SANDIEST


渾身の力作を引っ提げてのシェルター・ワンマンを敢行!

 SANDIESTは有史以来あまたある“頭文字(イニシャル)S”な重要バンドの系譜に属している。SEX PISTOLSのパンク初期衝動を発心とし、STIFF LITTLE FINGERSのような疾走感溢れる激情直下な音を叩き付け、と同時にSMALL FACESのような粋で豊かな音楽的センスを感じさせ、さらにはSTYLE COUNCILのようにいなせなバンドの風情をも併せ持つ。これでSPENCER DAVIS GROUPのようなクロいテイストが備れば、いずれ<MODS MAYDAY>にまでお呼ばれしてしまうだろう。悪いことは言わないので今月末のシェルターのワンマンは絶対に観ておいたほうがいい! もはやパンクやモッズの枠で容易に括ることのできない彼らの進化をリアルタイムで見届ける機会を失うと、後々間違いなく後悔するぞ!(interview:椎名宗之)




余分なものを極力削ぎ落としたソリッドなニュー・アルバム
──今度の新作『HAVE NO LIMITS!!』は、明らかに前作からの進化/深化が窺える手応え充分な出来ですね。
山下伸幸(Vo&G) 一作、一作、自分らでは前に進んでるつもりなんで、今度のは一枚目で出せへんかったところもかなり出せたと思いますよ。
──前ェ突んのめり気味な曲が揃った電光石火なファーストも良かったですけど、今回は全体的にゆとりのある作りというか、よく練られた曲が多いですよね。
山下 一枚目は、自分で聴いてても疲れてくるんですよ。あれは25メートルをずっと息継ぎナシで行くような……それじゃただの潜水や!(笑) 最初のアルバムはライヴでやってた曲ばかりだったんですけど、今度のはライヴで一回もやってへん曲ばかりなんです。一枚目は耳障りなところが一杯あって、例えば今まではギターを上から重ねていくことが多かったけど、そういうのを極力削ぎ落としていこうと。まぁ、線は細いですね、一枚目のほうが。
──前作が『NEVER I'M NOT DOWN』で、今回のが『HAVE NO LIMITS!!』と、どちらもタイトルに打ち消しの言葉が使われてますよね。これは意図的なものなんですか?
山下 それは別にないです。『NEVER〜』は普通に言うたら“I'M NEVER DOWN”ですよね。まぁ印象付けというか、インパクトを与えるための言い回しですね。
──例えば「Boy's A Bit Special」には「Tomorrow Never Knows」的なアプローチが感じ取れたりして、今回はどこか『REVOLVER』の頃のビートルズの匂いを個人的に感じたんですよ。ジャムで言えば『ALL MOD CONS!』よりは『SETTING SONS』っぽいし、『SETTING SONS』よりかは『SOUND AFFECTS』という感じがして。それはやっぱり、普通のパンク/モッズ・サウンドでは飽き足らないという意識から来てるんですか?
山下 そうですね、それも勿論あります。『REVOLVER』の「Taxman」にあるようないろんなサウンド・エフェクトを入れたりもしたし。
──最初に頂いた資料に「女性コーラスを起用」ってあって、ファーストのイメージがあったから“エエッ!?”って思ったんですけど、実際に聴いてみると別 段違和感ないですね。
山下 でしょ?(笑)
──英語で唄われる歌詞の対訳もまたユニークですよね。
山下 一枚目の、中学生が文句たれてるような歌詞からはだいぶ進歩してますしね(笑)。向こうのCDを聴くと、英詞を読んだあとに対訳を見ると“エッ! こういうふうにも取れるんか!?”っていうのがあるじゃないですか。その逆というか。日本語詞を見て、“英詞ってこれでいけてんの?”っていう。“そうとも取れるな”ってなもんで。日本語詞についてはそれでまとめてます。
──最初に山下さんが英詞を作ってから対訳が付く流れですか?
山下 いや、日本語をまず僕が書いて、そこから英語に直してます。その上で対訳を作る。なかなか詞的にならないじゃないですか? そのままの詞も一杯あるんですけど。
──英語詞へのこだわりがやっぱりありますか?
山下 昔は自分が好きなレコードを聴いて“うわカッコええ!”と思って、そのままそれと同じようなことがしたいだけやったんですけどね。今後新しい曲ができた時には日本語で出したいとも思ってますよ。日本語で唄うことで自分らの作ってる音楽がダサなるんやったら、それは確実に僕の責任やし。それもだから新しい挑戦で面 白そうやなと思ってます。
──昔は「洋楽は邦楽よりエライ!」っていう洋楽至上主義みたいなものがあったけど、今は国産バンドが海外から絶賛を受ける状況だし、堂々と日本語で勝負するバンドも多いじゃないですか。
山下 そうですね。まぁ、フランス語とかに比べたら日本語のほうが全然メロディに乗りやすいですよね(笑)。
──韓国のヘヴィ・メタルとかに比べたら全然いいですよね(笑)。

