COCK ROACHの処女作『虫の夢死と無死の虫』の衝撃たるや尋常なものではなかった。人間の死生観に真正面 から向き合い、“死”に対する恐怖心をスケールの大きな唄に昇華させた手腕は新人離れしたものだった。あれから18ヵ月。精力的なライヴ活動を通 して益々逞しくなった彼らは、前作を上回る完成度を誇ったセカンド・アルバムを発表、遂には活動の集大成としてロフトにて初のワンマン・ライヴを敢行する。痛々しい程に攻撃的で躍動感に溢れた圧倒的なパフォーマンスを、彼らは“赤き生命欲のもとに”見せつけてくれる筈だ。(interview:椎名宗之)

“生”を見つめた上で“死”と向き合う
──ファースト・アルバムの完成度が余りに高くて、今回『赤き生命欲』を制作するに当たって高いハードルとなっていたんじゃないかと思うんですが。
遠藤仁平(唄) そうですね…。最初は戸惑ったりしてたんですけど、途中からはテーマも定まってきて、後は突き進むだけでした。今回は、前のアルバムでできなかったことをやろうと思ったんです。『虫虫』がちょっと大人しすぎたかなと思ってて…結構激しかったりするのが好きなんで、ファーストは今思えばちょっと落ち着きすぎちゃったというか、慎重になりすぎたというか。だから今度のは「もっとやりたいと思ってることを表に出していこうよ!」ってことで好きなことをやって、ファーストよりは満足しています。
本田祐也(四弦) 満足度はかなり高いですね。『虫虫』でも学ぶことはたくさんあったんですけど、今度のはもっといろんなことを勉強できて、自分にとってプラスになる状況を作ることができました。
──内容的には前作の延長線上にありますよね。
遠藤 そうですね。ただ『虫虫』はどちらかと言うと、“死”を恐れるがゆえに“生”を愛するというか、“死”を考えた末にそのなかの“生”を見つめるという感じだったんですが、今度の『赤き生命欲』の場合はその逆で、“まず生きているじゃないか”っていうところが起点なんです。生きているということがどういうことなのかまだ判らないけれど、手足があって、感覚があって、視覚があって、聴覚があって…ってことが生きていることだとすれば、今は“生きている”んだ、と。いろんな感情があって、欲望があって、その先に“死”がある、っていう…。
──COCK ROACHの音楽性を語る上で、“生”と“死”を見つめる姿勢は不可欠なものですよね。そうした死生観は日頃から常に考えているものなんですか?
本田 他人がどれくらい考えているかは判らないですけど…自分は自分なりに向き合う時間もあって、それなりに考えてますけど…。
──今度のアルバムは溜めて溜めて爆発するというか、前作に比べて適度に抑制が効いていて確かな成長が窺えますね。
遠藤 ハイ……ありがとうございます(微笑)。
──前作に続いて今回もブックレットが非常に凝った作りですね。
遠藤 視覚的にも面白いものがあったらいいなと思ってて…。今回は詞の横に小原(由紀)さんという方の切り絵を載せています。僕らは歌詞にかなり重点を置いているんですけど、CDを聴く時にやっぱり歌詞を見てもらいたいというのがあるんですよ。まず歌詞カードを見てもらいたいという狙いがあって、その入口としての絵なんですよね。本質的な意味では、視覚(詞/ブックレット)と聴覚(音/CD)から生まれる脳内映像、音と絵のギャップを楽しんでほしいんです。そういう新しいCDの楽しみ方を提示しているところもありますね。
──ただ、絵が視覚的な効果を高める一方で、詞と音から生まれるイメージを限定してしまう危惧もありますよね。
遠藤 確かにそれはありますね。ファーストが割とそんな感じだったんですよ。だから今回のブックレットはもっと抽象的な絵にしたんです。
──詞は普段から書き溜めていらっしゃるんですか?
遠藤 そうでもないですね。一曲を作るのに何通りかは詞を変えたり、その時々で感じることを頭に思い浮かべると詞も自ずと変わっていきますから。メンバーに詞を見せて音と組み合わせた時も、それによって新しい世界観が加えられて言葉が付け足されたり、逆に削除されたりもしますし。
──今回演奏面で心掛けたところは?
本田 ファーストはいつもレコーディングしている場所で、エンジニアも気心の知れた方でというやりやすい環境で作り上げたものだったんですけど、今回は初めて使うスタジオだったり、携わるスタッフも初めての方がいたりして…そういう不安のなかでいい演奏をしたり、いい音を作り上げていくという面 では凄く神経を張り詰めてやりましたね。その甲斐あって、自分としては凄く音が良くなっていると思います。

