確固たる独創性を擁した2バンドによる“奇妙な運命の巡り会わせ”  まさに出るべくして出たスプリット盤である。MOGA THE \5とNAHTという、質実剛健を地で行く2つのバンドによる今までありそうでなかった競演が実現した。CD発売を記念してシェルターで行われる“もうひとつの〈感涙決戦〉”では、当代無二の両バンドが放つ激情の塊、音楽の持つ底力を、この凄まじい熱情を湛えたスプリット盤同様余すところなく伝えてくれるだろう。(interview:椎名宗之)

MOGA THE \5×NAHT
MOGA THE \5:吉岡“エスカルゴ”剛(g, vo)/坂口昌弘(b)
NAHT:SEIKI(g, vo)/GEORGE(g, cho)



“気がついたら隣りにいた”存在
──両バンドの交流は、かれこれどれくらいになりますか?


SEIKI 親しく付き合うようになってからは5〜6年かな。
坂口 元々同じようなシーンにいた…って言うのもおかしいけど、“NAHTっていうバンドがいるな”というのは当然知ってたし、たまに観に行ったライヴにNAHTが出てたり、時には一緒にライヴをやったり…でも、意識し出したのはここ数年ですかね。
エスカルゴ まぁ言ってみれば、“気がついたら隣りにいた”ねんな!
──今回のスプリット盤は、MOGAのほうからNAHTへアプローチしたのがきっかけだそうですが。
坂口 そうですね。僕がNAHTを凄い好きな時期があって、その頃よくライヴを観てて……。
エスカルゴ じゃあ、もう今は嫌いなん?
坂口 いやいや…(笑)。
SEIKI セオリー通りのツッコミだね(笑)。
坂口 とにかく、そんな時期にたまたま観に行ったNAHTのライヴが凄い良くて。もちろん他の日も良かったけど、その日だけ異様に自分が感動しちゃって、“これは一緒にCDを出さなきゃダメだ!”と思って…。それで早速、ライヴが終わって楽屋へ飛び込んで「どうでしょうかね?」って話を振ったんですよ。
──SEIKIさんはその話を聞いてどうでしたか?

●SEIKI(NAHT)

SEIKI ああ、もう“ついに来たな!”って感じでしたよ。お互いバンドの結成も同じ年(1995年)だし、最初の音源も同じコンピレーション盤(1995年にLess Than TVからリリースされた『SANTA V.A.』)だったしね。ただ俺たちは東京でMOGAは大阪なんで、“隣のクラスにいるシンパシーを持ってる人たち”って感じでしたよね。
エスカルゴ “隣のクラス”って(笑)…エエな、その表現な。
SEIKI 微妙だったんですよね、その当時は。「お互いお近づきになってシーンを盛り上げていきましょう!」みたいな感じでもなくて、MOGAは自分たちのことだけにじっくり専念しているようなバンドだと俺は思ってたし…。
──本人を目の前にして言いづらいと思いますが、お互いにリスペクトできる部分はどんなところでしょう?
SEIKI MOGAは何よりサウンドにオリジナリティがあるし、曲のどこを切っても、どんな曲をやっても一発でMOGAだと判るワン&オンリーな姿勢かな。あと、キャリアに裏打ちされてる渋さとか…。なかなか一言では言い尽くせないけど。
GEORGE 圧倒的な存在感というか、バンドの出してるオーラというか…。やっぱり凄いですよね。
エスカルゴ 照れるな(笑)。NAHTは…僕らにはホンマに想像もつかへんアイディアやボキャブラリーの豊富さとか、職人的で天才肌みたいな部分に凄く憧れますよね。ライヴも確固たる演奏力やし、物凄いカウンター・パンチを喰らったような衝撃と迫力をいつも受けますね。何というか、“パンク職人”みたいな気質を感じる。
坂口 NAHTは“プロっぽい”って言うとヘンなんですけど…自分らを分析すると、僕らは凄いアマチュアっぽいんですよ。OKラインもかなり甘くて、いいのか悪いのか判らない部分が結構あるんです。自分で唯一自信持って言えるのは、演奏がメチャクチャ下手ってことだけ(笑)。それに比べてNAHTは演奏力も確かだし、凄く感心させられたバンドのなかのひとつですね。だからスプリットを出す時に“ウチの粗が目立たへんかな?”って心配したりして(笑)。まぁ、結果 オーライで行きましたけどね、うん。

カヴァー曲にみる両者の志向性
──タイトルである“A Strange Stroke of Fate”(奇妙な運命の巡り会わせ)という言い回しは、どちらかというとNAHTっぽいなと感じたんですが。
坂口 うん、これはSEIKI君の発案です。
SEIKI MOGAとNAHTのケースは、知り合ってからすぐに「一緒にものを作ろう!」って感じでもなかったし、お互い知っている期間がしばらくあった後に共同制作するアルバムということで、上手く言い当てたようなタイトルがないかと考えた末に思いついたんです。とにかく面 白いくらいにいろんなことがスムーズに進んでいった音源ではありますね、今回は。
──曲作りに煮詰まることもなく。

