サウンドの質感への飽くなきこだわりが生んだ超絶作、遂に完成!  7月にミニ・アルバム『Phalanges』を自主レーベル《Nanophonica》からリリースしたばかりのDMBQ(ダイナマイト・マスターズ・ブルース・カルテット)が、メジャー移籍第1弾となるフル・アルバム…その名もズバリ、『DMBQ』を今月遂に発表する。「現時点で僕たちが考えうる最高の形、もうこれ以上はないという音場を作品化できたと思っています」と語るリーダー・増子真二の言葉に嘘はない。この不世出の大作がどのような経緯を経て完成に至ったのか、DMBQの頭脳でもある増子本人に話を訊いた。
(interview&text:椎名宗之)


ロックのダイナミズムを封じ込めた記念碑的作品
◆断言しよう。オリジナル・アルバムとしては実に1年半ぶりとなる本作、間違いなくDMBQのバンド史上最高最強の大傑作である。一度でもロックに刻まれたことのある人間なら否応なしに感情を高ぶらせるだろう、コクとキレが随所に盛り込まれた至高の楽曲群、卓抜した4人の演奏技術の凄まじさは言うに及ばず、まずとにかく圧倒的に音が良い。バンドが放射する混沌とした音の渦状が、今度のメジャー盤ではより“抜けた”音像となってダイレクトに伝わる仕上がりとなっているのだ。
 「このアルバムはひとつの転機というか、仕切り直しというか…やっぱり、今までの作品とは手応えの部分で全然違いますよ。今回はレコーディング初日から“これ、頂きました!”っていう感じだったんで。曲作りにかける時間が前のアルバムから実質2年間くらいあったから、その間にある程度曲も練れてたし、曲数もかなりあって、その中からミニ・アルバムと今度のアルバムに振り分けました。曲に関してはどれも自分たちで納得のいくクオリティだったから、あとは録り音をキチッとできればいいなと思ってたんです」
◆今回レコーディング・エンジニア/ミキサーを務めた松本靖雄の存在が、本作における重要な触媒を果 たしている。極めて精度の高い松本の技術力にメンバーは全幅の信頼を寄せ、各々がプレイにのみ全神経を集中できる好環境が整った。その結果 、DMBQが長年追い求めてきた音と質感、何よりもロックのダイナミズムをパッケージすることに見事成功したのである。
  「松本さんに僕らのやりたいことを伝えると、必ず+αの状態で形にしてくれる。滞りなくスルスルと出口に導いてくれるんです。『こんな感じのギターを録って下さい』って言うと、『あいよ』って理想通 りの音をガッチリ録ってくれる。凄かったですよ。待たせるのは松居(徹/guitar)君ばかりで…アイツ、ちょっといいスタジオに入ったら、緊張して全然弾けなくなっちゃって。しかも、松居君のギターは松本さんに後でガンガン切られてるんですよ(笑)。松本さんは“何を聴かせたいのか”というのが凄い明確で、それを果 たすために不要なものは容赦なくバンバン切るんです。それで勿論、音楽として充分形になってるし、バンドの本質的な部分もきちんと表れてる。だから今回、自分なりに物凄く勉強になりましたよ」

