏だから情報のスピードがもの凄く早いんですね。日本って情報が一気に集まるって言うじゃないですか。でもそれは、例えば「スペースシャトルが墜落した」とか、本当にニュースになるようなことしか入ってきませんよね。その水面 下で起こっていることは全然入ってこない。でもシンガポールや香港だとマニアックなバンドのこともよく知ってるし、耳も肥えてるんです。

“エモ”と呼ばれる部分を払拭したかった
──近年、アメリカなどでツアーを行う日本のバンドが増えてきましたけど、アジア圏に目を向けているバンドは未だ少ないですよね。
シマ そうですね。今まではアジアのマーケットが安定してなかったこともあると思います。僕も余り詳しくないんですけど、普通 に海賊盤が市場に流通したりとかあるじゃないですか。でも、同じアジアでも日本人よりハングリーだと思いますね。物事のいい面 を見ようとするし。それに比べて、日本人って割と悪いところを探そうとする人が多い気がします。絵でも音楽でも何でもそうですけど。
──今後もアジアのイヴェントには積極的に参加していきたいですか。
シマ ええ。実際、声を掛けてもらってるのもありますし、考えているところです。アジアのロックにはこれからも繋がっていければいいなと思ってますね。
──今回のレコ発はBANDWAGONとの帯同ツアーですが、付き合いは結構長いんですか?
シマ 初めて知ったのは99年くらいですね。前のレーベルのスタッフがBANDWAGONの音源を持ってて、聴かせてもらったら“うわッ、スゲェ!”と。それから1年後くらいに初めてライヴを一緒にやったのかな。
──盟友バンドと言って過言ではない?
シマ そうですね、今となっては。一緒にライヴをやった時も凄いと思ったし、未だにそう思いますし。凄いセンスしてますよ。メンバーそれぞれの音の鳴りがウチらとは全然違うんで。メロディの乗せ方とかも勉強になるし。まぁお客さんから見たら、BANDWAGONもウチらも変わらないって思うかもしれないけど(笑)。今度のシェルターのワンマンには、スタートの時間から最後まで全部を観てほしいですね。みな色の違うバンドだし、見所はたくさんあると思いますから。
──何かで読んだんですが、ライヴではベースとドラムが常に向き合って演奏してるんですか?
シマ 立ち位置がですか? …ああ、ON AIR WESTの時かな(昨年11月20日、COCOBATのライヴで客演)。あれはCOCOBATのドラムセットに触れないように、あの時だけ前へ置いたんですよ。
──じゃあ、決して54-71に対抗して、というわけではなかったんですね(笑)。
シマ それはないです(笑)。あれはあれで“やられた!”と感じましたけど。ウチもやりたかった! って(笑)。
──その54-71も然りですが、buddhistsonも他に似たタイプのバンドがいないですよね。いわゆる“エモーショナル・ロック”の枠に括られることが多いですが、そのカテゴライズには収まりきれないバンドだと思いますし。
シマ 僕自身は“エモ”とは思ってないですね。そのネーミング自体が全くの無意味なんじゃないかと思います。“泣きメロ”って言われるのも違う気がするし。今回のアルバムも“エモ”って言われる部分を払拭したくて、努めて作りましたから。バンドもまだまだ成長過程だし、ある特定の枠に縛られても面 白くないですからね。
──今度のアルバムで新曲はすべて出しきった感じですか?
シマ いえ、曲作りは常にしてますよ。詞に関しては、個人的な憤りや不満に思っていることを始まりとしているので難しいところもありますが、基本的に曲を作るのが好きなバンドなんです。それだけが原動力なんですよね。曲作りが辛いとかはなくて、楽しんでやってます。かと言って、曲の上がりは決して早くないんですけどね(笑)。一般 のリスナーに僕らの音楽を聴いてほしいのは勿論なんですが、バンドをやってる人とかにも好んで聴いてもらいたいですね。ギターをやっている人にはギターのパートを注意深く、パートごとに細かいところまで聴いてほしい。今度のアルバムはそれだけの鑑賞に耐え得る作品になってると思いますので。■■



◆リリース

yes, but I'm alive
LASTRUM corporation
LACD-0052 / 2,310yen (tax in)
IN STORES NOW

◆ライブ
〈buddhistson OUR CELEBRATION...STILL ON JOURNEY TOUR 2003 with BANDWAGON〉
2003年3月31日(月)下北沢シェルター

buddhistson/BANDWAGON/54-71/toe
OPEN 18:30/START 19:00
PRICE:ADVANCE-2,000yen/DOOR-2,500yen (共にDRINK別)
【information】SHELTER:03-3466-7430

buddhistson & BANDWAGONレコ発ツアー
〈OUR CELEBRATION...STILL ON JOURNEY TOUR 2003〉

4月5日(土)下北沢CAVE-BE
4月18日(金)名古屋APOLLO THEATRE
4月19日(土)京都METRO
4月20日(日)大阪扇町DICE
4月21日(月)神戸STAR CLUB

◆buddhistson OFFICIAL WEB SITE http://members.jcom.home.ne.jp/buddhistson/