●エスカルゴ(MOGA THE \5)


SEIKI ですね。もう最初から半分くらいは腰が上がってたところが両バンドともあったと思う。
エスカルゴ あったな。「いつでも行けるぜ!」みたいなね。
──今回のスプリットで一番インパクトがあるのはやっぱりそれぞれのカヴァーだと思うんですけど、MOGAによるアリスの「遠くで汽笛を聞きながら」にはブッたまげましたよ(笑)。
エスカルゴ 完全に僕の趣味ですね(笑)。自分がアリスを聴いてギターを始めたのもあるし、カラオケでいつも唄ってるというのもあるし、同年代の人たちの郷愁を誘う狙いもあるし(笑)。「皆、この唄好きやったろ?」って。
──社内で大音量で「遠くで〜」をかけてたら、周りにいる30代のスタッフが「何だコレッ!?」って過剰に反応してましたよ。
エスカルゴ それで充分です!(笑) 皆「んッ?」って振り向いてくれたらそれでオッケーですから。
坂口 アリスは結構、演奏が簡単なんですよね。
エスカルゴ “ジャカジャカ・ソング”やから、アレは(笑)。
GEORGE “ジャカジャカ・ソング”!?
坂口 コードが4〜5つくらい判ったらすぐにできる。
エスカルゴ しかも、コードを拾ったのがシングルじゃなくてライヴ盤やったからな(笑)。
──アバとか松山千春とか、エスさんのレイト70'sな音楽的嗜好は存じ上げてたのでアリスは納得がいったんですけど、NAHTがカヴァーしたELO(ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA)の「Yours Truly, 2095」には余りに意外で驚きましたね。
SEIKI ああ…でも、これはいつかやりたいと思っていた曲ですね。
──それも結構、ELOの地味なアルバム(『TIME』1981年発表)ですよね。
SEIKI そうですね。小学校の時に、NHKか何かでELOのライヴを見たんですよ。その頃から割と気になってたバンドなんです。今回のカヴァーは別 に狙ってたわけじゃないですけどね。「互いにやりたい曲をやろうよ」ってMOGAと話してたんで。まぁ、カヴァーの選曲に関しては紆余曲折があったんだけどね。“やっぱり日本の曲をやったほうがいいのかな?”とか。
──他にも候補曲がいろいろとあったんですか?

●GEORGE(NAHT)

SEIKI ありましたよ。ここでは口が裂けても言えないけど(笑)。
エスカルゴ 70年代末〜80年代初めのニュー・ミュージック系の曲とかな。
SEIKI 楽曲には共感できても、歌詞に共感できないのがあったりね。情けない男が女に媚びた歌とか…。それに、レコーディングしたらいつかライヴでもプレイしないといけないし。

日本語詞へシフトした意識は全くない
──NAHTとしては、「或る狂騒」に続いて今回も日本語詞の曲「ムクロノオエツヨ」が収められていますが、日本語で唄うのは自然な流れだったんですか?
SEIKI うん、全然自然です。生活に根差している言葉だからね。今こうして喋っているのも日本語だし、伝えやすいですよ。歌詞に関しては自分のなかではまだ明確な答えは出てないんだけど、英語詞で唄うか、日本語詞でやるかを断定してしまうのも面 白くないし、日本語詞へシフトしたっていう意識も自分には全然ないんで。
エスカルゴ 自然な流れやろ?
SEIKI うん。出来た曲に見合う歌詞であれば、それでいいと思ってる。
坂口 今度のNAHTの曲は、過去の作品のイメージを軽く裏切ってくれたところはあるよね。ギターの音が結構ペラッとしてたりとか、今までのNAHTにはない感触の音作りになってる。NAHTって曲が5分以上あるようなイメージがあるんだけど、それが今回はかなりコンパクトにポンポンポンと並んでるし、新しいNAHTが垣間見えると思いますよ。
SEIKI MOGAが4曲、俺たちが3曲っていう振り分けになったのも、“俺たちのほうが曲が長いだろうな”って最初に漠然と思ってたからなんです。それが思いのほか短くまとまったんだよね。
──今回の収録曲を聴くと、それぞれの単独音源への期待も膨らみますよ。 エスカルゴ ウチも年が明けたら(前作『未完全論』から)2年経つしなぁ…。
坂口 いついつまでにとか決めたりはしてないんですけど、曲がまとまった時点でレコーディングに入ろうとはしてます。時期ははっきり言えないけど…なるべく早くには出したいですね。
SEIKI 俺らも前のアルバム(『the spelling of my solution』)から2年のタームが空いちゃってるから、そろそろ限界だと思ってます。ライヴでやる曲にも飽きてきてるのもあるし…。
──でも、SHINERをゲストに迎えた〈learn it from lone〉でのセットリストは懐かしめの曲もあったり、逆に新鮮でしたけどね。
SEIKI ええ。1曲目からファーストの曲をやったりとかね。
エスカルゴ 昔の曲も結構練習する?
SEIKI する。凄いする。GEORGEが入ってから初めてやる曲とかもあるから。
エスカルゴ 「GEORGE、このリフ覚えとけ!」「こんなの覚えられるかいッ!」とかいうやり取りや?(笑)
GEORGE いやいや(笑)。2人でギターの弾き分けとかしたりね。
──MOGAのリハーサルは結構キッチリやるんですか?
エスカルゴ いやぁ〜。
坂口 練習自体が余り好きじゃないし(笑)、それがリリースが遅いことの原因にもなってますねぇ。月に1、2回しかスタジオには入らないし…。 エスカルゴ でも、スタジオに入ったら結構長いんやけどな。5時間くらい平気でやったりとかな。
坂口 まぁ、間にご飯食べたりダラダラしてるけどね。
エスカルゴ でも、曲作りはやっぱり一番時間をかけてるところやからな。だから次のアルバム発表は……再来年くらい?(笑) 長ッ!(笑) 俺、40歳になってるわ!
SEIKI 自虐的なギャグだね(笑)。
エスカルゴ 戒めやな(笑)。