ツアー終了まで神経は張り詰めている
──アルバムの最後に「鸞弥栄〈ランヒェイ〉」という曲が収められていますが、歌詞を読むと“風と共に羽ばたく鳥”とあります。これは実在の鳥なんですか?
遠藤 架空の鳥ですね。名前も自分で付けました。
──前作にも「鴉葬〈チョウソウ〉」というカラスを唄った曲がありましたよね。鳥というのは一貫して何か象徴的なものとして遠藤さんのなかにあるんですか?
遠藤 はい。“鴉葬”という言葉は、確か安部公房か誰かの小説に出てきて初めて知ったんです。普通 人間は火葬ですよね。それが宗教によっては亡骸を烏に喰わせるという…。空を飛んで清めるという意味合いがあるらしいんですが、カラスという鳥を人間の死と結び付けるっていう考えが僕には凄いインパクトがあったんですよ。僕も死んだらそうしてほしいなって思ったくらいなんです(笑)。死後意識があるかどうか判らないにせよ、ちょっとでもその烏の栄養になればいいと思うし…。“鸞弥栄”という鳥はそれとは全く違って、希望の象徴として歌詞のなかで描いたんです。歌詞の意味付けっていうのは聴く人によってそれぞれ違ってくると思うけど、想像のなかで“その鳥はどんな鳥なのか?”“その花はどんな花なのか?”って考える時に、まず形だけは誰しも知っているわけですよね。そこからイメージが変化しやすいと思うんですよ。聴く人が脳のなかでどういう絵を思い浮かべているのか、僕は凄い気になるんです。“僕はこう思うけど、あなたはどう感じたのか?”というところでのギャップが、自分で詞を作っていて凄く面 白いんですよ。だから皆が知っている判りやすいもの…鳥や花を詞のなかに盛り込んだり、その花がどんな花かをあえて説明しないんです。それによって詞に広がりが出てくると思うんで…。
──確かにCOCK ROACHの詞はイマジネーションを掻き立てられますよ。しかしまたここまで完成度の高い作品を作り上げると、この先が大変ですね(笑)。
本田 (笑)今回も一杯一杯で作ったから、もうヤバイですよ。
遠藤 新しい感覚が宿るまでは、無闇に自分のケツを叩かないようにしようかなと…。
──曲はやっぱりレコーディング前に集中して書き上げる感じですか?
遠藤 「白と黒」という曲のように高校生の頃に書いた曲もあるし、レコーディング直前に形にした曲もあるし…。
──エッ、「人の生き定め/腐ったその屍の 行き先」(「白と黒」の歌詞)なんていう曲を高校時代に書いていたんですか!?
遠藤 高校の最後くらいですね。基本的に僕の書いた歌詞と歌メロを雛形に皆で作り上げていくスタイルです。
──さっき安部公房の話が出ましたが、相当な読書家とお見受けしました。他にどんな作家がお好きなんですか?
遠藤 最近は余り読書をしている時間がないんですが…凄いインパクトを受けたのは夢野久作とか夢枕 獏ですね。夢枕 獏が19〜20歳の頃に書いた作品を古本屋で発見したことがあって、“これは未成年が描く世界じゃないだろう!”って凄い感銘を受けたんですよね。
──いや、「白と黒」だって未成年が描く世界観ではないと思いますよ(笑)。
本田 遠藤が書いてくる歌詞を見ると、自分にこれ以上のものは作れないと思いますよ。任せっぱなしって言うと失礼だけど、出来上がってくるものに対して不満は全くないし…。でも、彼の詞はある程度までは理解して、ある程度から先は理解しないようにしてます。自分の想像が全くなくなると面 白くないし、彼の世界観だけだと単一的な音として出てしまう気がするんです。COCK ROACHの音のなかに、自分の想像もプラスして出していきたいですから。そのなかでイメージを膨らませてリフを考えていくというか、詞と共鳴するようなサウンドを作り上げていくのが俺たちの使命ですね。
──COCK ROACHのサウンドを解体してみると、童謡のような判りやすいメロディが骨組みとして浮かび上がってくるように思うんですが。
遠藤 日本独自の音楽って何だろうって考えてみると、僕の頭のなかでは三味線だったり、わらべうただったり、小さい頃に聴いた子守歌だったり…。僕が自分の意志で初めて聴いた音楽って“たま”だったんですよ。その辺の影響はあるのかもしれませんね。クラシックとかの音楽を小さい頃から聴かされていればまた違ったんだろうけど、ウチの家庭は音楽を聴く文化も持ち合わせてなかったんで(微笑)。自分のなかにある音だけを練り込んでいくと、COCK ROACHのような音楽になるんじゃないかという自己分析はありますけど…。
──本田さんはどんな音楽を聴いてきたんですか?
本田 俺はホント雑食性で、片っ端から何でも聴きますね。生まれて初めて買ったCDがとんでもないやつで…チャゲ&飛鳥の「Say Yes」と牧瀬里穂の「Miracle Love」なんですよ(笑)。そういうところでバンドへの影響はないんですけど(笑)。最近は久石 譲とか、ジョン・ゾーン周りのバンドとか面白くて聴いてますよ。いろんな音楽のいいところを自分のなかに吸収している感じですね。
──年内は長いツアーを経て、ロフトで待望のワンマンですね。
遠藤 曲作りから始まって、プリプロ、レコーディング、ツアーが終わるまでの期間内は神経が張り詰めてますね。しかもロフトでワンマン…ワンマンのライヴ自体が僕たち初めてなんですよ。ロフトは『赤き生命欲』とそのツアーの集大成として表現できる場にしたいです。
本田 その前にツアーの途中で全員病院送りになっちゃうんじゃないかって(笑)。
遠藤 上京前はライヴが始まる前にお酒を呑んだり、極端に言えばパーティー感覚でライヴを楽しんでいたんですけど、今はどんどんシリアスになってきてますね。やっぱり責任感もあるし、いい加減なことができなくなってきましたから。でもそれらを踏まえた上で、今のほうがよりライヴを楽しんでますね。■■