“こういうことができるんだ?”というのを知ってしまった
◆DMBQのサウンド&ヴィジュアル・コンセプトは、増子真二に依る部分が大きい。細部にまで綿密に設計された壮大な図面 は増子の頭の中で予め用意されており、それを如何にして忠実に具現化していくかが命題だった。
  「こういう形で満足のいく作品ができてしまった弊害はすでにありまして…つまり、“あ、こういうことができるんだ?”というのを知ってしまったんですよね。これが実は大変なことなんですよ。“これができるなら、じゃあこういうのもできるよな?”っていうのがたくさん出てきてしまった。より高いレヴェルでのやりたいことが次から次へと浮かびますからね。でも、今回も特別 なことは実は何もしてないんですよ。狙った音を出そうとして、適正な機材を繋いで使っただけですから。ただ、音を確実に拾ってくれる人がいれば、レコーディングに対するちょっとした裏ワザ的なことや自分なりのノウハウ、そういうものを一旦全部ブッ飛ばしていいわけですよ。自分が好ッきな音を出すことだけに専念できる。だからめちゃくちゃストレスが軽減されましたよ。今までなら無闇にバカデカい音を出さないと思い通 りの音にならなかったのが、そこまでしなくてもちゃんと録れるんです。空気がガンガン揺れてる感じとかもちゃんと録れる。それを知ってしまった」
◆メジャーとインディーのボーダーレス化は改めて言うまでもないことだが、それでもやはり、メジャーではそれ相応の予算と時間を費やすことができる。DMBQはこの恵まれた機会を有効に全うした。ミニ・アルバム『Phalanges』とメジャー盤である本作とを有機的に相互作用するよう試みたのだ。
  「インディーからミニ・アルバムを、メジャーからフル・アルバムを出せる機会があって、しかもインディー側の人もメジャー側の人もお互いに理解し合って協力してくれて、トータルになっている2作品を近い時期に出すというのは凄く贅沢なことですね。そうした機会を与えられたのは有り難いことだし、今後もなかなか巡ってこないことだと思うんですよ。で、エイベックスの担当の人とフクイ君(マネージャー)と僕とで曲の振り分けについて話し合って、ミニ・アルバムとフル・アルバムとで1曲(〈Ohh! Baby〉)だけダブらせたいってことになって。アルバムとしては2作品だけど、バンドにしてみれば一本の流れなんですよ。音的なことやノウハウは全然違うんだけど、記号的なもので繋がっていければいいなと思ったんです。アルバムの最後を飾る〈E (means Eternal) 〉も、『Phalanges』の頭に入ってる〈Stop Funk〉のコーダとリンクしてますしね」
◆ 『Phalanges』はささくれ立ったヤサグレ感全開の愛すべき小品だったが、『DMBQ』はそれに比べるともう少し口当たりがいい。無論そこはDMBQ、レッドゾーンを際限まで振り切るかの如く躍動感に溢れ、ズ太く生々しいサウンドは不変だ。ただし、収録曲は全体的に冗長な部分が薄れ、適度に贅肉を削ぎ落とした整合美を強く感じる。
 「最近は“もうちょっとコンパクトにしていきたいな”っていう意識が割と強くて、それが表れたのが今度のアルバムですね。逆にその辺を一旦ほったらかしといて、もっとグシャグシャのまんまで、録音から何から基本的に全部自分たちでやって、なるべく小さなプロジェクトで純度の高いものを作りたかったのが、一作前の『Phalanges』なんです。このアルバムを聴いてもらえば、ミニ・アルバムを出した意味がより明確に判ると思いますよ」  収録曲も実に多彩だ。前作『Phalanges』に収められていた〈口笛のバラード〉のような和風哀愁路線も、今回〈Sayonara-No Season〉という曲で益々堂に入った感がある。これは“歌モノ”というより“音モノ”として認知されてきたDMBQの新境地である。意外にも曲の化粧ノリも良く、増子自身が古き良き日本の歌謡曲にも造詣が深いこともあり、個人的にはもっとこの路線を押し進めてほしいとも思うのだが…。 「和モノ路線もちょっとやってみようかなと前から思ってて、まぁ、何だかできるようになってきましたね。元々こういうのが好きなんですけど、DMBQとしてはめ込める素材じゃないのかなってずっと思ってたんですよ。ただ、歌詞を覚えるのが大変ですけどね(笑)」 〈Little Leaf〉という組曲は“Movement”“Swell”“Etude”という曲から成る3部構成で、最後の“Etude”は今までのDMBQサウンドには見られなかったサザン・ロック的な解釈も窺える。 「“Etude”は、それ単体の別ヴァージョンをプリプロの時に録ってあったんです。あの曲を演奏するのは凄く楽しいんですよ。