PIZZA OF DEATHだからこそ実現したスプリット

●坂口昌弘(MOGA THE \5)


──アートワークも両バンドによる共作の産物なんですか?
坂口 ジャケットは、OUT OF TOUCHっていう名古屋の老舗ハードコア・バンドの一平ちゃんに僕が頼みました。彼はそれ以前にMANIAC HIGH SENCEというバンドでギターを弾いてて、そのバンドのジャケットも彼の手によるものだったんです。MANIAC HIGH SENCEのジャケットも、このスプリットみたいな絵柄なんですよ。で、事前に特に話し合いもせず、出来上がりを見せてもらったら凄く良かったので、このままで行こうと。出来上がってみると、両バンドにとっても新機軸な感じになって良かったと思ってます。
GEORGE 一平君のことは、僕も名古屋出身で昔から知ってたんですよ。一平君はアートワークで、僕は演奏でこのアルバムに参加してて…だからこれも“奇妙な運命の巡り会わせ”なんですよね。
──CDを包装紙に封入するアイディアもいいですね。
坂口 それはもう、SEIKI君のアイディア。
SEIKI 何かポストカードみたいな感じにしたかったんですよね。CDを手に取った時に嬉しくなるように。もちろん内容ありきの話なんだけど。あとは、最近の違法コピーに対する僕らなりのメッセージというか、安易にコピーできないようなことを付け加えておきたかったんですよ。
──コピーコントロールCDは音質にも影響が出てくるっていうし、厄介な問題ですよね。
SEIKI うん。例えば、アナログ盤ってあの不便さが逆に良かったりするじゃないですか。いちいちA面 からB面にひっくり返さないといけないわけで、音楽はこっちもそうやって労力を使って聴くものだと思ってるから。コンピュータから勝手に配信されてくるような音楽に対して俺は思い入れが持てないし、凄くイヤですね。まぁ、テクノロジーの発達に対して抗(あらが)ってもしょうがないかもしれないけど。
エスカルゴ レコード屋でCDを買う行為自体がエエのにな。
──そうですよね。自分の足を使ってブツを探し回るのが楽しいですよね。
GEORGE うん、ドキドキを味わう、あの感じが楽しい。 エスカルゴ 俺なんかレコード買って、家まで待たれへんかったもん。聴かれへんのに途中で封をバリバリ開けて(笑)。
SEIKI 俺も似たようなクチだった(笑)。
──あと、輸入盤の封を開けた時にツーンとする独特のインクの匂いがたまらんかったですね。
エスカルゴ ああ、あったあった! このスプリットも、よく嗅ぐとSEIKI君の匂いがしたりしてな(笑)。
SEIKI 別に俺の家でCDを梱包してるわけじゃないから(笑)。でも今回のスプリットは、そういう包装紙に入れるアイディアとか、一番最初の企画の段階から皆で持ってるアイディアを出し合って、できそうなことはなるべく理想に近づけようと努めましたね。レーベルも一丸となって頑張ってくれたし。PIZZA OF DEATHだからこそ実現したスプリットだと思いますよ。
坂口 あと、お互いのPV(「夕空のエレジー」「Feelings can change the same view」)をこのCDで観られるようにもなってるんです。
エスカルゴ それは今の時代だからこそできることやな。そういうエエとこは吸収して。
坂口 こればかりはコピーじゃ観られないでしょうしね。僕らも余り地方へライヴに行けないから、ライヴになかなか足を運べない人は、これで動いてるMOGA、動いてるNAHTを観れていいんじゃないかと。
SEIKI まぁ、このPVもあくまできっかけですよね。これを観て、是非ライヴに来てほしいですからね。ライヴはライヴの空気感があるから。
──シェルターの2マンが楽しみです。