赤き生命欲
黒虫芸術・INFINITE RECORDS
IFRD-0027 / 2,500yen (tax in)
OUT NOW!

〈COCK ROACH 赤き生命欲ツアーファイナル『赤き生命論』ワンマンライブ〉
2002年12月17日(火)新宿ロフト OPEN 18:00/START 19:00 PRICE:ADVANCE-2,500yen/DOOR-2,800yen (共にDRINK別) 〈赤き生命欲ツアー〉
11月2日(土)久留米ガイルス
11月3日(日)佐賀ガイルス
11月4日(月)熊本ジャンゴ
11月6日(水)鹿児島SRホール
11月8日(金)難波ロケッツ
11月11日(月)神戸スタークラブ
11月13日(水)奈良ネバーランド
11月15日(金)滋賀ハックルベリー
11月19日(火)新潟ジャンクボックス
11月23日(土)富山もみの木ハウス
11月24日(日)長野ジャンクボックス
11月27日(水)名古屋ミュージックファーム
12月1日(日)柏アライブ
12月2日(月)仙台ジャンクボックス
12月5日(木)水戸ライトハウス
12月6日(金)郡山ヒップショット
12月8日(日)群馬クラブフリーズ

【問合せ】黒虫芸術 (INFINITE RECORDS):03-3365-3984
COCK ROACH official web site◆http://www2.neweb.ne.jp/wd/cockroach/