肩の力を抜いてリラックスした感じで…“気軽にいらっしゃい”(笑)
──今回は7インチのアナログ盤は出ないんですか?
山下 出ないんですよ。今までこだわって作ってきたんですけど…僕ら貧乏なんで(笑)。
──SANDIESTって7インチが似合うバンドだと思うんですよ。60〜70年代の英米ロックに思い入れがあると、7インチに対する愛着ってありますよね。シングル盤の圧倒的な音圧とかバキバキと音の鳴りとかカッコいいし。
山下 うん。今まで7インチは4枚出してて(「Propaganda」「The Mindless Crowd」「Fair Judgement」「Madness Seventeen」)、その4枚目を出した頃から「ちょっとちゃう方向行ってるな」って周りから言われ出して。 ──違う方向?
山下 何かこう、地味っていうか…まぁ、確かに基本的には地味なんですけどね、なんちゅうんかな…。
土居 剛(B) 小難しい印象を与えたのかもしれない。
山下 ん〜、3枚目まで聴いた流れで4枚目を聴くと、「ちょっとちゃうで!」っていうか。 ──その4枚目のシングル「Madness Seventeen」とか、今度のアルバムに入ってる「Seventeen」とか、“17歳”というのはある種のキーワードなんですか?
山下 いや、同じ曲なんですよ(笑)。同じ曲を改造しまくって。全然違いますけどね。“Seventeen”っていう音の響きも好きでね。ちょうど十代の少年による事件や何やあったじゃないですか。あれを結局煽ってんのは無責任に事件を面 白がってるオッサンなんですよ。まぁ、今となればこの歌詞の内容は旬じゃなくなったんですけど(笑)。
──鬼が笑うかもしれませんけど、今度のアルバムを聴いてると早く次の音源が聴きたくなりますね。音楽的に凄く面 白い方向に来てると思うんで。
山下 このアルバムを作ったら、当分はコピー・バンドみたいのでカヴァーでもしながらやっていきたいですね(笑)。
──ライヴでは結構カヴァーとかやってるんですか?
山下 今んとこはインストでスモール・フェイセズやったりとか…。今後もまたやろうと思ってます。今までは僕、ローリング・ストーンズとか好きになれへんところがあったんですよ。
──大御所感だったり、ブルースに寄り掛かった姿勢が受け付けなかったとかですか?
山下 うん。僕、ブルースとかは基本的に余り聴かないんで。でも最近やっとストーンズを聴くようになって、“カッコええなぁ”と。で、カヴァーしようと思って(笑)。
──SANDIESTの音はヒネリの効いたポップ感があるから、ストーンズというよりはキンクスに近いですよね。
山下 泥臭さとかはないですよね。
──今、カヴァーしてみたい曲とかあります?
山下 あれですね、タイトルだけ言うと凄く暴力的なんやけど…ストーンズの「Street Fighting Man」。このアルバムでもゴースト・トラックとして一番最後に、クリエイション(60年代後半に活躍した英国のB級モッズ・バンド)の「Making Time」を打ち込みっぽくカヴァーしてるんですよ。
土居 あの曲を入れて、44分44秒でアルバムを終わらそうと思ったんですよ。大好きな歌なんで。
──シビレますよねぇ…“元祖弓弾き”エディ・フィリップス! いわゆるモッズ・サウンドへのこだわりみたいなものは常に頭の片隅にあるんですか?
山下 いや、ないですね。“スマートな感じ”っていうのは頭にありますけど。「モダンであろう!」とかは全然ない。“モッズ”っていうても嘘臭いのが多いじゃないですか。三つ釦のスーツ着てヴェスパに乗れば出来上がり。
──常に変わり続けることがモッズの定義であるとするなら、それだと単なる様式美ですもんね。
土居 うん。「もう2002年だぜ?」っていう。
山下 まぁ、それでホンマにイケてる人もなかにはいるだろうけど。でも、地方へライヴに行くとそういう恰好の奴多いよな(笑)。僕らのライヴにもたまにいてる。
──とにかく、シェルターでのレコ発ツアー千秋楽に期待しております。
山下 今までは肩に力が入りすぎた悪いところがあったから、もっとリラックスした感じでやりたいですね。
土居 うん、もっと自分たちのスタンスでやっていければいいな、と。
山下 だからライヴを観に来てくれる人も気軽に…「気軽にいらっしゃい!」と(笑)。いや、でも、シェルターのワンマンは力入れてやりますよ! …って、「肩の力抜いて」って言うたそばからアレやけど(笑)。■■