SEIKI きっかけはいろんなところに転がってると思うんですよ。この音源も両バンドの縁があって、これを聴いてくれた人にも縁があると思うし、そういう縁のある人がライブに来てくれたら嬉しい。とにかく、ライヴは絶対ハズさない気持ちでいつも臨んでるから。
GEORGE レコ発はこの作品の温度そのままにライヴをやるつもりなので、是非足を運んでほしいですね。
坂口 いい作品が出来たからね。レコ発は東名阪を回るのでよろしくお願いします。
エスカルゴ NAHTは日本語詞の曲も出来たことだし、これからはファンも大合唱やな。ファンはSEIKI君に噛みつくくらいの勢いで。
SEIKI 俺、噛みつかれるんだ?(笑)
エスカルゴ で、ステージに上がってSEIKI君にブン殴られてオシマイ(笑)。
SEIKI イメージが悪くなるよ…(笑)。 ■■



A Strange Stroke of Fate PIZZA OF DEATH RECORDS
PZCA-12 / 1,700yen (tax in)
2002.11.07 IN STORES
MOGA THE \5: 1. 蒼白イナニカ… 2. 乾きゆく想ひに 3. 夕空のエレジー 4. 遠くで汽笛を聞きながら
NAHT: 5. ムクロノオエツヨ 6. Feelings can change the same view 7. Yours Truly,2095

〈FOR UGRY, FOR BEAUTIFUL #15〜『A Strange Stroke of Fate』発売記念LIVE〉
2002年12月14日(土)下北沢シェルター MOGA THE \5/NAHT OPEN 19:00/START 19:30 PRICE:ADVANCE-2,300yen/DOOR-2,500yen (共にDRINK別)

◆11月23日(土)大阪ファンダンゴ〈FOR UGRY, FOR BEAUTIFUL #13〉 MOGA THE \5/NAHT
◆12月8日(日)難波ベアーズ〈FOR UGRY, FOR BEAUTIFUL #14〉 MOGA THE \5/YOUTH ANTHEM/TECHNO CRACY/DIRTY IS GOD
◆12月22日(日)名古屋ハックフィン〈FOR UGRY, FOR BEAUTIFUL #16〉 MOGA THE \5/NAHT/OUT OF TOUCH/VERY NECK

〈learn it from lone vol.16〉
2002年12月1日(日) 下北沢シェルター
NAHT/SPARTA LOCALS/THE BACK HORN
OPEN 18:30/START 19:00
PRICE:ADVANCE-2,000yen/DOOR-2,500yen (共にDRINK別)

〈PIZZA OF DEATH RECORDS presents FORGET ABOUT 2002〉
2002年12月23日(月)新宿ロフト
WATER CLOSET/NAHT/HAWAIIAN6/TOAST/MOGA THE \5/RAZORS EDGE
OPEN 17:30/START 18:30
PRICE:ADVANCE-2,000yen/DOOR-2,300yen (共にDRINK別)



MOGA THE \5〈モガ・ザ・ファイブ・エン〉
NAHT〈ナート〉
 息もつかせず矢継ぎ早に展開する激情疾風哀愁サウンドで絶大な人気を誇る浪速の雄。1995年、吉岡“エスカルゴ”剛(g, vo)、坂口昌弘(b)、西谷将嗣(ds)により「良いメロディで曲は短く」を合言葉に結成。現在までメンバーは不動。96年にデビュー7インチ「PEOPLE」、99年に1stアルバム『ハ・ル・カ・カ・ナ・タ・』を発表。01年発表の2ndアルバム『未完全論』が目下最新作。貴重な初期音源を収録した編集盤『PEOPLE + 5SONGS』がPIZZA OF DEATH RECORDSより再々発売されている。  1995年4月結成。幾度かの前進的なメンバー・チェンジを経て、現在はSEIKI(g, vo)、GEORGE(g, cho)、TSUYOSHI(b)、TAKAHIRO(ds)、YASUKO(vl)の5人編成。USハードコアやオルタナティヴ・シーンの影響を受けつつも、壮大なスケール観を持った独自の創作活動を展開。96年のEP『downt』を皮切りに数枚のEPを発表、数々のオムニバス作品にも参加。99年発表の1stアルバム『narrow ways』、00年発表の2ndアルバム『the spelling of my solution』はいずれも高い評価を受けている。