ただ、これも全体的にコンパクトにキュッと凝縮したいというのがあって、最終的に組曲としてまとめちゃったんですけどね」 ムッチャクチャいい音で熱いリフを弾きたい!  今年はDMBQ本体以外の活動も活発である。吉村由加(Drums)と増子による2人組ガレージ・ブルース・バンド、HYDRO-GURU(ハイドロ・グル)のファースト・アルバム『THE FEROCIOUS SOUND OF HYDRO-GURU』が9月14日に発表され、それに伴うツアーを全国8ヶ所で展開。さらにあの伝説の変名ユニット、とん平&ビショップの活動も鋭意準備中とのこと。否応にも期待は高まる。 「ハイドロはもう、ズドドドホホ〜ンって録る感じですから。殆ど一発録りなんで。何しろギター一本だから、DMBQっぽい面 倒なキメが余りないので、好きにやってますね。とん平&ビショップは今さら覆面 バンドにしようかって構想もあって、今は転機に差し掛かってます(笑)。レコーディングはこれからなんですけど、本当に楽しみなんですよ。ちょっとずつ曲も上がってるし」  今さらになるが、そもそもこうした別ユニットを組むきっかけとは何だったのだろうか。 「ハイドロはただ単に…スライドのオープンを弾きたかったから始めた(笑)。DMBQだとスライドを弾く機会が余りないし、ギターがパッパパッパと忙しいので。アルバムに1曲入れるとかならいいけど、DMBQの中でオープンを使うのはなかなか難しいですよね。だったら“オープンの曲だけをやるバンドを作ってしまおう!”と。とん平&ビショップは…何なんですかね?(笑) 位 置付けが微妙なんですけど、一応松居君がリーダーなんですよ。でもリーダーなのに何もしない。何を言っても『ええよ!』って答えるだけだから(笑)」  妥協を許さない音質へのこだわりは、必然的に音を鳴らす機材へのこだわりに繋がる。機材蒐集に対する増子の偏執狂ぶりはつとに知られるところだ。目下ご執心なのはアンプ集めだという。 「ポッド(アンプ・シュミレーター)に入ってる音は全部生で本物のアンプで出る状態にしようと思ってて。この間、マーシャルをやっと全部集め終わったので、満足度が異常に高いんですよ(笑)。60年代から80年代のまでコンプリートしました、JCM800まで全部。90年代のは要らないんで、もうバッチリ! 今はフェンダー系に着手してます。フェンダー系は絞れば3つ、4つになるんで…シルヴァー・パネルの歪まないやつと、黒パネルのやつと、ツイードのベースマン、デラックス・リヴァーブか初期のブロンド…これで多分、フェンダーの欲しい音は完了するんですよ。その次は一番買いたくないところなんですけどモダン・アンプっていうやつで、この辺をどうすっかなと考えてるところで…」  こうした長年に亘る機材蒐集、作曲能力と演奏技術の向上、理解あるメジャー・レーベルと鬼才エンジニアとの出会い、そして増子自身「紛れもなく記念碑的作品」と語る新作『DMBQ』の完成……あらゆるラッキー・カードを掌中へと手繰り寄せ、次なるフィールドへ着実なステップアップを果 たしたDMBQ。我々はその進化の序章に立ち会ったに過ぎない。“いい音”を鳴らすこの上ない条件を手にした今、彼らはこれからも更なる高みへと昇り詰めていくだろう。 「ライヴや練習で自分たちが集めた機材を入れて、ベストな状態で音を出せる環境があって、耳に聴こえる音が素晴らしくいい…それをそのままパッケージできるなら、やりたいことが2、3あるんですよ。ムッチャクチャいい音の、ムッチャクチャ熱いリフを弾きたい! …ただし、それだけ(笑)。単体のギターも全員の重ねたギターもちゃんといい音で鳴って、“オマエらは機械かッ!?”ってくらい全員で一心不乱でやれる状態でグォ〜ッと進んでいける曲を作ってみたいですね。それにはまず、“いい音”っていうのがやっぱり大前提なんですよね」■■


◆LIVE
2002年11月1日(金)下北沢シェルター
<DMBQ TOUR 2002>
OPEN 19:00 / START 19:30
PRICE ADV.2000yen / DOOR 2500yen

11/15(金) 札幌 ベッシーホール
11/19(火) 仙台 マカナ
11/29(金) 福岡 DRUM Be-1
12/1(日) 岡山 ペパーランド
12/3(火) 徳島 ジッターバグ
12/5(木) 心斎橋 クラブクアトロ
12/6(金) 名古屋 クラブクアトロ
12/8(日) 金沢 バンバンV4
12/12(木) 新宿リキッドルーム

◆RELEASE
2002.10.23 ON SALE
DMBQ
avex AVCD-17199 / 3,059ten(tax in)

◆オフィシャルサイトhttp://www.dmbq.net/